( ^ω^)メロウの水槽のようです

1 : ◆ABzdo6kBrI :2019/03/18(月) 20:45:28 ID:s4MWdJLU0




『メロウの水槽』



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2 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:46:02 ID:s4MWdJLU0
いつもとは違い、頭痛の伴わない目覚めだった。
身体を起こしてまず視界に入ったのは、
僕の背丈よりも大きい水槽と、四方八方に広がる白い空間、
そして目の前に立っている、整った顔が気に喰わない二十歳前後の女だった。

ζ(゚ー゚*ζ「お目覚めですか?」

( ^ω^)「まだ夢の中だお」

やけに意識が明瞭としている以外は、
そうとしか言いようがなかった。
さっきまでは過去の思い出を夢見ていた気もするし、
目覚めの前のワンクッションなのだろう。
起きられるかどうかは別として。

3 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:47:15 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「夢ではありませんよ。そしてこの水槽の中の色彩も同じです」

そう言って彼女は手の平と視線を水槽へ向けた。
良く分からないまま僕も追いかけると、さっきまで眺めていたものがそこにあった。

実際に経験した、記憶そのものだった。

様々な色彩でゆらりゆらりと揺蕩っているそれは、飛び込めば入れそうだった。
昔友人がやりこんでいたゲームを思い出す。

ζ(゚ー゚*ζ「どうして飛び込まなかったんですか」

( ^ω^)「……ああ、実際に入れるのかお」

やけに物わかりの良い返事だった。
実際、一切合切がどうでもよくなっていた後だ。
操を立てて自殺したはずが、こんな空間に埋め込まれている。
僕はなにかを考える事さえも面倒になっていた。

4 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:47:54 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「そういう風になっているはずなんですけどね、あなたは水槽から這い上がってしまった」

( ^ω^)「そういう風?」

ζ(゚ー゚*ζ「ここにあるものは全て、あなたの手放した可能性です」

彼女は水槽の中にある三つの絵を一つ一つ指差す。

ζ(゚ー゚*ζ「やり直したりしないんですか?」

( ^ω^)「僕は自分の人生に満足してるお」

やり直しという言葉に突っ込みもせず、僕は返事を返した。

5 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:49:03 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「へぇ、大体はこの飴玉詰まらせて死んじゃうんですけどね」

( ^ω^)「嵌める気だったのかお」

ζ(゚ー゚*ζ「とんでもない」

( ^ω^)「そもそもお前は誰だお」

僕は今更な質問を彼女にぶつけた。

ζ(゚ー゚*ζ「私は水先案内人ですよ。そういうシステムの上に、
       適当な外装が塗られているんです。
       まあ私の事なんてどうでもいいでしょう。
       それよりも、満足しているのならこれらの飴玉はなんなんでしょうね?」

( ^ω^)「さあ? これが走馬燈ってやつかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうとも言いますね。水が絡むせいか三途の川とも呼ばれる場所です」

ふーん、と聞き流し、僕は三つの絵を再び眺め、回想をし始めた。





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6 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:49:58 ID:s4MWdJLU0




『僕たちの話』



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7 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:50:46 ID:s4MWdJLU0
あれは、小学生最後の夏休みの話だ。

県道を行く軽自動車が後方へ去っていった。
歩道を行く僕らが浴びたのは生温い夜風だった。

なんだか夏草の匂いがする気がした。
気がしただけで、勘違いかもしれないけど、
子供の頃の感覚って結構馬鹿に出来ないものだからさ。
案外それで正解なのかもしれないね。少なくとも思い出の栞にするには正解だったんだよ。この時は。

前を歩く茂羅と長岡は他愛の無い話で盛り上がっていた。
親戚の叔父さんに海外へ連れて行ってもらった話だとか、
クラブチームの試合で初めてホームランを打った話だとか、そんな感じだったかな。

旅行の話はともかく、後者は少し羨ましかったな。
相槌を打っていた僕も素直に感嘆していたしね。

8 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:51:37 ID:s4MWdJLU0
別にスポーツに思い入れがあるわけではないんだけど、
一発で凄さが分かる事は素晴らしいんだよ。
僕の打ち込んでいるものは中々伝わりにくいからさ。

ベーブ・ルースのプレーは誰が見ても凄いと分かるけど、
ジョン・ポーナムのプレーはそうもいかない。
つまりはそんな感じだ。

話が逸れたな。
彼らの話よりも、僕が意識を向けていたのは後ろにいる小森だった。
少し首を逸らして見てみると、彼の周りだけうす暗いように見えたな。
確かに夜は夜だけど、付近の灯は眩さすら覚えるのにね。

だからたまに歩く速度を落として、大丈夫、と小森に言ってやるんだ。
そうすると彼は力無い笑顔で頷いてね、僕はいつものように痛みを覚えたよ。
計画を立てた六月からずっとこんな調子さ。解放されたいのは僕も彼も一緒だったな。

9 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:53:08 ID:s4MWdJLU0
そう、計画について話していなかったね。
小学生の考えるような事だから大したものではないんだ。
ほんとに、ただの肝試しさ。幽霊屋敷に行こうってね。
県道外れの空き家が事故物件だとか、自殺した人間の祟りがあるとか、
そんな話がやけに盛り上がってこの日に至るんだよ。

