どうせ、生きてる。

338 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 20:50:23 ID:bKltLt3M0
13.どうせ、生きてる。 20140933KB

……あなたが恋人と熱く心を交わしている間、僕はずっと時計の針を見つめていた。
そうして、何もせずにぼうっと怠けていたくせに、時間が先へ進んでいくのを怖がっていたというわけだ。
 
旧き知人も、大勢の他人も、何処かへ消えてしまった。
彼らは順当に成長し、順当に居場所を変えていった。

そういうものだ。物思いに溺れ、ひたすら架空の人形を捏ね続けている僕が、
何にもなれなかったのと同じぐらい、当たり前のことなのだ。
 
……そういう具合で、今日もまた、無様に言葉を紡いでみせる。
独りっきりで壁の隅。Do not disturb.の掛札を忘れずに。

※ ※ ※

339 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 20:53:32 ID:bKltLt3M0
暑さの沁みた山道を、十字架を担いだ男が歩いてゆく。
十字架は自己を激しく主張する大仰なつくりだが、そのくせ発泡スチロールで組み立てられたかのように軽い。
足早に登る若い男の顎からは大量の汗粒がしたたり落ち、しかしその表情は笑みで塗りたくられている。

誰もいない、失踪には打ってつけに見える林藪の合間を、彼はぐんぐんと進んでゆく。
夏の終わりの太陽が、人の殺意を呼び覚まそうとキリキリ照り輝いている。
遠くの方からセミの断末魔が聞こえる……足下には、別のセミがひっくり返り、足の先まで硬くして少しも動かない。

やがて男は少し開けた平野に出た。
森の中にポッカリと浮かび上がる、植物の剥ぎ取られたその場所には、
男の背中にある十字架と同じようなものが数十と林立している。

男は立ち止まって、その見窄らしい光景を眺め、満足げに何度も何度も頷いた。

('、`*川「……なんだ、また来たのかい」

入り組んだ十字架の群れの中から一人の老婆が顔をあげた。
彼女は古びた竹箒にプラスチックの青いちり取りを持って男を不審そうに見やっている。

幾重にも皺の刻まれた肌には無数の黒いシミが浮かんでいて、
その全身は若い男の方よりも随分と日に焼け、引き締まっているようにさえ見える。

340 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 20:56:35 ID:bKltLt3M0
( ・∀・)「やあやあ、毎日毎日ご苦労様です。
      今日も一本持ってきたんだけれど、ええと、どの辺りが適当かな……」

('、`*川「そんなもんは、勝手にするがいいさ。あたしは墓守のババアだけど、
     墓を建てる場所には関与しないからね……。
     それに、何処にどんな風に置いたところで、何かの呪いがあるわけでもあるまい」

( ・∀・)「そりゃあそうだ。じゃあ、よっと、この辺に差しておきますよ。
      ……やれやれ、しかし蒸し暑い日が続きますね。
      貴女も、注意しておかないとあっという間に熱射病に罹ってしまいますよ」

('、`*川「ふん、どうせ幾許もせんうちにくたばる身なんだ。さっさとお迎えに来てほしいぐらいだよ。
     こんな乞食みたいな老婆が、墓守を全うして死ねるならそれを本望と言うんだろうさ」

( ・∀・)「困りますよ。貴女には、この墓場をまだまだ守っていっていただかないと……」

('、`*川「よく言うよ。どうせ、この前建てた墓標のことなんざとうに忘れちまってるくせに……
     それで、今回はどんだけ大げさな墓碑銘を穿ったんだい」

( ・∀・)「さあ。きっと、他人が見たら同じようなものなんですよ」

341 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 20:59:37 ID:bKltLt3M0
男は老婆から視線を外し、今し方建てたばかりの十字架を見つめた。

( ・∀・)「どうせ、何と言うことはないんですよ。墓碑銘なんてゴミ捨て場のようなものだから。
      内面をかなぐり捨てるためだけに存在しているようなものだから」

('、`*川「ああ、ああ。きっとそうなんだろうね。
     頭の悪いババアには、あんたの目的も意味もさっぱり分かりやしないよ。
     けれど、どうだい、同じ年頃の娘なんざは、まだ耳を傾けてくれるんじゃないかい」

( ・∀・)「どうでしょうね……そういうのも、一切合切にいい加減飽き飽きしているところなんですよ」

('、`*川「その割に、あんたは変わることなく十字架を建てに来るね。
     なんだい、こいつはあんたの先祖からの習わしなのかい」

( ・∀・)「さあ。けれど、私の知っている限り、みんな方法は違えど、
      何らかの形で自分の言葉を破棄していってるんですよ。
      全部が全部、頭の中にとどまっているはずもなく……。

      ただし私は人よりほんの少し、名残を追いかけてしまいやすいだけなんです。
      だからこう、こんな風景を作りあげるんですよ」

※ ※ ※

342 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:02:19 ID:bKltLt3M0
ここにある全ての十字架は男が持ち込んだものであり、そしてその全てに男の名前が刻まれている。
百近い十字架の全部が男のための墓であり、この墓場は男のためにあるものだ。
 
