( ・∀・)ワンダリング・ジャックに捧ぐようです

1 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:48:31 ID:c4uz7V120

白く弾けるような閃光を脳裏に覚え、目を開ける。鋭さを帯びた西日が、首から上を焦がし付けるかのように覆っていた。
あまりの寝相の悪さに布団を離れ、いつの間にか、西向きの窓にもたれ掛かるようにして寝入っていたらしい。

強い喉の渇きを覚え、立ち上がり、水道水をグラスに注いだが、二、三口飲んだところで嫌な気分になり、すぐに捨てた。
東京の水は年中通して妙に生温く、それでいてどこか黴臭い。

何時間寝たのだろう、壁にかかっている時計を見ると、午後の四時と半分。
最後に時計を見たのは、昼食にカップ焼きそばを食べた時……
正午を少し回ったところで、つまり俺は、四時間もの間、惰眠を貪るがまま貪っていたことになる。

( ・∀・)「まずいなあ」

独り言ちる。再び窓の際に突っ伏し、もう一度。

( ・∀・)「まずいなあ」

何がどのようにまずいのかを挙げるとすれば、きりが無かった。

呆けたように窓の外を見る。
アパートの玄関から伸びる細い裏路地は鄙びた商店街へと通じ、商店街の終点には大都市へと延びる大手私鉄の小駅がある。
四階の端に位置する俺の部屋からはその様相を余すことなく一望でき、さながら箱庭のようでもあった。

2 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:49:13 ID:c4uz7V120

この部屋を借りた理由は、眺望の良さが全てだった。
西日の強さまでは流石に考えていなかったし、あの丸く肥えた不動産屋の担当者からも、それについての言及はまるでなされなかった。
いつかは文句を言ってやろうと思いながらも、持ち前のものぐさが祟り、いつの間にか三年余りが経過していた。

西日が弱まり、町一帯が濃い橙色に染まり始めると、窓の外は何とも抒情的な光景へと様変わりする。
真昼には静まり返っていた往来が徐々に帰路へと就くサラリーマンや学生で賑わい始め、
俺はそれをいまいち焦点が定まらない眼で眺めつつ、今日もこの部屋から一歩も出なかったことを思い出している。

( -∀-)「まずいんだよなあ」

随分と長くなった前髪の先を指で丸め、最後に髪を切ったのが何ヶ月前だったか、思い出せなかった。

さっきからまずいなあまずいなあと繰り返しているのは、ある種の自己暗示でもあった。
布団に挟まれながら昼寝を繰り返すなりカップ焼きそばにお湯を注ぐなりゲームのスイッチを入れるなりギターを弾くなり
こうやって一日を潰していく日々がだらだらと続いていると、いつからか、それが永遠であるかのように思えてしまう。
そんな己へのせめてもの戒めでもあり、俺の周りの所謂「正しい」道を行く、不特定多数の同年代への静かなる懺悔でもあった。

今夏に就職活動から脱落し、三ヶ月足らずが経つ。
茹だるような暑さはとうに過ぎ、気が付けば、一〇月も半ばに差し掛かっていた。
月日は着実に、それも思いの外かなりの速度で過ぎつつある。

3 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:49:40 ID:c4uz7V120

午後も六時を過ぎ、窓の外に映える橙はたちまちに濃紺に蝕まれ、家並みに明かりが灯る。
そのうち、商店街から裏路地へと左折する一台の自転車が見えてくる。
恐らく都村だろう、と俺は思った。あの細いクロモリのフレームは「ラレー」のクロスバイクに違いない、とも思った。

あれはいつだったかの彼女の誕生日に、俺が贈ったものだった。
商店街の小さな自転車屋で見つけたものだが、群青のフレームに栗色のタイヤを合わせた、クラシカルな色合いに惹かれたのだ。
駅前のスロット屋で勝ちを重ね、あぶく銭に浮ついていたその日の俺は、七万某円という価格に怯まず一括で購入し、アパートにそれを持ち帰った。
しかし洋服やアクセサリーや時計ではない、ここであえて自転車を恋人の誕生日に贈るとは、なんと斬新かつユニークな選択だろうか。
思わず俺は部屋の中で一人、己惚れた。

俺に呼びつけられ、やって来た都村は、ワンルームを我が物顔で陣取るラレーを見て絶句した。
妙にスケールの大きな贈り物に、かなり面食らっているようだった。

(゚、゚トソン「なんでプレゼントにしようと思ったの、これ?」

( ・∀・)「俺の変なセンスで選んだ服とかアクセサリーとか、要らないでしょ。実用的なものの方がいい」

俺の口ぶりに、彼女は少し憮然とした顔を見せた。

(゚、゚トソン「そんな決めつけなくても、茂良が選んだことに意味があるんだし」

( -∀・)「あえてそういうものに逃げないのがカッコいいんですよ。B‘zの稲葉だって彼女には椅子を買ったし、俺は彼女に自転車を買う」

都村は、それでも納得していない様子だった。首を右斜め上に捻り

(゚、゚トソン「凄く変なところで拘り見せるよね、茂良って」

と、言う。

4 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:53:16 ID:c4uz7V120

( ・∀・)「いいじゃないですか、俺が選んだんだから、いいでしょ?」

(、-トソン「まあ、そうなんだけど」

彼女は暫くの間、訝しげな顔でラレーを眺めていたが、やがて顔をおもむろにほころばせ、フレームをそっと撫でながら

(゚、゚トソン「ありがとう、サイクリングとかする……運動不足だし」

と、静かに呟いたのだった。

ともかく、その曰く付きのラレーに乗り、都村は俺が住むアパートにやって来た。
彼女が来たからと言って、俺は何を用意する気にもなれなかった。
布団は畳まず、小奇麗な服に着替えもせず、ただ、彼女が駐輪場にラレーを停め、階段を上がる姿を窓越しに眺めているだけだった。

インターホンが鳴り、俺は

( ・∀・)「開いてますよ」

と言う。静かにドアが開き、濃いカーキ色のトレンチコートに覆われた、スーツ姿の都村の姿があった。
彼女は俺より一歳ばかり年上で、今年度から隣町の小さな精密機械メーカーで、経理として働き始めていた。

都村はすぐに靴を脱ごうとはせず、暫く玄関先から部屋の全景を見渡していたが、何かに気付いたのか、唐突に眉をひそめた。
何かが癪に障ったのだろう、俺はその顔を見て考えた。
足元に転がっている食べかけのカップ焼きそばか、或いは破れたカーテンをそのままにしているせいか。

(゚、゚トソン「寝てたでしょ」

都村が抑揚の無い声で呟く。

5 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:53:58 ID:c4uz7V120

( ・∀・)「え?」

(、-トソン「布団バラバラだし、服も昨日の夜と変わらないし、今日ずっと寝てたでしょ」

俺はゆっくり首を横に振り、布団に潜った。言い訳をする気力は無い。
都村は部屋に上がるや否や、布団を俺から無理矢理に引き剥がし、丁寧に畳み始める。
瞬く間に床の上に転がされた俺は、湿り気が入り混じったフローリングの冷たさに、少しだけ不快感を覚えた。

(゚、゚トソン「じゃあ、今日も就活してない」

( ・∀・)「そりゃもう」

畳み終わった布団を丁寧に部屋の隅にまとめながら、都村が小さくため息をつく。
俺はこれ以上何も言いたくはなかったが、このまま互いに無言のままで辛気臭い時間を過ごしたくもなく、床から起き上がり
壁に立て掛けていたギターを抱え、ザ・スタイル・カウンシルの「マイ・エヴァー・チェンジング・ムーズ」の一節を弾いた。

( -∀-)「ポール・ウェラーが来日するんですよ」

都村の反応は無い。

( ・∀・)「何年ぶりかな、行きたいんすよ。来年の一月」

都村の反応は無い。

( ・∀・)「めっちゃ楽しみなんですよ、行けなかったらもう死にますからね」

(、-トソン「別に死んでもいいけど、進路くらいはちゃんと決めてから死になよ」

ようやく口に出した言葉は中々に非情なものだった。
彼女はそれきり何も言わず、コートをハンガーにかけ、キッチンに立つ。

6 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:54:34 ID:c4uz7V120

少なくとも、先月までの都村はここまで辛辣な女ではなかった。
真夏の灼熱に耐えかねてスーツを投げ出した俺に、少なくとも一定の理解は示していたはずだ。
涼しくなったらまた始めよう、ゆっくり自分に合った会社を探そうねと慰めてくれたはずだ。

