▼・ェ・▼その男、所詮、『犬』のようです。 第2話 天使 後編

442 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:02:58 ID:ahzEFXIY0
青空の下、小鳥のさえずりが響く。
吹きだまりのスラム街と言えど、永遠に曇り空が覆っている訳もなく、その日の空模様は快晴。
くすんだ町並みに同化するソウサクシティの住人達もどこか晴れやかな気分だった。

そんな爽やかな晴天の下、小さな少年がヨタヨタとふらつきながら大通りを歩いている。


(;><)「あうあうー……ちょっと貰い過ぎちゃったんです……」


背丈は150あるか、無いかと言ったところ。
その腕もその脚も、強く握ってしまえば折れてしまいそうな程に細く、くすみの無い白に染められた肌の色が、その儚さみたいなものを強調している。

443 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:04:28 ID:ahzEFXIY0
頭にはかなりオーバーサイズと思われる茶色のキャスケットをすっぽり被り、そこから、はみ出るようにして顔を出すくるくるとカールしたふわふわの金髪は、まるで童話やら神話やらに出てくる小さな天使を思わせるそれで、お日様の輝きに応えるようにきらきらと輝いている。


顔つきは幼く、どことなく女性っぽい。
細目の奥からは宝石のように青い瞳が小さく輝き、目元から羽のように生える長めの睫の色はヘアーと同色のきらきらとした小麦のような金。
鼻は少々低めで、唇はぷっくりとふくらみ、わずかにピンク色をおびている。
頬はぷっくりと膨らみ、リンゴほっぺという形容詞がぴったりで、この天使のような少年の幼さを全体的に強調させているようだ。

444 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:05:44 ID:ahzEFXIY0
ところどころに汚れが目立つ白いシャツに、サスペンダー付きのチェックのハーフパンツ。
首もとにはチープな服装とは対照的に高級感の溢れるワインレッドとシルバーのロザリオが垂れ下がるように輝いている。
しっかりとふくらはぎの辺りまで伸ばした白いソックス、それからパッと見ても少し傷みが目立つ黒いスニーカー。

そして両手で抱えるようにしてしっかりと抱えた大きめの茶色い紙袋。
その口の方からは少年が歩く度にひょこひょこと焦げ茶色のクロワッサンが顔を出し、危うく落っこちそうにならないかと見ているものを不安にさせることだろう。


まるで天使のように愛らしい。と皆が口を揃えながら庇護欲や母性を掻き立てる。
そんな魅力が、この金髪の小さな少年『フランジェリコ・ビロード』には確かにあった。

445 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:06:31 ID:ahzEFXIY0
(;><)「ベーカリーのお姉さん、優しくていっぱいオマケしてくれるのは嬉しいんですけど……」


2、3歩進めば右によろよろと寄り。
2、3歩進めば今度は左によろよろと。
すれ違ったスラムの住人の張り積めた顔が思わずほころんでしまうような微笑ましい光景。
だが、本人的にかなりはいっぱいいっぱいの状況のようで、額からは汗も浮かんでいる。


(;><)「いくらなんでも多すぎるんです! 100ドル分のクロワッサンを下さいって言ったのに、これは明らかに300ドル分ぐらい入ってるんです!」

446 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:07:17 ID:ahzEFXIY0
いきつけのベーカリーのお姉さんは気前がいい。
彼女にショタコンの気質があるのか、それとも単に幼い顔つきのビロードに母性をくすぐられるのかは定かでは無いが、いつもいつもビロードがパンを買いに行くたびに沢山のオマケをして貰う。

だが、今回ばかりはお姉さんの善意が裏目に出てしまったらしく、紙袋にほとんど遮られた視界を必死に凝らしながはビロードはヨタヨタと歩みを進めていた。
しかし、前へ前へと注意を向けていると足下がお留守になるもので、彼の右足がレンガの窪みに引っ掛かる。


(;><)そ「ふみゃああ!?」


バタンと音を立てながらスッ転ぶ。
せっかくの美味しいクロワッサンを落とさん、と両手で紙袋をしっかりと庇っていたものだから顔面から勢いよく大地にキス。
幸い大きな怪我は無かったものの、鼻の辺りを打ち付け軽く擦り傷を作ってしまった。

447 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:09:00 ID:ahzEFXIY0
(;><)「あうあうー……痛いんです……」


小さめな鼻の頭を擦りながら涙目で立ち上がるビロード。
ただでさえ低めの鼻がさらに潰れたりしてないだろうか。
そんな心配事に頭を悩ませている時、彼の視界にころころと転がる茶色い物体が横切った。


(;><)「あっ!? クロワッサン!!」


ビロードの必死のファインプレーのお陰で奇跡的に紙袋内の戦利品には大きな被害が出なかったようだが、それでも勢いあまって1匹だけころころと逃げ出してしまったらしい。
不規則に揺らめくように転がっていくこんがりクロワッサンは斜面に従って下に下にと転がり、やがて引き寄せられるかのように小さな路地裏に入ってしまった。

448 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:10:02 ID:ahzEFXIY0
(;><)「あぁ!? 待って欲しいんです!」


ビロードはパタパタと慌てた様子で曲がり角に消えたクロワッサンを追いかけていった。








.

