【感想】誰も要らないようです




誰も要らないようです
ブーン系小説創作板(ファイナル) ( ^ω^)文戟のブーンのようですスレより



語彙が豊富で、表現の幅広さが文字列を映像に容易く変換させてくれる。


>馬鹿にしたような言い様に、脳の血の気がサッと引く感じがした。

>そんな一縷の甘えが、しまいにはじくじくと痛む虫歯のように俺を苛んでいた。


ギコの感情の機微を身体の状態異常を使って例える手法が多く見られ、それらを一言でバシッと言い表すのが上手い。


全体的に一文が簡潔にまとめられていて情報量を少なく押さえ、
重苦しい内容に無理に重厚感を詰め込まず、ライトな作風に仕立て上げている。
ただし、雰囲気を重視して読点で改行を挟むシーンは大変良いが、
画面が黒く塗られるほど詰められている箇所も疎らに見られ、
重く、軽く、どちらに寄せているのか判然としないのが口惜しい。

投下が期間最終日にもつれてしまった余裕の無さがこの文量に出たためだろうか、
落ち着いて校正してほしかったと思う。




>視界の端から端まで、全方位へと降り注ぐ光の海。
>その一粒一粒が星だと理解するには、長い時間が掛かったような気がした。


「海」がお題ということだったが、星空を海として扱ったこの発想の転換は一目置かざるを得ないだろう。
しかしそれ以降この表現に触れる機会がなく、狙ってやったものかイマイチ判断がつかない。
が、これについては後述したいものがある。




>何もかもを誤魔化してくれる暗闇が、俺を包み込んでくれる。
>だから好きだった。
>だというのに、ゴミの島だけは、はっきりと目で捉えることが出来た。


ギコが全てから逃げ出すシーン。
暗闇の中にそれだけがはっきりと見えたゴミ島は、夜空に煌く星をイメージさせる。
いくつものゴミが集まってできたそれは、まさしく星団と呼ぶに相応しいだろう。


神話のオリオンはプレアデスの7姉妹に魅了されるが、
それを恐れて逃げた姉妹を追い、ついにはどちらも星座となる。

本作と神話を照らし合わせると、
オリオンの三ツ星のベルトは幸せだった頃の3人家族を想起させ、
それを腰に巻いたギコがオリオンを象り、魅せられたるものはプレアデス星団、
いくつもの星々が集って人々を魅了するそれは、いくつものゴミが引かれ合って形作られた島と重なる。


真の意味で、誰も必要としなくなった、必要とされなくなったギコが、
無意識にゴミという磁石に輝きを魅て引かれたのは自然のことだったのだろう。
ギコにとってゴミ島はまさしくプレアデス星団だった。

しかし星座は生きている人間をその一翼にすることはない。
ギコは川に溺れたとき、やはり死んだのではと私は思う。
そして彼らは星になるのだ。



人類が滅びた未来。
死んでなおギコが旅するのはやはり現実の未来の地球なのだろう。
昼間は現実の海を、そして眠っている間は星となり、夜の海を航行する。
鼠色の空という記述から、宙にいることでは見ることのできない昼間であることが伺えるし、
また眠っている間を夜としてその隙にゴミの筏が移動していることを考えると、
星空を海として扱った説得力が出てくるのではないだろうか。


赤い鉄塔は東京タワーだろう、
故郷すらも飲まれてしまっているのはギコも承知したはずだ。
では彼は一体何故地球を旅するのか。

夢の中で星を見上げて涙を流すのは、現実の世界で家族3人、
ハワイに行ってこれを見上げる未来もきっとあったはずなのだと、悲しみに染まっているようで遣る瀬無い。

暗澹なんて言葉で締めくくったのは、彼の旅はどこまでも終わりのないものだということを示しているのかもしれない……。




全体通して完成度が非常に高く、特に文章力は一線級のものを感じる。


>一晩中、俺は星を眺めていた。

>夜が明けても、空を眺めた。

>日が昇り、海の向こうへ落ちていけども、俺は空を眺めた。


例えばこの「眺めた」の反復なんか大変素晴らしい。
文末表現も「~た」で統一したところに半永久を感じさせるその時間の膨大さが読み取れます。


上で批評した以外は文句のつけようもない輝く一品。
「巧み」の一言です。