( ・∀・)「まだ涼しくなってねえんだ、俺ん中じゃ」

彼女に聞こえないよう、できるだけギターを強くかき鳴らしながら呟いた。
かき鳴らしながら、幾許か前に布佐と共に誓い合った、あの言葉をそろそろ真剣に考えなければ、と思った。

ギターを置き、キッチンに立つ都村の後姿を見ながら言う。

( ・∀・)「心配しないでくださいよ」

都村は、俺の方を振り返らずに返す。

(゚、゚トソン「心配とかじゃないの、このまま行ったらどうなっちゃうんだろって不安だけ」

( ・∀・)「いやいや大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫大丈夫、大丈夫」

自分でも思うほど、やたら大げさに右手を振った。

( ・∀・)「決めてるんです、どこにも引っかからなかったら布佐と一緒に激サイケなロックバンド組んでロックスターになるんです」
       そんで二七歳にドラッグで死ぬ。だから全然大丈夫です」

こう言いながら、何一つとして大丈夫ではないなと思った。
ただ、例え破滅まっしぐらの道だろうが、万事休した場合の逃げ道を設定している安堵感はもまた、無いわけではなかった。

( -∀-)「俺は計画的な人間だから、どうにもならないとしてもちゃんと行き先を決めてるんです。
       周りにこんなんいませんよ、もっと褒められていい」

7 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:56:15 ID:c4uz7V120

(゚、゚トソン「ごめん、意味分かんない」

彼女はやはり後ろを振り返らずに呟き、後は包丁をまな板に一定のテンポで叩きつける音だけが聞こえた。

だが、勘違いはしないでいただきたい。俺もまた、何も好きでこのような窮地に立たされているわけではない。
考える暇は無い、部屋に閉じこもらずに外を駆けずり回るべきであることは、百も承知だった。
ただ、あまりにも猶予が少ないのではないか。底知れずの大海原へ丸腰のまま放り出される覚悟、その覚悟を決める猶予が。

その時が来たらまた動くさ、しばらくは誰も急かさず、何も言わずに、穏やかな心持ちで待っていてほしい。
これは誰にも通用しない、俺が俺だけに宛てた言い訳である。

( ・∀・)「ロックスターがダメだったら、都村さんのヒモになるしかないですね」

都村は呼びかけに応えず、作った肉炒めをフライパンごと机に置き、小さな炊飯ジャーから手際よくご飯をよそう。

( ・∀・)「ロックスターかヒモか、どっちがいいですか」

一定の間を置いて、都村が応える。

(゚、゚トソン「まあ、ロックスターよりはヒモの方が……死なれちゃ困るし」

予想外の返答だった。

( ・∀・)「マジすか」

(゚、゚トソン「どっちも勘弁してよ、馬鹿馬鹿しい」

彼女は俺の顔をまじまじと見つめ、すぐに目を逸らしたと思ったら、何度も舌打ちを繰り返した。
俺は慌てて箸を引っ掴み、フライパンの上の肉炒めを口の中に放り込んだが、心なしか、普段に増して塩辛いような気がした。

8 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:58:00 ID:c4uz7V120

翌日、俺は数日ぶりに寝床を抜け出し、大学へと向かった。
さして用事は無かったが、このまま部屋の中で無駄な時間を浪費することには疲れを覚え始めていたし
何より日に日に蓄積される焦燥感を、少しだけでも和らげることができる。

学生棟の四階に現代特殊音楽研究会、通称「現音」の部室がある。
映画サークル「二部映像技術協議会」と併用しており、一週間のうち月木金の三日間だけ使用できる、ということになっている。
ただここ数年、二映協は新入部員がまったく入らず、事実上の休部状態になっているらしい。
  _
( ゚∀゚)「だからもう一週間全部使っちゃっていいよ、どうせあいつら来ないし」

とは、前部長かつ我々の同期である長岡が放った言葉だ。
このサークル以外に大学内でまともな居場所を持ち合わせていなかった我々部員一同は、ここぞとばかりにその言葉に甘え
この数年間のうち、ほぼ毎日を部室の中で費やしてきたのだった。

一〇月の木曜日、時刻は朝の一〇時、天井知らずの秋の空とは行かず、厚く輪郭がぼやけたような雲に、町は覆われていた。
俺は学生棟の階段を黙々と上りながら、布佐と長岡はいるだろうか、と考えていた。

彼等は大学に隣接しているコンビニで働いており、毎週水曜日は二人共に夜勤のシフトを入れていた。
翌日、木曜日の朝八時に夜勤が終わると、二人は必ず部室に行き、廃棄棚からくすんできた弁当をもそもそと食べ
昼過ぎまでをのんべんだらりとそこで過ごした後、ようやく寝に帰る。
だから、特別イレギュラーな何かが起こらない限りは、今日も彼等はそこにいるはずだった。

部室のドアを開けると、案の定廣二人はいた。
机の上にはいつものように弁当ではなく、チョコレートにビスケット、飴玉に煎餅、菓子の類が無造作に散りばめられていた。

9 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:58:34 ID:c4uz7V120

( ・∀・)「なんだこれ」

俺は言ったが、長岡その問いには応えず、俺の顔を一瞥し
  _
( ゚∀゚)「四回の闇が揃った」

と、卑屈に笑った。この男は、今年の春に留年が確定していた。

ミ,,゚Д゚彡「うるせえ、闇はお前一人だけだ」

布佐が長岡に吐き捨て、俺を指差す。

ミ,,゚Д゚彡「俺はロックスターになるんだよ、これと一緒に。で、後五年で死ぬ。な?」
  _
( ゚∀゚)「この前も聞いたよ、それ」

ミ,,゚Д゚彡「語学ミスってダブるようなお前みたいなのとは輝きが違う」

冗談か真意かはともかくとして、廣川は俺が思っている以上に、ロックスターへの道に望みを掛けているようだった。

( ・∀・)「お前それ、俺もお前もどっからも拾ってもらえなかったらの話だろ」

ミ,,゚Д゚彡「拾われてねえからこんな話してんだろ」

返す言葉も無かったが、このまま黙っていても、不毛な時間がいたずらに流れ続けるだけだった。
気を紛らわそうと、机の上に転がっていた菓子のうちの一つを手に取る。
カボチャのオバケ「ジャック・オー・ランタン」を象った砂糖菓子で、口に入れれば、思わず顔をしかめてしまうくらいに甘い。

( ・∀・)「あっまい、金平糖みてえだな」

10 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:59:02 ID:c4uz7V120
  _
( ゚∀゚)「これな、廃棄の弁当無かったから、代わりにパクってきたやつ」

長岡が、先刻の質問を数分遅れで返してきた。

( ・∀・)「こんなに沢山?」
  _
( ゚∀゚)「割れてるとか期限がどうとか知らねえけど、こういうのって大体いっつも廃棄に入ってるのよ」

ミ,,゚Д゚彡「しかもハロウィン前だから大量に入荷して、廃棄もやっぱり増える」

長岡が近くにあった煎餅のフィルムを開け、豪快に噛み砕く。
俺は布佐の言葉を聞き、ハロウィンなるイベントの存在を、およそ一年ぶりに思い出すのだった。
そう言われると、そんなものがあったような気がする。
  _
( ゚∀゚)「小売りは必死だよ、書き入れ時だからバイトにも無理強いだ」

ハロウィンが終わればクリスマス商戦だ、と長岡がぼやき、大きく伸びをした。

クリスマスもそう遠い未来のことではない。思い返せば去年、俺は都村に小さなトイカメラを贈った。
元来出不精な彼女である。推測だが、まともに使われることはなく、二、三回シャッターを切られただけで
今は押し入れの奥で寂しく眠っていることだろう。

