神経質でラジカルな『しょうせつのかきかた』概論

39 : ◆xh7i0CWaMo :2015/02/01(日) 21:51:10 ID:BUXRE2KM0
6.神経質でラジカルな『しょうせつのかきかた』概論

(´・_ゝ・`)「……それで、君は一体何の用でここへ来たんだ?」

十万円は下らないと思われるオフィスチェアに深々と腰を下ろしているその男はやや苛立った口調でそう言った。
今ようやく彼と出会ったという事実を認識したばかりだというのに、のっけから煙たがられる道理もない。
しかしそんな僕の思惑など知る由もなく、彼は忙しなくこめかみのあたりを掻いていた。

(´・_ゝ・`)「無礼な奴だ。他人の領域に入ってのうのうとしている。そういう人間にね、割いている時間などないのだよ」

( ^ω^)「あの……この手紙を読んでもらうために来たんですお」

僕はこれまでと違い、初手の時点で手紙を手渡してしまうことにした。
どうやら彼は僕を邪魔者だとしか認識していないようだし、それを変えるのは物語の都合上不可能だと悟ったからだ。

彼は粗雑に手紙を受け取ると、頻繁に目を瞬かせながらその文面を追い始めた。

(´・_ゝ・`)「……おい、なんだこれは」

( ^ω^)「えっと、この物語の作者からキャラクターに宛てた手紙で、内容は……」

(´・_ゝ・`)「違う、そういうことを言っているんじゃない」

彼は過剰な立ち振る舞いで手紙の文面を指先で叩いた。

(´・_ゝ・`)「仮にもこれは他人に宛てた手紙なのだろう? そしてそれは物語の一部だ。
      つまりだね、この文章は自己満足の日記ではなく他人に読んでもらうための出来映えでなければならない。
      ふん、どうやらこの作者は随分小説を書いてきたと自負しているようだね。

      それなのに、なんだこの出来は。まるで小説の体をなしていないじゃないか!」

彼が抱いている不快感を、僕は恐らく一割も理解できていないのだろう。
しかし彼の不平不満がやや長くなりそうなことだけは覚悟した。それは最早、この物語のお約束なのだから。

40 : ◆xh7i0CWaMo :2015/02/01(日) 21:55:05 ID:BUXRE2KM0
(´・_ゝ・`)「誤字脱字! 句読点の打ち間違え! 感嘆符の後の空白! 何もかも守れていない!
      それにほら、ここなどは、何ということか、段落という概念さえ失われているじゃないか!
      あまつさえ全体に散らばっている誤変換……この作者はまともな日本語教育を受けていないのか?

      それとも、自分が一旦書き上げた文章を推敲するという手順すら怠けてしまっているのか。
      どちらにせよ大問題だ! こんな誤変換、こんな誤変換どもは、一目で明らかじゃあないのかね。
      推敲どころか、ちょっと今し方打ち込んだ文章を振り返ればすくに分かってしまうようなことだ。

      ここまで醜い文章を書いておいてよく物書きだなどと名乗れたものだな。
      結局は小説の基本たるものがなっていないから、こういう馬鹿げたミスを犯してしまうんだ。
      小説などを書いている場合じゃない。今すぐ小学校の国語教育からやりなおすべきだ。遡りたまえ!

      ……ああ、それに、それに、見ろ。ここなんて何だ。全角のアルファベットが混じっているじゃないか。
      もしかしてこの作者は盲目なのか? 何らかの逼迫した状況で、
      碌々ディスプレイも眺められないような状況でこの手紙を記したのか?

      もしやこの全角のアルファベットは何かの略称なのか?
      いやいや、そんな筈はないな。この手紙は横書きだし、常識的な頭を持っていれば半角文字を使う筈だ。
      それに、前後の文章から考えてもこのアルファベットが単なる打ち間違いだっていうことは明白だよ。

      嗚呼、嗚呼、なんて酷い……。過去形と現在形の区別もまともについちゃあいない。
      君ね、考えてもみなさいよ。こんなあからさまな不具合を残されたまま世に出された気分を考えてもみなさい。
      裸の王様だよ! そして王は今まさに自分が裸であり、衆目に晒されているという事実に気付いたばかりだ。

      それにも等しき恥辱をこの馬鹿な物書きはこの手紙に、小説に与えているのだよ。
      何の恨みがあるのかは知らんがね! 畢竟その程度の思い入れであるということだけは確実だ。
      つまりこれの書き手は読み手のことなど、そもそも小説自体のことなど、碌々考えてはいないのだ!