全ての十字架に墓碑銘がある。その字面は少しずつ内容が異なっているが、巨視的に見れば大した差はない。
一切は男が殺した自分の言葉であり、そして男は言葉を殺すたびに墓を建てるのだ。
それは、手首に並んだ無数のリストカット痕によく似ている。
 
あらゆる行為の、最低限の致死量や死の可能性については熟知している。

それはつまり、ギリギリ死なない程度についても把握しているということだ。
だからこそ、それを繰り返していても痛くも痒くも何ともない。
たとえ周りを無為に心配させたとて、それさえも織り込み済みでどこまでも生きてゆくことが出来るのだ。
 
アパートの部屋の中に散らばった、余り物の薬を、適当にまとめて服用する。
そして強烈な眠気とともに、夢にさえそっぽを向かれた眠りに落ちる。夜が落ちて、太陽がのぼる。
 
どうせ、生きてる。

※ ※ ※

343 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:05:53 ID:bKltLt3M0
忙殺人鬼ブーンを紹介しよう。

彼は人の心の隙間に忍び込み、そいつをジワリジワリと殺すのだ。
コイツによる被害者は意外と多くて、死んでいく人の半分くらいはコイツの仕業だって噂もある。

例えば好きでもない仕事のために人生の八割方を捧げてしまうような人間は大抵、忙殺人鬼ブーンの餌食だ。
気付かぬうちに、君も忙殺されかかっているのかもしれない。
 
たとえ人生が予定に埋め尽くされていなくても油断は禁物だ。

君がふとした瞬間に自らの歩んできた道を振り返り、そこに一抹の後悔や不安を覚えて、
それが雪崩式に膨れ上がっていってしまったならば、ブーンはヒョイと君の頭に入り込む。
そして人生への悲嘆を凶器にして徐々に徐々に君の寿命を削っていくんだ。

その姿は誰にも見ることは出来ず、また自分が殺されかかっているという危機にもなかなか気付くことができない。
それでも死ぬ瞬間、暗く寂しい独りぼっちの空間へ向かうその瀬戸際に、
その脳裏へフッとブーンの顔が浮かぶだろう。
 
ヤツは黙ったまま心の中の君を見て憎たらしい笑いを笑っているだろう。
もしかしたら何か言葉を呟くかもしれない。それはきっと、君を死に追いやった直接的な原因だ。

けれども勘違いをしてはいけない。ブーンは、君を殺すために予め刃物を用意しているわけではない。
君を殺すのがブーンであっても、彼の武器は君自身の心根なのだ。

※ ※ ※

344 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:08:13 ID:bKltLt3M0
本音と建前という常套句は、日毎不治の二重人格者を作り続けている……。
コミュニティは、一つの上等な精神病棟に過ぎないのだ。

※ ※ ※

345 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:11:12 ID:bKltLt3M0
僕の為のコロスが謳う……。

('A`)『誰かが僕の書いたものを読んで自殺してくれればいいと思っていた。
    たった一人だけでも構わない、自分で選んだ死の形見に僕の小説を持って行ってくれればいいと思っていた。
    
    そうしたら、心の中で大きな墓を建てて弔うつもりだった。
    不謹慎かもしれないけれど、それはたぶん、僕にとって至上の喜びとなっただろう。

    小説を読んで落涙させても、心を揺り動かしても、所詮その後の現実に物語は負けてしまう。
    けれど、死ぬことだけはどうしたって取り返しがつかない。
    そういう、致命傷を与えるようなものを書くために、僕は一所懸命に努力をしてきた。

    だって、死後には天国も地獄もない。
    人は死ねばみんな、独り独り離ればなれになって、それぞれが暗くて寂しい場所に送り込まれるだけだから。
 
    けれども、愈々それが不可能であるということに気付いてしまった。
    意図をしようがするまいが、僕の小説が呼ぶのは病んだ人だ。

    病んだ人は病んだ物語を読み、病んだ歌を聴き、病んだ絵を見て人生を過ごす。
    それこそ、古今東西のありとあらゆる病んだ物達を体験していくんだ。

    そうやって彼らは成長する。本当に追い詰められてしまうことなんて早々ない。
    病んだ人たちは次第次第に病を消化して、免疫をつくる。そうしてより力強く人生を歩くんだ。

    僕の書く物語は、そこに殺意を込めれば込めるほど、むしろ全く逆の作用を働かせてしまうんだ。
    それは、免疫を形作る一塊のブロックか、
    或いはもう既に出来上がってしまっている免疫への哀れな特攻隊に過ぎない。
 
    だってほら、見てごらんよ。みんなみんな、こんなにも元気じゃないか……』

※ ※ ※

346 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:14:18 ID:bKltLt3M0
(´・_ゝ・`)『僕たちは、もっと実利的なものだけを追求していくべきだ。
      それは、まるでボンベロがグリドルでつくるパティみたいに、分厚くて、ジューシーで、
      香ばしい匂いに満ちていて……そして何よりも、根本的にとびっきり旨くなくちゃならない。

