終末の嘘のようです 1.狼青年の話

4 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:46:46 ID:zK.dJ7Pw0

1、狼青年の話




小さい頃から、口をついて出るのは『虚言』と言われるものだった。
真実を話せないわけではない。自分にとって嘘ではないものが、他人、世界では嘘であった、ただそれだけのこと。

人と話すとつい口から『嘘』が出るので、みんな僕とは話したがらなかった。
相手をされないと余計に独り言が増え、次第に声は大きくなっていき、面識のない人間にさえ話しかけてるような口ぶりになっていた。
人と会話をしたいものだから、人が食いつくような内容を、口は勝手にしゃべり出す。

『世界は滅亡する』
『隕石が落ちるぞ』
『みんな死ぬんだ』

「嘘つき」「縁起でもないことを」「馬鹿なんじゃない」「狼少年」

皮肉にも、周りから白い目で見られてきたその『虚言』が、今『本当』になるなんて思ってもみなかった。

5 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:47:59 ID:zK.dJ7Pw0

(・∀ ・)「まぁ、だからさ、僕は世界がこうなるって、昔からわかってたんだよ」

ミセ*゚ー゚)リ「ほえー!すごいんだね、お兄ちゃん!」

僕を「兄」と呼ぶこの幼女は、決して僕の兄妹ではない。
むしろ昨日出会ったばかりの、何も知らない相手だった。

(・∀ ・)「まぁね、僕は狼だって倒せるし、最強なんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「狼も!?すごいすごい!かっこいい!」

6 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:49:22 ID:zK.dJ7Pw0


この幼女はミセリというらしい。
おそらく5歳(歳を聞いたら5歳!と言いながら4本の指を立てた)。
僕の言うことをすんなり吸収する、スポンジみたいなやつだ。
誰もが怒るか、流すか、無視するかの僕の話を全部真実として受け入れ、その度内容に感動していた。

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、お兄ちゃんは何も怖くないんだね」

(・∀ ・)「ん?そりゃあね」

これは嘘だ。
こんな状況を怖くないなんて奴はイかれてるし、僕は正常だから。

7 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:50:12 ID:zK.dJ7Pw0

世界がまるっきり荒んだのは2週間前。
某国の某頭領が世界的なテレビ放送をした。
テレビだけでなく、ラジオやネット動画、あらゆる媒体での発表は、作り物ではない緊張感で固まっていた。

「世界は3週間後に滅亡する」
「巨大隕石が地球に衝突する」
「生物の生存率0.00000…%」

笑えもしない発表を聞いた人間達が集団ヒステリー&パニックを起こすのに、40秒もかからなかった。
そこからはまさに地獄絵図。
暴動、暴行、強姦、強奪、エトセトラ、エトセトラ。
えげつない漢字の犯罪オンパレード。
そりゃそうだよね、ただ生きてきただけでいきなり3週間の死刑判決が下ったんだから。

弱い奴は盗まれ奪われ殺され
強い奴は巻き込まれ潰され殺され
男も女も老いも若いも酸いも甘いもたくさん死んでいった。
今生き残ってる奴らはラッキーというかアンラッキーというか。
人に怯えて死ぬか、隕石に怯えて死ぬか。
明々後日にはみんな死ぬから、時間がちょっと遅いか早いかだけの違いなんだけど。

8 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:51:09 ID:zK.dJ7Pw0

ミセ*゚ー゚)リ「ここ、変わった臭いするね~」

(・∀ ・)「あー、もともと動物園が近くにあったからじゃない」

僕らが隠れているこの場所はナントカ動物公園があったはずだ。
今はもう瓦礫オブ残骸。

大人達はパニックのあまり、周りのものを壊しまくった。
隕石に壊されてしまうのならいっそ自分の手で、とでも言いたげに破壊した。まるでそうすることが正しいかのような、迷いのない顔が随分気色悪かったな。

動物達は逃げたのか食料にされたのか。すっからかんになった動物園からは、動物や人間達のよくわからない感情が混じったような臭いがする。

幼女とひ弱な青年が隠れるには丁度良いスペースがあり、昨日からずっとこの中にいた。
外に出ると、漫画に出てきそうな悪役ヅラした馬鹿野郎が八つ当たりとして頭を殴るわ身体を蹴るわ、ここでは言えないような事をしてきたから。

