デレを忘れない

3 :デレを忘れない ◆9DAfJAI.I. :2013/09/26(木) 17:03:12 ID:qZGmce820
私がまだ幼い頃、一匹の子犬を拾った。子犬は酷い怪我をしており、父が言うには人間の仕業だという事らしかった。
私はその子を見捨てることができず、両親に泣きつき手当をしてもらった。
しかし子犬は一向に回復する様子を見せず、どころか時と共に衰弱していった。

それから私は植物をちぎり取り、それらを食べないと分かると今度は小さな虫を持ち、
それらも口にしないと分かり今度は別の生き物をと、餌になりそうな物を次から次へと運んでいった。
こうした私の努力が功を奏したのか、はたまた生命の自然な治癒力か、何にせよ子犬は一命を取り留め元気を取り戻していった。
そして、私から離れなくなった。私は子犬に、デレと名付けて飼うことにした。

私とデレは、何をする時も一緒だった。一緒に食事をし、一緒に走り回り、一緒に眠った。
デレの体は暖かく、抱きしめると心地よかった。デレも、ことあるごとに額をこすりつけて甘えてきた。
私たちは兄弟であり、親友であり、あるいは、恋人同士であったのかもしれない。
私は絵を描くことが好きで、何枚もデレの絵を描いた。その間、デレは静止していた。
自分がモデルになっているということを理解していたのかもしれない。私のことをじっと見つめて、決して動かなかった。

その日も私はデレを描いていた。あとわずかで完成という時に、異変は訪れた。村に魔物が現れたのである。
至る所に死体が転がり、肉片が飛び散っている。そしてその中央で地獄のようなうなり声を上げる、黒く巨大な魔物。
私は立ちすくみ、一歩も動くことができなかった。魔物の牙が私に向いた瞬間も、震えることしかできなかった。

そのせいで、母が死んだ。私を庇い、魔物の前に立った母は、私の目の前で半分に噛み千切られた。
動けない私を父が担ぎ上げ、その後は覚えていない。ただ、デレ、デレと、何度も叫んでいたと後で父から聞いた。

私は筆を捨て、剣を手にするようになった。いや、剣だけではない。
斧を、槍を、弓を、ありとあらゆる武具を扱う戦士となり、各地の魔物を殺して回った。復讐を糧に、私は成長していった。
いつしか私の名は広がり始め、魔物の討伐を依頼されるようになった。家族を殺された者、民の不安を取り除こうとする者、
魔物の財宝を狙う者。依頼主の望みは様々だったが、私は関係なくそのすべてを請け負った。
そして、殺した。殺して殺して、殺し尽くした。

私は殺す為に生きていた。その生に疑問を持ったことはなかった。復讐心が、私のすべてだったからだ。
しかしある少女との出会いが、私の人生に変化を生じさせた。

4 :デレを忘れない ◆9DAfJAI.I. :2013/09/26(木) 17:04:15 ID:qZGmce820
ξ#゚⊿゚)ξ「命を粗末にして、あんたバカじゃないの!?」

魔物を討伐した直後、頬を叩かれながら言われた一言だ。その日私が屠った魔物は、私が相対してきた中で最も大きく、
最も強かった。神話の時代より生きているという噂で、誰一人近づこうとする者はいなかったらしい。

その魔物の脳髄深くに槍を刺し込んだ時、私もまた死の淵にいた。このまま死ぬのだと思った。悔いがあった。
殺したりない。まだまだ殺したりない。殺さなければならない。殺さなければ。殺して、取り返さなければ。

生死の境でもがく私に、駆けつけた少女は怒りながら手当てをしてくれた。
無謀な依頼を受けた私を心配し、追ってきたらしい。私はそのまま、彼女の家に住むこととなった。
ツンという名前のその娘は、やたらと口うるさく、お節介で、なにより私が魔物の討伐に向かう事を嫌がった。

ξ#゚⊿゚)ξ「あんたは! 普通の、何でもない普通の暮らし、日々の営みを知った方がいい。いいえ、知らなきゃいけないの!」

どんな魔物よりも厄介で、面倒だと思ったことを白状する。何故放っておいてくれないのかとも思った。
しかし彼女の押しの強さに負け、私は彼女の言う、普通の暮らしの中で生きることになった。
始めのうちは苦痛だった。魔物への憎しみが遠のき、過去を忘れてしまうようで怖かった。
だがそれも時と共に薄れ、いつしか私は、普通の暮らしを享受し始めていた。

やがて、ツンが私の子を身ごもった。女の子が産まれ、遠い昔に置いてきた感情が呼び覚まされたていくのを感じた。
ずっと、真に求め続けていたもの。私は、数十年ぶりに家族というものの暖かさを実感していた。
しかしその幸福も、長くは続かなかった。娘が病を患った。
大変な難病で、対応する薬は庶民の手には届かない希少で高価なものだった。

そんな折、国王から魔物討伐の令が出た。山岳の洞穴に住まう黒き魔物。血肉に飢え、人を喰らうという。
民の被害も甚大で、討伐に出た騎士団も全滅したとのことだった。足場が悪く数は頼りにならない為、
力のある個を求めていると掲示板には書かれていた。そして、報酬は望みの品をひとつ、何でも与えると。私は、王への謁見を求めた。

( ・∀・)「……いいだろう、内藤ホライゾン。そなたがかの巨悪を討ち果たしその証を持ち帰った暁には、求める品を与えると約束しよう。
では行け、勇敢なる戦士よ! そなたが英雄となり凱旋する未来を、余はここで祈り待とう!」