      現実世界においてそれを食べるには何が必要だ? 金か、女か、志か、嘘か。
      きっとどれも正解だろう。でも物語だけは間違いだ。
      幾らアイロニーにほくそ笑んでも、ちっとも現実には反映されないよ。

      義務教育で習う国語は、現実に飛び交う言葉とひどく乖離してしまっている。
      小説なんてどこかの妄想癖が考えた嘘っぱちに過ぎないんだからね。
      そんな嘘っぱちから作者の本音を拾うなんて、まったく滑稽な話じゃないか。

      現実は、現実なのだよ。
      その現実を巧みに調理して、なるたけ旨い食い方をするべきだ。

      さあ、そんな物語なんて捨てちまって、上等な調味料を買いに出かけよう。
      そうすればきっと幸せになれる。まるで怪しい新興宗教にお布施するぐらいの気持ちで信じてみよう。

      だってそうしないと、世の中なんてものはとてもじゃないけどやりきれないじゃないか』

※ ※ ※

347 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:17:29 ID:bKltLt3M0
(´・ω・`)『僕らの紡ぐ幾星霜の妄言なんていうものはね、
      所詮はLINEのスタンプ一つで表現できてしまうものなんだよ。
      それを、個性がないだの愛情がないだのというのは、全くもって非合理的なことでしかない。

      だいたい、愛情の表現っていうのは何なんだ? 
      それは、本当に相手に伝わって、尚且つ特別な言葉で表さなければならないのだろうか? 

      この世の中には情欲に塗れた俗物的な愛が遍く存在しているのに、
      どうして人は『愛してる』という最も合理的な一言を特別ではないから、
      という理由で唾棄してしまうのだろう。

      それを無意味に飾りつけるのは、それこそ卑屈で、本能的な虚飾に過ぎないよ。
      つまり、どうやったら己の言葉が相手を陥れられるか、そんなことに必死になっているんだね。
      そんな活力から生産される言葉なぞが、特別だなんて言えるだろうか? 

      きっとそういうものは、ゲームの攻略サイトにでもごまんと掲載されているだろうよ。
      しかも、しかもだ、その言葉は本当の意味で特別であってはならないんだよ。
      何せ相手に伝わらなくてはならないんだから。

      伝える側が俗物ならば、伝えられる側だって俗物さ。
      いずれ、普遍的な、辞書で引いて出てくるような言葉でないと納得してくれない。

      かつて夏目漱石はアイ・ラブ・ユーを『月が綺麗ですね』なんて小洒落た訳しかたをしたそうだね。
      僕に言わせれば、まあまあよく出来た按配だと思うよ。
      けれどそれは文豪が残したからこそ付加価値の生まれた言葉だ。

      たとえば、今の時代の冬の星空の下、澄んだ空気の向こうで数多の星々が煌びやかに踊っているさなか、
      一際目立つ月を二人で見上げながら、『月が綺麗ですね』なんて呟いたら何とする? 
      『ええ、そうね』ぐらいの言葉が返ってきて、それで終いさ。

      まあ、随分と有名になった言い回しだから、それなりに知識があれば相手も感づいてくれるかも知れない。
      そうだとしてさえ、パクりだと認定されるだけだろう。どっちにしてもバッドエンドだよ。

      だからといって、そこで今までに見たこともないような、愛の言葉を生み出せる? 
      きっと彼女はこういうだろう。『全然意味が分からない』。

      そう、だからつまり、愛の言葉はそれなりに現代っぽくで、それなりに顔面偏差値に沿っていて、
      それなりに普遍的で、それでいてそれなりに特別でなくちゃならないんだ。
      結局行き着く先は同じだと言うのに……恋物語はまったく余計で、どうでもいい言い回しを強要するんだ。

      これは一種の強迫性障害の病理にもなろうね。
      そうやって無闇矢鱈と遠回りした言葉より、ハートマーク一つの絵文字や、
      誰もが知っているキャラクターのスタンプ、またそれに類するシンプルな一言の方がよほど合理的だよ。

      何せ、あらゆる物事がマニュアル化されている時代なんだ。
      どうして恋にだけクリエイティビティを求める?
      
      どうせ双方ともマニュアル化された脳みそしか持ち合わせていないし、
      最終的な結論は金銭や世間体に委ねられるのに、
      どうして一から創り出したように見せかける芝居をしなければならないんだ……?』

348 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:20:27 ID:bKltLt3M0
ミセ*゚ー゚)リ『何それ、下らない。まるで入れ込んでた女にワケもなくフラれたみたい』

(´・ω・`)『愛の言葉は、それこそ少女漫画にも、テレビ番組にも、エロ本にも氾濫しているんだ。
      だからもっとも分かりやすい例えだと思ってね。
      仮に僕が愛を伝えるなら、きっと誰にも分からない物語に仕上がると思うよ。