僕らは運が良いのか悪いのか、そんな馬鹿野郎から命からがら逃げてきて、それでもまだ残された明々後日までの時間を生きようとしている。

9 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:51:55 ID:zK.dJ7Pw0


ミセ*゚ー゚)リ「ミセリ、動物園行ったことないんだー。動物、いるかなぁ」

(・∀ ・)「うーん、どうだろうね。しかし動物園に行ったことないの、お前。あんなに楽しいところはないよ」

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃんあるの?」

(・∀ ・)「あるに決まってる。動物園にはね、変わった生き物がいっぱいいるんだよ。大きな耳で飛ぶウサギ、長い首で蝶々結びしてるキリン、指乗りサイズの象に、人食いハムスター」

これは嘘だ。
僕は「嘘ばかりつく悪い子」だったので、動物園や娯楽施設に連れて行ってもらったことはない。
僕が見たことあるのは全部紙や画面上の動物だった。

10 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:52:46 ID:zK.dJ7Pw0

ミセ*゚ー゚)リ「すごいね!動物園、行ってみたかったなぁ」

ミセ*゚ー゚)リ「……もう、行けないもんね」

(・∀ ・)「……」

(・∀ ・)「暗くなる必要はないよ。なにせ動物達は今、久々の自由を楽しんでいるんだ。飽きたらなんて事ない顔して戻ってくるよ、ここにね」

帰ってきたとして、その時僕らは観客じゃなくてエサだろうけど。

ミセ*゚ー゚)リ「ここに!?」

(・∀ ・)「そうだよ、だってここが動物達の家だもの」

全壊してるけどね。

ミセ*゚ー゚)リ「そっかぁ…そっかぁ」

ミセ*^ー^)リ「お兄ちゃんといると、あったかいね!楽しい!」

(・∀ ・)

12 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:53:42 ID:zK.dJ7Pw0


どうやら普通なのは僕だけで、この幼女は変わった子供のようだ。
僕と一緒にいてあったかいなんて言う奴はいないし、楽しいなんて言う奴はもっといない。僕に笑いかける存在なんて、もちろんいなかった。
親でさえ。


(・∀ ・)「君はいい子だね」


これは嘘だ。
僕は何故だかむしょうに痒くなった背中やら顔やらを我慢しながら、熱くなった?茲を隠した。

13 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:54:37 ID:zK.dJ7Pw0

(・∀ ・)「お菓子、食べる?」

ミセ*゚ー゚)リ「食べていいの?」

(・∀ ・)「僕は優秀な人間だから、お菓子2人分持ってるし、人に分け与える素晴らしい行いもなんて事無くやってしまえるんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう!ミセリ、お菓子もらうのも食べるのも初めて」

(・∀ ・)「なんと。そんな人間いるのか、驚きだね」

これは嘘だ。
実は僕も市販のお菓子を食べるのは初めてだ。
店、と呼ぶにはもう可哀想で仕方ないような元コンビニから少々拝借した。もちろん返すことは出来ないし、店側も生きてるんだか死んでるんだかわからないからいいと思う。

14 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:57:20 ID:zK.dJ7Pw0

食べるのも、人に分け与えるのも初めての行為だったので、彼女にお菓子を渡す手が少し震えた。彼女も彼女で、初めてのお菓子に感動していて手が震えていたから、きっと気付いていないはず。
小さなチョコレート菓子。
小さい頃、親に買ってとせがんでも一度も買ってもらえなかった。
思い出はしょっぱいのに、菓子は甘い。

ミセ*゚ー゚)リ「お外、暗くなってきたね」

幼女の声は少し震えていた。
彼女の顔を見るとクマが酷く、顔色も悪い。ろくなものを口にしていないから空腹の筈なのに、あげた菓子もチビチビ食していた。おつまみじゃないんだぞそれは。
まぁ無理もないか。夜が近づくと危険も増えるし、何より日が沈んでいくということがとても恐ろしい。
もういくつ寝ると、僕らはみんな死んでしまうのだから。

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃん、かっこいい時計つけてるね」

(・∀ ・)「ん?ああ…これは…」

(・∀ ・)「……拾ったんだ」

これは嘘だ。
生まれて初めて最初で最後の、貰い物だ。

15 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:58:15 ID:zK.dJ7Pw0


ミセ*゚ー゚)リ「そうなんだね。でもお兄ちゃんによく似合ってるよ」

日にちと曜日がわかるので、スマホとかいう文明の利器を持たない僕には酷く役に立つ時計だった。
防水に特化してるとかしてないとかで、耐久性も強く、貰ってから一度も壊れていない。
ふと時計の曜日を見て思う。