449 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:10:49 ID:ahzEFXIY0



(;><)「あうう……汚れちゃったんです」


路地裏に入って5メーター程のところでようやく停止したクロワッサンは全体に砂ぼこりを被っており、とても食べられる品物ではなかった。
ガックシといった表情で両手でクロワッサンを優しく掴み、引き返そうとするビロードだったが、彼の足は聞きなれない大声に引き留められる事となった。


「目障りなんだよこの死に損ないが!!」


若い、男の声だった。
路地裏の奥の方から、男の怒鳴り声。

450 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:12:12 ID:ahzEFXIY0
( ><)「今のは……?」


一瞬、怒気を孕んでいるだろう大声に恐怖で固まったビロードだったが胸元のロザリオを左手でぎゅっと掴むと、恐る恐る声のした方向に進んで行った。


声のする方に近づく度に、若い男達の笑い声と、何かを打ち付けるような鈍い音が聞こえてきた。
足音を立てないよう、道なりに進むと、やがて薄暗く、滅多に人が近寄らないであろう曲がり角に突き当たった。


( ><)(この先から声がするんです)


壁に身体を張り付けるようにして支え、恐る恐る覗き込む。

451 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:13:50 ID:ahzEFXIY0
彼の視線の先には3人の若い男、それからボロボロの黒いローブに身を包んだ男がうずくまっているのが見えた。


( ノAヽ)「おら! 悲鳴の1つでもあげてみろよホームレス!!」

( `ー´)「俺ら楽しませないと殺しちゃうよーん?」

(   )「……!」

暴力だった。

純粋な少年の目に写っていたのは、鉄パイプやらナイフやらを持った若者が、無抵抗のホームレスを殴り、蹴り、いたぶる。
まさに純粋なる暴力の現場だった。


(;><)(何であんな事……!?)

452 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:15:47 ID:ahzEFXIY0
このような事は大して珍しい事ではない。

晴れやかな青空の下でも街の何処かでは銃声が鳴り響き、また何処かでは若い女が強姦されて捨てられる。
そういった、どす黒い日常が当たり前になったこのソウサクシティでは暴力行為などまさに日常茶飯事。

さらに言うなら住所も市民権も剥奪されたホームレスは理不尽な暴力の対象にはうってつけで、ほぼ毎日のペースで誰かしらがリンチにあい、殺され、放置される。
それが、腐りきった吹き溜まりの『当たり前』の光景だった。

しかしそれでも、暴力から遠ざけられ、スラム街の数少ない良心によって育てられた無垢なる少年、ビロードにとってその光景はあまりにもショッキングで、あまりにも赦しがたい光景だった。

453 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:16:36 ID:ahzEFXIY0
(;><)(酷過ぎるんです……このままだったらあの人、死んじゃうかもしれないんです!)


恐怖でカタカタと小さい身体を震わせながら、必死で目の前の悪行から目を背けまいと葛藤するビロード。
しかし、まさに最悪のタイミングで男の1人が笑いながらこう言った。


(  ゚¥゚)「うーし。飽きてきたし、そろそろ殺すか」


ビロードは自分の耳を疑った。
あんな何でもないような笑顔で、今あの男は目の前の弱者を殺すと言ったのだ。

そして男はうずくまるホームレスにサッカーボールを蹴飛ばすようなキックを1発入れると、右手に握っていた鉄パイプのようなものをゆっくりと振り上げた。

454 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:17:21 ID:ahzEFXIY0
(;><)(嘘……嘘……!)

(;><)(止めてよ……止めてよ……!!)


やがて若者の手にしっかりと握られた、その細長い鉄の固まりがゆっくりと浮かび上がり、やがて宙で静止した。
そして得物を握り締めた男は自身の足元に無様に崩れ落ちる浮浪者に、まさに汚物を見るような表情で吐き捨てるように死刑宣告を告げた。


(  ゚¥゚)「死ね」


男の右腕に力が入り、うずくまる男の脳天をかち割る為に勢いよく鉄パイプを降り下ろす。

その瞬間……

455 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:21:11 ID:ahzEFXIY0
(# ><)「止めて下さい!!」


薄汚い路地裏に、少年の天使のようなボーイソプラノが響き渡った。

目の前で繰り広げられる明らかに理不尽な暴力の現場に、信仰深き少年、フランジェリコ・ビロードは堪えきれずに飛び出したのだ。


(# ><)「何でそんな酷いことをするんですか!! 僕にはわかんないんです!!」

(# ><)「あなた達の兄弟に謝りなさい! あなた達の両親にあやまりなさい! 偉大なる父にあやまりなさい!」

(# ><)「それから何よりも! その男の人にいっぱい謝りなさい!!」

456 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:22:38 ID:ahzEFXIY0
うずくまるホームレスを指差し、幼い顔立ちに必死に怒りの形相を浮かべ男達に詰め寄るビロード。
いきなり登場して、かん高い声で必死に叫ぶ少年に、最初はポカンとした様子で停止していた男達だったが次第にその表情が怒りで赤く染まり、ビロードを取り囲むように近付いていった。


(# ノAヽ)「テメェ、ガキ、こら? 誰に向かって口聞いてんだ?」

(# ><)「僕はガキじゃないんです! 『平和な交差点(クロスロード)』にある教会の1人息子のフランジェリコ・ビロードなんです!!」

(# `ー´)「交差点? あのボロボロの馬小屋みたいな教会のガキか」

(;><)「馬小屋じゃないんです!! た……確かにちょっと古いけど、お馬さんはいないんです!!」

(# ゚¥゚)「あーうるせうるせ!」

457 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:23:27 ID:ahzEFXIY0
痺れを切らした男の1人が持っていた鉄パイプを地面に激しく打ち付けた。
骨に響くような無機質な打撃音と、大地を通して伝わるその衝撃にビロードの身体が小さく震えた。


( #  ゚¥゚)「テメェが安全地帯の交差点に住んでるガキだからって、俺らが手出し出来ないと思ってる訳?」


もう一度、打撃音。
今度は先程よりも大きく、そして怒りを込めた一撃。
男達と少年の距離が、また1歩縮っていく。

458 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:25:12 ID:ahzEFXIY0
( ノAヽ)「つーかよ? このガキ女みてえな顔してんな? バラす前に廻す?」

(;><)「なっ……なにを!?」

( `ー´)「いいねいいねー。汁まみれにした生首だけ教会の前にプレゼントってどうよ?」

( ノAヽ)「おっ! それいいじゃん!! んじゃ……」

(  ゚¥゚)「決まりだな」


男達の鋭い眼光にビロードは声にならない悲鳴を上げながら後ずさる。
だが2、3歩後退したところで自分自身の足にもつれ、そのまま引っ掛かるように尻餅をついてしまう。
小さな悲鳴を上げるも、獣のような表情と色欲を露わにした男達の歩みは止まらない。