      それは相手に伝えるためじゃなく、自分の想いを率直に発露させるためのものだ。
      だって、愛してるって直球を受けてくれないなら、思いつく限りの変化球を投じるほかないじゃないか。
      それで相手が納得しないんなら、、もうどうしようもない。詰んだも同然さ』

ミセ*゚ー゚)リ『馬鹿馬鹿しい。結局、ただ単に愛情に飢えているだけじゃないの。
       それを、もっともらしい言い方で我慢してみたりして……。
       所詮、何かを食べないとおなか一杯にならないのと、おんなじようなものなのにね』

※ ※ ※

349 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:23:18 ID:bKltLt3M0
(-@∀@)『君の顔は不細工で、それがあらゆる性格の根本となってコンプレックスを抱いているのだろう? 
      なのにどうして、自殺や孤独を歌う、
      共感できるアーティストはヴィジュアル系のイケメンやチョイ美人ばかりなんだ? 

      彼らがイケメンである以上、君はどうやったって共鳴できないのだよ。
      百万人のためのラブソングを嫌う君が、
      百万人のための鬱ソングに熱狂すると言うのはどうにもおかしな話だね』

※ ※ ※

350 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:26:21 ID:bKltLt3M0
――いつまでも、敗れた物語を書き続けたかった。

僕には出来ると思っていたが、それは大きな間違いだった。
先人たちに出来なかったことを、僕なんかに出来る筈もない。
いつまでも敗者の気持ちで、敗者の物語を書き続けるなんて、とてもじゃないが精神がもたない。

頭を憂鬱に沈めて書き続け、そのためのアイデアを都度捻り出し、
いつまでも憂鬱と友達でいたら、立派な病気にカテゴライズされてしまう。

それに耐えられれば万々歳だが、生活を考えるとそういうわけにもいかない。
だからといって、今更希望に充ち満ちた物語に取り掛かれるわけでもないのだ。

そうやって心と現実のバランスばかりを気にしていたら、半端なものばかりが出来上がってしまっていた。
けれども、一握りの才能人以外はそんなもんなんだろう。
質が悪いのは、人という生き物が自分の才能というやつを過信しがちに出来上がっていることだけれど。
 
もしもこの精神が鋼で出来ていて、あと、幾らでもお金を貢いでくれる女の子がいたら、
僕はいつまでも敗れた小説を書き続けられただろうに。

世の中っていうものは、なかなか上手くいかないものだなあ。

※ ※ ※

351 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:29:16 ID:bKltLt3M0
しかし、本当にどうしようもなく不幸な人々は、このようなものを読む余裕も暇も無いのだろう。
そして、本当にどうしようもなく不幸な人々は、考えているよりもずっとずっと、多いのだろう。
彼らの頭に礼儀のマニュアルは入っていても、物語を詰め込む隙間などどこにもない。
 
結局、多くの人々は忙殺人鬼ブーンの凶刃に倒れるものであり、後にはひとひらの空想さえも遺らない。
 
この辺りで忙殺人鬼ブーンの活躍ぶりを情感たっぷりに描写したいところだがその必要は無いだろう。
だってその凄まじい凶行を、誰もが身近で知っている筈だから。

※ ※ ※

352 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:32:37 ID:bKltLt3M0
よし、ならば逃げよう。ここから何処まででも逃げるんだ。
確かにこの国は海に囲まれた小さな島でしかないのかもしれない。
それ以前に、僕たちは重力の向こう側へ行けないしがない地球人でしかないのかもしれない。

けれども、そんなちっぽけな僕たちだからこそ、逃げられる場所なんて幾らでもある筈だ。
ブーンの足音が聞こえてくる前に、スタコラサッサと旅に出よう。
二度と訪れぬ生まれた街に、心ばかりの名残を惜しんで僕らは見知らぬ聞き慣れぬ土地へと脱出するのだ。

もう生活に苦しむこともなく、着信音に苛まれることもなく、イヤなニュースを傾聴する必要もない。
僕たちはただ僕たちのためだけに、誰にも知れぬ場所へ行方不明になりにゆこう。

もしかしたら失踪届が役所へ出されるかもしれない。
いつの間にやら僕たちは、それまで羽虫のような扱いだったのが嘘みたいに、
たくさんの人に行方を探され、案じられる立場になっているのかもしれない。けれどそんなことは全く関係ないんだ。

その縋り付く泣き声に足を止めてしまったら元の木阿弥なんだ。
どうせまた苦しい生活が待っている。

人生の天秤にのせられている幸福と不幸はどう見たって釣り合わない。
けれども天秤自体がテキトーに作られているものだから、いつの間にかプラマイゼロだなんて錯覚してしまうし、
また周りからもそう揶揄され続けるんだ。そんな誤摩化された人生に、生活にどれ程の意味があるだろう。

最終的にベッドの上で幸せに永眠したところで、行き着く先は天国でも地獄でもない。
そこは真っ暗で何もなくて、初恋のあの子の面影すらも見当たらない独りぼっちの空間だ。
誰に会うわけでもなく、誰と話せるわけでもない。ソーシャルネットワークにも繋がれない。