(・∀ ・)「明々後日…ああ、ははは。週末に終末なんだな。最低の駄洒落だ」

ミセ*゚ー゚)リ「?」

(・∀ ・)「いや、何でもない」

16 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:59:02 ID:zK.dJ7Pw0


ミセ*゚ー゚)リ「…お兄ちゃんは本当に怖くないんだね」

幼女の小さな声が震えていた。
次第に声だけではなく、体全体が震えだす。

(・∀ ・)「え?」

ミセ*゚ー゚)リ「…ミセリはね、ミセリはダメなの。怖い。怖いよ」

ミセ;-;)リ「…せかいめつぼうって、みんなしんじゃうんだよね、お父さんみたいにいっぱい血が出て、お母さんみたいにグシャってなって、お姉ちゃんみたいにボロボロになって」

ミセ;-;)リ「何で?何で?ミセリが悪い子だったから?ミセリがお父さんもお母さんもお姉ちゃんも、痛いことする人は皆消えちゃえって、神様にお願いしたから?」

17 :名無しさん :2017/10/25(水) 13:59:55 ID:zK.dJ7Pw0


ミセ;-;)リ「悪いことお願いした悪い子だから、しんじゃうの?」

ミセ;-;)リ「優しい人も怖い人も動物も、お兄ちゃんもミセリも、みんなみんな、しんじゃ、うんだよね…」

(・∀ ・)「……」

ミセ;-;)リ「やだ、やだよぉ…しにたくない、しにたくないよ、ミセリ、お菓子いっぱい食べて動物園にもいって、いっぱい楽しいこと、したかった」

小さな体からボロボロ溢れ出す、涙と悲しい感情。
ああ、わかるよ、怖いよな、悲しいよな、不安だよな、逃げ出したいよな。


.

18 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:00:39 ID:zK.dJ7Pw0

(・∀ ・)「……君はまだ幼いから知らないだろうけど」

(・∀ ・)「実は世界は滅亡しないんだよ」

ミセ;-;)リ

幼女の涙が、嗚咽が、少しだけ止まった。
僕の言葉の意味を必至に理解しようとしているのだろう。

(・∀ ・)「これはまだ内緒の秘密のシークレット情報だから、極限られた人間しか知らない話なんだけど。」

(・∀ ・)「ヒーローがね、世界を救うんだよ。」

ミセ;-;)リ「……ヒーロー?」

19 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:01:26 ID:zK.dJ7Pw0


幼女の声に、温かさが生まれた。それにつられる様に、僕の声と言葉にも熱がこもっていく。

(・∀ ・)「そうさ、ヒーローの兄弟がいてね。兄がとても勇敢で。彼が地球を救ってくれる。僕はそれを知っているから怖くないんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「……そっか」

すっかり涙が引っ込んだ幼女が、一瞬ぽかんと間の抜けた顔をしたのち、僕の言葉を吸収したと言わんばかりの顔で頷いた。

ミセ*゚ー゚)リ「そっかぁ……じゃあお兄ちゃんもミセリも、しなないんだね…大丈夫なんだね」

ミセ*^ー^)リ「良かったぁ!」

(・∀ ・)

20 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:02:58 ID:zK.dJ7Pw0




今まで数えきれないほどの嘘をついてきた。
小さい嘘から大きい嘘。たくさんの人に。
何とも思わなかった。何か思うことなんてなかった。
なのに、今は何故だか胸が締め付けられるように痛い。

彼女の笑顔が眩しくて、泣きたくなった。




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21 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:03:54 ID:zK.dJ7Pw0

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃん、あのね、あのね…いっしょに寝ていいかな?」

(・∀ ・)「…いいけど。」

これは嘘だ。
僕がロリーなコンプレックスを持った変態野郎だったらアウトな発言だったぞ。こんな状況だから仕方なく、仕方なく了承をしてやるけど。
生憎僕は年上派だから良かった。これは本当の話、本当だってば。

