終末の嘘のようです 2.彼女の話

54 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:21:46 ID:jKX022rE0
2.彼女の話




私には姉と兄がいる。


姉の説明を求められたら、説明は一言で済んだ。
『私とは全て全く正反対』だって。
姉は明るく、艶々とした髪、大きな瞳、小さい鼻、綺麗な唇、可愛らしい顔、スラっとした体型。
ハキハキとした性格で、いつも楽しそうに笑って、優しい人達に恵まれてた。

私と姉に似てるところなんて一つもなかった。
当たり前だよね、血も繋がっていない他人なんだから。

父が再婚したのは、私が中学に入ってすぐのこと。
再婚相手、つまりは私のオカアサンになる人にも子供がいた。
私より2つ上だった彼女は、私のオネエチャンになった。

初めて会ったその時からずっと、姉の言葉に逆らった事はない。
逆らえない。
私の性格が、人格が、人生が、彼女に逆らうことを許されない。

私はずっと、姉の言いなりだった。

55 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:22:53 ID:jKX022rE0


(´-_ゝ-`)「ツン、寒くないかい」

川д川「ええ、大丈夫よ」

(´-_ゝ-`)「ツンは寒いのが苦手だからね。無理しないようにね」

川д川「ありがとう」

(´-_ゝ-`)「今日は静かだ」

川д川「…そうね。何か壊れる音も、誰かの悲鳴も聞こえないわ」

(´-_ゝ-`)「じゃあ、周りには誰もいないのかい」

川д川「多分」

(´-_ゝ-`)「……ツン、愛してるよ」

川д川「……ええ」

56 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:23:48 ID:jKX022rE0

耳元で囁かれ、背筋にゾゾっと寒気が走る。

先に言っておくと、私の名前は ツン じゃない。
ツンは姉の名前。
そして私は、寒いのは割と平気。

彼はデミタスと言う、見た目も中身も周りの環境も全て恵まれた男だった。
彼もまた、私とは正反対の人間。

彼は私の兄だけど、姉と同じく私とは義理の関係。
姉の夫だ。
ただ、今彼は私のことを義理の妹とは思っていないし、私を愛する人だと思ってる。

……ごめんなさい、私は恐ろしく頭も要領も悪くて、説明が下手なの。
姉によく言われたわ。

57 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:24:52 ID:jKX022rE0

狭くて風通しの良すぎる、建物と建物の間。
正確には焼かれて崩された建物だけど。
男女2人が身を隠すには丁度良いけど、少し焦げ臭かった。

(´-_ゝ-`)「ツン、こっちへおいで。寄り添った方が暖かいよ」

川д川「…ありがとう、デミタスさん。でも、私本当に寒くないの、大丈夫よ」

(´-_ゝ-`)「実を言うとね、僕が心細いから君に寄り添って欲しいだけなんだ。駄目かな?」

川д川「……わかった、今そちらに行くわ」

(´-_ゝ-`)「ありがとう、ツンは本当に優しいね」

川д川「…そうかしら」

58 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:26:02 ID:jKX022rE0


確かに ツン 、姉は優しい人だった。私以外の人間には。
全ての人間に対して完璧でいる代わりに、私だけぞんざいに扱うという契約でもしてるかのように、世間と私とでは態度が全く違った。

何故?最初の頃は戸惑っていたが、次第に理由がわかってきた。

私が、出来損ないの駄目人間だったからだ。

姉に何度も何度も言われ、自分でも言わされてきた言葉。

59 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:26:52 ID:jKX022rE0

姉のことを考えていると、彼の長い腕が伸びてきて私を包みこんだ。
彼は案外スキンシップが好きなようで、もう何度もこういったことをされてきた(彼の中では愛する人相手にしてるのだから仕方ない)。
顔が私の前髪の上にある。近いなぁ。

(´-_ゝ-`)「ああ、ツン。君は暖かいね」

川д川「デミタスさん、恥ずかしいわ」

(´-_ゝ-`)「恥ずかしがらなくていいさ」

川д川「そうは言っても…照れちゃう」

(´-_ゝ-`)「死ぬまで、こうしていたい」

川д川「……もう、デミタスさんたら」

『死ぬまで』だなんて、くすりとも笑えない言葉。
思わず眉間と口角が醜く震えた気がする。彼の目が見えていなくてよかった。

私達は、明後日には死ぬのだ。

60 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:28:33 ID:jKX022rE0


世間が騒がしくなったのはほんの2週間前だった。
私はテレビもラジオも何もない部屋で静かに本を読んでいたので、最初何が起きたのかはわかっていなかった。

突然姉が泣きながら部屋に入ってきて私を殴った。

髪を引っ張り?茲を引っ叩き服を引っ掴む。
たまにある姉のストレス発散方法だったから、初めのうちは気にせず、早く時が過ぎるのを待ってた。

でも何かおかしいと気付いた頃、兄がやって来て姉を宥めながら説明してくれた。

61 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:29:42 ID:jKX022rE0

『あと2週間で地球は滅亡する』

川д川

どこかの嘘つき少年が言いそうな言葉を、目の前の兄や姉を始め、世界中の人達が口々にするのだから、少し変な気持ちだった。

川д川(2週間後…ちょうど週末だ…週末に終末だなんて、皮肉だわ)