459 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:26:37 ID:ahzEFXIY0
(。><)「や……止めて下さい!! そんな愚かな行為は父が悲しみます!!
だから、だからとにかく止めて下さい!!」


精一杯の虚勢をあげるビロードだったが、その身体はガクガクと震え、涙目で男達を見上げるばかり。
少女と見間違えてもおかしくない美少年のその表情や仕種は、男達のサディズムを煽るだけで下品な笑い声が小さく漏れた。


( `ー´)「んじゃ、まあ、とりあえずは」

(  ゚¥゚)「お楽しみって事で」

(。><)「やっ……やだぁ……!」


ニヤついた笑みを浮かべる男の腕がゆっくりとビロードの肩にかかる、その瞬間……

460 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:27:28 ID:ahzEFXIY0







―――男の身体は弾丸の如くぶっ飛んでいた。








.

461 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:30:59 ID:ahzEFXIY0
(。><)「え?」

( ノAヽ)「は?」

( `ー´)「あ?」


唖然。
その瞬間、見事に、唖然。

ビロードに手を伸ばそうとした鉄パイプを構えた若者は、何かの衝撃に強く弾かれ顔面からキスをするように向かいの壁にぶっ飛び、そのまま激突。
何かが砕けるような轟音をたて、壁に血しぶきを撒き散らし、ずるりと間抜けな顔で地面に横たわる。

462 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:31:57 ID:ahzEFXIY0
男は吹き飛んだ衝撃で気を失い、鼻は無様に陥没。
前歯を始め、何本もの白い歯が所々に四散している。
激突した壁には部分的ながら小さなクレーターが生まれていて、その速度の異常さを物語っている。


(。><)「……ふぇ?」


男2人も、ビロードもあまりに突飛で現実離れした光景に固まっていた。


この世界、特に不法地帯の吹き溜まりのソウサクシティには不思議な力を持つ人間が数多く集まる。

例を上げるなら『赤い悪魔』と恐れられるクリムゾンヘッドの女首領、『MM・ハインリッヒ』を始め、平和の交差点の秩序を守る謎の『紳士』であるジョニーウォーカーこと『デミタス』。
南の新勢力として名を轟かすウルボロスがリーダー『龍戦士』の『アブソリュート・スニフィ』など。

463 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:32:52 ID:ahzEFXIY0
彼らは理屈で片付けられない、非化学的な『超能力』とでも言えるべき力を扱う。
その存在はアウトローの住人達に、噂や都市伝説のような不確かな存在として伝わっていた。
現にマフィア同士の抗争では、選ばれた力を持つ者達が、圧倒的な力をもって戦場を死地へと変貌させる光景を何度も繰り広げて来た。

だがしかし、キャスケットをかぶった小さな少年、フランジェリコ・ビロードにはそんな驚異的な力は無い。
ただ人より、ほんの少しだけ正義感が強く、幼い頃から教会で育てられた為、人よりも信仰心が厚いだけの、ひ弱で無垢な少年だ。
おまけに今年で15才に迎えたというのに、その背丈は150あるか無いかで手足も棒っ切れのように細く、見るからに重いものを持ち上げるような筋力など無い。

464 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:33:36 ID:ahzEFXIY0
そんな少女のような見た目の彼が、自分より明らかに30センチ近く背の高い荒くれものの男を、自分の後方に勢いよくぶん投げるような荒業が出来るわけが無い。


では他の2人はどうだろうか?
ぶっ飛んだ男の仲間である2人は、ガタイも良ければ、腐ってもソウサクシティ育ちの人間、そこら辺のチンピラよりもよっぽどケンカ慣れしており、実のところ既に5人以上の人間を殺害している立派な悪人である。

とは言え、大の大人を弾丸のような速度でぶっ飛ばす人間離れした筋力を持っている訳でも無ければ武道の心得も無い彼らにそのような芸当は出来るはずも無いし、そもそもこのタイミングで仲間割れを起こし、わざわざ相棒を再起不能にする理由が無い。

465 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:46:51 ID:ahzEFXIY0
つまり少し考えれば、この場にいる3人には大の大人を一瞬で吹き飛ばし、壁にぶち当てるという奇妙な荒業は不可能という事になる。


では、この異様な蛮行の犯人は誰なのか?
ビロードに若者2人、さらに間抜け面を晒しながら気絶している被害者を除き、この場にいた人間。

これらの条件を考慮した上で必然的に導き出される解答は?


( ><)「あ……」

466 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:47:38 ID:ahzEFXIY0
ビロードが掠れた声を搾り出しながら、何か恐ろしいものを見るように男達の後方をゆっくりと指差した。
それにつられるように勢いよく振り向いた男達の視線の先にいたのは、もぞもぞと蠢きながら立ち上がる何か黒い塊。


(   )「……」


そう。
先ほどまで彼らが暴行をはたらいていた、黒いローブに身を包んだホームレス。

所々に血や砂ぼこりにまみれたボロボロのローブに顔をスッポリと隠した細身の男が、ゆらゆらと不規則に揺らめく陽炎のように立ち尽くしていた。

その表情をしっかりと目視する事は出来なかったが恐らく口元であろう部分から、童話に出てくるチェシャ猫のようなギザギザとした白い牙が妖しく輝き、かすかに左右に揺れるその身体はどこか笑いに身を震わせているようにも見える。

それを認識した男達の行動は速かった。

467 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:48:24 ID:ahzEFXIY0
(# `ー´)「テメェ!!」


いち早く男の犯行に気付いた、細身の若者が右手にナイフを構え、懐に飛び込もうと構えをとる。
そして跳躍するかのように大股の1歩を踏み出すと同時に構えた右腕を横に振り払い、浮浪者の喉元を切り裂こうと狙いを定める。