考えただけで夜泣きしてしまいそうな空間に、意識だけが漂う。それが死ぬと云うことなんだ。
末期の幸せに意味などないよ、どうせ皆同じことなんだから。

353 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:35:54 ID:bKltLt3M0
ならば生きているうちに僕たちは不幸から逃れるために最大限の努力を注ぐべきだ。
その努力と自らの人格を組み合わせれば、自ずと答えは見えてくる。

さあ、逃げよう。手に手を取って、どこまでも。
今取りかかっている仕事や作業なんか放り出して、
誰のしがらみを構うこともなく不幸や苦労から出来る限り距離を取ろう。

誰に迷惑をかけたって構うものか。誰かが犠牲になったって構うものか。
僕が生きてゆくには、満足に生きてゆくにはこれ以外に手段がない。
誰だって自分の生活のために気付かぬうちに多くの人の幸福を削ぎながら歩いている筈だ。それと同じことさ。

僕たちが生きていくためには不幸から逃れ、人並みの苦労から逃れ、生活から逃れ、何もかもから逃れ……
嗚呼、でも、生活が無くなってしまったら命も無くなってしまう。
 
それならば畢竟、僕が生きていく方法は死ぬということに他ならないじゃないか!

※ ※ ※

354 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:38:11 ID:bKltLt3M0
( <●><●>)『現実を忌避し、憎悪した物書きが、その鬱憤をぶちまけて客から金をとる。
        その金で財を成した物書きは、案外この世の中も悪くないななどと思い始める。
        
        そして、相変わらず現実から逃げ続けていて、あまつさえ彼のように財を成せない者たちへ、
        希望と応援の物語を書き始める。
        小説だけでなく、音楽でも、漫画でも、同じようなサイクルが多発している。
 
        ……こ、こ、この、この裏切り者どもが。

        お前たちだって嘗ては世間の価値なき応援に嫌気が差していたのではないのか。
        そ、それがたまたまさ、さ、才能があって儲けられたからといって、
        どうして我々の気持ちを忘れてしまうんだ! 

        そういう心変わりが一番傷つくということに、どうして気付いてくれないんだ。
        どうして我々を、切り捨てるような真似をしてしまうんだ! 

        分かったら早く昔に戻ってくれ。あの頃のように暗く、深い哀しみに満ちた物語を書いてくれ。
        早く鬱病になれえーっ――!』

※ ※ ※

355 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:41:22 ID:bKltLt3M0
(,,゚Д゚)『何にもねえよ。みんな流行りの風に乗っていっちまった。
     何にもいねえよ。どうせ好きになったってのも風のモノさ。
     どうしようもねえな。言葉なんて文字なんて、そもそも人間なんて、全然空虚なものなのさ。

    だからその、どうせ飽きるシロモノをいつまでもリツイートすんじゃねえ、ぶっ飛ばすぞ』

※ ※ ※

356 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:44:46 ID:bKltLt3M0
( ФωФ)『さあ、此処より以下の文章は、どうかヘッドバンギングをしながら読んでいただきたい。
        叫びながらでも構わない。思いの儘にのたうち回っても構わない。
        ともかく何らかの諸賢の感情を露わにする機会としていただきたいのだ。

        何故ならば私たちは歳を重ねるにつれて建前の海に溺れてしまい、
        何時しか本音を表す術を失ってしまう。
        真実の感情はあらゆる事物から解き放たれた時に初めて発露するものではないだろうか。

        音楽を聴きながら、独りで不器用な踊りをコッソリ披露したような経験が、殆どの人にあるだろう。
        ならば物語を読む際に、何も椅子に座って机に向き合い、
        ジッと沈黙して読み込む必要などどこにあろう。

        物語の世界に没入しておく時ぐらい、周りの環境を気にするべきではない。
        そこが公共の図書館でもない限り。

        その物語に抱いた激情を、
        高々叫んでいるように見せかけているツイートで終わらせてしまうのはあまりにも勿体ないではないか。

        だから私はヘドバンを推奨する。
        その行為は、私の知る限り最も直情的で、尚かつ自分の匙加減で行える感情再生の技法なのだから。
        
        紙面やディスプレイに刻まれた文字と自らの想像を繋ぎ合わせて、
        誰の知るものでもない独自の世界観に浸るべきだ。
        そうすれば自ずと、頭脳と肉体が躍動していくものであろう。

        その欲求を抑制する必要が何処にある。
        いずれ現実では世間を気にして縮こまっていなければならないのだから、
        せめて妄想の中でだけでも私たちは自由であるべきだ。

        さあ、頭を振るうのだ。独自の感覚で、独自のリズムで振るうのだ。
        そうして文字とイメージをシェイクすれば、きっと諸賢は幸福を得られる。

        さあ、振るえ、もっともっと振るうのだ。そうだ、それでいい。
        脳髄が物思う間もなく振るい続けろ。そうだ、それでいい。
        それでいいというのに、嗚呼、何ということだろう。

