終末の嘘のようです 3.ひとりの話

93 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:29:24 ID:A5vTUjUo0
3.ひとりの話




俺たちは昔から一緒にいた。
このままずっと一緒に居たい、居られるといい。そんな事を思ったりもした。
病めるときも、健やかなるときも、死ぬときも。
俺たちはずっと。

まさか本当に、死ぬ時まで一緒だとは思ってなかったけれど。



.

94 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:30:41 ID:A5vTUjUo0

从'ー'从「ずっと2人だねぇ」

( ^^)

ぽそりと呟かれた言葉に、何だか照れ臭くなってしまい、咳払いをしようとした。
しかけて、そういえば喉が潰れていたな、と思い出す。

隣にちょこんと座っている渡辺がもじもじとしていた。
寒いのか、小さく震えている。
無理もない。ここは屋外で屋根も壁もない。
元々は駅だったが、今は電車を運転するやつも、電車に乗るやつもいない。
既に駅は駅と呼ぶには烏滸がましいくらい、荒れ果てている。

95 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:31:33 ID:A5vTUjUo0
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从'ー'从「ボル君寒くない??」

( ^^)

俺は寒くない。
声は出ないけど、目で伝わっただろうか。

从'ー'从「私は大丈夫、だよ、寒くないよ」

そう言いながら右耳を触る渡辺。
嘘。渡辺が嘘をつく時の癖だ。

無理しないでねと、小さい声で言われる。それはお前の方だよ


なんでこんな事になったのか。
それもこれもあれもどれも、全部、あの隕石のせい。

俺たちはあのクソ隕石に明日、殺される。

96 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:32:30 ID:A5vTUjUo0


2週間前にそれを知らされ、世間は大混乱、大パニック、大発狂。

学校?そんなもん次の日には教師が逃げ出し校長は消え強制休講。
家族?オフクロが隣の親父と真実の愛を貫いて死ぬっつって消え、
オヤジは2人を追いかけて闇討ちののち、自分で自分を刺して死。

俺と、隣の家の渡辺は小さい頃からずっと一緒だった。
まさかこんな時でさえ一緒だとは思いもしなかったが、父子家庭で父親があんな事になってしまった渡辺を1人には出来ず、俺が守ってやる事にした。

そんなこんながあって、残された俺たちは明日隕石が落ちるまで一緒にいる。

97 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:33:20 ID:A5vTUjUo0

くい、と遠慮がちに腕を引っ張られた。
渡辺が俺をじっと見ている。

从'ー'从「ボル君、守ってくれてありがとう…」

( ^^)

そんなの今更だろ。気にすんな。

渡辺と初めて会ったのは一桁年で、奴は近所のボス的存在にいじめられていた。
小さくておどおどしてるからよく絡まれやすく、最初の頃から俺がなんとなく守っていた。

ごめんねとありがとうと。
何度渡辺から言われてきたんだろう。

数えきれないほど、色々あった。
きっとこれからも、色々あったんだ。

でもそんな色々は、無い。俺たちは明日終わる。

98 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:33:58 ID:A5vTUjUo0


从'ー'从「あのねあのね…私、ね」

从'ー'从「ボル君にずっと言いたかったことがあって……」

( ^^)

うっかりしてると風の音で聞き漏らしてしまいそうな声。
恥ずかしいと声がだんだん小さくなっていくのは、こいつの悪い癖だった。
いつもならどうしたと聞いてやれるが、生憎俺は喉が潰れている。助け舟を出してやることもできない。

从'ー'从「えっと…恥ずかしいな…」

口を開いては閉じ、開いては閉じ。
金魚みたいに言いたいことを飲み込んでしまう、内気な渡辺の癖。

99 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:34:50 ID:A5vTUjUo0
渡辺は癖が多い。
困っている時の癖、悲しい時の癖、嬉しい時の癖。
随分昔から一緒にいるから、奴の癖は大体覚えてしまっている。

从'ー'从「あのね、ボル君…驚かないでね…私、ずっと…ずっとボル君に…」

( ^^)

渡辺の顔がほのかに赤くなっていた。
寒さからにしては、耳もだいぶ赤い。

な、何だよ改まって突然。
こんな状況でそんな台詞、
ど、どう考えてもこ……

100 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:35:30 ID:A5vTUjUo0

从'ー'从ワシャワシャ

( ^^)

どうした、何してる?