川д川(あと2週間で、死ぬ…)

川д川(……そもそも私は、ちゃんと生きてたのかな)


ぼんやり、
私は元から生きてる心地がしていなかったからか、絶望という絶望はなかった。
むしろ平等にみんな死ぬのね。
そんな事考えているから、私は駄目なんだろうな。

62 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:31:07 ID:jKX022rE0

この2週間、色々なことが続いた。

家族で最後の時を過ごす事にした。

外からは悲鳴や奇声等が聞こえた。

家の中は安全だと兄は言っていた。

私の父と姉の母は強盗に襲われた。

食糧を漁ってる強盗を兄が◯した。

強盗の他にも悪事を働く輩がいた。

私達が住んでいた家は燃やされた。

兄は焼け落ちた柱で視力を失った。

姉は、



「……」

川д川「…」

川д川「おねえ、ちゃん…?」

ξ ⊿)ξ


姉は私を庇って、亡くなった。

63 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:34:19 ID:jKX022rE0



川д;川「お姉ちゃん?お姉ちゃん!?なんで、なんで…!」

姉が私を庇って死ぬ、だなんて地球が滅んでもありえないことだったけれど、
地球はもう滅亡してしまうのだから、そういうこともあり得てしまうのかもしれない。

ξ ⊿ )ξ

姉は冷たくなっていた。頭に火傷を負ってるのか、ドロドロのぐしゃぐしゃで、いつもの可愛らしい元気な姉はもういなかった。

川д川

私は薄情で、駄目な人間だ。
姉が死んで、痛感した。
私は姉が

64 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:35:11 ID:jKX022rE0

(;´-_ゝ-`)「ツン!貞子ちゃん!?すごい音がしたけど、2人とも無事か!?」

川д;川

姉の前でぼうっとしてしまっていた私の身体がビビッと跳ねた。
私の混乱が溶ける前に、兄が来てしまった。
兄は目が見えていないからか、フラフラと近寄ってくる。
何か触れる事を求めて彷徨う両腕が恐ろしい。
あと数歩で私の腕は掴まれてしまう。捕まってしまう。

どうしよう。どうしよう。どうしよう。
姉は死んだ。私を庇って。彼は姉を愛してる。
姉が死んだとわかったら?彼は。彼は怒る?
私のせいで。私が。姉は。姉ではなくて。私が。
私が死ねば。

65 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:36:02 ID:jKX022rE0


川д川

川д川「……デミタスさん、私はここよ」

川д川「でも」

川д川「…でも、貞子が、妹が…」

(´-_ゝ-`)「え……?」

66 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:36:58 ID:jKX022rE0


彼の目が見えなくなってしまったことを、幸運だと思ってしまった。
死んだのは姉、ツンじゃない。
姉 、いや、私、ツンは生きてる。

目も見えなくなってしまった彼が、最愛の人を亡くしたと知ってしまったら。

私は、私を◯して、姉を生かした。
姉が、私を庇って、死んだように。

最初で最後の、彼女への恩を返さなきゃ。

67 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:38:08 ID:jKX022rE0


(´-_ゝ-`)「ツン、ツン。ご両親と貞子ちゃんの分まで、僕達は最後まで生きよう」

川д川「…最後まで?」

(´-_ゝ-`)「うん。僕は、ツンと地球が滅んでしまう時まで、愛し愛されて過ごしたい」

川д川

昔読んだ小説の台詞みたいな事を、彼は恥ずかしげもなく口にした。
姉が生きている時はもちろん、こんな世の中がひっくり返ってドロドロのぐちゃぐちゃな時ですら言えるのだから、これが彼の素なんだろうな。

彼は見た目が良かった。
すらっとした長身で、歩き方がとてもスマートで、笑うとどんな女性だってつられて笑うような。
だからこんなロマンチックな言葉を言われたら、姉でなくても幸せな気持ちになってしまう、普通は。