だが伸びきった若者の右腕に握られたバタフライナイフが黒いローブの喉元に触れる直前に、ローブを翻しながら矢のような勢いで伸ばされた青白く筋ばった細腕がその右手首をしっかりと掴み上げ、瞬時に異様な力で内側に思いっきり捻り上げた。

468 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:49:22 ID:ahzEFXIY0
(;`ー゚)「いぎゃっ!?」


身体ごと持ってかれるような怪力を間接の1点に受けた若者はあまりの激痛にかん高い声で鳴く。
あっという間にナイフを落とし、そのまま倒れるかのように体勢を崩した男の鳩尾に、まるで突き刺さるかのように浮浪者の右膝が打ち込まれる。

その威力、強大。
平均的な成人男子以上の体つきをした若者の身体が膝蹴りの衝撃だけで、身体をくの字に折り曲げながら霧のように吐血。
足下はちょうど50センチ程、地面から浮いており、出血の具合と白目を向いた表情から察するに彼の内臓の一部は確実に破裂している事だろう。

469 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:50:24 ID:ahzEFXIY0
(; ゚ 3゚)「ごぶっ……!!」


豚のような悲鳴を上げながら、ローブの男の膝を台座にするように宙に浮く男。
1秒にも満たないその僅かな虚をつくように浮浪者の皮を被った怪物の追撃が始まった。

まるでスローモーションのように浮かび上がる若者の首根っこをがっちりと左手で掴むと
、既に宙に浮いている身体をさらに高く浮かび上がらせるように力任せに引っ張り上げる。
そして彼のリーチの限界と思われる、約2メーター弱の高さまで失神寸前の若者の身体を持ち上げた瞬間、引力をターボ代わりに、伸びきった左腕をまるでバレーのスマッシュのように勢いよく振り下ろし、そのまま後方の地面に叩き付けるようにぶん投げた。

470 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:51:46 ID:ahzEFXIY0
(####゚)「……!!」


その衝撃で辺りの大地は地震が起きたかのように僅かに軋み、肝心の若者の顔面はもはや生死を判別する事が不可能な程に崩壊。
辺りに血しぶきが舞い、崩れたレンガ状の地面の一部が衝撃で埃のように立ち上がる。


(;ノAヽ)「ひぃっ!?」


仲間の身体が一瞬で破壊された光景を目の当たりにした、もう1人の若者は小さく悲鳴を上げながら身を翻し逃亡を図る。
表情は恐怖一色に染まり、左手に構えていた金属バットも投げ捨て、一目散に逃げ出そうとする。

471 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:53:28 ID:ahzEFXIY0
(   )「……」


ローブの男はまるで大地を滑るように、必死の形相でスタートダッシュを切った若者との距離を一瞬でつめる。
低くした体勢を跳ね上げるかのような加速をつけながら、背を向ける男の股間を右足で思いっきり蹴り上げる。
『黒いベルトブーツ』におおわれたその爪先は薄汚い若者の大ぶりの睾丸の右側を見事に捉え、ぐちゅっと生々しい音を立て、文字通り潰してみせた。


(; ノA゚)「ぺぎょっ……!!」


もはや声にならない悲鳴を上げながら股間を庇おうと四つん這いになる若者。
だがこの隙だらけの瞬間を見逃す訳もなく、ローブの男は崩れ落ちる若者の右足をがっちりと掴む。
瞬間、まるで農家が根菜を思いっきり引っこ抜くかのようなフォームで、右腕1本で強引に若者の身体を持ち上げてみせた。

472 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:54:27 ID:ahzEFXIY0
(; ノA゚)「ひぃ……!?」


ローブの男は右足を軸に身体を大きくツイストさせる。
悲鳴を上げる若者をまるで棒切れでも振り回すかのような勢いのまま、自身を中心に宙に弧を描くかのように振り下ろし、後方の地面に思いっきり叩き付けた。

地面がわずかに抉れ、前歯と思われる白い物がその光景をただ茫然と眺めるビロードの目の前に飛んでいった。
一方的な蹂躙を見せ付けてみせた妖しいローブの男。

ゆっくりと振り向き、茫然と立ちすくむ無垢なる少年ビロードの方へ視線を向ける。

473 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:55:43 ID:ahzEFXIY0
(;><)「……」

(   )「……」


やがて路地裏に大きな風が吹く。
辺りに転がる汚物やゴミが宙に舞い、腐臭が立ち込める。
そして、そのスラムの風は顔をスッポリと覆っているローブさえも拐って行った。


フードに隠れた怪人の素顔が、立ちすくむビロードの眼下に、晴天の下に、静かに晒された。

474 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:58:50 ID:ahzEFXIY0
▼・ェ・▼




犬。



▼・ェ・▼



犬だった。

475 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 06:59:38 ID:ahzEFXIY0
( ><)「……」

▼・ェ・▼「……」

( ><)「……」

▼・ェ・▼「……」

( ><)「……」

▼・ェ・▼「……」


風が吹く。
カラカラと、金属製の何か小さいパーツのような物が転がる音だけが響き、風が止むと共にまた静寂が訪れる。

476 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:00:29 ID:ahzEFXIY0
( ><)「……」

「……」


無言。
この2人、無言。

やがてその静寂に、少年のボーイソプラノが響いた。


(* ><)「ワンちゃんなんです!!」

▼・ェ・▼「……」

(* ><)「貴方はワンちゃんの妖精さんなんですか!?」

▼・ェ・▼「……」

( ><)「……」

▼・ェ・▼「……」






▼・ェ・▼「……ちがうよ?」

(;><)そ「違ったんです!!」

477 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:01:27 ID:ahzEFXIY0



後に、ソウサクシティに嵐と混乱を巻き起こす事になる希代の変態『犬』。

後に、ソウサクシティに恐怖と不幸をもたらす事になる無垢なる少年『フランジェリコ・ビロード』


腐った吹き溜まりであるこの街に、自身が大きな衝撃を引き起こす事を彼らはまだ知らない。


これが、『天使』と『狂犬』、2人の出会いだった。


.