一心不乱に髪を掻き乱す渡辺。
癖とかではない。混乱してるのか?
俺の方が混乱しているんだが。

一瞬見えた渡辺の表情が、何やら歪んで見えた。
不気味。
何が起こっているのか全くわからない俺を嗤うかのように、風が強く吹き付ける。

101 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:36:11 ID:A5vTUjUo0


从'∀'从

( ^^)

从 ゚∀从

( ^^)

从 ゚∀从




???????????

102 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:36:50 ID:A5vTUjUo0


从 ゚∀从「ごめん!!!」

从 ゚∀从「実は俺、めちゃくちゃ猫被って天然ちゃんのフリしてました!!」

( ^^)

( ^^)
ええええええええええええええ!!?
えっ、何、えっ?!誰!?誰???

渡辺がいた。さっきまで。今は。今いるのは。誰?
誰だこれ。話し方も性格も見た目も、渡辺とは全く違う知らない奴がそこにいた。

103 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:37:34 ID:A5vTUjUo0


从 ゚∀从「髪もセットするの本当は面倒かったんだ~!あ、これ目はね、カラコン!」

( ^^)

俺が混乱しきってることに全然気が付かない渡辺がペチャクチャと話しかけてくる。
いや、渡辺か?渡辺なのか?渡辺と呼んでいいのか?
目の前で起きたことに何もついていけていない。

从 ゚∀从「あ~何だやっぱり驚かねーな!まぁ俺とお前の仲だからな、今さら何を言われても驚かねーか!」

( ^^)

いやめちゃくちゃ驚いてるわ、めちゃくちゃ驚いてるわ!めちゃくちゃ驚いてるわ!!!

何だお前目ェ節穴なのか?カラコンのせいで見えてねーんじゃねぇか?

104 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:38:28 ID:A5vTUjUo0

こんなにも声が出ない事がもどかしくむず痒くストレスになるとは思いもしなかった。
せめて目とかオーラで伝われ!強く願うも無駄の無駄無駄。
渡辺は過去最高じゃないかというほど長々と話し続ける。

从 ゚∀从「もうさ、ずーっと言いたくて、でも言えなくて。
良かったよ、こんな機会でもなきゃ一生言えなかったと思うもん」

( ^^)

こんな機会って何?地球が滅亡するぐらいじゃないと言えないってこと?

言っておくけどこんな機会滅多にないからな!稀なんだからな!

むしろずっと黙ってて欲しかったよ!

从 ゚∀从「ほら、明日で終わりじゃん?週末に、終末なんてウケルよな」

( ^^)

全然ウケないし笑えないわ。
そんなアホみたいな駄洒落を言うやつじゃなかっただろうお前。

105 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:39:04 ID:A5vTUjUo0

从 ゚∀从「へへっ」

怒りなのか焦りなのかよくわからない感情に苛まれる俺とは真反対に、渡辺はやっと言えたと嬉しそうだった。

ふわふわの猫毛で、いつも小さな口で笑う渡辺は、もういない。
今目の前にいるのはワッシワシとワックスで固められた髪に、灰色のカラコンが貼りついた目と、大きな口で笑ってる、知らない奴だ。

恨むぜ隕石。お前が世界を滅亡しようときなきゃ、こんな事にはならなかったんだ。

从 ゚∀从「あぁぁ……」

( ^^)

溜息ならこっちがつきたい。

从 ゚∀从「はぁぁ。勇気がいるんだぜ、本当の自分を出すの。でもボルには言っておきたかったんだ」

( ^^)

106 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:39:58 ID:A5vTUjUo0



何だそれ。
ずるいだろ。

渡辺は髪をかきあげながら、反対の手で首をさすっていた。
緊張してる時のこいつの癖だ。

見た目も何もかも違うのに、そういう癖は全く変わらない。


それから日が暮れるまで、渡辺はずっと話し続けた。

今まで話せなかったことを、死ぬ前に全部言ってしまおうといった勢いで。

俺はというと、声も出せないし動けもしないので、黙って渡辺の言葉に耳を傾けるしかなかった。

107 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:40:44 ID:A5vTUjUo0

从 ゚∀从「ボルはさ、いつも俺のこと守ってくれたじゃん。あれが嬉しくて」

从 ゚∀从「俺、いつかボルのこと守りたいって思ってたんだ」

( ^^)