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃんあったかい」

幼女が僕の体に小さな体をひっつけて丸まる。
小さい子というのは柔らかく暖かい。変な言い方だが、「生き物」って感じがする。
ボロボロになった服の隙から、痛々しい色の肌が見えた。
僕と会うまでに事故や大人たちからの暴行があったにしても、さっきの言葉といい、この子も家族に愛されなかったんだろう。
だから僕に懐いたのかも。

22 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:04:32 ID:zK.dJ7Pw0


(・∀ ・)「ん?お前、綺麗な髪飾りしてるね」

ミセ*゚ー゚)リ「うん!おばあちゃんがね、くれたんだよ!おばあちゃんは優しくて、ミセリ大好きだった!」

(・∀ ・)「ふぅん。星空のような色だね」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなの、おばあちゃんもね『天の川に似てるんだ』って言ってた。ミセリ、おばあちゃんと一緒に天の川見たんだ!この髪飾りみたいに綺麗だったよ!」

(・∀ ・)「ふぅん。まぁ僕は天の川を泳いだことあるけどね」

ミセ*゚ー゚)リ「ええっ!すごいお兄ちゃん!」

23 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:06:08 ID:zK.dJ7Pw0


この子供は不思議にも、絶対「嘘だ」なんて指摘してこなかった。
僕が嘘をつくことなんてあり得ないと思っているのか、嘘というものを知らないのか、僕が言うことが『本当』だと信じて疑わない。
その事が、僕の胸を温かくさせていた。


ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃん、あの丸いのなぁに?」

(・∀ ・)「…月だよ。満月。」

ミセ*゚ー゚)リ「そうなんだ、最近ずっとお月様、大きいね」

これは嘘だ。
あれは隕石だ。地球を、僕らを殺す巨大な石だ。
地球に物凄いスピードで近付いてきている。
確実に僕らは、あいつに殺されるんだ。

24 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:06:58 ID:zK.dJ7Pw0

(・∀ ・)「ほら、おしゃべりは良いから早く寝な」

ミセ*゚ー゚)リ「うん…でもミセリ、もっといっぱいお兄ちゃんとお話ししたい…」

(・∀ ・)「寝て、起きてから、また話せば良いだろ」

ミセ*゚ー゚)リ「そっか…明日も、お兄ちゃん、ミセリと一緒にいてくれるんだね」

(・∀ ・)「……仕方なくさ、仕方なく。お前みたいなちっさいのを放っておくなんて、僕の美学に反するんだよ」

ミセ*゚ー゚)リ「ふふ。仕方なくでも、ミセリはすっごく嬉しいよ」

(・∀ ・)「……」

ミセ*-ー-)リ「ミセリ、お兄ちゃんにあえてよかったぁ…」

(・∀ ・)

25 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:08:00 ID:zK.dJ7Pw0

腕時計の中の日付と曜日が、1日分動いた。
地球に隕石が落ちるという日は、明後日になった。

悪い奴も怖い奴も動物も、もちろん僕も。
明るく笑う、一桁しか生きていない、お菓子も買ってもらえない、動物園にも行ったことがない、僕の言葉を聞いてくれる、この子も
明後日には死んでしまうんだ。

どうして。どうして。どうしてだ。

嘘なら良いのに。嘘であれば良いのに。僕が言った一つの嘘が巡り巡って大きな嘘になってしまった、とかなら良いのに。

(;∀ ;)

明後日にはみんな、みんな死んでいなくなる。
僕らが何をしたというんだ。この子が何をしたんだ。
どうして、が頭の中を占める。

怖い。
確実にくる遠くない未来が。
数日しか過ごしていないこの幼女が消える未来が。
僕も消えて無くなる、未来が。

26 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:08:57 ID:zK.dJ7Pw0



僕は胸元にある暖かい生き物の小さな寝息を聞きながら、起こしてしまわないように静かに泣いた。



.

