▼・ェ・▼その男、所詮、『犬』のようです。 第3話 猿 中編其の一

666 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:24:08 ID:BhkOODio0





ミ,,゚Д゚彡「なあ、ギコ。最強の能力って何だか分かるか?」






半ばただの宴会と化したウルボロスの決起集会。
喧騒から少し離れた小さなテラス席で髭面の大男、ズブロッカ・フサが前触れも無く対面の弟分に語りかける。

黙々とエールを飲んでいたギコがその質問の意図を計りかね無言で顔をしかめていると、フサは何故か満足そうな顔を浮かべ、エールをグイっと飲み干す。
そして近くにいた部下に代えの酒を注文すると、少し悪戯めいたような喜色を浮かべながら口を開いた。

667 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:25:02 ID:BhkOODio0
ミ,,゚Д゚彡「訳わかんねぇって顔してんな?」

(,,゚Д゚)「実際、訳わかんねぇよ。兄貴。 何だってんだよ、急に」

ミ,,ーД゚彡「何、そんな難しい話じゃあ無えんだよ」


立派に蓄えた顎鬚を撫でつけるフサの顔色は先程と変わらない。
困り顔のギコの顔にむしろ満足したような様子で諭すように続けた。


ミ,,゚Д゚彡「相性とか、もちろんあるさ。使い手自身の身体能力とか、知恵とかも…よ」

ミ,,゚Д゚彡「そう言うの抜きにしてよ。純粋に能力の価値だけの強さで考えた時の話だよ」

668 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:25:45 ID:BhkOODio0
(,,゚Д゚)「ふぅん、あれか? 『時を止める』とか? かの有名なデトロイトのマフィアグループは時間を操るとか聞いたことあるぜ?」

ミ,,ーД゚彡「デトロイトの『DOM』か? まあ、あそこの『ベネディクティン・ファミリー』の力も確かにすげぇ」


あてずっぽうで適当な答えを出し、ギコはすっかりぬるくなったエールを口に含む。
何となく横に視線を向けてると、喧騒の中に新しくボスとなったスニフィ嬢の白い肌が見える。

豊かなバストに引き締まったウェスト。
流れるような美しいボディライン、そして後ろの方で束ねた黒髪が映える美しい顔立ち。
まさにアジアンビューティーという言葉がピッタリではないだろうか。

669 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:26:31 ID:BhkOODio0
(,,ーД゚)(あんな娼婦のようなナリだっていうのに、化物じみた強さを持っているとは、ねえ)


自分の身体を堅牢な鱗でおおい、大型のハ虫類(本人曰く龍だそうだが、ギコには変にデカいトカゲにしか見えなかった)に変体。
さらには火まで吹くという、ファンタジー小説のキャラクターのような力を持つ人間アブソリュート・スニフィが彼の視線の先にいる。

初めて彼女の力を目の当たりにした時は大層驚いたものだ。


ソウサクシティの裏の人間にはそんな力を持つものが、ごまんと居る。
もちろん、彼が所属する『ウルボロス』の中にも珍しくは無い。
仮に対決することになったとして、真っ正面からスニフィと立ち向かうには無謀だろうが、やり方によってはなかなか良い勝負ができる力を持つもつ者もいるだろう。

そう考えると、最強の能力を持つ猛者と言うのは案外近くにいるのかもしれない。
ギコはそんな事を考えていた。

670 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:27:19 ID:BhkOODio0



ミ,,゚Д゚彡「だが、違う」


半ば無意識にスニフィをぼおっと見つめていたギコの視線が、唐突なフサの否定の声に反応して慌てて対面に向き直る。

兄貴分の大男はギコの様子を咎めるでもなく、視線がこちらに戻るのを待っていたかのような笑みを浮かべながら雄弁に騙りだした。

671 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:28:01 ID:BhkOODio0
ミ,,゚Д゚彡「違うな、違う。確かにデトロイトのやつらも強い。もっと言うならお前が夢中なスニフィ嬢の力もハンパねぇ」

(;,,゚Д゚)「いや、そういう訳じゃ……」

ミ,,゚Д゚彡「まあ、聞けや。それに、西のヒートにクール。それに東のハインの力も強い」


うんうん、と頷きながら語り続けるフサの顔はどことなく赤い。
そう言えば見かけによらずに下戸だったか。
半ば呆れるような考えを浮かべ、ぼんやりとフサの顔を眺めていたが、ふいに彼の瞳がギロリと光った。





ミ,,゚Д゚彡「だが最強じゃあ、無え」





.