        『頭を振っていたら文字が読めないじゃないか!』』

※ ※ ※

357 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:47:34 ID:bKltLt3M0
……別に何が言いたいわけでもない。何を伝えたいわけでもない。
深い意味なんてどこにもないし、そんなものを詮索されたってどうしようもない。
作者の気持ちを考えられても、個人的に照れるだけで終わってしまう。

誰かのために何かを書くなんて、考えただけで目眩がする。
けれどこうやって文字が次々と吐き出されてゆくのは、こうしていないと僕自身が不安で不安で仕方がないからだ。

そしてそれが、例えばオフラインのチラシの上に書きなぐられているだけというのも、やっぱり不安になってしまう。
だって独りのための文章をしたためている時ほど、後悔に襲われる瞬間は無いのだから。

もし僕にセルフィーの才能があったなら、リストカットを綺麗にデコレーションして、
死にたいと呟くだけで終わってしまうようなものなのかもしれない。

けれどもこの希死念慮がもたらす人生の終わりのイメージは環状線を不眠不休でグルグル巡り、
ブレーキのかかる気配もない。終わりが終わらず、続きが続かない。

ならば立ち止まっているのかと問われればそういうわけでもなく、自転公転とともに確実に老け込んでいるし、
必要の無い四季が去来している。これはいったい何だろう。ここはいったい何処だろう。
誰に問いかけても明確な答えは返ってこないのだ。

人間は人生の本義について、運命という言葉で片して思考放棄してしまっている。
だって、どうやったってその意味を客観的に定義づけることなどできないのだから。
 
物語とは、ある種の答えを導きだす道筋であると云う人もいる。
それは、教訓とかその手の意味合いを持つのだろう。何よりも、
物語はその受け手に分かるように描かねばならない。そうしなければ第一義を失ってしまうのかもしれない。

けれども本当にそうだろうか。
脈絡のない、獣道さえも見当たらないような言葉の連続が人に何らかの印象や衝撃を与えはしないだろうか。

少なくとも僕はそういう類いのものがあるような気がしてならない。
意味が分かると怖い話より、意味は分からないけれど怖い話のほうが余程恐ろしい。
例えば、この人生のように。

※ ※ ※

358 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:50:16 ID:bKltLt3M0
沈黙と共に過ぎていく午後の空間。彼方に夕景、並んだ十字架。
風に舞い、何処からともなくやって来た慕情が、一筋の線を描いて何処へともなく吹き去った。
男は草叢に腰を下ろし、掃除を終えて一息ついている老婆の姿を何ともなく見遣っていた。

( ・∀・)「まるで、世界が終わっていく風ですね」
 
と、呟く。冗談でも本望でもなく、ただただ流れていってしまうだけの、社交辞令のような言葉。

('、`*川「そんな簡単にいくものかね。あたしはあんたの何倍もこの世でメシを食ってるけれども、
     世界が終わったというような話は一度も聞かないよ」

( ・∀・)「そんなことは分かっていますよ。何がどうなろうとも、明日はやってくるものです。
      火葬場にどんな色の煙がのぼったって、それは変わることのない。

      けれど、最近の若者というのは誰だって一度は世界の終わりに思いを馳せるものなのです。
      それは、ある種の憧憬なのですよ」

('、`*川「起こりもしないことに憧れたってどうしようもないさね。
     もうちょっと、現実味のある出来事に望みをかける方がマシだと思うがねえ」

( ・∀・)「勿論、宇宙ごとビッグクランチなんかで終わってしまえと言うわけではないですよ。
      世界の終わりというのは、実際のところ自分自身の終わりと同義なんです」

('、`*川「なんだい、じゃああんたは、自死でも考えているのかい。
      そんならね、此処じゃなくて余所でやってくれ、後始末が大変なもんなんだよ。
      人一人死ぬだけでもね。あんただって、こんなババアを隣にして死にたくもなかろう」

359 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:53:31 ID:bKltLt3M0
( ・∀・)「いえいえ、私なんかが自殺をするなんて、有り得ないことですよ。
      自殺というのは、意義深く、そして尊いことなんです。

      誰もが、重たい事情や心情を抱えて死んでいきます。
      私はそういう彼是を、この墓場に全て擲ってしまいました。
      私には、自殺に足りるほど抱えているものがないんですよ」

('、`*川「けれども、一丁前に憧れているというわけかい」

( ・∀・)「届かないが故に憧れるのですよ。私は自分自身で自殺を企てることはできません。
      だって死ぬというのはとても怖いことだから。
      結婚出来ないと知っていながらもアイドルを追いかけ続けるファン心理に似ているのかもしれません。

      僕はアイドルのCDやグッズを買い集める代わりにこうして十字架を建て続けているのですよ。

      いつの間にか取り残され、独りぼっちになって、
      最早嘗て抱いていた情熱や意志さえも冷え固まろうとしている今、
      自分自身だけでもその末期を悼めるように……」
 