では、今年は何を贈ろうか。

(゚、゚トソン「茂良の内定通知が一番のクリスマスプレゼントだよね」

都村の白けた顔が目に浮かぶ。今の彼女ならば言いかねない言葉だ。

( -∀-)「気が早えよ、クリスマスはまだだって」

俺は無性に急かされたような気分になり、慌ててそう言った。

ミ,,゚Д゚彡「いつの間にか来るんだよ、まだ来ない来ないって思ってたら」

布佐が独り言ちるように呟く。その言葉に、思い当たる節はありすぎた。

11 :名無しさん :2018/12/09(日) 22:59:57 ID:c4uz7V120

俺も布佐も長岡も帰る気力が湧かず、部室に来た後輩達とてんで中身の無い会話を繰り返し、日はあっと言う間に暮れた。
それでもなお、帰路へと就くべき足取りは重く、大学通りの「てつやん」で飲もう、と俺は二人に言った。

てつやんはお通しも無ければチャージも無い、何よりラガービールの大瓶が四五〇円という破格の安さであるため
我々のような貧乏学生は、選ばずとも自然とそこに吸い寄せられていくのだった。
店内ではスモール・フェイセズやスペンサー・デイヴィス・グループといった、大昔のUKロックが絶えずかかっていることも
俺達がてつやんを贔屓する理由の一つだった。
  _
( ゚∀゚)「なれるもんなら俺もモッズになりたかった」

てつやんのテーブル席に片肘を付き、店内に流れているシークレット・アフェアーを聴きながら、長岡がぼやいた。
  _
( ゚∀゚)「俺も三つ揃いのスーツにモッズコート着てミラーがゴテゴテ付いたスクーター乗って週末はパブで飲んでバンドやって
       また明日からベントレーの修理ばっかだよって愚痴りまくりたかった」

( ・∀・)「お前、でもそれただの修理工だろ?」

俺は言った。
  _
( ゚∀゚)「本業は修理工だよ」

( ・∀・)「修理工よりは、まだこうやって大学生やってる方が良くないか」
   _
(゚∀゚ )「馬鹿かお前、留年した大学生はダセえんだよ。この世で一番ダセえんだよ
       修理工のモッズのバンドマンの五百兆倍ダサいわ」

長岡はそう捲し立てた後、ウェイターを呼びつけ、大瓶を二本頼んだ。

ミ,,゚Д゚彡「お前もう結構行ってるぞ、七、八本」

布佐が机の上の大瓶を指で数え、言う。

12 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:00:42 ID:c4uz7V120
  _
( ゚∀゚)「お前らはこう、あれなんだよな、あれなんだよもう」

ミ,,゚Д゚彡「あれ?」
  _
( ゚∀゚)「こうやってハロウィンが来てよ、ああ学生最後のハロウィンが来てしまったとか、あと半年くらいで卒業式だなとか
なんかそういう感慨に浸ることができるんだからいいよな本当にな」

( ・∀・)「そりゃ思うだろ、もう四年なんだから」
   _
(゚∀゚ )「俺は後一年あんだよ。親にボロクソ言われてダブった学費の分必死で働いてな、もう惨めだよ、惨め」

長岡が、グラスに残っていた泡だらけのビールを一息で飲み干す。
  _
( ゚∀゚)「お前らさ、単位は足りてんだろ? 後はどっかに採用されれば三月まで気楽に暮らせんだからよ
       ロックスターがどうのこうの言うんじゃねえって」

ミ,,゚Д゚彡「分かった分かった! お前のことは分かったお前のことは分かった分かった」

布佐は、長岡を宥めるように同じ言葉を繰り返す。
それを見て俺は咄嗟に、これ以上長岡が酒に口を付けないよう、大瓶を机の脇に隠した。
  _
( ゚∀゚)「置いてかれる身にもなってみろってよ、そりゃもう地獄よ」

長岡はそれから、言葉にならない言葉を二言三言呟いたかと思えば、そのまま机に突っ伏し、動かなくなった。
俺は隠していた大瓶を再び机の上に置き、閉店まで、布佐と静かにそれを飲んだ。

( ・∀・)「こいつ、結構ダブることに負い目感じてんのね」

ミ,,゚Д゚彡「そりゃ金にしてもそうだけど、今年一年フイってのが決まっちまったわけだからな」

長岡は、起き上がる気配を一向に見せない。
もしや既に目は覚めていて、俺達の会話に聞き耳を立てていやしないかと俺は勘繰ったが、
外から彼の様子を見る限り、どうやら本当に寝入ってしまっているようだった。

ミ,,゚Д゚彡「まあ、こいつの心持ちはこいつにしか分かんないし」

布佐が空になったグラスを眺め、やけにしみじみと呟いた。

13 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:01:28 ID:c4uz7V120

最終電車に乗り、アパートへの最寄り駅に着いた時点で、午前一時を回っていた。
秋の夜長は、ボタンダウンとパーカーだけで凌ぐには些か寒かった。暖を取ろうと駅向かいのスーパーに寄り、温かいお茶を買う。
ふと天井へと目をやると、橙色のリースが丁寧に吊るされ、周囲にはデフォルメされたコウモリのイラストが、幾枚か貼り付けられている。
壁にはジャック・オー・ランタンの切り絵、レジ横に置かれたモニターからはコマーシャルが垂れ流され、どこぞのアイドルが

「ハロウィンパーティーハロウィンパーティーハロウィンパーティー」

と連呼する。なるほど俺が気付いていないだけで、ハロウィンは確実にこちら側に迫っているようだった。

部屋に帰ると、都村が座椅子にもたれ、静かな寝息を立てていた。彼女を起こさぬように足音を忍ばせ、その横を跨る。
机の上を見ると、丁寧にラップで包まれたご飯に味噌汁に魚のフライ、そして何かが入った小皿、そしてメモが置かれていた。

「簡単に作っておきました。もうすぐハロウィンなので今日はカボチャの煮付けです、今日も一日お疲れ様!」

メモの隅にはジャック・オー・ランタンのイラストが添えられている。

( ・∀・)「カボチャ」

思わず俺は独り言ちた。

なるべく物音を立てないようにして、遅い夕食を摂る。カボチャの煮付けは、柔らかく中まで味が染みていた。
噛み締めれば噛み締める程に、舌の上で繊維がたちまちにほどけていき
全てを食べ終えた後は、何とも形容できない、奇妙な食感が口の中に広がっていた。嫌いではないな、と俺はしみじみ思った。

( ・∀・)「これが毎日食えるんならハロウィンも悪くないな」

俺は独り安らかな気分になり、食器を洗いながら、昨日から今日にかけての出来事を、漫然と思い出した。
あまりにも非情な都村の言葉、留年に追い詰められた長岡の酒乱、迫り来るハロウィン
幸不幸に関わらず、世界は歪ながらも常に前進を続けており、俺にとってはそれがまた腹立たしくもあり、寂しくもあった。

14 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:02:09 ID:c4uz7V120

疲れているな、と思った。足の爪先から頭のつむじの頂点に至るまで、全身から気力が抜けていくような気分だった。
風呂に入る気にもなれず、このまま布団を敷いて寝てしまうことにしたが
座椅子にもたれかかった都村を見て、何故だかどうしようもなく、申し訳なさばかりが募った。

( ・∀・)「起きろ起きろ、起きてください起きてください」

座椅子を前後に小さく揺すり、都村の頭を揺らす。しばらくすると彼女は小さな唸り声を上げ、薄く目を開いた。
化粧を落とさずにそのまま寝入ったのだろう、アイシャドウが泪で、まだらにぼやけていた。

(゚、゚トソン「遅かったね」

都村が、寝起きの舌足らずな声で言う。

( ・∀・)「そんなところで寝ないでください、布団敷いたから、ほら」

(、-トソン「うんん」

都村はゆっくりと立ち上がり、おぼつかない足取りで二、三歩、ようやく布団の上に辿り着いたかと思えば
膝から崩れ落ちるように倒れ込み、再び寝息を立て始めた。
大学を卒業して半年が経ち、今ではすっかり社会人然とした佇まいの彼女だったが、その寝顔はどこまでも無垢だった。

ほんの少しだけ安堵の気分を覚え、都村が眠る布団の隣に毛布を敷き、それにくるまって寝ることにした。
時計は午前二時丁度を指し、彼女の寝息と、どこかの換気扇の音だけが部屋に響いていた。
俺は灯りを消し、何かの手違いで今日という日がもう一度繰り返されることを祈りながら、眠りに落ちる瞬間を待った。