672 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:29:23 ID:BhkOODio0
フサは代えのエールを一息で飲み干すと、前のめりの姿勢でむんずとギコの方に顔を寄せた。
その顔からは先程までのどこか悪戯めいた笑みはすっかり消えている。


ミ,,゚Д゚彡「いいか、ギコ? よく聞きやがれ。最強っつうのは『先が見える力』だ」

ミ,,ーДー彡「どんなに絶望的な未来が待ってようがそれが分かってればいくらでも逃げれるし、対策も立てれる」

ミ,,ーД゚彡「つまりは無敵さ」


喧騒から離れた、むさ苦しい男2人の密かな晩餐。

もし彼らの仲間がどこかでこの会話を盗み聴いていたならば、恐らく嫌悪の表情を浮かべていた事だろう。

理由は単純だ。
この髭面の大男であるズブロッカ・フサが持つ能力は『未来予知』。
予知できる範囲や確定性にはムラがあるらしいが、それでも戦いにおいて有利になる力ではある。

673 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:30:25 ID:BhkOODio0
第三者から見たら、彼は子分に酒の席にて自慢話をしている嫌なやつに見えた事だろう。
だが真剣な眼差しで兄貴分の言葉に聞き入っているギコは、その話の真意に気付いていた。




ミ,,゚Д゚彡「いいか、よく聞けよ。ギコ?」

ミ,,゚Д゚彡「先が見えるやつは最強だ、絶対に負けやしねぇ」

ミ,,ーД゚彡「俺は……いや、つまり」

ミ,,ーДー彡「『俺達』は」

ミ,,^Д^彡「無敵だ」


ニカッと音が出そうな満面の笑みを浮かべたフサは話の終わりを告げるかのように、4杯目のエールを大きくグイッと飲み干し、豪快に笑いだした。

674 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:35:05 ID:BhkOODio0



なるほど、どうやら最強の能力を持っている人間というのは想像以上に近くにいたらしい。
しかも自分の目では鏡を介さないと、顔を拝めないくらい近くにだ。


目の前で上機嫌に酒を注文する大男を眺めながらギコは静かに思案する。

自分に迫り来る危機を事前に察知し、未来を視る力。
第7感『セブンス・ヘブン』を持った男『ストリチナヤ・ギコ』。





どうやら、彼は無敵らしい。




.

675 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:35:55 ID:BhkOODio0



――瞬間。ギコの視界に自分の姿が写った。
頭蓋が割れ、出来の悪い前衛アートのようにへしゃげた頭の中から脳髄が弾けるようこぼれ出している。


つまり、これは。











――――――――死










.

676 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:37:59 ID:BhkOODio0
(#,,゚Д゚)「うおおおおおおぉぉぉ!!」


本能的に右側に激しく跳躍。

すると、氷水を浴びたような強烈な寒気と暴風のような荒ぶる殺気を身にまとった血まみれの獣が、先程まで彼の頭があった地点を凪ぎ払うように通りすぎた。

受け身も満足に取れず、ただでさえ先の戦闘で傷だらけとなった身体に追い討ちをかけるかのように重い鈍痛が走るが構うことは無い。
どんなに無様に転げ回る事になろうが、フサは自身が『視た』死という名の未来を変える事が出来たのだから。


(;,,゚Д゚)「畜生……!」


薄暗い廃墟にギコの荒い吐息と、悪態が響く。
辺りを見回せば、彼の仲間達だった物がそこら辺に散らばっており、気を抜いたら今にでも嘔吐してしまいそうだった。

677 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:39:05 ID:BhkOODio0
13の若さから裏の世界に堕ち、それから10年以上も地獄と言われるべき光景を見てきた。
暴力、殺人、理不尽。まさにヘドが出るような悪意をヘドが出るほど経験してきた。
だが、そのどれもがこの圧倒的暴力による虐殺処分と比べるに値しない。


泣きたい、叫びたい。逃げたい。

だが一瞬でも隙を見せれば目の前の化物に身体をバラバラに引き裂かれるであろう。
そんなものはわざわざ『視なくても』分かる。分かってしまう。

最強であり、無敵だった筈の男。
ズブロッカ・ギコは今まさに絶望の淵に追いやられていたのだ。





(  ゚∀゚ )「うぅん……?」



ゆらり、ゆらり。
そんな擬音が鳴り出しそうなゆったりとした動作で獣は二度三度と首を捻る?