実際、馬鹿馬鹿しいと女子に笑われたし、僕たちも薄々はそう感じていたのかもしれない。
それでも思春期を迎える前、その決定的なラインを越える前の、
最後の夏への憧憬に惹かれてしまったのがいけなかったんだろうな。
鼻で笑っていた彼女が一番正しかったよ。

( ・∀・)「そういえばお前と津出って付き合ってんの?」

( ^ω^)「……は?」

そんな風にツンの事を頭に浮かべていたせいかな。
茂羅の問いに、僕は少し動揺した声で答えてしまった。
唐突な問いにしてもあからさますぎる反応だったな。

10 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:54:17 ID:s4MWdJLU0
( ゚∀゚)「図星かよwwwwマジかwwwwwww」

( ;^ω^)「いやツンとはそんなんじゃねーお!」

( ・∀・)「そんな呼び名で呼んでる時点で怪しかっただろwwwwwww」

( ;^ω^)「だから!」

こうなるともう止まらない。

数分間煽られてからやっと話題が別に移った。
週刊漫画の仮面キャラの正体がああだのこうだの、
全く関係の無い話だった。今にしてみると結構バレバレだったと思うんだけど、
この頃はみんなあまり粗を探さなかったな。男子と女子にはこうなるのにね。

11 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:55:33 ID:s4MWdJLU0

目印となるゴルフ場(今思えば打ちっぱなしって言うのかな)を左折すると、
一気に辺りが暗くなった気がした。気のせいでもないんだけどさ。
車の激しい往来からも背を向けたし、街灯と民家から零れる明かりだけでは心もとなかった。

ここで夜を歩いてる、って改めて実感したな。
心臓が高鳴った事をよく覚えているよ。

目的地へつくまで、僕たちは一気に無言になっていた。
聞こえるのはテレビ番組のノイズと、遠くで鳴るサイレンだけだった。
そうなると、呼吸が自然と重くなり、息の吸い方も大味になっていたな。

幾分かすると、ここだ、という言葉が耳に入り、僕たちは足を止めた。

12 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:57:06 ID:s4MWdJLU0
先導していた長岡の声だった。
元々この計画を持ちかけたのも彼で、
詳しい場所の詳細を知っていたのも彼だった。

曰く、ガラスに穴が開いているからそこから内鍵を解除したらしい。
恐らくは開いているというよりは開けたんだと思うけどね。

持参した懐中電灯を取り出し、スイッチを入れる。

幽霊屋敷とやらの門扉の一歩前から、
外装を照らしてみると、横長の和風建築が浮かび上がった。
敷地も結構取っていて、ぼんやりと見える空いたスペースは、恐らく庭と呼べる場所だった。

昼間ならまた別だろうけど、この時は結構威圧感があってさ、
長岡もここまで雰囲気が出るとは想定していなかったんじゃないかな。
  _
( ゚∀゚)「……よし、行こうぜ!」

いきなり声を張り上げたのがその証拠だった。
僕も不安に呑まれそうだったけど、なんとか返事を返した。

肝試しとしてはこれ以上無いぐらいの空気にはなっていたな。

13 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 20:58:25 ID:s4MWdJLU0
砂利に敷かれた飛び石を踏みつつ、玄関へ向かう途中、
鼻がつんとする臭いがして僕は顔をしかめた。

横目で庭を確認すると、手入れのされていない池に、
濁った水と枯れ葉が溜まっていた。多分、ここが発生源だったと思う。

長岡が恐る恐る玄関の引き戸に手を掛けると、
彼の慎重な手つきを嘲笑うかのように、からからと音を立てながら、
あっさりと扉は開き、屋敷の内装を僕たちに晒した。

特段変わった様子や間取りではなかった。
三和土の前には段差があり、右脇には二階への階段がある。
正面には素朴な床木の通路が真っ直ぐに伸びていて、
その左には少し剥げた跡がある襖が設置されている。

14 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:00:03 ID:s4MWdJLU0
息遣いまで聞こえるような緊張感が走っていた。、
それなのに僕たちは、あたかも普通の家に入るように、
靴を脱いで家の中へ上がった。普段の習性は抜けないものだな、とちょっと可笑しくなるね。

数拍置いた後、茂羅が直進をし始め、後の三人も続いた。

床の軋む音に鼓動を揺さぶられていた僕は、
ゆっくりと、辺りを見渡しつつ進んで行った。

( ・∀・)「……おい、あれってなんだ?」

茂羅が声を上げたのは、通路の行き止まりで左折し、
少し歩いた後だった。彼が指さした右手側に空き部屋があった。

しかし、なにかが存在していたような痕跡もある。
今にしてみればただの書斎だったと思うんだけど、
僕たちは見事に中てられてしまい、ぐっと息を呑んだ。

15 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:00:47 ID:s4MWdJLU0
茂羅と長岡は空き部屋に入っていった。

だけど、気がかりがあった僕はついていかずに、
相変わらず最後尾にいる小森に声を掛けた。

( ^ω^)「なんだかんだで怖いものだお」

(-_-)「……うん」

小森の声は消え入りそうだった。
長岡や茂羅も緊迫感を覚えているのだから、
気が小さい彼が覚えている緊迫感はそれ以上のものだった。

( ^ω^)「思った以上に雰囲気があるお。
      肝試しってこんな怖いものなのかお?」

僕は適当な言葉を並べ、会話を試みようとした。

16 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:01:48 ID:s4MWdJLU0
(-_-)「……うん」

( ^ω^)「……大丈夫。ほら、そこに背を預けて座ってみるお。ひんやりとして気持ちが良いお」

大丈夫、とうわごとを言った僕は、
丁度空き部屋の反対側にある土壁にもたれて座り込んだ。

小森もぎこちない動作ではあったけど、同じように腰を下ろした。

( ^ω^)「少しは落ち着いたかお?」

(-_-)「……うん」

小森の声色は相変わらず暗かったけど、
気休め程度には改善していたと思う。

見ようともしないやつと、見ないふりをするやつはどっちが悪いんだろうね?