68 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:38:51 ID:jKX022rE0

川д川(本当に、彼の目が見えてなくて良かった)


姉は彼が好きだった。
姉が父の会社のパーティに顔出しをして、父の会社の社員だった彼に一目惚れをした。
そこからの展開はとても早かった。小説だったら1ページにもならないような早さで、2人は結婚した。
すれ違った人が必ず振り返るような2人。

彼は性格も良かった。
彼は私みたいな馬鹿でどうしようもない人間にも、とても優しくしてくれた。
男性に優しくされたのは父の他で初めてだった。
同世代の男の子とは会話をしたこともない。そもそも同性の友人も私にはいなかったけど。
彼はそうするのが当たり前のように、ごく自然に私に優しくした。

69 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:39:50 ID:jKX022rE0


(´-_ゝ-`)「ツン?どうかしたのかい?」

川д川「……いいえ、デミタスさん。なんでもないわ」


両手を自分の?茲に当てる。
冷たい手が、顔の熱を冷ましてくれた。
冷静にならなければ。
何故なら私は今、ツンだから。
ツンは、夫に甘い言葉を言われた位で、こんな気持ちにはならない。
そうだとしても、それにしても、

70 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:40:50 ID:jKX022rE0



川д川(ああ、ああ、ああ!)


川д川(気持ちが悪い、気色が悪い!!)



私は彼が、
嫌いで嫌いで仕方なかった。



.

71 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:42:16 ID:jKX022rE0


彼は私にも優しい。
彼が私に優しくする、その度姉は私に厳しく当たった。
彼が優しくする、姉が私に当たる、私が落ち込む、彼が優しくする、繰り返し、繰り返し。
苦痛。
彼は目が見えていた頃から、何も見えてなかったんじゃないかな。

私も姉も、彼が思うような人間ではなかったのに。

川д川(仕方ない、仕方ない、仕方ないの)

私は、彼女になって、彼を支えて、そして一緒に死ぬ。
そんな選択をしてしまった私は、やっぱり馬鹿なのかしら?

72 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:43:02 ID:jKX022rE0

(´-_ゝ-`)「ツン、お腹空かないかい?」

川д川「え?私はまぁまぁ……デミタスさんはお腹空いた?」

(´-_ゝ-`)「少しだけ」

川д川「ちょっと待ってね。缶詰があるから」

(´-_ゝ-`)「「悪いね。まるで介護だ」

川д川「そんなこと」

あるけれど。
貴方の目が見えなくて助かる分、大変な所もあるのは本当。
缶詰を取り、蓋を開けて彼の口元まで持っていく。
親鳥に餌をもらう雛鳥のように、彼は口をパクパクと開閉させていた。

73 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:43:53 ID:jKX022rE0

(´-_ゝ-`)「缶詰、何処にあったんだい?」

川д川「少し離れた所にあるコンビニに。……お金は払ってないけど」

(´-_ゝ-`)「こんな状況じゃ、仕方ないさ」

川д川「……そういえば」

(´-_ゝ-`)「ん?」

川д川「いえ…コンビニから帰る時にね、道にヘアアクセサリーが落ちてたの」

(´-_ゝ-`)「ヘアアクセサリー?」

74 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:44:40 ID:jKX022rE0

川д川「そう。深い夜のような濃い青に、キラキラと星が散りばめられたような、天の川みたいな綺麗なヘアアクセサリー。……誰か、落としちゃったのかしら」

(´-_ゝ-`)「……」

デミタスが不思議そうな表情をしている。
ぽつりと自分から溢れた言葉にハッとする。
私は何を言ってるの。姉は、ツンは、そんな詩みたいな事、言わなかった。

川д川「ご、ごめんなさい。私ったら、変な事」

(´-_ゝ-`)「変?何も変じゃないさ。……貞子ちゃんみたいだ」

川д川「……あの子は、変だったから」

(´-_ゝ-`)「そんなことない、君の妹だろ」

川д川「……」

川д川「…食べましょ、デミタスさん」

(´-_ゝ-`)「……うん」

75 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:45:33 ID:jKX022rE0

静かで、重たい。
彼が私、いや、貞子をどう思っていたかなんて興味もない。
今は私が、私だとバレなきゃ、それでいい。
缶詰を持つ手が冷えていた。

(´-_ゝ-`)「ツンは」

川д川「え?」

(´-_ゝ-`)「ツンは怖くないのかい」

川д川「……死ぬことに対して?」

(´-_ゝ-`)「ああ」

川д川「……怖いわ」

(´-_ゝ-`)「……そうだよね、すまない。変なことを聞いてしまって」

76 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:47:27 ID:jKX022rE0

本当は、私は怖くはなかった。不思議なことに。
あと数日の命だというのに。
元から生きてるのかわからなかったからなのかな。
でも姉は、怖がる。生きることを楽しんでいた彼女は、死を恐れる。