15 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:02:47 ID:c4uz7V120

無情にも、規則正しく明日はやって来る。
微かな鈍痛を覚えた。喉も渇いている。毛布の中は想像以上に蒸し暑く、首元には汗をかいている。
少なくとも、あまり爽やかな目覚めではなかった。

毛布を抜け出し、埃だらけのフローリングの上にへたり込んだ。
隣にあったはずの布団は綺麗に畳まれて部屋の隅に置かれており、その横で、スーツ姿の都村が髪を結っている。

(゚、゚トソン「起きた」

都村は俺を見て、小さく手を振った。

(゚、゚トソン「昨日、ありがとね」

( ・∀・)「何が?」

(゚、゚トソン「布団」

思わず、俺は空咳を二、三回繰り返す。

( -∀-)「おかげで俺は毛布ですよ」

(゚、゚トソン「別にこっちに入ってきても良かったのに」

俺が言葉を返す前に、彼女は髪を結い終え、そそくさと立ち上がる。

(゚、゚トソン「今日は実家の方に帰るから、晩ご飯は自分で作りなよ。
.      あと、別に大学でもレコード屋でも楽器屋でもどこでもいいから、今日も必ず外に出て。オーケー?」

ここまで言われてしまうと、はい、分かりましたお母さんと返事をするしかない。
俺は部屋を出て行く都村を見送り、毛布の上に座り込む。

16 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:03:39 ID:c4uz7V120

彼女が去り、たちまちに部屋は静まり返った。
カーテンの隙間をすり抜ける朝の光はどこまでも弱々しく、夜のうちに冷え込んだ部屋の空気は、当分暖まる気配を見せなかった。
爪先が凍るように冷たく、毛布を被り、苦し紛れに貧乏揺すりを繰り返す。
俺の心の内に潜む、ろくでもない寂寥感が部屋の薄ら寒さに拍車をかけていることは明白で
この時、俺はつくづく都村という存在の偉大さを痛感するのである。

音が欲しい、なるべく賑やかな音が欲しいと、テレビのスイッチを入れ、朝のニュースを流す。
どこかの局の女子アナウンサーの甲高い笑い声が部屋を駆け回り、俺は少しばかり安らぐことができた。

从 ゚∀从「そうなんですよねえミルナさん。ところで一〇月も半ば、ハロウィンシーズンということですがあ
       ミルナさんはハロウィンと言えば何を思い浮かべますか?」

画面の中で、ミルナと思われしき初老の司会者が口を開ける。

( ゚д゚ )「そうですねえ、最近の若い子は仮装パーティーとかするんでしょ?
.     でも僕はやっぱりお菓子くれないとイタズラとか、後はカボチャくり抜いてお化け作ったりとかね」

从 ゚∀从「おっ、カボチャ! そうなんです、ハロウィンと言えばカボチャ、ジャック・オー・ランタンが凄く有名ですよねえ」

またカボチャか、俺は首を捻った。

从 ゚∀从「実はあのカボチャのお化、天国にも地獄にも行けずにこの世を彷徨っているんだそうですよ、ミルナさん」

( ゚д゚ )「えっ、地獄から来たお化けじゃないんですか?」

从 ゚∀从「そうなんですミルナさん、生きていた頃にい、死んでも地獄に落ちないように悪魔と取引をして
       でも日頃の行いが悪過ぎるから天国にも行けなくて」

これ以上その話を聞く気にもなれず、ここでテレビのスイッチを切り、大学へ行くことにした。
寝癖だらけの頭に濡れタオルを乱暴に擦り付けている間にも、「天国にも地獄にも行けない」という言葉だけが、頭の中で反復していた。
昨日から今の今までに俺が見た幾多ものジャック・オー・ランタン達から、
お前もまた天国や地獄に行けると思うな、と言い聞かせられているような気がして、仕方が無かった。

17 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:04:04 ID:c4uz7V120

部室へ行くと、一年生、二年生の集団とは少し離れた席に、スーツ姿の布佐がいた。
机の上に缶コーヒーと手帳を置き、椅子にもたれ、スマートフォンの画面を凝視している。
俺が入って来たことにも、気付いていない様子だった。

( ・∀・)「おい」

俺の声で、布佐がようやく振り向く。

ミ,,゚Д゚彡「またお前か」

( ・∀・)「来ようと思って来たわけじゃない、都村さんがうるさいから」

俺がそう言うと、布佐は肩をすくめて笑い

ミ,,゚Д゚彡「お前、あの人いないと多分マジで死んじまうぞ」

と言う。
俺もまさかと笑って返したが、ともすれば、本当に死んでしまうのではないだろうか、とも思った。

一人暮らしを始めてから幾年、未だに自炊ができず、週に三回から四回は、都村に夕食を作ってもらっている状況だ。
もし彼女が部屋に来なくなれば、俺は三食冷凍ピザだけを食べ、飽きたら牛丼を食べに行くような、そんな生活を延々と続けるだろう。
想像するだけで、これほど悲惨なことはそうそう無い。
俺はまるで他人事であるかのように、都村去りし後の未来予想図を漠然と考えた。

就活か、と聞くと、これから説明会だ、と布佐は応えた。
会場が大学から歩いて十分足らずの位置にあり、そのついでに部室に顔を出した、と言う。

18 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:05:06 ID:c4uz7V120

ミ,,゚Д゚彡「介護なんだけどさ、なんか最近関西の方に老人ホーム建てまくってる。来週の学説にも来るし、結構大手」

( ・∀・)「お前、この前はずっとSEばっかり見てなかった?」

ミ,,゚Д゚彡「SEは無理だ、全然引っかからなかった」

あまりにもあっけらかんとそれを言う布佐の姿に、思わず吹き出してしまった。

( -∀-)「節操無いんだよ、だからお前落ちまくるんだよ、じゃない?」

ミ゚Д゚,,彡「だからって拘り過ぎりゃお前みたいになるだろ」

布佐が口を尖らせる。

(・∀・ )「いや、そりゃ俺もやり過ぎなところあったけど、でもさあ」

予想外の反撃に、思わずたじろいでしまった。

俺は就活解禁時からスーツを脱いだ夏半ばまで、バンドマンならば音楽に纏わる仕事に就くべきだろう、という極めて浅はかな拘りから
レコード会社一本に対象を絞って就職活動を行っていた。
無論、結果は言うまでも無く、布佐は、そんな俺の醜態を指摘しているのだ。

( ・∀・)「俺は行けると思ったんだよ、でも同じことを思ってる奴は東京だけで何百人もいたわけで」

ミ,,゚Д゚彡「自分の拘りに根拠の無い自信を持てるってのは、お前の凄えとこだ」

布佐はそう言い、手元に置いてあった缶コーヒーをぐいと煽る。

19 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:05:35 ID:c4uz7V120

ミ,,゚Д゚彡「お前いつか、都村さんに誕生日プレゼントって自転車買って、俺って最高のセンスしてるって俺に言ったじゃない。
       俺あの時、こいつ天才だなって思ったもんね」

( ・∀・)「何の天才だよ」

ミ,,゚Д゚彡「だからあれだよ、自分の拘りに無駄に自信を持てる天才」

ただの皮肉なのか、それとも本心からそう言われているのだろうか。
俺に構わず、布佐は矢継ぎ早に言葉を繰り出してくる。

ミ,,゚Д゚彡「でも、これだって拘り持って、それを突き通したとしてもよ、それがうまく行くって保証、無いじゃない。
       現にお前、うまく行ってないよな?」