678 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:39:57 ID:BhkOODio0
眉をしかめ、唸りながら何かを思案するその姿は、幼さの残る顔立ちと相まってこの地獄とのギャップが際立つ。

やがて男は足下に落ちていた女性のものと思われる白い右腕を拾い上げて、フライドチキンでも食べるかのような、ごく自然な動作でかぶり付いた。
小腹が空いたからなんとなく。そんな感じで人肉を頬張る姿は、グロテスクという領域を越え、いっそシュールですらあった。

そしてまたゆらりとした動作で、腰に巻き付けてた、まるでリボルバーのような風変わりなボトルケースから1本酒を抜き取り、そのままゴクゴクと喉を鳴らして流し込む。


(; ー∀゚ )「うぅん……? なぁんでだろうなぁ……?」


いつの間にか、まさに骨の髄までしゃぶりつくした餌だったものを無造作に投げ捨て、酒焼けした声で唸る。

679 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:40:48 ID:BhkOODio0
そして『黒く色付いた吐息』を吐き出しながら、もう一度ウィスキーを味わうと、これまたゆらりとした鈍い動作で目の前で傷だらけの身体を庇いながらこちらを睨み付けるギコの方に視線を向けた。







(  ゚∀゚ )






その男、存外に平凡。


顔立ちは幼く、体格も小柄。
服装も腰に巻いたボトルケースを兼ねた風変わりなベルトを除けば、どこにでもいる青年である。
ミディアムロングの前髪から見え隠れする瞳には赤と黄色が混じったような独特な濁りが出ているが、それもスラム育ちの人間ならば特出する程に珍しい事では無い。

680 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:41:28 ID:BhkOODio0
サイズオーバーのパーカーから覗ける手首は少女のようにか細く、パッと見ただけではこの腐った町の薬づけのよくいる若者。と判断されるだろう。


どこにでもいる、ありふれた弱者、負け組、塵、屑。

彼の風貌はそう思わせる。
特徴的なものが何一つ無い、小柄な青年。それで終わりだ。






その身がおびただしい血液と臓物にまみれていなければ。だが。







.

681 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:43:05 ID:BhkOODio0
(# ゚∀゚ )「アッヒャアアアアアアァァァァ!!」


奇声を上げながら男は飛び出した。
人間離れしたその跳躍速度は猫科の肉食獣の如く、20メートル以上あった筈のギコとの間合いを一瞬で詰め、瞬速の手刀を首筋に見舞う。

しかしその動きを『視ていた』必要最低限の動きだけで首を僅かに捻り回避。


(; ゚∀゚ )「アヒャッ!?」


男は攻撃を回避された事に動揺してか、勢い余ってギコを追い抜かすようかのように飛び抜けた。
そんなスキを見逃す筈無く、ギコは無防備な背中に向かって発砲。

発射された三発の弾丸はどれも獣の背中に風穴を開ける。
心臓は外したものの、常人なら痛みにうめき声をあげながら倒れ込む致命傷だ。

683 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:43:52 ID:BhkOODio0
(;,,゚Д゚)「またかよ畜生……!!」


しかし、目の前の獣野郎は倒れ込むどころか声一つあげること無く、またゆらりとした動作でこちらに振り返る。
そしてまた何か考え込むようにして首を捻りながらうんうんと顔をしかめる。


(;,,゚Д゚)(さっきから何発も何発もぶちこんでるっつうのに……!)


戦いは一方的な筈だった。

首領を殺害された事に対する北への報復。
そこには仁義も礼節も糞も無い。

684 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:44:38 ID:BhkOODio0
自軍28対敵は1人、という圧倒的な数の差。
さらに全員が裏ルートから仕入れた防弾チョッキにベレッタ2丁の完全武装という圧倒的な武力の差。

もはや戦いとも呼べないただの『処刑』が始まる筈だったのだ。









その男が、ただの人間だったのならば。








.

685 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:45:36 ID:BhkOODio0
(; ゚∀゚ )「うぅん。やっぱ、わっかんねえんだよなぁ……?」


男はガリガリと頭をかきむしりながら非難の意を込めたジットリとした視線をギコに送る。
その動作の1つ1つは、彼の容姿以上に幼さをが目立ち、彼がいわゆる健常者とは違うことを感じさせた。


(  ゚∀゚ )「俺はさ、何回も何回もさ、アンタを殺すためにさ」

(* ゚∀゚ )「こう、ビュバーンてなぁ? 飛び掛かって引きちぎろうとしてんだけどよ」

(; ゚∀゚ )「なぁんでかアンタはヒョイヒョイ避けるんだよなぁ……っかしいなぁ? 俺、結構強いんだけどなぁ?」



.