(´-_ゝ-`)「僕もね、怖いんだ」

彼は今までに聞いたことのない、暗くて重たい声でそう呟いた。
そうか、彼にも怖いものがあったんだ。

(´-_ゝ-`)「……この缶詰が最後の食事ってのも、悲しいな。ツン、君は最後に何が食べたい?」

川д川「え?えっと、……ごめんなさい、思い浮かばないわ」

尋ねられて、一瞬止まってしまった。
ツンは、最後の晩餐で何を食べたがるのだろう。
わからない。私は、彼女の好きなものを知らない。

(´-_ゝ-`)「…まぁ、そうだよね。僕はね、オムライスが食べたい」

川д川「オムライス?」

(´-_ゝ-`)「そう。……覚えているかな、君に初めて作ってもらった料理がオムライスだったんだ」

川д川「ああ…」

77 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:48:28 ID:jKX022rE0

知っている。もちろん覚えている。
だってそれを作ったのは私だから。

姉は料理があまり得意ではなかった。
私は小さい頃から料理をしてきていたので、それだけは人並みに出来る。

姉は私が作った料理を、自分が作った物として人に出していた。
そして姉の株を上げるように、「すごく頑張って作っていた」というようなことを吹聴していたのを思い出す。

78 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:49:59 ID:jKX022rE0

(´-_ゝ-`)「…君は席を外していたから知らないだろうけど、貞子ちゃんが面白いことを言ったんだよ」

川д川「え?」

(´-_ゝ-`)「『好きな人に手作りのオムライスを作るのは、愛してるって意味だ』って。読んだ小説に書いてあったんだって」

川д川「そんなこと……」

言ったような、言わなかったような。
あまり覚えていない。
その時はただただ彼に彼女を売り込むのに必至だったから。

(´-_ゝ-`)「……その言葉で僕はツンと結婚しようと思ったんだよ」

川д川「そう、なの…」

それは知らなかった。
あの時の自分の苦労が実っていたのなら良かった。

79 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:52:57 ID:jKX022rE0

缶詰を全て食べ終えて、なんとなく騒つく胸を無視する。

もう夜なので若干寒い。
いつもは寝てる時間だけど、眠る気にならなくてぼんやりとするしかない。
空を見上げると、大きな月が見えた。
わかってる。あれは月じゃない。
あれは隕石だって。
私達はあれに殺されて死ぬ。

姉は、ツンはきっとそういう最期を望む。
最愛の人と、2人で。
これで良かった。良かったの。

川;д;川「……」

何故、涙が止まらないのかがわからない。
隣に座るデミタスには見えていないけど、声は聞こえてしまうから、口を押さえて涙を流し続けた。

………………。




声、?




.

80 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:54:35 ID:jKX022rE0

(´-_ゝ-`)「ツン。お願いがあるんだ」

何か違和感を覚えたその時、彼が口を開いた。
泣いていたことがバレないよう、呼吸を整えて返事をする。

川д川「…なぁに、デミタスさん」

(´-_ゝ-`)「僕達はあと3日もしないで死んでしまう。その前に、君と抱き合いたい」

えっ、と声を出してしまいそうになった。
あまりに突拍子な彼の願いとやらは、ツンにとっては自然、なのだろうか。私、私には。

(´-_ゝ-`)「死が近づいてくるのを忘れて、生きてる君を感じたいんだ」

川д川「…」

姉はどうする。どうするのが正解か?
いや、正解がどうであれ嫌だ。
姉に、ツンになるとはいえ、嫌いな人間に抱かれるのは嫌だ。
汚い、怖い、怖い、汚い、怖い。

それに、私と姉では体格が違いすぎる。

81 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:56:40 ID:jKX022rE0

川д川「……ご、ごめんなさいデミタスさん。私、私その、……そんな、気分になれなくて…」

川д川「ごめんなさ、ごめんなさい…」

死を前にして性欲はわくのだろうか。わからない。私は何の経験もない。
それとも性欲ではなく、愛、というものなのか。わからない。私はそれすらも。

(´-_ゝ-`)「……」

川д川「……」

彼の顔に影がかかって表情が分かり辛かった。
けど。
口元が歪んだのは、見えた。



(´-_ゝ-`)「はは、ははははははははははははははははははははははははっ」




こんな大声で笑う彼を見たのは初めてだった。

82 :名無しさん :2017/12/09(土) 22:58:35 ID:jKX022rE0

川д川「ど、どうし…」

(´-_ゝ-`)「ははっ、は……ごめんごめん、大丈夫。嘘だよ、君があまりに暗くなっていたからね、ちょっとした冗談だったんだ、ごめん」

川д川「そう、なの…ごめんなさい、びっくりしたわ」

冗談?冗談。
良かった。驚いた。

それにしても、何か引っかかるものがさっきからある。
何?