老婆がジッと男を見詰める。男は、気まずそうに視線を外してどこにも焦点の合わない風景を眺めた。

( ・∀・)「結局、今日に至るまで私がやってきたことと言えば、自殺の代替行為だけだったのかも知れない……」

360 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:56:14 ID:bKltLt3M0
その時突然男の耳を、ガラスを粉砕したかのようなけたたましい破裂音が劈いた。
何故か、脳味噌の一部分がひび割れてしまったかのような印象を覚えた。

声もなく驚いて振り返った男の視線の先に老婆はおらず、
代わりに、どこか見覚えのある背高の老爺が笑みを浮かべて立っていた。
 
男はその姿を爪先から頭の天辺まで舐めるように見渡し、それから、安堵の表情で一つ首肯した。

( ・∀・)「何だ……。ずっと、傍にいたんですね」
 
その老爺……忙殺人鬼ブーンは笑みを崩さず、いつの間にか右手に持っていた小さなナイフをクルリと回した。
そのナイフは刃渡りがひどく短くまるで頼りにならない代物だった。

( ^ω^)「これじゃあ人を殺すことはできない……勿論、自殺するにも足りませんお。
      けれども、これこそが貴方の、全身全霊をかけて磨きあげた自慢の凶器だった……というわけですお。
      
      私は貴方をずっと見てきた。その特異な行動には多少なりとも興味を持っていました……
      然しながら、やはり貴方は私の仕事の範疇ではないようですお」

( ・∀・)「ハハハ……随分と、随分と時間を無駄にしてしまいましたね」

( ^ω^)「とんでもない。私は普遍の存在ですお、何時でも、何処からでも世界を眺望できるものですから。
      それにね、貴方がた人の目に映る私などは、所詮姿見を覗き込んでいるだけに過ぎないんですお」

361 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 21:59:37 ID:bKltLt3M0
( ・∀・)「そういうものですか……。
      こう言ってしまえば何ですがね、貴方の姿……つまり、私自身の姿というものは、
      もうすっかり老いさらばえてしまっているんですね」

( ^ω^)「貴方は何も持ち合わせていないお。
      人生の意義も、目的も、夢も希望もあらゆるものを喪ってしまっております。
      意図的であれどうであれ、それが貴方の歩んだ人生の結果なのですお。

      そういう人は、他人より何倍も早く老いぼれてしまいますし疲弊してしまう。
      然し、貴方が私を頼ることはないでしょう。それは貴方の心根や、立ち振る舞いを見てよく分かりましたお。
      
      貴方は捨てるに捨てきれぬ貴方自身の未来を、
      片手で握りしめてボロボロと潰してしまっているような具合ですお。
      
      そしてそれを決して……投げ捨てることができない。
      それこそ、死ねる人と死ねぬ人との明確な格差なのですお」
 
コツと靴音をたて、忙殺人鬼ブーンは男へ歩み寄った。そしておもむろに片手を差し出す。

( ^ω^)「これをお別れの標としましょう。
      この墓場は、どんな恰好であっても貴方の努力の賜物であることには違いありません。
      この墓場と、そして貴方自身と、私はお別れすることにします。

      こんなにも綺麗な夕焼け空の下ですが、決して印象深いものではありません。
      何故ならこの風景も、人々も、この世の原理原則だからです。
      この空は、近いうちにまた同じ色を映すでしょう。

      その空の下で私たちは、誰もが行うお別れと同じように、ごくごく普通の別れを交わしましょう。
      いつまでも変わらず、繰り返される毎日は天国でも地獄でもなく、ただの現実に過ぎないのです。
      その現実から逃れられぬ貴方の思いに、せめて握手の一つでもしようではありませんか」
 
差し出されたその手は老いぼれた相貌とは裏腹に若々しいものだった。
男はその手を握り、何かを言おうとしたが、何も思い浮かばなかった。
自分から湧き上がる一切の感傷が無意味に思え、わざわざ言葉にするのが億劫だった。

( ^ω^)「さようなら。どうか、お元気で。生きながら死んでいるというのも、また一つの生き方なのですから……」

※ ※ ※

362 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 22:03:18 ID:bKltLt3M0
……なんて、下らない空想と現実を重ね合わせていたら、時計の針が僕を置き去りにしてしまっていた。
アパートの一室でただ独り。誰もおらず、何もない。墓を立て続ける男も、それを世話する老婆も、
大勢のコロスも、あまつさえ忙殺人鬼ブーンなど存在するはずもなかった。

ただ、頭の中で粗末な液状の幻想がトプンを音を立てただけ。
まったく、それだけだ。

空虚な想いで脳みそを充たしたところで何も変わらず、何も失われない。
厄介な自己弁護がまたぞろ主張したというわけだ。歪な思弁、机上の空論。箸にも棒にもかからない私小説。
誰からも愛想を尽かされたどうしようもない架空の人形遊びを、惨めな自分が独りで嗤っている。
 
それでも息をするのだった。
夢を抱かず目標を持たず、希望を失い他人との繋がりが途絶えても、僕は呼吸をするのだった。
誰もいなくても、何もなくても、死のうとは思わないものだった。

