最初の小説(Interlude 4)

336 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 20:44:23 ID:bKltLt3M0
12.一度きりの物語(interlude 4) 20130403KB

事故で亡くなる二日前、Kは私をいつもの秘密基地に呼び出した。
 
Kはひ弱な体質だったためか、小学校ではよくいじめられる少年だった。
それは四年生になった当時も変わらず、スポーツマンタイプの番長格の男が率先して彼をいじめていた。4
その内容は単純な暴力から陰険な噂話まで多岐にわたり、Kはもう殆ど慣れっこのようだった。
 
それでもたまにどうしても我慢できなくなったとき、
Kは決まって幼なじみである私を自宅近くにある鬱蒼とした森林の小さな洞穴に呼び出すのだった。

彼はその場所を秘密基地だと称していたが、今思い返せばそんな立派なものではない、藪蚊の群生地帯だった。
彼はその秘密基地で、日頃積もり積もった鬱憤を私に向かって泣きながら思い切り吐き散らすのだった。
 
その日も、Kはそういった名目で私を呼び出した。
私がそこへ駆けつけた時、Kは既に目を腫らしていた。
そして何枚かの原稿用紙をぐいと私へ突きだしたのだ。

337 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/10(金) 20:47:35 ID:bKltLt3M0
嗤われたんだ、とKは言った。
おれがいつも図書室にいて、貸し出しカードに俺の名前がたくさんあるって、嗤われたんだ、と。

ひ弱な彼の趣味は必然的にインドア系に偏り、中でも読書に関しては児童文学に飽き足らず、
明治時代の純文学にも手を出すような具合だった。
私にも時々、よく分からない作家や作品について話しかけてくることがあった。
 
そんなKが私に突きだした原稿用紙の右端には大きく『いちばんめ』と書かれていた。
そしてそこから続いているのは、いわば、彼が目一杯苦心して書いたと思われる小説的な文章だったのだ。
 
これ、どうしたの、と私が言うとKは、小説、とぶっきらぼうに言った。おれが書いたんだ。
短めに書いたつもりだから、ちょっと読んでみてくれよ。それで、感想が欲しいんだ。
 
言われるがままに私はKの小説を読み始めた。
その小説には小学生には読めないような漢字も多く含まれ、ところどころ判読不能だったが、
それでも全体のストーリーは何となく理解できるような内容だった。
 
それを踏まえた上で、読了した私は目の前で期待を輝かせているKに向かって、面白くない、といった。
だよな、とKは応答した。まるで私の答えを予想しているようでもあった。

彼は手に戻った小説を眺めながら、でも、いいんだ、と言った。
これ、おれが初めて書いた小説なんだ。おれ、小説家になりたいんだよ。
だから、これからたくさん書きまくるんだ。まだ面白くなくたって、そんなの当たり前のことなんだ。
 
『いちばんめ』というのはタイトルではなく、文字通りKがこれから書き連ねていくであろう作品の中での、
『いちばんめ』という意味なのだと、説明された。彼の表情からは悲哀が消えていた。
その目には、未だかつて無い未来への展望が映っているようだった。






13.どうせ、生きてる