17 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:03:24 ID:s4MWdJLU0
  _
( ゚∀゚)「なんだお前ら、腰が抜けたか?」

( ^ω^)「当たり前だお! 大体お前も背中が震えまくってるの見え見えだったお!」
  _
( ゚∀゚)「ん、んなわけねーだろ!」

( ・∀・)「いやーこれは素直な内藤の勝ちだと思うね」
  _
( ゚∀゚)「……お前はなに目線なんだよ」

( ・∀・)「ふつーに怖いよ。ふつーに」
  _
( ゚∀゚)「もういいわ……次行くぞ」

長岡が意地を張り続けるのに疲れて探索を再開した。
僕は小森に少し休んで良いと言ってから、茂羅と一緒に彼について行った。

あそこらへんなんか光ってるよな、という長岡の声で、
直進から右折していくと、透明の窓から一枚隔てて、
外からの明かりが零れ出ている縁側に出た。どこからか、隙間風がした。

18 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:04:56 ID:s4MWdJLU0
  _
( ゚∀゚)「いたっ!」

前を行っていた長岡が悲鳴を上げた。

( ^ω^)「ど、どうしたんだお?」
  _
( ゚∀゚)「いや、なんか足に……ああ、この石か」

そう言って彼が拾ったのは尖った石だった。
長岡はサンダルを履いて来て、今は素足だったせいか、
相当に痛がっていた。恐らくは自業自得だから同情は出来なかったけど。

僕は、やっぱり自分で開けたのかと口にしようとした。

しかしそれは叶わなかった。

ガタガタガタと、縁側の窓を強風が揺らす。
バタン、となにかが床に落ちた音がする。

19 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:05:34 ID:s4MWdJLU0
  _
(;゚∀゚)「お、おい。どういうことだよ」

( ;・∀・)「……」
  _
(;゚∀゚)「まさかマジで祟りが」

( ;^ω^)「……あっ」

僕は慌てて駆け出した。
最初は気が動転していたけど、すぐに気がついてしまったから。
  _
(;゚∀゚)「おいどこ行くんだよ」

長岡の声を無視して小森の方へ向かうと、案の定彼は倒れていた。
  _
(;゚∀゚)「お、おい。マジかよ」

後から来た長岡の声は震えていた。
茂羅も珍しくはっきりと狼狽した様子を見せていた。

20 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:06:08 ID:s4MWdJLU0
僕は倒れていた小森の身体を抱えつつ、うわごとを言った。

だけど返事は無かった。冷たい汗が背筋を伝う。
恐れていた事が起こってしまった。
なんとか口を動かし、状況を説明しようとしたものの中々口が開かない。

( ;^ω^)「……別に、これは祟りとかではな
  _
(;゚∀゚)「だから嫌だったんだよ! こんなやつ連れて行くのは!」

やっとの事で発した僕の言葉を伝えきる前に、長岡が遮って大声を出した。

( ;^ω^)「……は?」

( ・∀・)「……なに言ってんだお前」

茂羅は落ち着いた所作ではあったけど、
声色に憤りを隠し切れていなかった。

21 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:07:40 ID:s4MWdJLU0
  _
(;゚∀゚)「結局こいつなんてただのオタクだろ!? 好きなゲームやれるから付き合ってただけなのに」

( ・∀・)「ふざけるのもいい加減にしろよ。ビビりすぎておかしくなっちまったのか?」

茂羅は両手で長岡の胸ぐらを掴んだ。
  _
(;゚∀゚)「ふざけてなんかねーよ。大体お前も陰で小森の事笑ってた時あったじゃねーか」

( ;・∀・)「それは……違う! 周りに合わせてただけで……」

茂羅の力が弱まると、今度は長岡の方から掴みかかる。

もうこうなると止まらなかった。

22 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:08:17 ID:s4MWdJLU0
打ち上げ花火の音が何処からか聞こえるのに、
彼らは自らと肩を寄せ合う人間の相手どころか、
自らと肩を掴み合う人間の相手をしていた。
割かし地獄だったなあれは。

天井からこの状況を見下ろしている気分になれたよ。

人間の醜さを知るには十分な時間だったな。

小学生風情がなにを、という話でもある。
それでも子供の頃の感覚って結構馬鹿に出来ないものだからさ、
案外それで正解なのかもしれないね。思い出の栞にするには正解とは言えなかったけど。

汚い心をまき散らす長岡と、自己保身に走る茂羅は言うに及ばなかったし、

( ;^ω^)「もうやめろお!」

天から仲裁して愉悦を覚えた僕も同じだ。

23 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:09:08 ID:s4MWdJLU0
小森が倒れた理由はただの喘息だ。
昔クラスが一緒だった僕は最初から知っていたけど、
黙っていた。結局楽しみの方を優先したわけで、
長岡や茂羅となんら変わりはしない屑だった。

