聖夜の恵みを(interlude 2)

161 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/03(金) 21:05:48 ID:/I8YLJN20
6.聖夜の恵みを(interlude 2) 20111103KB 

少し前の十二月、一番幼い孫が私達に向かって、クリスマスに何が欲しいか訊ねてきたことがあった。

(・∀ ・)「一緒にお願いしてあげるよ」
 
孫はサンタクロースに送る手紙をクレヨンで書いていた。
私達は顔を見合わせた。それはむしろ、私達が孫に問いかけたい質問だったからだ。
先手を取られ、二人して思わず微笑んだ。

( ФωФ)「爺ちゃんは、そうだな」

私は逡巡して言った。

( ФωФ)「旅がしたいな。外国も捨てがたいが、やはり国内……。
       そう言えば北海道で食べた海鮮丼は格別だったな、今頃の時期にもう一度……」
 
そこまで口にした時、ふと妻の視線を感じて私は思わず口を噤んだ。
何が言いたいのか、手に取るように分かる。
お爺ちゃんたら、年甲斐もなく真剣に考えているみたい。もう、サンタさんよりお爺さんなのにね……。

( ФωФ)「婆さんは、どうだい」

小恥ずかしくなって、私は慌てて妻に訊ねた。妻は昔と変わらぬ所作で首を少し傾げ、皺の中に笑みを作った。
そして、軽く目を閉じて言った。

从'ー'从「お婆ちゃんぐらいの歳になると、毎日生きているだけで幸せと思えますよ。
     でも、そうね。出来ればお爺ちゃんと、もう少し長く一緒に居たいものね」
 
その殊勝さときたら。私はますます小さくなったのだった。

162 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/03(金) 21:08:36 ID:/I8YLJN20
( ФωФ)「婆さん」

从'ー'从「何ですか」

( ФωФ)「遺灰を、少しだけでも海に撒いてくれないか」
 
冷たく淋しい川のせせらぎが聞こえていた。もうすぐ私を向こう側へ運んでいく流れだ。
朧気な感覚の中で、私は言葉を紡いでいた。

( ФωФ)「旅がしたいんだ」
 
この期に及んでも旅に拘っている自分がおかしくなって、心の中で笑った。身体はついてこなかった。
病室の白い空間には私と妻しか居ない。もうすぐ死ぬと言う事実は案外すんなりと飲み込めるものだった。
世界は徐々に輝きを失い、誰も居なくなったようだ。だが、すぐ傍に妻がいることは分かっていた。

それでも覚える孤独感が、たまらなく幸福だった。
私が妻を一心同体の如く愛していると、ようやく理解出来たからだ。この孤独はあまりにも切なく、美しかった。
 
妻の手が私の腕に重ねられる。柔らかい愛撫。お互い、随分と痩せてしまったものだ。
時は肉体を剥がしていき、そして遂には魂も剥がす。掌から伝わる僅かな熱も、じきに遠ざかっていく。

( ФωФ)「婆さん」

从'ー'从「何ですか」

( ФωФ)「すまないな、願いを叶えてやれなかった」
 
妻の、慎み深い笑い声が聞こえてきた。

从'ー'从「もう、慣れましたよ」
 
そうだったな、いつもそうだった……。
急激に襲ってきた最後の眠気に抗えず、私はただ、妻の手の感触に残った灯火を委ねた。

163 : ◆xh7i0CWaMo :2014/10/03(金) 21:11:46 ID:/I8YLJN20
/ ,' 3「偶然ですよ」

と、サンタクロースは言った。

/ ,' 3「海岸沿いを飛んでいたところへ、突然貴方が飛び込んできましてね」
 
私の言葉通り、妻は約束通り灰になった私を海に撒いてくれた。
そうして上空へ舞い上がったところへ、件の赤い紳士が通りがかってくれたというわけだ。

( ФωФ)「こんな老いぼれに奇蹟が起こるとは、申し訳ないものです」

/ ,' 3「ご老人、いえ、偉大なる人の子よ。そんなことはありません。何しろ、今宵は聖夜なのです。
   あらゆる人に、その恵みが降るべきなのですよ。貴方にも、貴方の奥様にも」
 
そして、聖夜のそりは我が家へ向かってくれた。何故か私には、妻が私に気付いてくれるという確信があった。






7.明日の朝には断頭台