( -∀-)「そりゃもう、うまく行ってないどころじゃないな」

癪だったが、そう言う他は無かった。

ミ,,゚Д゚彡「そういうことだよ」

( ・∀・)「どういうことだよ」

ミ,,゚Д゚彡「お前は拘りを信じすぎて潰れちゃったからダメ、俺は拘り無く手当たり次第に受けまくってるからダメ。
       拘りを程々に持ってる奴が一番強い」

俺が返す言葉に戸惑っているうちに、布佐は缶コーヒーの残りを飲み干し

ミ,,゚Д゚彡「まあ、ロックスターになるってんなら話は別だけどな」

そう言い残すと、そそくさと部室を出て行った。
廊下の向こうへと遠ざかって行くスーツ姿を見て、また一歩、世界が歪な前進を始めたなと思った。

20 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:06:15 ID:c4uz7V120

日が暮れ終わる頃に、アパートに帰った。
灯りを点け、冷たく固いフローリングに身を投げ出す。寝転がりながら、今日の夕食をどうしようか、と考える。
もう何週間も前に実家から送られてきたレトルトカレーを消費するか
それとも近所のコンビニで簡単な惣菜を買い、冷蔵庫に入れっぱなしのご飯と一緒に食べようか。

俺は部屋を出て、牛丼屋へ行くことにした。
牛丼には外れが無い。よほどのことが無い限り、大した不快感を覚えること無く、簡潔に食事を済ませることができる。
わざわざ外出する手間を考慮したとしても、今の俺には大変相応しい食事だった。
結局のところ、今の俺にとって飯というものは、極端にに言えば生命維持ツールの一つでしかないのだ。

街灯が薄く光る商店街を歩いていると、向こう側の八百屋に目が留まった。
濃い深緑色を帯びたカボチャが、店先に所狭し、と並んでいる。
蛍光灯に照らされ、まるでワックスで磨き上げたかのように、鈍く渋みのある光沢を放っている。
その艶めきについ見惚れてしまい、いつの間にか店先の方へと足を取られてしまっていた。

顔を上げたところで、店の奥に座っていた主人と目が合ってしまい、ここで俺はしまった、と思った。

( ФωФ)「いいカボチャでしょ。もうすぐハロウィンだからね、いいやつ仕入れてるよ」

主人が言う。俺は諦めた。

( ・∀・)「凄いですね、こんなにいい色になるんだって思って」

( ФωФ)「どれか持って行きなよ、安くするから。煮付けにでもして食べちゃいな」

( ・∀・)「煮付けですか」

21 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:06:58 ID:c4uz7V120

瞬間的に、昨日の煮付けを思い出す。そこで、閃いた。
俺がここでカボチャを買い、都村のために煮付けを作っておき、彼女を驚かせる。悪くはないな、と考えた。
目につく中で、最も艶めきが良いものを一つ手に取り、店主に渡す。

( ФωФ)「じゃあ、四〇〇円ね。重いから、気を付けて持って帰んなさい」

野菜の相場に不案内な俺にとって、四〇〇円という値段設定は本当に安いのだろうか、皆目見当も付かなかった。

( ・∀・)「買っちゃった」

紙袋に包まれたカボチャを抱え、一瞬のうちに牛丼一食分の金をカボチャに変えてしまったと、商店街の端で、途方に暮れる。
牛丼屋に行く気にもなれず、そのまま裏路地へと曲がり、アパートへと戻った。

カボチャを紙袋から取り出し、置き場所に迷った俺は、ひとまず電子レンジの上に、それを置いてみることにする。
白と黒と灰色ばかり目につく、モノクロームにまみれた部屋の中で、吸い込まれるような深く濃い緑色のカボチャが一つ
電子レンジの上で、ただならぬ存在感を放ち始めた。

( ・∀・)「いいぞ、貫録の緑だ。いぶし銀のグルーヴだ、ツェッペリンだ」

俺はカボチャにそう語りかけたが、当然、何の言葉も返ってくることは無い。

( ・∀・)「これで俺もハロウィンだ」

そう呟くと、俺はそれだけで無性に満足してしまい
毛布の上に転がると、そのまま朝まで眠りこけてしまった。

22 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:07:34 ID:c4uz7V120

それから、二週間と少しばかりが過ぎた。
ますます気温は低まり、街路樹の葉が潤いを失って茶色く萎れ始め、冬の足音が近付き始めた。
俺は相変わらずスーツに袖を通すこともなく、圧倒的な存在感を以て電子レンジの上を陣取るカボチャを見て、
時々「いひひ」と笑うなどして日々を過ごしていた。

(゚、゚トソン「ずっとこんなところに置いて、傷まない? 早く食べちゃいなよ」

朝食で使った食器を洗いながら、都村がカボチャを指差し、俺に言う。

( ・∀・)「もう少し飾っておかないと、恐れ多いような気がして食えないんですよ」

(゚、゚トソン「何それ」

都村が目を細め、シュシュで後ろ髪を結ぶ。

( ・∀・)「ほら、こうやって置いてあるとハロウィンだなって気がしませんか」

(゚、゚トソン「ハロウィン?」

( ・∀・)「俺もハロウィンって行事に取り残されずに生きていけるんだって、そんな気がするんですよね」

(゚、゚トソン「前にも言った気がするけどさ、自分の気まぐれな思い付きって言うか
.      そういうのに妙に拘るよね、茂良って」

仏頂面の都村が、カボチャを人差し指で軽く突く。
俺は、二週間前の布佐の言葉を思い出さずにはいられなかった。

23 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:07:57 ID:c4uz7V120

(-∀- )「それ、昨日にも大体同じこと言われましたよ」

(゚、゚トソン「ほら、やっぱり同じこと皆思ってるってことでしょ?」

都村は自分の髪を手で梳きながら、やけに乾いた笑顔を俺に向けた。
呆れの成分が七割、嘲りの成分が三割、どちらにせよ、あまり向けられて気分が良くなるような種類の笑みでは無かった。

(、-トソン「そういう拘りが祟って就活もグダったんだから、もうちょっとそういうのを捨てる努力をしないと」

( ・∀・)「はい」

(゚、゚トソン「まだ学内説明会ってあるんでしょ? 定期的には」

( ・∀・)「はい」

(゚、゚トソン「いつ?」

まるで尋問のようだ。ここから逃げ出す術は見当たらず、とうとう観念する時がやって来たようだった。

(・∀・ )「多分、今日とか明日とか」

恐る恐る都村の方へと目をやると、彼女は案の定、思いがけない言葉に目を丸くしている。

(゚、゚トソン「何でそんな悠長に構えてられるの?」

24 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:08:45 ID:c4uz7V120

( ・∀・)「いや、別に悠長ってわけじゃないんですけど」

予想以上の剣幕にしどろもどろな俺をよそに、都村はクローゼットの奥から俺の就活スーツを引っ掴み
俺の胸元へ、ハンガーごと乱暴に押し付けた。

(゚、゚トソン「行ってきな、今日こそは」

(・∀・ )「はい」

(゚、゚トソン「絶対いい会社あるから、行くだけ行ってきな」

(・∀・ )「はい」

(゚、゚トソン「約束だからね!」

都村はコートを羽織ると、素早く部屋を出て行った。
独り取り残された俺は、皺無く整然とハンガーに吊るされたスーツを、ただ呆然と眺めていた。
思えば今年の夏にクリーニングに出して以来、一度たりとも着ていない。

ここで再びスーツをクローゼットの奥にしまい、遊びに出るなり、そのまま寝るなりしてしまうことも、できないわけではない。
だが、さすればとうとうあの都村も、俺に愛想を尽かすことは間違い無いだろう、と思った。
何と無しではあるが、二、三年間という決して短くない期間にわたって都村の恋人を務めてきた人間としての
一種の「カン」のようなものが、今日はいつにも増して敏感に働いていた。

ミ,,゚Д゚彡「お前、あの人いないと多分マジで死んじまうぞ」

廣川の声が天から降って来る。俺は漸く小さな覚悟を決め、スーツの裾に腕を通した。

25 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:09:17 ID:c4uz7V120

夏よりも痩せたからか、背広が崩れて広がったのか、自分の採寸に合わせて選んだはずのスーツが、やけに大きく感じられた。
久々に髪型をジェルで整え、ビジネスバッグを持った俺が、電車の窓に薄く反射している。
それを見ると、自分は一体何者になりたいのだろうか、それさえも分からなくなっていくような気がしてならない。

( ・∀・)「いや、ロックスターになりたい」

誰にも聞こえないように、ドアの向こうにうずくまりながら呟いた。

( ・∀・)「和製イアン・カーティスになって、月曜日に死ぬ」

電車を降り、駅から大学へ至る学生街を歩いていると、道の中央に規制標識が置かれていることに気が付いた。
目を通してみると、普段なら昼過ぎで終わる歩行者天国が、どうやら今日は一日中続くらしい。