478 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:02:26 ID:ahzEFXIY0







――――――――――――――――――――







.

479 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:16:58 ID:ahzEFXIY0
ソウサクシティの東側。
娼館が数多く立ち並ぶ事で有名な東でも、最低限必要な店というものはある。
コンビニやドラッグストアに酒場、銃器の専門販売店などだ。

腐りきったこの街では武器や薬なしでは出歩けない。
そこらで鉛玉と血飛沫が飛び交うこの街では当然、怪我人の数も半端ではない。
つまり、必然的に怪我人を治療する大きな施設が必要になるのである。







.

480 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:18:17 ID:ahzEFXIY0
室内は白で統一されており、スモークガラス状の窓ガラスからわずかに日の光が射し込んでいる。
治療器具の電子音が規則的に小さく鳴り響く室内に1人の怪我人と1人の見舞い客が会話をしていた。


<_プー゚)フ「なあなあビコったん。俺さあ、ものスッゴい不思議な事に気付いたんだ」

( ∵)「……」

<_プー゚)フ「ほら、俺ってさあ、言うまでもなく超ROCKでROLLなイケメンな訳じゃん?」

( ∵)「……」

<_プー゚)フ「なのになーんでいつまでもガールフレンドが出来ねーんだろ? 俺ってばこんなにROCKでROLLなバリヤバなミュージシャンだっつーのにさー」

( ∵)「……」

<_プー゚)フ「マジで不思議だよな? やっぱりあれか?
俺ってばあんまりにもROCK'N ROLL極め過ぎちゃって眩しすぎる存在になっちまった系かな?」

481 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:19:11 ID:ahzEFXIY0
時代錯誤も甚だしいリーゼントと長いモミアゲが特徴の男は、明るい口調で自分自身を賛美するような台詞をペラペラと語り続ける。
その身体はベッドに横たわり、身体中のあちこちに包帯が巻かれ、隙間から生々しい傷跡が見え隠れしている。
ヘラヘラとした態度の裏には、数多くの修羅場を潜り抜けてきた者独特の、ある一種の『凄み』みたいなものが滲み出ている。


( ∵)「……」


そして、入り口近くの丸椅子に腰掛ける小さな『男にも女にも見える』坊主頭の人間は真っ赤な仮面がなんとも特徴的だった。
ボーリングのボールのように規則正しく空けられた3つの穴からはその表情は伺えない。
仮面の下でどのような顔を浮かべているかは不明だが、ベッドに横たわる相棒の不毛な自慢話を、ひたすら無言で聴いていた。

482 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:20:57 ID:ahzEFXIY0
<_プ∀<)フ「っかああぁ! だとしたらパネェな俺! もはや直視できねーくらいバリヤバのROCKでROLLな太陽のような男になっちまったって訳か!!」

( ∵)「……」

<_プー゚)フ「ん? どしたんだビコったん。そんな捨てられた子猫のような目で俺の事見つめてさ」

( ∵)「……」

<_プー゚)フ「ははぁん。分かってる。分かってるぜビコったん。いいさ、皆まで言うな」

<_プー゚)フ「俺があんまりにもパネェから、自分が置いてかれねーかって不安になってんだなー?」

( ∵)「……」

<_プー゚)フ「心配すんなよ……確かに俺はビコったんよりバリヤバでイケメンの超パネェROCKでROLLな男さ」

483 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:22:46 ID:ahzEFXIY0
<_プー゚)フ「だがな、俺の相棒はいつまでもビコったん1人なんだよ。俺の旋律に着いて来れるのはビコったんだけなんだ」

<_プー゚)フ「ビコったんこそ、最高にCOOLでROCKな俺の永遠のパートナーなんだよ!!」

( ∵)「……」

<_プー゚)フ「ふふっ……分かるぜビコったん。この俺の熱いエールでCOOLなビコったんの魂がたぎっている事が」

<_プー゚)フ「それでこそROCKでROLLな俺様にふさわしい相棒だぜ!! だがな……ビコったん」

<_プー゚)フ「1つだけ、1つだけ忠告しとかにゃあいけねえ事があるんだ。いいかビコったん、よく聴けよ……」

<_プー゚)フ「『ROCK'N ROLLの申し子』こと、『JD(ジャックダニエル)・エクストプラズマン』。もし火傷したくなきゃ……」




<_プー゚)フ+「俺に惚れるなよ!」

.

484 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:24:44 ID:ahzEFXIY0
( ∵)「……」

( ∵)「……」

( ∵)「……」










( ∵)「……」


訂正。
もしかしたら聴いていないかもしれない。

485 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:25:46 ID:ahzEFXIY0
<_プー゚)フ「ふっ……やっぱり俺はパネェな。最高にROCKでROLLな男だぜ」


仮面の下で(恐らく)呆れた表情を浮かべているであろうビコったんと呼ばれた人は、とてとてと特徴的な足音を立てながらエクストが寝ているベッドの奥、壁際に移動した。


<_プー゚)フ「ん? どしたビコったん? わざわざ壁際の方にまで来て……ははぁん分かったぜ」

<_プー゚)フ「そんなにこの俺の顔を近くで」


「眺めていたいのか?」とは続かなかった。

なぜなら病室の入口にある扉が音を立てぶっ飛び、寝ているエクストを押し潰すように倒れて来たからだ。

486 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:28:04 ID:ahzEFXIY0
<_プー;)フ「ひぎぃっ!?」


情けない悲鳴をあげながら痛みに悶えるエクスト越しに仮面を被った『JB(ジムビーム)・ビコーズ』が入り口を覗き込むと、予想した通りのライダースジャケットをビシッと着こなした赤髪(クリムゾンヘッド)の女と、どこか怯えたような表情を浮かべたその右腕が立っていた。