5 :デレを忘れない ◆9DAfJAI.I. :2013/09/26(木) 17:04:58 ID:qZGmce820
私は心配するツンに必ず帰ると約束し、魔物の住まう山へ向かった。魔物は頂上の洞穴を住処にしているらしい。
そこを目指して、登る。切り立った岩壁はまともに歩くことも困難で、用意した装備は却って足枷となった。
私はそれらひとつひとつを捨てながら、武器となる一本の斧だけを手に山頂を目指した。

そして、そこに魔物はいた。魔物は眠っているようで、長い尻尾で体をくるみ丸まっている。
黒く、巨大な体躯。その姿に、私は見覚えがあった。
私は足音をたてずに魔物へにじりよった。魔物は目覚めない。目の前に立つ。魔物は目覚めない。斧を振りかぶる。
魔物の目が、開いた。

( ゚ω゚)「村を返せ」

開いた目に向かって斧を振り下ろした。魔物は咆哮を上げて暴れたが、私はやつの肉ごと毛をつかみ、もう一撃を浴びせた。

( ゚ω゚)「母を返せ」

その魔物は、私の村を襲った黒き魔物と酷似していた。魔物は叫び、私を振り払おうと暴れた。
その足を刈った。魔物は這いずるように、洞穴から抜け出そうとした。私はその額目掛け、全力の殺意を振り下ろした。

( ゚ω゚)「デレを……デレを、返せぇ!!」

魔物は動きを止めた。斧を抜くと、赤黒い傷痕から血が吹き出した。
私は斧を投げ捨て、魔物討伐の証となる巨大なその瞳を、力任せに抉り取った。
復讐を果たした。依頼も達成した。これで、あの子は助かる。

気が緩んだためだろう。私はその時になって初めて、洞穴に積まれた死体の山に気がついた。
魔物を討伐に来た騎士団の物だろう。人間のものと分かる死体は、ひしゃげた鎧や兜をまとっているものがほとんどだった。
他には鳥類や鹿といった大型の動物、山猫かリスか、はたまた蜘蛛や芋虫といった小さな生物の死骸が転がっていた。

その中で、一際特異な死骸があった。白骨化した三体のそれらは、整えられた藁の上に並べられ、寄り添うように折り重なっていた。
それは、私の目に、三匹の、子犬の遺骨のように見えた。

6 :デレを忘れない ◆9DAfJAI.I. :2013/09/26(木) 17:05:54 ID:qZGmce820
胸の奥で、何か、嫌なものがせり上がってきた。予感だったのかもしれない。
私はいち早くこの場から抜け出さなければならないと思ったが、どういうわけか、立ちすくんだまま一歩も動けなくなってしまった。
ちょうど、子供の頃、あの巨大な魔物を前で怯えてしまった時のように。

そして、私はそれを見つけてしまった。
壁面に彫られた荒々しい絵。何か尖った物で彫ったのであろうそれは、細かな判別など付かなかったが、確かに人が、人間の姿が描かれていた。

筆を取り絵を描く少年の絵。何かで何度も、一度や二度ではない、何度もこすった跡の残る、かすれた絵。

( ゚ω゚)「――!」

背後に気配を感じた。咄嗟に振り返る。そこには、両目の潰れた魔物の黒い巨大な頭部が、眼前に迫っていた。
やられる。私がそう思うより先、魔物は倒れるように私に迫り、そして――割れた額を、押しつけてきた。
認めたくない。信じられない。だが、しかし、この、魔物は、この憎むべき黒い魔物は、こいつは、こいつ、が……。

( ゚ω゚)「デレ……なのか、お……?」
くぅん……。

甘えるような鳴き声を上げて、額をこすりつけてくる魔物――いや、デレ。
デレ、デレ、デレ。私の、ぼくの、デレ。ずっと会いたかったデレ。死んでしまっているのだと思っていた、
もう二度と会えないと思っていた、大好きな、デレ。なぜ、こんな所に。なぜ、なぜ、こんな形で。

一緒に帰りたい。一緒に暮らしたい。あの暖かな幸福を感じながら、デレを抱きしめ一緒に眠りたい。
デレは助かるだろうか。傷は深い。しかし、魔物の生命力の高さを私はよく知っている。
急いで手当てをすれば助かる可能性は高い。その為の知識も、技術も、今の私にはある。

だが、だが。思考が、地上へ落ちる。デレが生き延びることで支払われる、犠牲。
私にとっての、最愛。ぼくにとっての、最愛。私の、デレ、デレ、デレ、デレ……。

私の胸に「デ……」心地よい重たさが「……レェェェェェェェェ!!」押しつけられ――。

7 :デレを忘れない ◆9DAfJAI.I. :2013/09/26(木) 17:06:54 ID:qZGmce820














( ゚∀゚)「英雄が帰ってきたぞ!」

山を下りた私を待ち構えていたものは、大変な騒ぎだった。
私は英雄として迎えられ、人々は歓喜の声を挙げて賞賛を浴びせ、国王は約束を守った。
どころか王宮に仕える特別士官の座も用意していた。

パレードやパーティ、華やかな催しがすべて私の為に用意されていた。
私はすべてを断り、家へ帰ることを望んだ。早く娘に会いたいと。

家へ戻ると、妻は私に駆け寄り、私の無事を喜んでくれた。
そして薬を手にして、涙を流した。

ξ;ー;)ξ「これで、デレは助かるのね? 本当に、本当に私たちのデレは助かるのね?
    嘘みたい、夢みたい。ねぇ、あなた。あなた……。
    ……あなた、どうしたの? どうしてそんな悲しそうな顔をしているの?
    なぜ、泣いているの? ねぇ、あなた――?」


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