27 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:09:46 ID:zK.dJ7Pw0


ミセ*゚ー゚)リ「おはよう、お兄ちゃん。お目目、真っ赤だよ」

(・∀ ・)「……うん、僕の年代の男は満月になると目が赤くなるんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「ウサギさんみたいだね!」

顔が洗えたら良いのだけど、水道がない。まず水や電気が通常通り使えるところが少ない。だいぶ壊されてしまっている。
どれくらい赤くなってるか確認したいな。

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃん、ミセリお外行きたい」

(・∀ ・)「うん?」

ミセ*゚ー゚)リ「おトイレ」

(・∀ ・)「はいはい。ちょうど良かった」

28 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:11:06 ID:zK.dJ7Pw0

元動物園なので元トイレもあった。
当たりを使えば水が流れる。ハズレは便座が割れている。
嫌なら別のトイレを使えば良い。使い捨てトイレだ。

僕が彼女の用足しに付いていくのは決してやましい気持ちとかじゃない。本当、本当だってこれは。
変な大人とか、色々危険があるから外に出るときはなるべく一緒にいてやろうと思ったんだ。
まぁ僕が守れるかは不明だけど。

29 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:11:58 ID:zK.dJ7Pw0

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃん、ちゃんといるー??」

(・∀ ・)「いるよ、いるからトイレから大きな声を出すのはやめろ、はしたないぞ」

ミセ*゚ー゚)リ「はーい!!」

誰もいないからといって、女子トイレに入るという行為は、年頃の男にはハードルの高い事だった。
なので僕はトイレの入り口の前で、誰に見られることもないだろうに、ソワソワと過ごした。

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃんは、家族、どうしたの?」

(・∀ ・)「……大きな声じゃなきゃ良いってわけじゃないんだぞ」

トイレと会話をしてるような、なんとも言えない気持ちになる。
僕のその思いを乗せた声は聞こえなかったのか、先ほどの質問の答えを彼女は待っているようだった。

30 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:12:59 ID:zK.dJ7Pw0

(・∀ ・)「……僕にはもともと家族なんていなかったから」

先ほどより少し大きめの声で答えた。相手が相手なら、リアクションに困る答えを返してやった。
しかし、それを聞いた彼女は思いの外明るい声を出したのだった。

ミセ*゚ー゚)リ「そうなの!?」

(・∀ ・)「あ、ああ」

ミセ*゚ー゚)リ「じゃあさ!じゃあさじゃあさ!」

ギッジャジャーと、水が流れる音がした。
彼女が使ったトイレは当たりだった。

31 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:13:55 ID:zK.dJ7Pw0

パタパタと走る音、ビシャーという水音。どうやら女子トイレは割と水が使えるらしい。

ミセ*゚ー゚)リ「ミセリが、お兄ちゃんの家族になる!」

女子トイレから走って出てきた幼女が、意味のわからないことを言ってきた。
幼女が家族になりたそうにこちらを見ている。
どうしますか?

(・∀ ・)「………なにそれ」

僕は決死の思いで口を開いて彼女に尋ねた。

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃんに家族がいないなら、ミセリがお兄ちゃんの家族になるの!」

32 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:14:42 ID:zK.dJ7Pw0

ちょっとなに言ってるのかわかりませんね。

(・∀ ・)「ちょっと何言ってるのかわかりませんね」

困惑のあまり、思った言葉がそのまま口をついて出てしまった。
柔らかそうな?茲をわざとらしく膨らませた幼女が、じとりと僕を見る。

ミセ*゚ー゚)リ「ミセリも家族いないし、お兄ちゃんも家族いないなら、2人で家族になって、ずっと生きてくの!」

ミセ*゚ー゚)リ「ミセリ、凄くいい事思いついたでしょ?」

(・∀ ・)「……」

ああ。ああ。
本当に、本当にごめんな。僕があんなことを言わなければ良かった。
それは無理なんだ。ずっと生きていくも何も、僕達は明後日に死んでしまうんだ。

33 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:16:30 ID:zK.dJ7Pw0

キラキラした目を向ける彼女に、僕は何も言えないでいた。
伸ばした手も、何をしようとしたのかすら忘れ行き場のないままだ。
彼女の顔はどんどん曇っていった。

ミセ*゚ー゚)リ「……もういい。冗談だもん」

後悔した。彼女に 死なない だなんて嘘をついたことを。
希望を与えてしまったことが、どんなに残酷か思い知らされている僕を見て、彼女は不貞腐れ走って行ってしまった。

(・∀ ・)「ちょっと!」

小さな体なのに、素早かった。
何かから逃げるのは慣れているのかもしれない。
『狼』と書かれた看板の先まで行ったあと、壊れた檻のせいでどちらに行ったかがわからなかった。

いくら数日ここで何事もなく過ごせたからといって、何の危険もない訳ではない。
むやみやたらに走り回っていたら危ないだろう。
1人にしてはいけない。1人になってはいけない。

僕は彼女を追いかけた。

















ーーーこれは嘘だ。


.