そりゃ守るよ。俺の中じゃお前は『か弱いやつ』だったんだから。

昔も今も、多分これからもそうだったはず。

从 ゚∀从「それでさ、実はさ、キックボクシング習ってたんだ!」

从 ゚∀从「俺、強くなったんだ!」

108 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:41:33 ID:A5vTUjUo0


从 ゚∀从「さっきもな、野生かな?狼がいてさ!」

从 ゚∀从「野良狼、初めて見たよ」

从 ゚∀从「そんで、小っちゃい女の子が襲われてたから、助けたんだぜ!」

从 ゚∀从「すごい!?偉い?ねぇねぇ!」

( ^^)

109 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:43:00 ID:A5vTUjUo0


俺の知らなかったことを楽しそうに話す、俺の知らない渡辺。

辺りは真っ暗になっていた。

このまま時間が止まればいいのにな。
渡辺が楽しそうな時のまま、止まってしまえばいい。
けれどそんなことは起きない有り得ない。

夜になって、朝が来て、そして、
そして死ぬんだ。

周りに人はいなかった。
どこかへ逃げたのか、どこへ逃げても無駄だと諦めたのか、
この場にいるのは俺と渡辺だけ。
俺は喋れないから、渡辺ひとりの声だけがずっと響いていた。

110 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:43:55 ID:A5vTUjUo0


从 ゚∀从「なぁ」

从 ゚∀从「ボル、ボル、ボル君」

( ^^)

先程までとは変わって、渡辺の声が震えていることに気がつく。
この姿ではない、俺の知っている渡辺の声。
怖いのに、それを隠そうとして震えてしまうのだ。

从 ゚∀从「俺、強いんだ」

从 ゚∀从「ボル君だって守れるよ」

从 ゚∀从「隕石だってさ、実は壊せるんじゃないかな」

从 ゚∀从「だって俺、強くなるために頑張ったし、強くなったしさ」

早口で、けれどたどたどしく話す渡辺。
両手が手持ち無沙汰になって、胸の辺りで震えている。
風で髪が揺れる。渡辺の顔が、また見えなくなっていた。

111 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:44:45 ID:A5vTUjUo0


从 ∀从「ボル君居なくてもさ、1人でも大丈夫なんだよ、だって、だって俺は、俺は、強い、から」

从 ∀从「平気だよ、ボル君いなくても、寂しくないし、怖くもないよ」


右耳を触っている渡辺に、声をかけてやることも、頭を撫でてやることもできない。



从 ∀从「なん、」

从 ∀从「なんで、先にいっちゃうんだよぉ…」

( ^^)

ごめん。ごめんな、渡辺。

112 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:45:21 ID:A5vTUjUo0





俺だけ先に死んじまって。





.

113 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:47:01 ID:A5vTUjUo0



俺の親父は自分で死ぬ前に俺も殺そうとした。

包丁を持って暴れる親父。
俺は刺されたしボコボコにされたけど、何とか逃げ切ったんだ。
ぼろぼろ泣く渡辺を心配させまいと、大丈夫だからとか細い声で伝えたが

3日後にはあっけなく死んだ。

( ^^)

从'ー'从「ボル君、お腹、空かない?」

( ^^)

从'ー'从「ボル君、私、ちょっとご飯、探してくるね」

( ^^)

从'ー'从「大丈夫、大丈夫だよ」

( ^^)

从'ー'从「ボル君」

( ^^)

从'ー'从「ボル君あのね」

114 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:47:40 ID:A5vTUjUo0


それから渡辺は、返事のない俺とずっと会話をしている。
今日になっていきなり『本当の渡辺』を見せられたのは驚いたけど。


从 ∀从「ばか……」


从;ー从「ばか、あほ、ボル君なんて、嫌い…嫌いだよ…」


ぼろぼろ涙を流すからカラコンが取れてしまって、すっかり元の渡辺になっていた。
「ごめんな」と言ってやりたかった。

こんな状態で1人にしてしまって。
最後まで守ってやれなくて。
ずっと一緒にいると思ったんだ、それは本当に。

115 :名無しさん :2018/01/17(水) 15:49:16 ID:A5vTUjUo0

お前、小さい頃から、俺の後を追う癖があったよな。
歩くのが遅い渡辺を、俺は少しだけ待っててやった。

今も待っててやってるけどさ。

本当は、お前には来て欲しくないんだ。




从;ー;从「大丈夫なんて…嘘つき…ボル君の嘘つき…大嫌い…」

( ^^)

結果的に嘘になっちまったけど、まぁお互い様だよな。
右耳に手をやりながら、ずっと泣いている渡辺を見て、そう思った。





嘘つきを懲らしめようと、隕石はだいぶ近くまで来ていた。



(3.ひとり 終)




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