まあ小森の発作も少し経つと落ち着いてきて、
大人に助けを求めて事なきを得たんだけどさ。
もちろん、こっ酷く叱られた。当たり前だね。

その後も中々笑えないものだったな。
表面上は同じでも、どことなく壁が貼られていて、
ある意味では最後のラインは正解だったんだよ。
気がつけば疎遠だった。

要は、あの時に僕たちの冒険は終わった。それだけの話さ。





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24 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:09:40 ID:s4MWdJLU0




『僕と君の話』



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25 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:10:30 ID:s4MWdJLU0
あれは、高校一年生の秋の話だ。

終電間際の電車に僕は揺られていた。
CDショップの袋を持ち、間隔の開いた座席に腰を下ろしながら、
周囲を見渡すと、点在する人間はみな携帯機器を触っていた。

当たり前の話だけど、同じ空間にいるのに、
繋がっている場所は別だった。車内の彼らがこれから、
帰路につこうが、飲みに出ようが関係は無いし、
物騒な事を言えば、犯罪に手を染めようが関係は無かった。

一人だけいる、例外を除いて。

そうだな、この時の僕には肩を寄せ合う相手はいたんだよ。
寄せ合うというよりは、もたれ掛かれているが正解な気もするけどさ。

26 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:11:09 ID:s4MWdJLU0
隣に座っている彼女の顔には表情が無かった。
こうしていれば人形のように綺麗な女の子だった。
けれども僕は人形なんかより血の通った人間の方が好きだった。

なあ、ツン、君がそうだったようにさ。

ツンはドアの開閉音が鳴るまで、ずっと虚空を見つめていた。

なにを思っていたのかな、とあの時の僕は考えていた。
いや、違うか。今でも考え続けている、が正解だ。

僕は家から連れ出した彼女と一緒にホームへ下りた。
連れ出した、と言ってももっとも利用する場所なんだけどね。

ここは、僕たちの高校への最寄り駅だった。

東口を出て、ロータリーまで歩みを進め、一回足を止めた。

27 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:12:47 ID:s4MWdJLU0
ξ゚⊿゚)ξ「しかしあんたに連れ出されるなんてね」

伸びをしながらツンは言った。

ξ゚⊿゚)ξ「白馬の王子様って実在するのね」

( ;^ω^)「冗談きついお」

ξ゚ー゚)ξ「そうよね、白馬というよりは白豚がお似合いよね」

ツンは僕をからかい、笑みを浮かべたと思えば、
数瞬して表情を変えた。悲しい事に珍しい話でも無かった。

( ^ω^)「大丈夫だお、なじっているわけじゃないって分かってるから」

だから、僕も慌てずに対応出来た。

ツンのやわらかい髪をくしゃくしゃに撫でた。

28 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:13:43 ID:s4MWdJLU0
ξ゚⊿゚)ξ「……そういうのはイケメンがやりなさいよ」

ツンは安心したのか、硬直した表情を緩めた。

( ;^ω^)「ごもっともだお」

照れ臭くなって僕はツンから視線と手を離した。

ξ゚⊿゚)ξ「……まあ、あんた以外にされたくもないけど」

その時の僕は心臓が跳ね上がって、これからする事も忘れてしまったな。
だけどすぐに我に返って、大きく呼吸をした。

大丈夫、といううわごとを、自分にまで言い聞かせた。

29 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:14:48 ID:s4MWdJLU0
( ^ω^)「それに、別になじっても構わないお」

ξ゚⊿゚)ξ「……なにそれ、マゾだったの」

トーンは下がったままだけど、ツンは軽いノリで返してくれた。

( ;^ω^)「そういうことじゃなくて、僕に遠慮とかいらないお。特に今日は」

ξ゚⊿゚)ξ「そう、よね」

少しの間沈黙が流れた後、僕たちは目的地へ歩き出した。

ξ゚⊿゚)ξ「案外、外の空気も悪くないわよね」

排気ガスが飛び交う大通りで言うには少し可笑しな表現だった。
だけどツンがずっと篭っていた事を知っていたから、
僕は相槌を打ちながら、片道二車線道路の脇を歩いていた。

30 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:15:18 ID:s4MWdJLU0
ξ゚⊿゚)ξ「なんて、当たり前の事だったのにね」

( ^ω^)「僕はインドア派の白豚だからよくわからないお」

ξ゚ー゚)ξ「なによそれ」

そう言ってツンはクスクスと笑う彼女を見て、
僕はノスタルジックな気分になった。
そんなに昔の話では無かったのにね。

ξ゚⊿゚)ξ「それにしてもあんた痩せたわよね」

( ^ω^)「もう二年ぐらい変わってないお」

ξ゚⊿゚)ξ「あれ、そうだっけ」

僕は返事をせずに、ゆっくりと足を進め続けた。

31 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:15:59 ID:s4MWdJLU0
ξ゚⊿゚)ξ「あんたとここを歩いているとか懐かしい」

( ^ω^)「まだ半年も経ってないお」

ξ゚⊿゚)ξ「まあそうだけどね。それにしてもあんたほんと寝起きが悪かったわよね」

( ^ω^)「低血圧なんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「低気圧とか言えばかっこいいと思ってるタイプ?」