从#゚Д从「fuckfuckfuckfuckfuckfuck!!」


部下を押し潰すドアを片腕で力任せにどかすハインリッヒの機嫌は最高に最低だった。
額には青筋が浮かび、右手に抱えたメーカーズマークの中味は殆ど空になっている。

痛みに半泣きになりながら悶えていたエクストは本能的に危険を察知して、苦々しい作り笑いを浮かべる。

487 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:29:58 ID:ahzEFXIY0
<_;プー゚)フ「やっ……やあ姉御、なかなかROCKな登場じゃないか。これはこの俺も見習わなきゃ……」

从#゚Д从「やかましいわこのモミアゲがー!!」


瞬間、ハインリッヒの長い右脚が天井に向かってピンと立つかのように振り上げられ、あっという間にエクストの左膝に隕石のように落下。
ちなみにエクストは約7ヶ所複雑骨折しており、当然ながら包帯に包まれているその左脚も例外ではない。

何が言いたいかというと、折れたところに踵落しされると……



<_プ;Д;)フ「ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」


もの凄く痛いのだ。

488 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:33:52 ID:ahzEFXIY0
从#゚Д从「古参幹部の癖してぼろ負けして病院送りとか俺にケンカ売ってんのかファッキンモミアゲ野郎があああぁぁぁぁ!!」

<_フ;Д;)フ「姉御ー! そこ折れてるからあぁぁ! くっつきかけてる俺の左足がまた折れちゃうからあああぁぁぁ!!」

从#゚Д从「fuckfuckfuckfuckfuck!!」

<_フ;Д;)フ「痛い痛い痛い痛いいぃぃぃ助けてビコったーん!!」

( ∵)「……」

( ∵)「……」

( ∵)「Zzz……」

<_フ;Д;)フ「ね て る しいいいぃぃぃぃ!?」

从#゚Д从「こんの役立たずのモミアゲがああああぁぁぁぁ!!」

<_フ;Д;)フ「ノオオオオォォォォ!!」


東の『クリムゾンヘッド』が女首領、MM・ハインリッヒによる部下への仕置きという名の八つ当たりは、約15分間続いた。

489 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:36:23 ID:ahzEFXIY0
<_フ;Д;)フ「痛い……折れたあ、今度は絶対粉砕骨折したよビコったああぁん」

( ∵)「」ヨシヨシ

(;‘_L’)「あの、大丈夫ですか? エクストさん」

<_フ;ー;)フ「ありがとうフィレちゃん。俺の味方はビコったんとフィレちゃんだけだよ……ぐすん」

ぼろ泣きするリーゼント男を仮面をつけた性別不詳の小さい人間と、スーツを着た妙齢の男が慰めるという何ともシュールな光景。
忌々しげにそれを眺め、2本目のバーボンに口をつけるハインリッヒは怒気を孕んだ声で口を開いた。


从#゚∀从「おいこらモミアゲ」

<_フ;ー;)フ「モミアゲって……酷いよ姉御」

从#゚∀从「うるせえ無駄口叩くな」

490 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 07:39:12 ID:ahzEFXIY0
ハインリッヒの視線が真剣なものとなり、和やかだった室内の空気が次第に張りつめたものと化していく。


从#゚∀从「テメェ誰に負けた」


ギロリと音でもなりそうな鋭い視線をエクストに突きつける。
自らが所属するグループのリーダー『赤い悪魔』の真剣な眼差しに、エクストの表情からお茶らけた明るさが消え、真剣な顔つきとなった。


<_プー゚)フ「……スニフィって女だ」

从#゚∀从「女?」

(;‘_L’)「確か、シナーの娘で『ウルボロス』のリーダーだったかと」


顔をしかめるハインリッヒにフィレンクトが注釈を入れる。
その言葉にエクストは静かに頷き、こう続けた。

492 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:18:17 ID:ahzEFXIY0
<_プー゚)フ「俺も正直言って甘く見てた。ぶっちゃけ、向こうの方が頭数は居るとは言え、俺とビコったんのコンビなら、いつもみたいに勝てると高をくくってたんだ」

<_プー゚)フ「あの女……娼婦みてーに色っぽい格好してた癖によ、マジでパネェぜ。
下手したら、俺よりもROCK'N ROLL極めてるかもな」

<_フ-ー-)フ「いや、ありゃあ人間じゃねえよ。マジでパネェんだわ。
バリヤバでパネェよ、その結果が、アレさ」


エクストが指を指した先には、壁に立て掛けるように置かれたボロボロのエレキギターがあった。
黒いボディに白いペイントででジャックダニエルと英字のロゴが描かれた6弦は、ネックの辺りでポッキリと折れている。
自称、『ROCK'N ROLLの申し子』であるエクスト愛用の楽器であると同時に、クリムゾンヘッドの幹部として数多くの敵を葬ってきた『得物』は無惨にもへし折られたのだ。

ハインリッヒの舌打ちが室内に響いた。

493 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:21:03 ID:ahzEFXIY0
从 ゚∀从「テメェらにつけた30の兵隊はどうした?」

<_フ-ー-)フ「悪い、全滅だ」

从#゚∀从「fuck!」


ハインリッヒはイラついた表情で近くに置いてあった医療器具を蹴飛ばし、滑るように向こうの壁まで飛んでいく。
隣で控えているフィレンクトが慌てて位置を元に戻す様を眺めながら、エクストは静かに続けた。


<_プー゚)フ「リーダーの女もマジでROCKだけどよ、あそこの兵隊もパネェな。100人くらい居たのを半分くらいには減らしたと思うがよ」

<_プー゚)フ「ただよ、やっぱり強いんだわ。どいつもこいつもそこら辺の傭兵とは比べものになんねーくらいROCKだったぜ」

494 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:21:56 ID:ahzEFXIY0
从 -∀从「テメェとビコーズぶつけて半分まで削るのがやっとかよ……こりゃマジでヤバイな」