「『歩行者天国』ハロウィンパーティー(仮装祭)開催の為、午前一一時より終日(午後二四時迄)車両通行止め」

初耳である。
少なくとも、去年も一昨年も、そのまた前の年も、このような行事を拝んだことは、一度たりと無かった。

周囲を見渡すと、「HALLOWEEN」と、赤文字のバックプリントが施されたパーカーを着た人間を、ちらほらと見受けられる。
そのパーティーとやらを企画した団体のスタッフだろう。
その風貌や会話、何より「なあなあ」とした雰囲気から察するに
恐らく社会人ではなく学生団体、しかも我が大学の有志によるものだろう、と俺は推測した。
何れにせよ、俺にはまったく縁の無い代物であることは明らかだった。

構わず黙々と足を進めていると、突然俺の右横から、何者かの左手が「ぬっ」と現れた。
ぎょっとして視線を右方に移すと、赤いボディスーツに包まれた、ただならぬ格好をした男が一人、俺に何かを話し始める。

( ^ω^)「今日の五時過ぎからなんすけど、この通りでハロウィンパーティーするんですよ!」

突然現れたその男は、チラシのようなものを左手に持っている。厚紙で作られたジャック・オー・ランタンの仮面だった。
両目と口の部位が雑にくり抜かれており、左右の端それぞれに輪ゴムが取り付けられている。その輪ゴムに両耳を引っ掛ける構造のようだ。

26 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:09:45 ID:c4uz7V120

この男の格好、どこかで見たことがあると思ったら、何年も前に映画で観たアメコミのヒーロー「キャプテン・マーベル」だった。
どうせ、ドン・キホーテ辺りで揃えたものだ。ことのさら、俺とは遠い人種である。

( ^ω^)「お兄さん仕事ですか、あっ、就活ですか」

マーベルはどうやら、話している最中に俺の風貌から全てを察したのか、突然よそよそしくなった。

特に「しゅうかつですか」という後半の七文字からは
ハロウィンが近付いているにも関わらず、未だに就活を続けている俺への多大なる侮蔑、
それに気付いてしまったことへの気まずさ、ほんの少しばかりの同情、その他諸々
どちらにせよ、様々な負の感情がない交ぜになっていることが見受けられ、俺をますます腹立たせるのだった。

(・∀・ )「就活ですね」

( ^ω^)「あっ、それはどうも大変で」

マーベルは頭をかき、しきりに頭を下げているが、俺はもう、何をされてもこの男を許す気にはなれなかった。

( ・∀・)「就活なんでね、あんまりそういうのには行けそうにないですね」

( ^ω^)「いや逆にっすよ、逆にこういうのでパーッとやって就活の励みにしてもらえれば」

俺は考えておきますとだけ言い、そそくさとその場を離れた。
ジャック・オー・ランタンの仮面は、貰えるだけ貰ってはおいたが、使いどころが思い浮かばず
ビジネスバッグの奥深くに潜り込ませた。

27 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:10:16 ID:c4uz7V120

学内説明会は、学生棟の隣に位置する学生ホールの中で催される。
春夏の採用で優秀な学生を取り零した幾多もの企業がそれぞれブースを組み
やはり春夏に採用から取り零された学生を待ち構えているのだ。
てっきり中小、零細企業ばかりだろうと俺は高を括っていたが、ここ数年の売り手市場の煽りか
この季節になっても、名前を聞いたことがある企業のブースがちらほらと見受けられた。

特に興味がある企業があるわけでもない。無論、俺が企業に向けて興味を持つ努力をしているわけでもない。
わけもなくブース内を一周し、どこにも行き着く場所が無いことを悟ると、くたびれ果ててしまった。

思えば三ヶ月前も、俺はこうだった。
特に確固たる信念も無くレコード会社ばかりに狙いを定め続けた挙句、敢え無くその全てに落とされた。
頼みの綱もこればかりと学内説明会へ行けど、今更別の業界を志望する体力も気力も無く
ただただ漫然とブースの看板が連なる様を眺め、俺は一体どこに流れ着くのだろうかと考えていたら
突然漆喰が溶け始め、その全てが崩れ出したのだ。

あれから俺は、何一つ変わっていやしなかった。
それどころか、俺はどこにも行けやしないのではないかという疑念は、日を追うごとに強まるばかりだった。

ホールの隅に設置されたベンチに座っていると、その向こうで、見知った顔がブースとブースの間を右往左往している。
よく目を凝らすと、やはり布佐だった。彼もまた濃紺の背広を着て、所在無げな表情を浮かべている。
今に気付くだろうと俺が布佐の顔を凝視していると、彼は案の定、数秒も経たないうちにこちらに気付いたようで
おぼつかない足取りでこちらの元に寄って来る。

ミ,,゚Д゚彡「やっとその気になったのか」

布佐は仲間を見つけて安堵したのだろうか、だらしのない笑みを浮かべている。

28 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:10:49 ID:c4uz7V120

( ・∀・)「いや、これはポーズだ」

ミ,,゚Д゚彡「ポーズ?」

( ・∀・)「スーツ着て適当な会社のパンフだけ貰ってりゃ、とりあえず今日は凌げる」

その言葉を聞き、布佐は呆れを隠せないのだろう、口をあんぐりと開け、何とも言えぬ間抜け面を晒している。
無理は無かったし、俺もそれを見て笑えるほど、肝が据わっている男ではない。
どうにも居た堪れなくなり、ベンチ横のテーブルから、企業パンフレットを何部か適当に掴み取り、ホールを離れることにした。

ミ,,゚Д゚彡「部室か」

布佐が俺に続く。どうやらこの男も、ホールを抜け出したいらしい。

( ・∀・)「少なくともここからは退散だ、終わり終わり」

ホールのドアを開け、学生棟へと続く廊下を歩く。
途中、スーツの男女二、三人とすれ違ったが、やはり彼等も俺達と同じ境遇に立たされているのだろうか
皆が皆、憂いの雲に取り巻かれたような表情を浮かべている。

去年の今頃は、まさか俺が同じような立場に置かれるとは思ってもいなかった
むしろ、こうはなるまいと固く決心したはずだったのだが、今となっては何も言うまい。

俺と布佐は顔を見合わせたが、言う言葉は互いに何も無かった。
階段を上がり、部室に入り、なるべく下級生と距離を取れるよう、できるだけ隅のテーブルを選び、腰掛ける。
場所が変わったことで少しだけ居心地は良くなったが、学内説明会から逃げたことに対する罪悪感も無いわけではなく
俺は実に理不尽かつ無根拠な苛立ちを覚えるのだった。

( ・∀・)「なんかこう、もうダメなんだよね」

無茶苦茶な怒りをよそに、俺がぼやく。

29 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:11:19 ID:c4uz7V120

ミ,,゚Д゚彡「何が」

( ・∀・)「面白くない、何もかも面白くない、ビーディ・アイのセカンドくらい面白くない
       ハロパにでも行かないともう俺は面白くなれない!」

ミ,,゚Д゚彡「ハロパ?」

布佐が怪訝そうに聞き返す。

( ・∀・)「あれだよ、ハロウィンパーティー」

俺はビジネスバッグの奥から、先程マーベルから貰ったジャック・オー・ランタンの仮面を探り出し、布佐に見せつける。

( ・∀・)「なんか、学生街の方でやるらしい」

ミ,,゚Д゚彡「なんだ、それ俺も配られたわ。いらねえって言ったのに」

廣川はそう言うと、やはりビジネスバッグの奥からカボチャの形をした仮面を取り出した。
思わぬ展開に面食らったが、俺は気を取り直し、こう言った。

( ・∀・)「仮装するんだってよ、仮装。そんで皆でワーッてやるんだよ、俺もやるぞ、ワーッと」

ミ,,゚Д゚彡「何の仮装を」

( ・∀・)「キャプテンマーベル」

ミ,,゚Д゚彡「何言ってんだお前」

布佐は非情な男で、俺のろくでもない戯言に耳を貸す気は一切無いようだ。
しかし俺も俺で、特に何をどのように仮装してどのように楽しむ、という気分には到底なれなかった。
冗談半分、やけ半分の、ただの突発的な思い付きである。