( ^ω^)「……否定できないお」

ξ゚ー゚)ξ「ばっかじゃないの、そこは否定しておきなさいよ」

ツンが声を上げて笑った。
こんなにはしゃいでいる彼女は久しぶりに見た。
やっぱり僕は血の通った人間が好きなんだと再認識した瞬間だったな。

やがて大通りを外れ、車の往来も少ない、
対向車線の白線も引かれていない道に出た頃だった。

ツンが足を止めた。

32 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:16:51 ID:s4MWdJLU0

( ^ω^)「大丈夫かお?」

先を行く形になった僕は振り返り、ツンに声を掛けた。

街灯に照らされている彼女は青白かった。
夏を越してからそれほど経っていないのに、
不自然なまでに太陽の痕跡が残っていない。

当然の話ではあった。だから。

( ^ω^)「別に、無理をする必要は

ξ#゚⊿゚)ξ「大丈夫だから!」

ツンは大きな声で僕の言葉を遮った。
ただでさえ通行量が少ない場所なのに、
辺りは一段と静寂を主張するようになったな。

僕の口から、意図せず乾いた笑いが零れた。

33 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:17:36 ID:s4MWdJLU0
ξ゚⊿゚)ξ「……なに笑ってんのよ」

( ^ω^)「おんぶでもしようか」

ξ゚⊿゚)ξ「……インドア派じゃなかったの?」

( ^ω^)「結構ドラムも体力使うんだお」

僕が背中を差し出すと、数瞬の後、ツンは素直に背負われる格好になった。

ξ゚⊿゚)ξ「重くない?」

( ^ω^)「重いとかからかいたかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「遠慮とか私もいらないんだけど」

( ^ω^)「おっおっ」

遠慮でもなんでもなかった。
特段僕に筋力があるわけでもないのに、
ツンの重さはちょっと大型のバッグ程度にしか感じなかった。
これが一年前ならからかってやりたかったんだけどね。

34 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:18:13 ID:s4MWdJLU0
ツンを背負ってから目的地に着くまでに大して時間は掛からなかった。

大きな建物が僕らに覆いかぶさっている。
要は校舎だ。僕たちの通っている、通っていた高校だった。
明かりもなく、宵闇に沈んだそれは、既に役目を終えているようにさえ見えた。
実際、ツンにとっては終えた場所でもあった。

ξ゚⊿゚)ξ「……誰もいないわよね?」

( ^ω^)「さあ? 見回りとかいるかもしれないお」

僕は当てもなく、適当に言った。

( ^ω^)「もしくは幽霊とか」

一瞬背中が震えた。

35 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:19:02 ID:s4MWdJLU0
ξ゚⊿゚)ξ「あんたよくそんな冗談が言えるわね」

( ^ω^)「どっちの意味で?」

ξ゚⊿゚)ξ「どっちも」

生憎、すんなりと侵入を果たした僕らは、
昇降口を抜け、階段を昇っていった。

( ;^ω^)「やっぱ重いお」

くすねた鍵を屋上への扉にはめながら僕は言った。

ξ゚ー゚)ξ「からかえて良かったじゃない」

背中から降りたツンが笑う声が聞こえた。
からかいではなかったんだけど。

36 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:19:50 ID:s4MWdJLU0
( ^ω^)「風が気持ちいいお」

扉を開くと、開けた空間と九月の風がを出迎えた。
四方八方に高いフェンスが囲っているとはいえ、
吹き抜けた空と近い空間は僕に解放感を与えた。

ツンの場合は、別だったみたいだけど。

僕に背を向けた彼女は、真っ直ぐ行き当たりまで進み、
ゆっくりとフェンスへ近づき、網目に足を掛けた。
そして懸命に登ろうとする素振りを見せ、諦めた後、後から追い付いた僕に微笑んで見せた。

ξ゚ー゚)ξ「ねぇ、ブーン。私もう走れないの」

知っているさ。
君がどれだけ絶望したかも、大好きなシューズを川に放り投げた事も、
周りに当たり散らしては謝り続ける躁鬱に陥っていた事も、
僕なら全部知っている。全部知っているからここに連れて来たんだ。

37 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:21:20 ID:s4MWdJLU0
彼女がこの場所を選んだのは当てつけらしい。
衝動的に飛びたかったのに、今の学校はやすやすと飛ばせてくれない。
そんな自由すら与えられないのなら、私が壊してやるんだと。

反抗だったな。
ジョン・ポーナムの凄さは数ヶ月で分かったけど、
シド・ヴィシャスは何年掛かったかな。五年は要した気がする。

CDショップの袋から、安酒と睡眠薬を取り出した。
ツンはそれを受け取り、その場に座り込んだ。

僕も合わせて座り込み事前に一本持っておいた、
チューハイを開け、薬を一気に流し込む彼女の姿を眺めていた。

38 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:21:53 ID:s4MWdJLU0
それから僕たちは思い出話を続けた。
炭酸の利いたジュースにしか思えないアルコールを流し込みながら、
時には笑い、時には沈み、なんだか楽しい躁鬱に陥っていたな。

やがてツンは意識も呂律も曖昧になり、うとうととし始めた。

彼女が再び話し出したのは、しばらくまどろみに浸った後だった。
まるで健忘症の老人が最後だけ明瞭な意識を取り戻すかのようで、
多分、ツンが死ぬ理由は老衰に近いんだろうな、と思った事を強く覚えている。

ξ゚⊿゚)ξ「そういえば手、繋げなかったな」

( ^ω^)「繋ぎたかったのかお」

ξ゚⊿゚)ξ「鈍感……なんて私が言えないのが悪いのよね」

僕はツンの目の前でしゃがみ、差し出された手を掴んだ。

39 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:22:38 ID:s4MWdJLU0
ξ゚ー゚)ξ「ありがとう、今までずっとずっと」