<_プー゚)フ「マジな話、ビコったん居なかったら死んでたわ。久々に、バトってる最中に死ぬ覚悟決めちまったくらいだ」


ヘラヘラと笑うエクストを前にしたハインリッヒの表情は暗い。
彼女の目の前でベッドに横たわるこの大馬鹿勘違いミュージシャンとその相棒であるミニマム鉄仮面の実力は、首領である彼女自身が一番よく知っている。
そのエクストがこうも簡単に返り討ちにあう程の実力者がいるグループが敵になったとなると、かなり不味い事になる。

ハインリッヒは静かにメーカーズマークに口をつけ、2、3度喉を鳴らすとイソイソと器具を直す自身の右腕に命令を下した。

495 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:23:32 ID:ahzEFXIY0
从 ゚∀从「おい、種無し!! ジョニーウォーカーを呼び出せ!!」

(;‘_L’)「はっ、はい!! ただいま」


ハインリッヒの一声に、軍人のようにピシッと直立したフィレンクトはジャケットのポケットからスマートフォンを取り出し、街一番の情報屋にすぐさま電話をかけた。


(‘_L’)「あっどうも、ご無沙汰しておりますフィレンクトで御座いますー、先日はお世話になりまして……はい、はいー。」

<_;プー゚)フ(フィレちゃん、なんかサラリーマンみたいだな)

(‘_L’)「はい、はい……あっ、今はいつもの廃病院に。はい、はい。あっ、部屋ですか? 3階の6号室に……あっ、ありがとうございますー」

496 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:27:58 ID:ahzEFXIY0
電話越しにも終始ペコペコと頭を下げていたフィレンクトは携帯をしまうと同時にハインリッヒの方に向き直り「すぐ来るそうです」と告げた。
しかし、その言葉を聴いた彼女は見るからに機嫌が悪くなり、フィレンクトの胸ぐらを掴み怒鳴り散らした。


从#゚∀从「あぁん!? 『すぐ』だあぁ!?」

(;‘_L’)「ひぃっ!? そ、そう言ってましたよ!?」

从#゚∀从「ざっけんじゃねえぞファッキン種無し木偶の坊が!! テメェは何年俺の『右腕』やってんだよ!!」

从#゚∀从「俺は『すぐ』だとか『そのうち』だとか曖昧な言葉が大嫌いなんだよ!! いいか!? 今すぐもう一回電話して何分以内に来るのかとっとと……「もう着いたよ」

497 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:30:23 ID:ahzEFXIY0
興奮したハインリッヒの声を遮るかのように、室内にフィレンクトでもエクストでもない、第三者の男の声が響いた。


(´・_ゝ・`)


ハインリッヒとフィレンクトが偶然にも同じタイミングで振り向くと、そこには優雅にコーヒーを飲みながら目の前に立つ、デミタスの姿があった。



ただし、その位置はベッドに横たわるエクストの腹の上だったのだが。



<_フ;Д;)フ「痛い痛い痛い痛いってばデミちゃん! 早くどいてくれよー!!」

(;´・_ゝ・`)「あっ、ちょ!? エクスト氏! そんなに揺らすとコーヒーがこぼれっ……ちゃったね」

<_フ;Д;)フ「アチッアチャチャチャッ……ノオオオオォォォォ!!」

498 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:31:58 ID:ahzEFXIY0
从;゚∀从「……何コントやってんだテメェら?」

<_フ;Д;)フ「姉御ーツッこんでないでタオル取って―――!!」




余談だが、エクストの退院予定日は3日後だった。
しかし、その日程が無駄に延長した事は言うまでもないだろう。

.

499 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:33:31 ID:ahzEFXIY0






(;´・_ゝ・`)「いやあ、申し訳ないねー。あんまり来ないところだと、『位置』と『距離』がちょっと掴みづらくてねー」


エクストの腹の上から無事に降り立ったジョニーウォーカーことデミタスは余りのベッドに腰掛けながら優雅にコーヒーを味わっている。
カップから漂う白い湯気を嗅ぎながら一人満足そうに頷いていた。


(;‘_L’)「しかし……相変わらず凄い力ですねデミタスさん」

<_プー゚)フ「本当だよなー。『瞬間移動』とかマジでパネェよな。バリヤバだぜ」

(´・_ゝ・`)「いやあ、まあ、厳密に言うとそれだけじゃないんだけどねー」

500 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:35:03 ID:ahzEFXIY0
デミタスは基本的に『交差点』のカフェ・パトロンから動かない。
それでいて彼がソウサクシティ内のあらゆる情報を掴むことの出来る理由は、『位置や距離を無視』して移動する事が出来るという、まさに反則じみた超能力のおかげだった。

例えば、先日襲いかかって来た無知な若者の白い拳銃の位置を『敵の右手から自分のポケットに瞬間移動』させた時のように。
例えば今のようにコーヒータイムの最中にも関わらず『カフェ・パトロンから800メーター程も離れたこの病院に瞬間移動』してみせたりなど。

常人ならその力を聞いただけで怯むであろう、まさにチート級の能力を用いて、この街に暗躍する情報屋。

それが黒い紳士、ジョニーウォーカーことデミタスなのだ。

501 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:36:30 ID:ahzEFXIY0
(´・_ゝ・`)「あっ、ところでハインリッヒ嬢、今日のご用件は?」

从 ゚∀从「種無し、説明しろ」

(;‘_L’)「あっはい、ウルボロスに関する情報と、スニフィに関する情報を」

(´・_ゝ・`)「ああ、ウルボロス関係ねーはいはい」


フィレンクトの言葉にどこか納得したような表情で頷きながら、デミタスはカップに口をつける。
どうにも掴み所の無い飄々とした紳士の態度にハインリッヒはイラついたような顔で口を開いた。