      故にこの手紙は駄作! 読む価値も無ければ読ませる価値も無い。
      なんなら今ここで私が破いてしまおうか。こんな拙作が世に蔓延るから多くの馬鹿が勘違いを起こすのだ!」

41 : ◆xh7i0CWaMo :2015/02/01(日) 22:00:24 ID:BUXRE2KM0
( ^ω^)「いや、いや……それは困りますお。僕にはその手紙をいろんな人に読んでもらうという使命が……」

(´・_ゝ・`)「出来損ないの手紙を届ける郵便屋が主人公の小説など、きっとそれ自体出来損ないなのだろうね!」

( ^ω^)「……あの。それで」

(´・_ゝ・`)「何だ」

( ^ω^)「手紙を読んだ感想……みたいなものは」

ハァァアアァア、と大袈裟を幾重にも積み上げたため息を彼は吐き出した。
片手で手紙をヒラヒラと揺らしながら、表情の全てを嘲笑と侮蔑で塗りつぶしていく。

(´・_ゝ・`)「君はいったい何を聴いていたんだ? まったく、矢張り出来損ないのキャラクターじゃないか。
      だから言っただろう。こんな文法のなっていないものなど読むだけ無駄だ。
      ましてやそれを論うなど、実に愚かしい時間の浪費だとも。

      感想? 仮にそんなものがあるとしたら、ただただ日本人の日本語力の衰えを嘆くばかりだよ」

( ^ω^)「……でも、一応全部に目を通したはずですお。それなら中身についての感想も……」

(´・_ゝ・`)「何だ? 君は私に妥結しろと言っているのか?
      こんな拙作でも一人前に認めて中身について論じる使命感を持てと言うのか?

      いいか、私はゆとり世代を相手にする道徳の教師じゃない。
      わけのわからん現代の子供に戦争の悲惨さを教える立場でもない。
      私は拙作というものに当たればただ突き放すだけだ。忠告を与えてやるつもりなど毛頭ない。

      こんな作品を世に送り出そうと企む創作へのテロリストが、
      二度と活動しないことを願うだけだ。ほら、ここなど鉤括弧と句読点が同居している。
      文章作法として間違っているとは言えないが、それならば文章全体に同じルールを適用しなければ……」

( ^ω^)「そうやって穴をつついている間に、中身に関する感想の一つでも言えると思いますお」

42 : ◆xh7i0CWaMo :2015/02/01(日) 22:04:56 ID:BUXRE2KM0
(´・_ゝ・`)「……ほう、つまり君はあくまでも私と袂を分かとうというんだね。
      いったいどうして私が君みたいな馬鹿のためにこれ以上言葉を費やさねばならない?
      よし、そんなに言うなら私が君に正しい小説の書き方というものを教えてやろう」

そう言って彼は立ち上がった。その背後にはいつの間にか巨大な黒板が用意されていて、
そこへ彼は何度もチョークを折りながら『段落』『疑問符と感嘆符』『倒置法』などと書き殴った。

(´・_ゝ・`)「いいか。まずは段落についてだ。
      小説内で改行を行う場合、必ず次の文章は一文字下げて書き始めねばならない。
      つまりどういうことかと言うと……」

( ^ω^)「いや、そういうことじゃなく……」

(´・_ゝ・`)「講義中だ。私語は慎みたまえ」

( ^ω^)「僕に小説の書き方を披露されても困るんですお。僕は書かれる側だし……。
      ただ、貴方が手紙を読んでどんな感想を抱いたか聞きたいだけで……」

(´・_ゝ・`)「またその話か? 私は何遍繰り言を口にせねばならないんだ?」

( ^ω^)「いや、そもそも質問と答えが食い違っているんですお。
      僕は第三者なので、文法の間違いを聞かされても仕方がないんですお。
      だから中身のことをききたいのに、さっきから同じことばかり……」

言っているさなかにチョークが僕の頬を掠めて背後へ消えていった。
男はプルプルと震えている。面倒なことになってしまったな、と思わざるを得ない。
もっとも、そういう状況へ持ち込んだのは八割方僕自身の責任なので、偉そうに言えた立場でもないのだが。

43 : ◆xh7i0CWaMo :2015/02/01(日) 22:08:17 ID:BUXRE2KM0
(´・_ゝ・`)「つ、つつ、つまり、君はこう言いたいのか。
      この私が愚かな政治家の如く、論点をすり替え続けているというのか!
      私に、私に文章を読み解く力がないと、そう言いたいのか!