( ^ω^)「うん」

ξ゚ー゚)ξ「大好きだよ」

( ^ω^)「僕もだお」

そう時間も経たないうちに、彼女の意識は途絶えた。

僕はツンの身体を両腕で包んだ。
抱いた痩躯は枯れた木のようだ。骨ばっている。

それでも包まれているような気がして、
僕は二度と会えない彼女の体温を確かめ続けていた。





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40 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:22:59 ID:s4MWdJLU0




『僕とお前の話』



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41 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:24:02 ID:s4MWdJLU0
あれは、二十歳のある冬の話だ。

シケモクの山の標高が上がった。
このヘビースモーカーの部屋には慣れ切っているせいか、
副流煙には特段なにも感じないけど、
これでは僕も半分喫煙者のようなものだとは思ったな。

テレビの液晶は現実味の無いグラフィックを流し続けている。
その中身を動かしながら、鬱田……僕がドクオと呼んでいる人間は、
死んだ目で、発するたびに重くなる口癖を呟いていた。

僕は聞こえないふりをしながら、
小学生がやるようなゲームのプレイ画面を眺め続けていた。

ここで止まっているのか。進めないのか。縋っているのか。

42 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:24:53 ID:s4MWdJLU0
('A`)「どうした?」

( ^ω^)「いや、いつその技見つけたんだお」

僕は簡単に嘘をつき、ドクオから逃げた。

('A`)「ネットで見たんだよ。
    こういうのはまだ研究が続いてるからな」

( ^ω^)「はぁ、お前みたいな物好きがいるもんだお」

('A`)「人の事言えんのか」

( ^ω^)「疫病神に逆につきまとうのなんてお前ぐらいだよ」

('A`)「……お前まだ気にしてんの?」

( ^ω^)「あんまり」

疫病神とは僕の事だった。
ツンの一件は言うまでもなく、比較的学区が近かったせいか、
小森の件までいつの間にか広まっていて、いつの間にか疫病神扱いになっていた。

43 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:25:40 ID:s4MWdJLU0
まあ、あんまり間違ってないからいいんだけどさ。
一人も比較的苦にしないタイプだったしね。

なのにドクオと来たら孤立した僕に寄って来るものだから困ったね。
独り同士でシンパシーでも感じ合ってしまったのかもしれない。
気がつけば一緒の大学へ行って、一緒の講義に出て、一緒の部屋に入り浸っている。

風の噂ではホモカップル扱いされていたらしいね。
状況が状況だけにあんまり否定出来なかった。
いや、同性愛者が悪いとかそういう意味ではないんだけどさ。

('A`)「……なあ、スタジオ行かねぇ?」

( ^ω^)「嫌いなんじゃなかったのかお」

前に言った時は、帰りにバンドマンの悪口を散々言っていた。
僕は合わせつつも、あんまり共感は覚えられなかったな。

44 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:26:18 ID:s4MWdJLU0
('A`)「嫌いだよ、嫌いだから行くんだ」

( ^ω^)「……そうかお」

深く突っ込み過ぎないのが僕のスタンスだった。

足を運んだスタジオで行ったのは酷いセッションだった。

弦を抑えきれていないか濁ったコード。
素直な8ビートを叩いてもぶれまくるリズム。
そこにお世辞にも通っていると言えない声で暗い歌詞を乗せる。

ドクオの演奏も歌唱も酷いものだった。
だけど、活き活きとはしていた。スタジオに入るまでは嫌がっていたが、
入ったらこうなるのが常だった。僕もそんな彼を見るのが嫌いでは無かった。

45 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:27:33 ID:s4MWdJLU0
まあ、そんな時間なんて長くは続かない事も薄々感付いていたけどさ。
なんていったって疫病神だから。

('A`)「人を殺そうと思うんだ」

シケモクの部屋に帰ったドクオは、第一声でそう言った。

( ^ω^)「へぇ」

('A`)「……なんだその反応」

( ^ω^)「僕も人殺しみたいなもんだから一緒だお」

ドクオが言うにはバンドマンのような人種に我慢が出来なくなったらしい。
昔のトラウマがあって、ああいう脚光を浴びる人間を見ると傷が疼く。
だから自分を虐めていた奴に復讐するのだと。

46 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:28:04 ID:s4MWdJLU0
( ^ω^)「どうやって?」

('A`)「……どうしようか」

( ^ω^)「計画でも立てるかお」

皮肉な事にその計画会議は小学生の時みたいでさ、
幽霊屋敷に行くときにわいわいと騒いでいた事を思い出したよ。
人殺しといういかれた話を酒の肴にさえしていたんだ。

ドクオも珍しく口癖を言わずに笑っていたな。

47 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:28:43 ID:s4MWdJLU0
けどさ、だからと言って実際にやるとは思わなかったよ。
人を殺したって電話が来た時はボヘミアン・ラプソディかよ、
って笑いながら冗談を飛ばしてしまったな。

('A`)「冗談じゃないんだ」

ドクオの声は分かり易すぎるぐらいに震えていた。

( ^ω^)「そっか」

('A`)「出頭しようと思う」

( ^ω^)「それなら僕も共犯だお。取りあえず戻って来いお」

(#'A`)「なんでそんなに落ち着いてるんだよ!」

( ^ω^)「ごめん。気に障ったなら謝るよ」

(;'A`)「い、いや、俺が悪いんだ。というか極悪人だ」

ドクオが自罰的になると、しばらく会話が途切れた。
僕は自分から言葉を発する事はせず、彼の言葉を待っていた。
流石になんて言えば良いのか分からないからね。

48 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:29:32 ID:s4MWdJLU0
('A`)「なあ、どうして俺と一緒にいてくれたんだ」

