【感想】大ブン動会(第2回紅白)作品【批評】(背骨・人魚を拾って・動悸)


感想依頼を受けたのになかなか更新できず申し訳ないです。
いろいろ立て込んでしまって半分休止してるような状態ですが、好きにやっていきたいと思います。
ただこんな更新頻度でスマブンに名前出してもらったのがすごい恐縮です……。

次回更新は2週間後の予定。





<以下、ネタバレ、少し辛めの感想注意>










ドクオの背骨

お話自体は面白かったです。
ドクオの夢に対する情熱や決心を背骨という一つのワードに固めたのはお見事、とても理解しやすいテーマでした。
同時に、背骨というワードはこの小説を成す上で欠かすことのできない、この小説自体の「背骨」でありましたね。
ふたつの意味で、「背骨」はこの短編を形作る一本の軸でありました。

ブーンがドクオに畳み掛けるシーンなどは、思わず自分の背筋すらビシッと正される心地がしました。
よく言った!という気持ちと、はたまた日々を漫然と過ごしている自分を顧みてドクオに感情移入し、
強すぎるなぁと一歩たじろいでしまう、力強さ。
損得勘定と、情熱や気概を持って一日を死にもの狂いで生きている彼らのような奴らを見ていると、
その何気ない一言が真理を棘にして自分を突き刺さしてきますね。
ショボンの「生存は無料ではないのです。」にうぬぐぐと歯噛みさせられたり……。

こんなに短いお話なのに、"生"がよく描けている作品だったなと思います。
ドクオの決意やブーンの主張もさることながら、ショボンの企みもまたそうでした。
ドクオに付き合っていたのが単なる善意ではなかったというのが、ショボンの生き様を表していたかなと。
損得で動くこともまた生きる上では必要不可欠ですからね。

一回目読んだときはこのショボンのまさかの企みにえっ!と、そんな意図があったのか!と急展開に驚かされましたが、
改めて目を通してみるとちゃんと伏線が張ってあったんですね。


>(´・ω・`)(このままでは、今回の航海が大赤字に終わってしまう)

>(´・ω・`)(なんとしても計画を成功させたいものですが、やはり出港時の警備が厳しすぎますね。さてさて……)


ここ、商売の他に秘密の計画があることが示唆されていました。
なんでスルーしちゃってたんだろう……と前後を見返すと、モディフィカ・スライムの誘拐の件には触れてはいるものの、
すぐに表沙汰の目的である商売の話に切り替わってしまってました。
しかもショボンの括弧書きのセリフを見ても、計画というのが商売についてのことだと錯覚してしまう物言いに感じます。
上手いことカモフラージュされてしまってたわけですね。


そういった技巧も見え隠れする本作品ですが、悪かった点を挙げると、読みにくいの一言です。
注釈が多すぎました。わざわざ補足という形をとらなくとも、そのまま本文に書けばいいのに、と思った文章が少なくなかったです。

「けれどもこれは別の物語」も多かったと思います。
これはSFというジャンルをとった本作の世界の広大さを伝える手段だったと思うんですが、
この一文が出てくると私はそこで途端に興が削がれてしまいました。
多分読み方の問題でしょうね。
自分は別の物語でなく、この物語を読みにきてるのに……という感覚があるからなんでしょう。
短編として作品をまとめ上げなければならなかった事情はあるとしても、しかし付け焼刃な感じがないとも言えません。
長編作品ならこの後に続く物語でそれらが展開されるので、わざわざこのような形で書くこともなかったと思うのですが……。


だからこそ、やっぱりこの後に続く物語を読んでみたいワクワク感がめっちゃあります。
この短編は物語の始動、立ち位置的にエピソード0ってところがあるので、この3人がどう活躍していくのか、かなり気になる。
具体的には、ドクオの母親について今回全く触れられなかったのが気になります。
もし長編化したあかつきにはその点掘り下げてくれれば面白そうだなぁと。

母親繋がりといっちゃあなんですが、最後に膝から崩れ落ちたヨコホリに母親の姿を見て、心苦しくなりました。
息子の巣立ちに泣き崩れる母に、その肩にそっと手を置く父の後ろ姿とは、
王道をゆく〆の上手さにこの作品を読んだ上での一番の拍手を送りたいです。







( ^ω^)人魚を拾って帰ったようです

なんといってもこの作品の魅力を組み立てる要素の第一番は、物語の構成力にありました。
必要なシーンを必要なだけ描写し、それが終わればまた次のシーンへ移る。
全体通して無駄がなく、しかし伝えたいことは的確に伝える。
どこか冷たく俯瞰的な語り口、表現豊かな地の文がこれに相乗して、「これは上手いな」と、
序盤でもう期待と安心を持たせられました。
これは最後まで読んで損はないだろうな、と。

世界観を伝えるのも上手かった。
猫が出てきて、喋る、あるいは意志の疎通ができる、というのに、それになんの説明もない。
それだけで「ああ、そういう世界なんだな」と読者のほうが勝手に納得してしまう、させてしまう。
説明がないのが何よりの説明になっているといいますか。
それだけでなく、地味に世界観を伝える助けになっているのがこの一文。