686 :名も無きAAのようです :2016/01/30(土) 20:46:29 ID:BhkOODio0
その男、平凡。

その男、幼稚。

だがその男……






(;,,゚Д゚)(こいつが……北の『食人鬼(グルメマン)』)

(;,,゚Д゚)(不死身の化物、『ラフロイグ・アヒャ』!!)




――――――只の人間に在らず。




.

701 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:20:17 ID:N4Nyq1Is0
ソウサクシティの北を征する『ナインテール』。
創設から一番年が若い新鋭の組織なのだが、他のマフィアグループ達とは決定的な違いがある。

それは構成メンバーの人数だ。


数は力。とはまさに言葉通りで、組織を大きくするにはまず人員が必要だ。
数を揃えて組織を大きくすることで、そのグループは強大な後ろ楯になり、その力を頼ってまた人が集まる。

数多くの傭兵をうまく使っているため、純粋なグループメンバーが殆ど居なくても成り立つ東の巨大グループ『クリムゾンヘッド』ですら30人以上の構成員を持っている。

702 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:21:45 ID:N4Nyq1Is0
にも拘らず、北の『ナインテール』はその首領である『アードベッグ・フォックス』を含め、わずか3人しかメンバーが居ない。

あぶれ者達が集い、小さな悪事を働くような小さなグループならまだしも、北側の広大なシマを牛耳る組織としてはまさに異常。
しかも噂では首領である筈のフォックスに関しては、そこらにいるような一般人と戦闘力が変わらないと言われている。

普通に考えればそんな弱小な男がまとめるような組織など一瞬で潰されてしまう事であろう。
では何故そんな吹けば飛ぶような無力な男が作り上げた組織が、北を代表する巨大な力を得たのか。

703 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:25:44 ID:N4Nyq1Is0
それは彼の優秀な2人の部下。

姿形は平凡そのものだが、どんな大軍も無惨に殲滅し、なおかつ自身は全く傷を負わない。

そんな不死身の『魔女』と『食人鬼』の存在だ。





(; ゚∀゚ )「うぅん……困ったなぁ。俺ぇ、早く帰って、ディナーの支度をしなきゃいけねぇんだけどなぁ」


ゆらり、ゆらり。
酩酊するかのように身体を揺らしながらぶつぶつと呟く様はどこか不気味である。
食人鬼の詳しい能力は一切不明だ。

ただ、決して死なず。
そして圧倒的なスピードで敵陣を駆け回り、その怪力で全てを引き裂き、そして手頃な獲物をエサとして食すのだそうだ。

705 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:27:05 ID:N4Nyq1Is0
(* ゚∀゚ )「今夜はなぁ、日本料理を作るんだよ。アンタ、知ってっかぁ? 日本食って、ヘルシーで美味いんだぜぇ? アヒャヒャヒャ……」


まるで友人にでも語りかけるような軽い口取りは食人鬼の二つ名とは似ても似つかない。
だかしかし、ギコは今後自分にふりかかるであろう執拗なまでの獣からの攻撃がしっかりと『視えて』おり、静かに戦慄していた。


(  ゚∀゚ )「まぁ、だからさぁ? 時間も無ぇことだしぃ? 」

(  ∀ )「そろそろ本当に……」


(;,,゚Д゚)(来るか……!!)


瞬間、空気が氷つく。
どす黒く色付いた殺気がアヒャの身体から勢いよく吹き出した。

706 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:28:58 ID:N4Nyq1Is0





(# ゚Д゚ )「死んでくれやああああああぁぁぁぁぁ!!」





瞬間、迫る死の影。




(#,,゚Д゚)(糞!!)




神速、その一撃。
まさに神速。


まともに避けようにも、常人には目にも止まらぬ毒手がギコに襲い掛かる。
予めアヒャが首を狙うことを『視ていた』彼は体勢をくずしながらも強引にバックステップを取る。
同時に、鎌鼬のような手刀がギコの目の前で吹き荒び、彼のくすんだ金髪がヒラリと何本か舞った。

707 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:31:59 ID:N4Nyq1Is0
その威力と速度に息を飲む間もなく、今度は心臓を狙った左手による突き。
身体を思いっきり捻り、どうにか直撃は免れたものの、風を裂く食人鬼の左腕は僅かにギコの身体を切り裂き、霧のような血液が空を舞う。

痛みに歯を食い縛るギコの視界に、今度は右脚を砕かれた自分の姿が『視えた』。
大きくしゃがみこんだアヒャが遠心力をいっぱいいっぱいに使った回し蹴りがまるで草木を刈るかのように彼の脚を破壊する光景が。



(;,,゚Д゚)(この流れで脚は不味い!!)