34 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:17:46 ID:zK.dJ7Pw0



ミセ*゚ー゚)リ「はぁ、はぁ……だいぶ走っちゃった…」

ミセ*゚ー゚)リ「……お兄ちゃん、おいかけてきてくれない……」

ミセ*゚ー゚)リ「どうしよう、ミセリ、わがままばっか言ってお兄ちゃんに嫌われたのかも…」

ミセ*゚ー゚)リ「…お兄ちゃん……。ごめんなさい…」

ミセ*゚ー゚)リ「戻ろう…」

35 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:18:49 ID:zK.dJ7Pw0

ミセ*゚ー゚)リ「お、お兄ちゃん……どこ…?」

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃ……」

「おい!!!!」

ミセ*゚ー゚)リ「お兄ちゃん?どこにいるの?」

「何で戻ってきた!?やっと1人になれたと思って清々してた所だったのに!」

ミセ*゚ー゚)リ「え…?」

「僕はな、お前みたいなクソガキとは本当は一緒にいたくなかったんだよ!!」

「めんどくさい、すぐ泣く、馬鹿で、うるさい、お前みたいなやつ!!!」

ミセ*゚ー゚)リ「お兄、ちゃん……?」

36 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:20:02 ID:zK.dJ7Pw0

「そのお兄ちゃんってのも気持ち悪くて仕方なかった!!僕はお前の兄弟でもない、ましてや家族になってあげるだ?馬鹿じゃないのか!誰がお前なんかと家族になんかなるか!!」

ミセ*゚ー゚)リ「おにい…、」

ミセ*;-;)リ「ご、ごめ、ごめんなさい…ミセリ、ミセリもううるさくしないから、お兄ちゃんとも呼ばないから、」

ミセ*;-;)リ「だから…」

「僕はもうお前とは一緒にいたくない」

ミセ*;-;)リ「!」

「どっかに行け、さっさと行け、消えちまえ!でないと殴るだけじゃ済まないぞ」

「お前なんて…お前なんて、大嫌いだ!!!」

ミセ*;-;)リ「……っ」

37 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:20:56 ID:zK.dJ7Pw0


やっと行った。
良かった。彼女は僕の言葉を真実として受け取る。
今言った僕の言葉は、彼女の中では全て、真実だ。


(;・∀ ・)「痛い……」


僕は無くなってしまった自分の左足をぼんやり見つめた。
痛さのあまり発狂しそうなのをどうにか堪えていた。
普段あるべきものがない状態はひどく吐き気がするし、そうでなくても自分の血と涙と涎と色んなものが混じった液体を意味もなく吐いたばかりだった。


(;-∀ ・)「っ、ぁあ」

38 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:21:51 ID:zK.dJ7Pw0
数十分ほど前の事。


彼女を追いかけようとして、何か 違和感の種に気付いた。
ガサリと音がした。彼女が走っていった逆方向から。
嫌な予感がする。嫌な予感がする。嫌な予感がする。

何かの気配と、何かの視線と。
冷や汗が噴き出て止まらない。
動かない方がいい。いや、今すぐ全速力で逃げるべきだ。
頭の中で僕が喧嘩をしている。
見たくはないのに、目だけが音のする方へ動いて、僕はそれを確認した。

(・∀ ・)「……」

(・∀ ・)「……」

(・∀ ・)「嘘だぁ」

嘘つきの僕が嘘だと思うなんて、どういう状況かわかる?
地球に隕石が落ちる並みに、最低最悪の状況だよ。

39 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:22:42 ID:zK.dJ7Pw0

皮肉その1。
ソレ は僕が生まれて初めて動物園で見た動物となったこと。

皮肉その2。
ソレ に纏わるあだ名を僕はつけられていること。

皮肉その3。
ソレに纏わるあだ名をつけられている僕が、ソレに喰われること。

皮肉のスリーアウト、バッターチェンジ。
僕は野球、やったことないけど。

40 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:23:26 ID:zK.dJ7Pw0

「グルルルルル……」

(・∀ ・)「……」

ソレは狼だった。
おそらくこの動物園の、壊れた檻から逃げ出した、久々の自由を手に入れたけど飽きて戻ってきた狼。
空腹なのか、習性なのかわからないけれどダラダラと涎を垂らして、はしたないなぁて考える余裕があった。
いや、恐怖のあまり麻痺しているのかも。