30 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:11:41 ID:c4uz7V120

これを使う機会も無いだろうと、もう一度、ジャック・オー・ランタンの仮面に目を向ける。
すると突発的に、俺は何週間も前のある日の朝のニュースで耳にした、とある話を思い出した。

( ・∀・)「お前、ジャック・オー・ランタンって何者か知ってる?」

ミ,,゚Д゚彡「知らんよ」

布佐の反応は鈍い。

( ・∀・)「こいつはなあ、天国にも地獄にも行けないからずーっとこの世をさまよってんだよ」

俺は、仮面を人差し指で軽く叩きながら言った。
そう言いながら改めて仮面を見ると、両目と口の部位にぽっかりとくり抜かれた空洞の向こう側には
果てしなく空虚で無味乾燥とした空間が広がっているのではないかと思えた。

(・∀・ )「親近感持つじゃない、そう考えると」

ミ゚Д゚,,彡「どこに?」

(-∀- )「天国にも地獄にも行けないってのは、俺達も一緒だろ」

長岡が飲み屋で管を巻いていた、あの日のことを思い出した。
彼が留年と言う名の「地獄」を引きずってこれからの一年を歩いて行くとするならば
俺達は一体、何を抱えて暮らして行くのだろうか、とも少しばかり考えた。

ミ,,゚Д゚彡「天国と地獄ってのは何だ、どこのことを言ってんだ」

布佐が面倒そうに返す。

( ・∀・)「そりゃ地獄ってのは留年だろ、長岡の言うあれだよ」

31 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:12:07 ID:c4uz7V120

ミ,,゚Д゚彡「じゃあ、天国ってのは内定か、内定して食い扶持が保証されるのが天国か?
       そんな単純な話じゃねえだろ」

布佐は吐き捨てるように言う。
俺は彼の物言いに些か不快感を覚えたが、その言葉は至極もっともだった。

( ・∀・)「そりゃ天国かって言われれば語弊がある」

ミ,,゚Д゚彡「だろ?」

( ・∀・)「でも、今の俺達がどこにも行き場が無いってのは、そうだろ?
       ここに留まることはできないし、新しい居場所も見つけられないんだから」

俺は何のためにここまで力説しているのだろうか、つくづく情けなくなる。
情けなくなればなるほど、それを誤魔化すかのように、自然と声が大きくなる。

ミ,,゚Д゚彡「はあ」

( ・∀・)「俺達はジャックなんだよ、オーランタンなんだよ、カボチャみたいなもんなの」

ミ,,゚Д゚彡「分かった分かった、分かったけど何が言いたいんだお前」

次第に強まっていく俺の興奮を抑えるかのように、布佐が早口で喚く。
その言葉に、俺も漸く落ち着きを取り戻し、ジャック・オー・ランタンの仮面を机に置き、言った。

( ・∀・)「だからさ、俺達が何の仮装をするかって、分かるじゃん」

ミ,,゚Д゚彡「これ?」

( ・∀・)「そう、それ」

俺は仮面を折り畳んでポケットにしまい、顎を部室の外へとしゃくった。

( -∀-)「これを被って、俺達はハロパに殴りこむ」

32 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:12:31 ID:c4uz7V120

学生街は、中々の盛況ぶりだった。
露店がずらりと並び、少し目を向けただけでも、ハーレイ・クイーンの仮装、マリオの仮装、ミッキー・マウスの仮装
遠く向こうでは、先程のマーベルが何者かに向かって大手を振っていた。

ミ,,゚Д゚彡「もうちょいお通夜な感じになると思ったんだけどな」

布佐が言う。確かに、この賑わいは想定外だった。
運営側がしくじって、しけた雰囲気になるのではないかと期待していただけに、複雑な気分だ。

( ・∀・)「背に腹は代えられん」

ここまで来たならば、食い下がれまい。俺は、気付けば謎の信念を胸に抱いていた。
俺はつくづく、どこまでも下らないことにばかり拘る男だな、俺はまるで他人事のようにしみじみと思った。

( ・∀・)「男に二言は無い」

ミ,,゚Д゚彡「こんな安っぽいお面を被っただけで仮装しましたなんて、そんなん許されるかね」

(・∀・ )「違う、それは違う!」

俺は、自分でも驚くほどの大声を上げた。
その瞬間、周囲の人間という人間が俺達を凝視したが、それでも俺は構わなかった。

( ・∀・)「外見じゃない、中身が本物なんだよ、俺達もジャックも天国にも地獄にも行けないんだよ
       そこら辺で格好だけ真似してる奴らなんかより遥かにレベルは高いんだよ」

最早俺が言っていることは出鱈目以外の何物でも無かったが、あまりの剣幕が不意打ちだったのだろうか
布佐は後ろに引き下がり、呆気に取られていた。

ミ,,゚Д゚彡「分かった、分かった分かった」

( ・∀・)「俺もお前もよっぽどヘマしなけりゃ留年もできないし、でも他に行きつくあても無いし
       俺達はどこにも行けないんだよ、行けないから仕方なくこうやって被るんだろうが、これを」

33 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:12:58 ID:c4uz7V120

輪ゴムを伸ばし、いよいよジャック・オー・ランタンの仮面を耳にかけた。
両目や口元を動かす分に支障は無いようだが、鼻元をくり抜くところまでは流石に気が回らなかったのか、息苦しさを覚える。
もっとも、安い厚紙の仮面にケチを付けることもない。

仮面を付けた俺を見て、布佐は嘲笑混じりの薄ら笑いを浮かべている。

ミ,,゚Д゚彡「お前、変だぞ」

(={`ww´)「そりゃそうだろ」

ミ,,゚Д゚彡「映画泥棒っているじゃん、スーツにカメラの被り物してるやつ
       あれはちゃんといいスーツ着てるから様になってるけど、就活スーツにちゃっちいお面じゃみっともねえな」

能書きばかり長い男である。

(={`ww´)「うるせえ、いいからお前も被るんだよ、早くしろ」

俺に急かされ、布佐はしばらく何事かをぶつくさと呟いていたが
やがて腹を括ったかのように仮面をビジネスバッグから取り出し、顔にかける。

彼が俺に言ったように、就活スーツの上に粗末な仮面がかかったその姿はあまりにも不格好で
滑稽極まりない代物であることは確かだった。

(={`ww´)「こりゃひでえや」

ミ={`ww彡「言っとくけど、お前もこれだからな」

34 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:13:24 ID:c4uz7V120

互いをひとしきり嘲笑った後、しばし、沈黙が流れる。
カボチャの仮面を付けたからと言って、これから何をどうする、という目標があるわけでは無かった。

ミ={`ww彡「これで、どうするのよ」

(={`ww´)「そりゃ、とりあえず歩くしかないでしょ」

兎にも角にも商店街をあても無くさまよい歩き、辿り着くはずの場所の存在さえも不明瞭な者共の哀しみを
ジャック・オー・ランタンになぞらえて再現する、それだけが俺達の使命だった。

(={`ww´)「できるだけ威圧感を与えろ、できるだけ恨みのオーラを放ちながら歩け、いいな」

ミ={`ww彡「そんな意識しなくても、大体避けられるだろこんなん」

俺達は緩々と歩き始める。
仮面越しの視界は非常に悪く、人を避けながら移動するとなると、中々至難の技だった。
右によろけ、左によろけ、サンタクロースの格好をした女集団にぶつかった。

ミセ*゚ー゚)リ「あっ、すいません」

そのうちの一人が慌ててこちらの方へ振り返り、小さく会釈をしたが、
仮面をつけた俺の全身を見るや否や、瞬時に表情が強張り
見なかったことにしようとでも言うかのようにそそくさとその場を離れて行った。

(={`ww´)「サンタクロースは流石に気が早すぎるだろ」

35 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:13:54 ID:c4uz7V120

俺がせせら笑っていると、隣で一部始終を見ていた布佐が、こう切り出す。

ミ={`ww彡「クリスマスまで内定決まってなかったら、どうすんの?」

(={`ww´)「いや、取れないでしょ。こんなんしてんだから」

言いながらも、どうにかこの言葉が間違いであってほしい、と願わずにはいられなかった。
だがその一方で、俺達は年末になっても、どうせその辺りをさまよい続けているのだろう、という諦観もまた
少なからずは持ち合わせていた。