圧倒的な破壊力の差の前に、逃げの一手に回るしかないギコにとって脚を失う事はまさに死と同義であろう。
強引に距離を取ろうとするも、先程までの戦闘のダメージがここになって一気に響いたのか、ギコの身体から力がフッと消え、そのまた倒れこむようにグラリと体勢を崩した。

708 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:32:53 ID:N4Nyq1Is0
(;,,゚Д゚)「しまっ……!?」



瞳が見開かれ、全身の毛穴という毛穴が開き、途方もない量の汗が吹き出し、やがて身体が凍りつく。
これは、紛れもない。

死の予感。







(  ∀゚ )「死んじゃえ」






無慈悲なまでに無邪気な、低くしゃがれた食人鬼の一言と共に、虚空に弾けるように血の雨が吹き出した。

709 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:34:58 ID:N4Nyq1Is0







―――――そう。





(;,,゚Д゚)(なっ……!?)

(; Д,, )「………ごばっ!?」



―――食人鬼、ラフロイグ・アヒャの首筋から。







.

710 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:35:43 ID:N4Nyq1Is0
(;,,゚Д゚)(何が……!?)


首筋を庇うように両手で覆うアヒャの表情は驚愕に染まっている。
九死に一生を得たギコだったがあまりに突然の出来事に一瞬、身動きが取れなくなる。
しかしこの機会を逃すまいと瞬時に悶え苦しむ食人鬼から距離を取ると、即座に辺りを見回し警戒する。


(;,,ーД゚)(一体誰が……!?)


必死の形相で辺りを見回すギコの耳に、悶絶するアヒャの声にもならない悲鳴に混じり、革靴がアスファルトを叩く足音が響いた。

711 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:36:39 ID:N4Nyq1Is0
「……北の、食人鬼。か」



暗闇の向こうから、足跡と共に機械のように冷淡な男の声が響いた。



(; ∀゚ )「あっ……あんだ……っ!?」


暗闇から徐々に大きくなる足音の向こうに、自分の首を刻んだ奴がいる。
第三者の声にアヒャが殺意の籠った視線を向けた。

だがそれと同時に……

712 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:38:32 ID:HuFl1.pw0
(; Д,, )「………ごがっ!?」

(;,,゚Д゚)「なっ!?」


再度、『見えない何者か』による攻撃。
必死に喉を庇っていた両手ごと切り裂かれ、アヒャの小さな身体が痛みと驚愕に震えだした。


「貴様に問う。北の敵が南だけだと思っていたのか?」


響く足音と共に、前触れもなく再び、一閃。
不可視の斬撃。

見えない刃はアヒャの両目を一文字に切り裂き、一瞬で彼の世界から色を奪い取る。
耳をつんざくような悲鳴を上げる彼に追い打ちをかけるかのように、謎の刃はアヒャの両足を深く抉り、腱を切る。
たまらず冷たいアスファルトに転げ回る彼だが、その喉元と瞳の傷はすでに黒い煙を患部から吹き出しながら、徐々に回復の兆しを見せていた。

713 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:41:21 ID:HuFl1.pw0
(; ∀ ゚ )「だっ……誰だぁ……?」


眼球を見事に切断された事により微妙に中心線からズレ出した眼球で、必死に暗闇から声の主を睨み付けるアヒャの形相はまさに人ならざる者の姿であった。


それと同時に、第三者による、全く視る事の出来ない謎の攻撃の恐ろしさを間近で観察していたギコも、思わず息を飲んでいた。


(;,,゚Д゚)(見えなかったぞ!? あんな距離から一瞬で!?)

(;,,゚Д゚)(急所を確実に、しかも同時に何ヵ所も切断だと?)