( ^ω^)「ん?」

長い沈黙の後に聞こえた声に、僕は間抜けな声で返してしまった。

('A`)「お前ってレッテルを貼られてただけでまともなやつだろ。
   大学に入ってやり直すことだって出来たんだ。
   素人だから良く分かんないけどドラムもめっちゃ上手いんだし、
   ……そうだな、あっち側にもいけたはずだ」

考えもしていない事だった。
そうだね、そういう選択肢もあったのかもしれないけど、
僕がドクオと一緒にいたのは、あっち側に行けるからなのかもしれないな。
だから。

49 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:30:10 ID:s4MWdJLU0
( ^ω^)「……それは嫌だお」

('A`)「どうして」

( ^ω^)「僕は、ドクオの友達でいたいから」

きっと僕は、近くに見下せる存在が欲しかった。
本来は孤独で押し潰されそうな人種を近くに置いて、
心の安寧を得たかっただけなんだ。何年たっても醜いものだと笑ってしまうね。

('A`)「……なあ、俺たち友達だよな」

( ^ω^)「……なに言ってんだお、当たり前だお」

それが、ドクオとの最後の会話だったな。
それなりに上出来なラストだったと思う。
多分、あの息苦しい部屋に、僕は我慢が出来なくなっていたから。





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50 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:30:59 ID:s4MWdJLU0




『僕の話』



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51 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:31:34 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「本当にそうですか」

三つの回想を終えた僕に、彼女は問いかけた。

( ^ω^)「なにが」

ζ(゚ー゚*ζ「本当に、そう思っているんですか?」

( ^ω^)「どういう意味だお? 別に嘘をつく理由なんてないお
      寧ろこんな曖昧な空間だから洗いざらい全部吐いたんだお」

ζ(゚ー゚*ζ「……じゃあ、なんでドクオさん相手に声を震わせていたんですか」

( ^ω^)「震えていた?」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオさんは錯乱状態だったから分からなかっただけで、
       あなたの声は正常ではありませんでした」

( ^ω^)「多分自分に酔っていたんだお」

ζ(゚ー゚*ζ「そうでしょうね、今のあなたはそうでしょう。
       でも過去のあなたはそうでしたか?」

( ^ω^)「しつこいお、もう逝かせてくれお」

僕は禅問答に飽き飽きとして、水槽へ手を掛けた。

52 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:32:07 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「……あまり言いたくなかったんですが、
       ここにあるものはあなたの手放した可能性、って言いましたよね」

( ^ω^)「それがなんだお」

ζ(゚ー゚*ζ「私も同じなんですよ? 『お父さん』」

掛けていた手が、一瞬で滑り落ちた。

( ^ω^)「……ホラー? 悪趣味だお」

ζ(゚ー゚*ζ「冗談ではありません」

( ^ω^)「はいはい、さっさと飴玉詰まらせて死ぬ

ζ(゚ー゚*ζ「私は津出……

( #゚ω゚)「もう黙れお!」

一切合切がどうでも良かったのは、いつまでだろうか。
少なくとも、今はそうも言ってられなかった。
機能しているのかすら分からない心臓の悪い鳴りが聞こえる。

53 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:33:28 ID:s4MWdJLU0
( ^ω^)「……なるほど、これがDVかお」

ζ(゚ー゚*ζ「いいですよ、もう。そんなふりしなくても」

( ^ω^)「……水先案内人には適当な外装が塗られている」

ζ(゚ー゚*ζ「つまりは適切な外装。正しい意味でしょう?」

( ^ω^)「もうちょっと無知でいたかったお」

僕は仰向けに倒れ込んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「結局あなたは小森さんを助けるために大人を呼んで、
       津出さんを死なせきれずに救急車を呼んで、
       鬱田さんの凶行に身を震わせていた。なにか違いますか?」

返答はしなかった。無言の肯定だった。

54 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:34:16 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「はっきり言いましょう。あなたはなにも掴めなかった、ただの臆病者です」

( ^ω^)「……うるせぇ、なんでお前にそこまで言われる必要がある」

冷え切っていた感情が、急激に熱を帯びていく。
静かに立ち上がり、僕は彼女を見据えた。

( ^ω^)「小森の喘息を打ち明けていれば良かったのか?、
      病んだツンに根気強く寄り添ってやれば良かったのか?
      ドクオの死にたいというSOSを真摯に受け止めてやれば良かったのか?」

ζ(゚ー゚*ζ「それが正論でしょう?」

( #゚ω゚)「なにが正論だお! 正論正論正論! 息苦しくて仕方がないお! 
      みんながみんなを救えるヒーローだとでも思ってるのかお!?
      ならせめて主人公のつもりでいさせてくれお! 
      その上こんな、こんなものまで……」

僕は刺すような指先を目の前の彼女に突き付けた。

55 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:37:00 ID:s4MWdJLU0
( #゚ω゚)「こんなものまで突き付けてそんなに僕が憎いかお!?
      それともこれが報いかお!?」