      は、ははあ、分かったぞ。君は私を見下しているのだ。卑下しているのだ。そうに違いない。
      繰り言で文字数を、レス数を消費しないと、私がまともに役目を果たせないと、そう思っているのだ。
      ただただ偉そぶりたいがために分かりやすい誤字脱字や文法の穴ばかり指摘していると、そういうことだな。

      君はね、ふふん、ふん、君は、何も分かっちゃいない。所詮は出来損ない小説の出来損ない主人公だ。
      私には当然、勿論、中身を精査する能力があるとも。なんならそれしか無いと言っても過言ではない。
      けれどもそれを敢えてひけらかさないのにも、立派なワケがあるのだよ。わかるか。ええ、わかるのか。

      無論求められれば私とて表面的なミスを度外視して中身を批評できる。それだけの経験は積んできている!
      しかしだね、しかしだ、しかしながら小説というのは初歩を落としてはならない。そうだろう。
      だから私は今回は敢えて表面にフォーカスし、中身については次の機会に持ち越そうという。

      そう、これはつまり配慮なのだよ。所詮初歩を落とす初心者に一度に大量に言い含んでも忘れるだけだ。
      だから、私はそういう配慮をもって、優しさの形として、今回は中身を論じるのはやめておこうしている。
      分かるだろう。その証拠に、私はこの場に至るまで一切台詞をミスしていないんだ! 誤字脱字などない!

      なんだその眼は。ひねくれ者を蔑むその眼はなんだと訊いているんだ。
      結局繰り言で逃れようとしていると思っているのだろう。そうだ。きっとそうに違いない。

      文句をつけたがる奴というものは基本的に全方向への刃物を握りしめていて、
      気に入らないとあれば、たまたま機嫌が悪かったとあれば、所構わず斬りかかっていく。
      そこに知見など必要なく、ただ粗を探して蹴り飛ばせばいい。粗のない人間などいないのだから。

      そんな風に思い上がっている輩と、私が同類だと考えているんだろう。
      
      所詮中身の精査を正確かつ批判的に行うことなど出来ないのだから、
      所詮文章力などという概念に定義は存在せず文章に能力が明確に表れるわけではないのだから、
      簡単で、誰にでも間違っていると分かる日本語の使い方を指摘して悦に入り浸っている。

      そう言いたいんだろう。
      私がその程度の、小説にこなれた大学生みたいな役柄でしかないと、そう言いたいんだ。
      
      ふ、ふん、卑怯にも手紙の内容を作中で明示していないからこそ通じる理論だ。
      その程度でこの私が足下を掬われると思うな。やろうと思えば、私だってこの手紙を批判できる。
      そうだ。しかしそれを今回は見送ってやっているという、それだけだ。堂々巡りではない!」

44 : ◆xh7i0CWaMo :2015/02/01(日) 22:12:20 ID:BUXRE2KM0
( ^ω^)「……いや、僕はそういう風に貴方を見ていませんお。
      何か不快に思われるような振る舞いをしていたとしたら謝りますお」

(´・_ゝ・`)「そうだ、初めからそうやって殊勝な態度でいればよかったのだ」

( ^ω^)「なので是非、手紙の中身の感想を聞かせて欲しいお」

(´・_ゝ・`)「……」

( ^ω^)「……」

(´・_ゝ・`)「……」

( ^ω^)「……あの」

(´・_ゝ・`)「……残念、時間だ」

( ^ω^)「は?」

(´・_ゝ・`)「出来損ない主人公である君は気付いていないかも知れないが、
      この小説には一章につき6レスで終わらさなければならないという制約がある。
      そして今、この章はまさに6レス目の半分を超えてしまった。

      ここに来て今更中身の論評などというものは出来ない。
      何故ならばあらゆる批評はその意図を的確に伝えなければいけないものであり、
      極めてタイトな行数制限の中で本意でないメッセージに聞こえてしまうのを防ぐためだ」

( ^ω^)「……」

(´・_ゝ・`)「残念だ。実に残念だよ。君がもう少し殊勝であればこんなことにはならなかっただろうね。
      私の真摯さを逆手にとって挑発するようなことをしなければ……。
      本当は喉の辺りまでこの手紙に関する批評が出かかっているんだよ……しかし沈めねば、沈めねば」

正直なところ、もう聞いちゃいられなかったので僕は彼の手から手紙を奪い返し、踵を返した。
去り際に、彼の小さな呟きが耳の中へ忍び込んでくる……。

(´・_ゝ・`)「何も恥ずかしくない。何も恥ずかしくない。どうせ明日になればIDが変わるのだから……」






7.枯渇した部室を見る彷徨えぬ亡霊