(´-_ゝ-`)「…冗談、だけどさ。キスぐらいは、してもいいかな?」

川д川「え…」

考える暇もなく、彼はまた要求してくる。

(´-_ゝ-`)「ごめん、やっぱり怖いんだ僕は。死ぬことが」

(´-_ゝ-`)「君と共に死ねるのにね」

よく見ると彼の体は小さく震えていた。
こんな状況じゃ、パニック状態になっていても仕方ない。
先ほどの笑った彼は少し、怖かった。
誰かの肌を感じる事で落ち着くのであれば、腹をくくるしかない。

83 :名無しさん :2017/12/09(土) 23:00:00 ID:jKX022rE0

川д川「……わかったわ」

(´-_ゝ-`)「ありがとう」

ふわりと彼の腕が私を包む。
顔が近い。不快。眉間に皺が寄ってるけど、見えていないから気にしない。

(´-_ゝ-`)「…なぁ、ツン。君は、僕を愛しているかい」

不思議だ。こんなよくわからない場所で、まるで結婚式の誓いのキスのような言葉。行為。

川д川「………勿論よデミタスさん」

川д川「私は、貴方を愛してる」

(´-_ゝ-`)「…そうか、ありがとう」

(´-_ゝ-`)「ツン、僕もツンを愛してるよ」


彼の顔が近づく。目を瞑る。怖い。
死より?

少しだけ笑った。
死よりも彼の方が怖いだなんて。

口が。

84 :名無しさん :2017/12/09(土) 23:01:51 ID:jKX022rE0












川д川「な、…っ、…う、あっ!…、!?」

目を引き開ける。
目の前の人物を叩く、殴る。それでも離れない。
熱い、苦しい、ーーー痛い。
痛い。
痛い、
痛い、何故

言葉が出ない
唾液を飲んだはずが唾液ではない味でいっぱいだ。
話せない。
離れない。
何で、何が、何故、どうして


(´-_ゝ-`)「知ってるかい?」

彼がようやく口を離した。
けれど私は、もう話せない。
舌が、
舌を。

痛い、苦しい。
涙と汗と涎と、血が。

彼が真っ赤な口を歪ませる。
怖い。
怖い、怖い。

85 :名無しさん :2017/12/09(土) 23:03:00 ID:jKX022rE0






「嘘つきは閻魔様に舌を抜かれるんだよ」







.

86 :名無しさん :2017/12/09(土) 23:04:58 ID:jKX022rE0


川д川「あ、あ、………、」


言葉にならない、ただの音が口から漏れて行く。
言葉の代わりに血がダラダラとこぼれていく。

舌を
切られた。
目の前の男に。
私を愛する妻だと思っている
私にすら優しかった
目の見えない男に。
真っ赤になった缶詰の蓋が見える。
何故?

何故?何故?何故?
地球が滅ぶまであと数日あるのに?今?
私は、死ぬ?
1人で?
何故?何故?何故?





ーーー嘘を、ついたから?

87 :名無しさん :2017/12/09(土) 23:06:22 ID:jKX022rE0

苦しい、熱い、冷たい、気持ち悪い
彼が私の髪を撫でる。
嫌、嫌だ、怖い、気持ち悪い、嫌い


わかった。
バチが当たったのね。
姉だと、ツンだと、嘘をついたバチ。
私は姉にはなれなかった。


『貴方を愛してる』


最後の最期に言った言葉さえも嘘だった。

私は本当に出来損ないの駄目人間。そうでしょ?お姉ちゃん。

88 :名無しさん :2017/12/09(土) 23:09:56 ID:jKX022rE0


私は姉に逆らえなかった。
私は姉の言いなりだった。
私は姉が死んだ時
嬉しかったのか
悲しかったのか
自分でもわからなかった。


私は、姉を ◯していたのかもしれない。




(´-_ゝ-`)「大丈夫、僕もすぐ行くから」


(´・_ゝ・`)「愛してるよ、ツン」


目の前の男が何かを喋っている。
近くにいるのに、遠くで話してるみたいに、私の耳にはもう届かない。

薄れゆく意識の中で、私は私を◯した男と、目が合った、気がした。





(2.彼女 終)




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