>噂ではいくらか聞いたことがあったが実物を目にするのは初めてだ。

人魚がいる。そういう噂がある。この前提がスッと頭に溶け込んで、
突然登場した人魚に読者が混乱しないようになっている、ような気がする。

>(,,゚Д゚) 『人魚か。相変わらず妙なものを引き寄せる』

このセリフも。この世界の人間全員が猫と喋れたり人魚を拾って帰れるのでなく、
内藤が特別なのだということを示しています。
いちいち地の文で説明してテンポを崩すようなことは、少なくともこのお話には向いてなかった。
猫の言葉を借りるなら「そういうものだ」「当たり前の自然だ」を上手いこと読者に擦り込ませているなといった感じです。



内容も非常によかったです。
人間の身勝手さに自然が具現化して呪いをかけにきたら、きっとこういうことが起こり得るのでしょう。
そしてその呪いの衣に心優しい自我があったことがなんとも遣る瀬無い。
いや、衣という表現は正しくない。
きっと酷く醜く見えたという、魚の部分が呪いによって形作られたものだったのでしょう。
そこには恋人への憎しみや憤りが、反対に美しい人間の身には、捨てきれない愛情が、
ないまぜになった情が人魚という形をして生まれた、ということなのか。
せめて人魚なんていう愛着が沸くような姿で現れなければ……と思ってしまうことにまた、人間の浅ましさを感じてしまう……。


一度は寿命を迎えようとしたツンが途端に元気になったのは、多分内藤の心境に変化があったからなんでしょう。
それまで忘れていた元恋人に対する憎しみを新たにしてしまったから、呪いがツンを蘇らせた。
器が死んでしまっては呪いも存在できないから、じゃないかなと思います。
猫はそのことをわかっていたが、風化を待つより早く呪いは進行した。
元恋人と青年が一緒になっているのを内藤が目撃し、また憎しみを重ねたからです。
気付いた頃にはもう魚の下半身は腐臭を放つかのように醜く見えている……といった具合。


と、ここまで納得したはいいのですが、最後の内藤の行動がどうにも不可解で、腑に落ちない。

>なぜ彼らはもっと自由に泳がないのだろうか。
>こんな小さな池で、仲間の肌を感じ続けなければならないのだろうか。

何故こんなことを考えたのでしょう。
「なにもかもが呑み込まれて当然だ。」というのも相まって、まるでツンを産み出したのは自分のせいではない、と開き直っているように聞こえる。
考えすぎでしょうか?


犇めく鯉の中に人魚の姿を探したのもわからない。
自分としては最後の最後にいらない謎が残ってうう~ん……となってしまう。

素晴らしい作品だったことは間違いないのですが、そこだけがどうにも消化不足です……。







( ・∀・) 動悸だったようです

SF、恋愛という2ジャンルをうま~く噛み合わせた作品でしたね。
恋は盲目といいますが、このモララーは盲目になった(かもしれない)から恋をしたと、
まあ上手いこと言おうとしてもこれではちょっとニュアンスが違うような気がしますけれど……。


恋を信じたいけど信じられないモララーの長い長い言い訳。
頭のいい人はしかしながら偏屈で、恋でもなんでも理論立てて考えちゃうのでしょう。
実際に行動を起こすため理由付けをして、自分を納得させたいんでしょうね。
理屈は解るけどそんなに難しく考えなくても……と、この思考の文量に微笑ましくって笑ってしまいます。
モララーのその思考にいきなり「小説」というワードが出てきたのも、
自分を納得させたいがために無理矢理捻出した例えだったんだと思います。


無理矢理捻出した例えとはいったものの、しかしこれが案外と間違っていないのが、「小説」というワードを出した面白いところ。
何故なら、実際にこの一連の出来事が「モララーを主人公とした小説」として我々読者の目に触れているから。


『今までモララーたちがいた世界(EHNYEが暴走する前の世界)』から、EHNYEの暴走により
『モララーを主人公とした小説世界』という可能性宇宙にシフトした世界になっている、ということ。
これが我々読者側の視点で見るとメタ的要素を含んでいて、非常によくできた話だなと感心せざるを得ません。


しかもこの「小説」の例えをモララーは自分を駆動させるためのエンジンとしての例えで出しただけで、
実際に小説になっているのではないか?とは予想もしていないのがまた面白い。
dokuo's legacyやアサピーの車、そういった未来科学よろしくこの小説自体にもこういったギミックが施されている……。
研究員らのおばかな絡みもあって読んでとても楽しい作品です。
特にフロアに水揚げされた魚あたりは何度読み返しても笑ってしまいます。
このドクオたちなら比喩とかじゃなくて本当にビチビチ跳ねてるんだろうなと、容易に想像できちゃいますね。

欲を言えばもうちょっと、ハインの人間性を細かく描写してほしかったと思います。
ハインのどこが好きなのかを問われたモララーが「一番は性格」と言ったことに、
確かに同意できるところもある……けどモララーお前正気かよ、というような、
わかるけどわからない、そんなむず痒さが欲しかった。

一方で永久お年玉機関などというはちゃめちゃで、言ってみればおふざけ100%な現象の対処に、
もう一方ではモララーが超真面目に理論構築していくその文章を読むのが、やはりこの作品の醍醐味だったと思います。
好きな人にとっては本当にがっちり嵌る作品、私にはドストライクでした。