これが若さを失うということなのかもしれない。
傍に誰かがいなくても、インターネットの知人に愛想をつかされても、この肉体がある限りは頭が働き、
つまり、自分自身が此処にあるのだった。

その実感は、思っていたほど悪くない。
むしろ、ようやく僕は居るべき場所に落ち着くことが出来たのかも知れなかった。

遠くで僕のことを思い出した昔の友人が、アイツは死んでしまったのかなと逡巡していても、
また、誰の脳裏からも消えてしまおうと、僕は確かに生きているのだった。
誰もが僕を忘れても、僕は死んでしまわない。孤独の底で、確かに生き続けるのだ。

今なお、生き続けているのだ。

※ ※ ※

364 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 22:06:45 ID:bKltLt3M0
僕が産み出した数多の想像。
それらは無秩序に、不躾に、そして不埒なまでに、言葉となって吐き散らされた。
遠い遠い揺り籠まで遡る僕の言葉たちに、僕はどのように謝罪するべきだろう。

嗚呼、どうか許してほしい。僕は本当に、言葉を産み出さなければ気が狂ってしまいそうだった。
それはたった独りの人間であるこの僕にとって、何よりも救済たり得る方法だったんだ。
そうして君たちのような、不格好で、どうしようもない言葉ばかりが産まれてしまった。

君たちには何の罪もないのに、僕はいつも何某かの罪障ばかりを背負わせてしまっていたんだ。
それはまるで、愛情を盾にした八つ当たりのように……。
 
そしてこれからもきっと、僕は言葉を、文章を、物語を、半永久的に綴り続けてしまうだろう。
何を反省することもなく。ただ僕だけの都合で。ただ僕だけの感情ばかりを乗せて。
 
言葉たちはそこにいる。明日も明後日も、いつまで経ってもそこにいる。
けれど、そこに込められた意味だとか、想いなんていうものは、いつの間にやら移ろって、変化して、
元の形を失ってしまう。僕らは知らず知らず、過去を引き出す手がかりを喪っていく。
 
あまつさえ、物覚えの悪い僕のことだ……。

365 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 22:09:25 ID:bKltLt3M0
言葉よ、本当にありがとう。僕はお前たちを無碍に扱ってばかりだったのに、今までよく耐えてくれた。
誤字脱字も、誤用も、文法の間違いも様々にあっただろう。その矜持は傷だらけに違いない。
それにも関わらず、変わらずついてきてくれたことに、僕は心の底から感謝したい。
 
そしてこれからも、僕は言葉を濫用するだろう。
迷いながら、惑いながら、僕はあらゆる悲観的な言葉を吐き出してしまう筈だ。

治そうと思って治るものじゃない。これは中毒みたいなものなのだ。
言葉の味を知ってしまった以上、僕は言葉を超える何かを見つけることはできないだろう。

だから僕がこの人生を終えるその日まで、言葉には過酷な目に遭ってもらわなければならない。
申し訳ない。申し訳ない。けれども、どうにかついてきてほしい。
言葉こそ、僕が信じることのできる唯一無二のものなのだから。
 
だからせめて墓をつくろう。
下卑た韜晦に充ち満ちた頭の中にそこそこに立派で、そこそこに心を込めた、
不出来でも形になっている墓をつくろう。

そうしてそれぞれに、墓碑銘を刻むのだ。あらゆる言葉に悼む言葉を重ねがけて、それを幾つも並べてみよう。

この脳髄が土に還るまで、言葉を産み出したという罪責を忘れぬように……。

※ ※ ※

366 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 22:12:32 ID:bKltLt3M0
毎日起床するアパート。毎日通る町並み。工事中の建物だって、どうせどこかで見たような景色。

雑多な人混み。その中に、憶えたくもないのに勝手に記憶にしまわれた人の顔がある。
あからさまに脅かしてくる喧噪。イヤホンが無ければ人生はやりきれない。
風の無い空にピッタリと貼り付いたようなうろこ雲を見上げると、何だかひどい不安に襲われる。
 
独りで咲き誇る痩せ細った向日葵。
彼女は、自分が他よりどれほど醜いのか知らぬまま枯れて死んでいくのだろう。
そういう生き方は、きっと美しい。
 
もしいつかこの僕がどこかの大講堂に立ったらこう叫ぶ。

「さあ、物語を始めましょう」

けれど、超満員の聴衆は誰も僕の言葉に耳を傾けていない。みんな、自分の人生に夢中なんだ。
 
そんな世界は、きっと素晴らしいものだと思う。
 
……ああ、まったく、もう。死んでしまいたい気持ちでいっぱいだ。
この夜が過ぎて、朝になったら、自分独りだけ世界から取り残されてしまっていればいいのに。
 
……いや、でも、明日は早起きをしよう。日が昇る頃に、アラームをセットしておこう。
だってその頃にはたぶん、ソーシャルゲームのスタミナが溜まっているだろうから……。
 
それでは、おやすみなさい。ごきげんよう。さようなら。
 
大丈夫。どうせ、いつまでも生きてるんだから。








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