酸素が足りなくなった僕は、肩で息をし始めた。
動悸が止まらない。この後に及んでなぜ脈を打つのか。

息がある程度整い始めたのは、長い静寂の後だった。
立つ事すらままならなくなってしまい、座り込み、俯いていた。

ζ(゚ー゚*ζ「……ちゃんと、分かってるじゃないですか」

僕が落ち着いた様子を見て、再び彼女は口を開いた。

56 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:37:58 ID:s4MWdJLU0
(  ω )「怖かったんだお、幸せが.
     ハッピーエンドで物語は終わってくれないんだお。
     僕たちは主人公じゃないから、続けないといけない。
     なのに小森の時のせいかな、なんか自分が自分を見下ろせるようになった気がして、
     綺麗な終わり方を探そうとして、それで、ああなった。
     馬鹿みたいだお、ツンの時なんてずっと生の感情が渦巻いてたのに。
     だから中断する可能性を探し続けてたんだお。
     そういえば、実はツンはオカルトが駄目だったな、とか足掻きながらさ」

乾いた笑いが零れる。

(  ω )「なあ、僕はどうすれば掴みとれたんだお」

すでに終わった問答なのに、泣き言は口から滑り落ちてしまった。

ζ(゚ー゚*ζ「確かにあなたは主人公ではありませんし
      みんなを救えるヒーローでもありません」

頭上で彼女の声が響く。

ζ(゚ー゚*ζ「けれど、誰も救えなかったわけではないはずですよ」

今度はしゃがみ込んだのだろうか。
僕に近い場所から声が響いた。

57 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:39:42 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「小森さんはあなたが「うわごと」と評する言葉で心休まる部分もあったでしょうし、
       大人の助けを呼んだのもあなたです。
       津出さんは……そうですね、あなたの言う通り、
       正論を突きつけても息が苦しい時だってあります。
       実際に正しい選択をした途端、あなたと津出さんの関係は崩れ去ってしまった。
       それでも正しい選択をしなかった時のあなたは、確かに津出さんと心を通わせていました。
       鬱田さんはあなたがいなければとっくに孤独に押し潰されていたかもしれない。
       数年の安らぎを与えたのは間違いなくあなたですし、
       本当に見下していただけなら辻褄の合わない部分が多々あるはずです」

(  ω )「なんだお、飴と鞭かお」

ζ(゚ー゚*ζ「挑発するような真似をして本当に申し訳ありません。
       あなたに本音を言って欲しかったんです」

(  ω )「言って、なんか変わるのかお」

ζ(゚ー゚*ζ「図々しいですけど、変わってくださいよ。
       あなたは少し間が悪かっただけなんです。
       だから、そうですね、本当に白々しい言葉になるんですけど……」

彼女は少し間を置き、僕の肩を掴み、目線を合わせた。

58 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:40:31 ID:s4MWdJLU0
ζ(゚ー゚*ζ「あんまり自分を責めないでください。
       ほんの少しでいいから、自分を許してあげてください」

( ^ω^)「……なんでそこまで?」

ζ(゚ー゚*ζ「さあ? 『そういう』塗られ方をしているからですかね。
       ……もう時間ですね、どうします?」

( ^ω^)「また僕に選択を迫るのかお」

ζ(゚ー゚*ζ「決めるのはあなたですから」

( ^ω^)「……なるほど、これがDVかお」

ζ(^ー^*ζ「あはは、心外ですね」

そう言って微笑んだ彼女は、ツンとはあまり似ていなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「……お元気で」





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59 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:40:55 ID:s4MWdJLU0




『』



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60 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:41:36 ID:s4MWdJLU0
いつものように、頭痛を伴いながらの目覚めだった。

正しい事をしてしまった。
溺れ死ぬ事が出来なかった。
ツンに会いたかった。

なんて。

ああ、愛だ恋だで全てが救われたらいいのに。
これだからラブソングは嫌いなんだ。お前もそう思うだろ? なあ、ドクオ。

睡眠薬の量も足りないな、と捨てているビンの中身を見る。
これじゃ結局死にきれやしない、それならばただの夢か?

61 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:42:28 ID:s4MWdJLU0
まあ、どっちにしろ、頬を伝い続ける涙は本物だった。

何年ぶりかも分からない。
小森の件で叱られた際、以前の僕なら年齢も相まって泣いていたはずだった。
それなのに涙はせき止められたままで、説教が長引いた事を覚えている。
つまり僕は九年間はこの感触を味わってなかった。

意外と熱いものだなと思った。
悲しいか嬉しいかも分からなかった。
感情の溢流が止まらなかった。

62 :名も無きAAのようです :2019/03/18(月) 21:43:07 ID:s4MWdJLU0
結局、僕は現世にしがみついて、生活をこなしている。

泥酔して、ふとツンを想って、なぞらえようとして、
勢いで睡眠薬をかき込んで、そこまでしないと自殺の真似事すら出来ない。
夢で会った彼女の言う通りのただの臆病者だ。

だけど、だから死ねないから。
死ねやしないから、僕は息をする。
それを生きていると言えるかなんて分からない。

けれど過呼吸になり、みっともなく酸素を取り込み、
前後不覚になっている今の僕は、確かに生きていた。

落ち着きを取り戻すまでにどれぐらい掛かっただろう。
分からないけど、とりあえずコップに入れた水を、
二口分喉に通し、大きく息を吐き、仰向けに寝転んだ。

( ^ω^)「叩き起こしやがって、ふざけんなよ」







( ^ω^)メロウの水槽のようです  終