ミ={`ww彡「そうか」

布佐が、まるで何かを悟ったかに一言だけ応え、それきり何も言わなくなった。

学生街の隅から隅までを歩き終わり、もう一周。
厚紙の仮面に就活スーツという、何ともちぐはぐな格好でひたすら歩き倒すだけの俺達を警戒しているのか
或いは俺達が訴えている、その真の意味を理解しているのだろうか
ともかく道行く人間という人間が、俺達をじりじりと避け始めていた。俺はそれが痛快でもあり、それでいて物悲しくもあった。

俺は歩きながら、布佐の顔を覗き込む。彼の顔は仮面に隠れ、その奥の表情は読み取れない。
この男が何を思って、俺が咄嗟に考えた低俗な思い付きを呑んだのかは定かではないが
彼もまた俺のように、自分がどこにも行けない、辿り着けやしない存在であることを甘んじて受け入れているのだろうかと考えると
それはあまりにも虚しく、それでいて侘しい話ではないか。

俺達は何を話すこともなく、ハロウィンで一面華やぐ学生街の、遥かその先を見つめ、漫然と歩き始めた。

36 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:14:17 ID:c4uz7V120

夕暮れを過ぎたあたりで布佐と別れ、アパートへと帰った。
俺は用済みと化したジャック・オー・ランタンの仮面を力任せに丸め、ゴミ箱へと捨てる。
煮え切らない気分で床に突っ伏し、おもむろにキッチンへと目をやると、件の深緑色のカボチャが飛び込んできた。
何と無く、目が合ったような気がした。

( ・∀・)「分かった分かった」

俺は立ち上がり、諭すように呟いた。このカボチャを煮付けにして、俺の腹の中に収めてくれよう。
俺はとうとう、来るべき時がやって来たような感覚を覚えた。俺は何としてでも、カボチャを倒さなければならなかった。

( -∀-)「お前の煮付けをな、するからな、してやるから待ってろ」

俺はパソコンを開き、カボチャの煮付けのレシピを検索、適当なページを開く。
ざっと読んでみると、どうやら我が家の小さな鍋でも作れるらしく、俺はほくそ笑んだ。

まな板の上にカボチャを置き、その艶めく深緑の球体に包丁を当て、真二つに切る。
予想以上に強い手応えで、面食らった。まるで切らせまいと、カボチャが逆らっているようでもあった。
取手を持つ指先に鈍い痛みを覚え、たじろいだ俺は、包丁の峰に左手の掌を強く押し込む。

( ・∀・)「おら、降参しろ、おい」

カボチャは音を上げ、二つに分かれる。
俺は黄色く熟れたカボチャの断面を軽く撫で、静かに笑った。

サイコロ状に切り分けたカボチャを鍋の中に入れ、在り合わせの砂糖、みりん、料理酒と醤油を続け様に投入する。
途中、大匙と小匙を間違えたり、みりんと酒の分量を間違えたりしたが
何も食べられないことはないだろうと、特に気にはせず、鍋に火をかける。

沸騰が始まったら、鍋の大きさに合わせたアルミホイルをかけ、更に一〇分かけて、丁寧に煮る。
醤油と砂糖が合わさった、香ばしくも甘ったるい匂いが、ワンルームに染み渡るように広がっていく。

アルミホイルを取ると、湯気が俺の首を包み込むように立ち込めその向こう
濃いきつね色をしたカボチャの煮付けが、鍋の底に転がっていた。
この時、俺はとうとう勝ったような気がした。確かに俺はこの瞬間、勝ってしまったのである。

そう、俺はジャック・オー・ランタンの呪縛に勝ったのだ、と。

食器棚の中で一番綺麗な皿にそれをよそい、呆れるほど丁寧にラップをかけ、冷蔵庫に入れた。
まだ俺は食べない。まずは都村に食べてもらおう、俺はそう考えた。
彼女は一体何を言うのだろうか、俺は根拠不明の期待に心を躍らせ、彼女を待った。

37 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:14:51 ID:c4uz7V120

それから何十分と経たず、待望の都村は部屋にやって来た。
彼女はいつかと同じように部屋をくまなく見渡したが、丁寧に畳まれている布団を見て、満足気な表情を浮かべた。

(゚、゚トソン「合説はどうだった?」

俺はその言葉で、そう言えばそんなこともあったな、と俄かに思い出す。
あまりにも印象が薄く、何日も前の話であるかのように思えた。

( ・∀・)「ホールのベンチは固くて嫌ですね」

(゚、゚トソン「え?」

俺は早く、カボチャの煮付けを都村に食べさせたかった。

( ・∀・)「そんなんどうでもいいんです、とうとうレンジのカボチャで煮付けを作ったんですよ。凄くないですか?」

(゚、゚トソン「あっ、本当だ。無くなってる」

俺は冷蔵庫からカボチャの煮付けを出し、都村に差し出す。
すっかり冷えて固まってしまったが、それを差し引いても、感心させられる自信が俺にはあった。

( ・∀・)「多分うまいですよ、どうですか一口、食べてみて」

俺は無理矢理カボチャの皿を都村に押し付け、彼女も仕方無しと、カボチャのサイコロを一つ、指で掴み、口に入れる。
彼女は暫くの間、もごもごと口の中でそれを転がしていたが、やがて飲み込み、こう言った。

38 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:15:13 ID:c4uz7V120

(゚、゚トソン「まずい」

彼女の顔に笑みは無い。

(・∀・ )「「マジっすか」

俺は打ちのめされた。俺の期待を、何と無慈悲なまでに切り捨てる女だろう。
俺が二度と立ち直れなくなったら、どう責任を取ると言うのだろうか。
この俺がとうとうカボチャのお化けを、ジャック・オー・ランタンの呪いを倒したと言うのに。
この秀逸なメタファーを、それによって俺が明日への活路を僅かに繋げたことを、この女は何一つ分かっていないのだ。

( ・∀・)「もうちょい気を使ってくださいよ、頑張ったんだから」

(゚、゚トソン「いやだって、これ、お酒とみりんの分量間違えたでしょ」

( ・∀・)「よく分かりますね、そんなん」

俺は思わず手を挙げた。

(゚、゚トソン「まだカボチャ残ってるでしょ? 私がもっといいの作るから。キッチン空けて」

都村は俺を押しのけ、コートを着たままキッチンの前に立った。

39 :名無しさん :2018/12/09(日) 23:15:38 ID:c4uz7V120

都村に見捨てられたカボチャの煮付けが、テーブルの隅にぽつんと置かれている。一欠片、口の中に運んでみた。
砂糖を思いの外入れ過ぎたのか、やけに甘ったるい。それでいてアルコールが抜けきっておらず、噛めば噛む程に、絶妙な臭みが残る。
これではお世辞にも美味いとは言えない代物だった。

結局こういうことなのだ、と俺は痛感した。
俺はカボチャの煮付けすら満足に作れない男だ。これでやれ先が見えないだの、やれさまよい続けるだの、結構なご身分ではないか。
「やんぬるかな」という言葉が俺の脳髄の四方八方を余すこと無く駆け巡り、どこかに消えて行くような気がした。

( ・∀・)「都村さん」

(゚、゚トソン「何?」

都村は、今にカボチャを包丁で切り付けるところだった。

( ・∀・)「俺、職に就く前にとりあえずカボチャを倒したいんです。だから、ちょっとそこをどいてください」

(゚、゚トソン「はあ?」

呆気に取られている都村をキッチンから追い出し、包丁とカボチャを強引に奪い取る。

今にこの女を一口で唸らせるようなカボチャの煮付けを作ってやる、俺はハロウィンに誓った。
さすれば、今度こそ俺の勝ちだ。
何の解決にもなりはしないと言われればそれまでだが、それでも俺は今度こそ、今までの閉塞感とはまた違った
新たな岐路をその向こうにつけられるような、そのような気がしてならなかった。

鈍くも白く眩しい光沢を放つカボチャを前に、俺は思わず笑みを零した。