714 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:42:20 ID:HuFl1.pw0
不可視の攻撃。

その時点で、まず常識では考えられない程の驚異である。
しかもこの地獄への乱入者はそれを遠距離から可能にしてみせたのだ。

もしこの攻撃の矛先が自分に向かったら……
そう考えた瞬間、ギコの全身が一気に凍りついた。



「ふむ。人に名を訊ねる時はまず自分から……というのが一般論なのだが?」


コツゥン、コツゥン。
不可視の者の、足跡が響く。

715 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:43:02 ID:HuFl1.pw0



( ゚д゚ )



闇から這い出るように現れたその影は、鋭い眼光を持ったスーツ姿の長身の男だった。金色の髪はオールバックで纏められてあり、全体的にストイックに纏められたスーツスタイルも相まって、とても腐ったスラム街の人間には見えない。

右手に、これ見よがしと握ってある大振りのククリナイフさえ無ければ、一流企業に勤めるエリートと説明されれば誰しもが納得するだろう。




(; ∀゚ )「お、俺ぇ……馬鹿だからよぉ。よくわっかんねっけど」



弱者を見下ろすような、スーツ姿の男の冷めた視線を受け、地面に伏していた食人鬼がゆらりと立ち上がった。
その身体からつい先程までの痛々しい傷痕はすっかりと消えており、炯々と不気味に濁り、輝く瞳からは獲物を狙う獣の魂が見てとれた。

716 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:43:55 ID:HuFl1.pw0
(  ∀゚ )「まぁ、要はぁ? 早い話がぁ……」


ドンッとまるで爆発するかのようにアスファルトが割れる音が響いた。
その瞬間、すでに血に飢えた食人鬼は砲弾のような勢いで宙に飛び出し、まさに怪物のように乱入者に飛びかかる。



(# Д゚ )「テメエも敵かあああああああぁぁぁぁ!!」


(;,,゚Д゚)(早っ……!?)


先程までのギコとの戦闘よりも鬼気迫る表情で飛び掛かるアヒャの勢いは、まさに獣を越えた化物そのもの。
瞬きをする間に男の頭上に達したアヒャがその口を勝利を確信した愉悦の色に歪め、まさに必殺の毒手を男の頭蓋に降り下ろす!

717 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:45:03 ID:HuFl1.pw0





( ゚д゚ )「『スリー・ミラー』」



その直前。


(; Д )「………がっ……!?」



切断。


一撃が届くかと思われた、その刹那の瞬間。

男の一言と、それと同時に繰り出された見えない斬撃によって、アヒャの、右手が、右腕が、そして首が。
動力を失った肉の塊が間抜けなまでに、見事に宙に放り出され、やがてボトボトと無様に地に落ちていった。

718 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:46:08 ID:HuFl1.pw0
( ーд゚ )「ふむ。名を名乗る前に殺してしまったか……まあ、だが礼節は重んじねばならぬな」




処刑。
その男、一歩も動くことなく、見事に処刑。




( ゚д゚ )「私の名はミルナ。西の『イエローモンキー』幹部『デュキャスタン・ミルナ』だ」

( ゚д゚ )「今回は偉大なる父、リシャール・ニダー様の代理である美しきヘネシー・クール様の命により馳せ参じた」

( ーд゚ )「北の『食人鬼』か。貴様も強者を名乗るなら己の身の程を弁えて行動すべきだったな。まあ、もう聴こえないだろうが1つ、貴様に金言をくれてやろう」

719 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:46:53 ID:HuFl1.pw0
口をポカンと開けたまま地面を転げまわる食人鬼の生首を見下ろすようにして、乱入者デュキャスタン・ミルナは無機質なまでに冷たく、こう言い放った。






( ゚д゚ )「『She・more・glass』。もっと、鏡、ちゃん。と、視るべきだったな」






デュキャスタン・ミルナ。
その二つ名は『暗殺』

決して銃を使わず、右手に握った鏡のように磨きあげられた特性のククリナイフ 1本でありとあらゆる敵を瞬殺。
決して自らが『仕事』を行う瞬間を誰にも目撃されたことが無いという、不可視の一撃を得意とする。

彼こそが、西の『イエローモンキー』に所属する、ありとあらゆる敵を確実に処刑してきた暗殺のプロフェッショナルなのである。

720 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:47:47 ID:HuFl1.pw0
( ーд゚ )「……さて」

(;,,゚Д゚)「……!?」

( ゚д゚ )「ああ、警戒しないでくれ。私は貴殿の味方だよ」










だからこそ、気付かなかったのであろう。




(  ∀ )




すっかり興味を失った生首に背を向け、警戒するギコに語りかけるその瞬間。

721 :名も無きAAのようです :2016/01/31(日) 22:48:44 ID:HuFl1.pw0
(  ∀ )



(  ∀ )










( (   ∀゚ ))




切り離され、無様に地に転がる食人鬼の瞳がギロリと動いた事に。




.







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