動けば殺されるだろう。動かなくても殺される。
ーーーそうでなくても、明後日には死ぬんだよな。

そんなことを考えていたら、見えない速さで狼が僕の足にかぶりついた。

41 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:24:57 ID:zK.dJ7Pw0

熱い。狼の牙がみしりみしりと音を立てて僕の足に食らいつく。
声も出なかった。いや、声にならない叫び声をあげていた。
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い熱い。
ぶちりだかぎちりだか、聞いたこともないような音がした。
僕の左足が狼の口に咥えられている。

目の前が暗い。血のにおいが臭い。手が異常なくらい冷たくて震えている。

僕は死ぬ。
隕石が落ちる前に。
僕は狼に喰われる。
じゃあ、あの子は?

僕が喰われたあと、あの幼女も喰われない保証はない。
この狼が好き嫌いが激しくない限り、僕を食べたことで腹を壊さない限り。

それは駄目だ。
例え明後日には死ぬとしても。

42 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:25:40 ID:zK.dJ7Pw0

震える指先で左手の腕時計を外した。
重たい金属。チャリ、と音を立てても狼は気にもしなかった。

本当の親に貰った、というより親の形見だ。
両親は死んだ。
周りの人間は僕に無関心だった。
施設に預けられた。
施設の子たちが僕の事を馬鹿にした。
僕は嘘をついた。
皆は僕を貶した。
僕は嘘をついた。
皆は無視をした。
僕は嘘をついた。

あの子は、ずっと信じてくれた。

43 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:26:29 ID:zK.dJ7Pw0


バキャリ、割れる音、砕ける音。
震える手で、足が片方ない体で、精一杯力を込めて
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
僕は狼を殴った。
僕の左足を食べていた狼は、餌に突然攻撃されさぞ驚いた事だろう。
僕だって驚いた。
身体中が痛くて熱いのに、今流れている血は僕のだか狼のだかわからなくなるほど、こんな残虐なことが出来るとは思わなかった。

時計は壊れた。僕の手も壊れた。狼の頭も壊れた。

身体中が痛くて熱い。僕のだか狼のだかわからないほどの血がたくさん流れている。
僕は明後日が来る前に死ぬだろう。
狼が動かなくなって幾分か経った。僕ももう動かない。動けない。

(・∀ ・)「……」

44 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:27:38 ID:zK.dJ7Pw0


あの子は僕の言葉に傷付き去って行った。
僕の言うことが真実だと思い続ける限り、彼女は僕の所には戻ってこない。
もし戻ってきた時は、僕の言葉を信じなかった時だ。
それは嫌だ。
どのみちこの先ずっと一緒に生きるどころか、僕は明後日まで生きることも難しい身になった。
彼女に『嘘つき』と詰られるくらいなら、彼女に信じてもらったままで死にたい。
僕の言葉を聞いてくれた唯一の人間に、最後の言葉を疑われるのは嫌だ。
どうかそのままどこかに逃げてくれ。

もし、もしもだ。
明後日、地球が滅亡しなかったら。
お菓子をたくさん食べて、本当の動物園に行ってほしい。狼が放し飼いしてない所に。

45 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:29:05 ID:zK.dJ7Pw0


(-∀ ・)「……」

意識が遠くなり始めた。痛みも熱もどんどん消えて冷えていく。
バキバキに壊れた腕時計を握りしめる力もなかった。

(-∀ -)(……最後の言葉が、あんな嘘だなんて)

(-∀ -)(僕はどうしようもない、狼少年だ)


死ぬ前の言葉が嘘なんて、僕らしいだろう。

46 :名無しさん :2017/10/25(水) 14:31:39 ID:zK.dJ7Pw0




だから最後に、もう一つだけ。




知っているかな。
狼は『一匹狼』なんて言葉があるけど、
実際には群で行動をすること。


「グルルルルル…」


先程から、色々な音が頭上で聞こえる。
僕はもう動けない。

事が切れそうになった時、たくさんの何かが僕に襲いかかった。



ーーーこれは、嘘か?





(1.狼青年 終)




終末の嘘のようです 2.彼女の話へ