502 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:38:04 ID:ahzEFXIY0
从#゚∀从「ファッキン黒服野郎が。今回はどんだけ踏んだくって行くつもりなんだ? 1000か? 5000か? 10000か?」

(´・_ゝ・`)「んー8000! と言いたいところなんだけど」


ズズズッとコーヒーを啜る音が響く。
やがて空になったのかカップを置くとちょっと困ったような顔でこめかみの辺りをポリポリとかきながら、こう続けた。


(;´・_ゝー`)「事情が色々ありましてねー、このコーヒー代の15ドルで結構です」


その言葉にハインリッヒの表情がますます曇る。
釈然としない。口にせずとも、そう訴えていた。

503 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:39:46 ID:ahzEFXIY0
从#゚∀从「おい、どういう事だ? ぼったくり上等のファッキン黒服野郎が、何でそんなクズみたいな金で動く」


ハインリッヒの鋭い視線に肩をすくめて、やれやれとジェスチャーするデミタス。
その表情はどこか子供っぽくて、悪戯めいた雰囲気を出していた。


(´・_ゝ・`)「んーいやあ、あくまで僕の予想なんだけどね、スニフィ嬢の情報って、もうすぐ価値が無くなると思うんだよね」

从#゚∀从「ああ?」

(;‘_L’)「それって、一体……」

(´ー_ゝー`)「んーまあ、ほら何て言うかな?」


訳が分からないと言った表情を浮かべるクリムゾンヘッド一行に、デミタスは余裕たっぷりの笑みで、ゆっくりと。
マジックの種明かしでもするように、たっぷりとタメを作ってから、こう切り出した。

504 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:40:56 ID:ahzEFXIY0







(´^_ゝ^`)「どうせこれから死んじゃう人の情報なんて、価値が無くなっちゃうでしょ?」







.

505 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:41:40 ID:ahzEFXIY0







デミタスが不適に笑ったこの5日後。

そしてニダーがスニフィを送り出したちょうど、2週間後。



とある廃工場でアブソリュート・スニフィの遺体が発見された。

18才の若さだった。







.

507 :名も無きAAのようです :2015/03/10(火) 08:59:48 ID:ahzEFXIY0
Character File No.3

【$$*゚-゚/$】

『シャルトリューズ・ドルシア』


身長体重…154/43
年齢…22
性別…女
出身…アメリカ
所属グループ…無所属
2つ名…特に無し

好きな物…料理前半、ハーブや野菜の栽培、お金の計算、兄
嫌いな物…雨、拳銃、運動


能力名…無能力者



『平和な交差点(クロスワード)』で街唯一の喫茶店『カフェ・パトロン』を経営している若き女店主。
料理の腕、バリスタの腕共にかなりの実力があり、特にスパイスや酒を使ったオリジナルレシピにはかなりの自身がある。
美人で気立てのよい理想的女性だが、商魂逞しすぎるため未だに恋人は居ない。
メニュー設定がかなり高価なため、常連客は殆どいないが、その分デミタスから搾取しているため経営は安定している。
ソウサクシティに住む人間にしては、珍しく社会的常識があり、犯罪を嫌う人種で何故そんな常識人の彼女がこんな治安の悪い街にいるかは不明。
国外にマニーという大富豪の兄がおり、関係は良好。
ちなみに、シャルトリューズとはハーブリキュールの最高峰と称されるリキュール。緑と黄色の2種類がある。

515 名前:名も無きAAのようです :2015/03/11(水) 06:38:18 ID:aG.D7I3Q0
Character File No.4

【( `ハ´)】

『杏露・シナー』


身長体重…165/87
年齢…38
性別…男
出身…中国
所属グループ…『ドラゴン』
2つ名…『南の龍』

好きな物…四川料理、拳銃の改造、拳銃のコレクション、クラシック観賞
嫌いな物…無益な争い、甘いもの、毛虫


能力名…無能力者



ソウサクシティ南部で猛威を奮った多国籍チャイニーズマフィア『ドラゴン』の首領。
もともとは北部の『イエローモンキー』の幹部だったがニダーの怪我をきっかけに決別した。
マフィアにしては、気が小さく、臆病で、無益な殺人や争いも好まない珍しいタイプ。
ただし、リーダーとしての素質には恵まれず、若い衆が勝手に他所のグループと揉め事を起こしてはその後の処理に追われていた。
結局、彼の最期も部下が命令を無視して北部の『ナインテール』に進行したために報復によって殺害されるという、なんとも下らないものとなってしまった。
拳銃の扱いに長けており、リボルバーを使った狙撃技術はピカイチ。
『黄龍』と『白竜』という2丁の改造拳銃を相棒に何度も窮地を逃れて来た。
ちなみに妻子持ちであったが妻は彼が若い時に殺害されている。

516 名前:名も無きAAのようです :2015/03/11(水) 07:02:13 ID:aG.D7I3Q0
Character File No.5

【Σz ゚ー )リ】

『アブソリュート・スニフィ』


身長体重…163/45
年齢…18
性別…女
出身…中国
所属グループ…『ウルボロス』
2つ名…『南の女龍』、『龍戦士』

好きな物…家族、四川料理、洋裁、チャイナブルー、ライチ、男の視線、硝煙の香り
嫌いな物…無能な部下、尊敬に値しない上司、虫全般


能力名…『ドラゴンレディ』
右半身を変体させ、龍の力を手にいれる。
思考能力と容姿の美しさは劣化するが圧倒的な破壊力とスピードが手に入り、さらに高熱であらゆるものを焼きつくす咆哮(ドラゴンブレス)を放てるようになる。


セクシーなチャイナドレスがトレードマークの中国娘でありながら、『ドラゴン』残党の中でも選りすぐりのエリートで結成された新鋭組織『ウルボロス』の若き女首領である。
ちなみに、シナーの実の娘である。
その実力は高く、純粋な戦闘力だけなら父を軽くしのぎ、『イエローモンキー』のヒートと同格では無いかと恐れられている。
作中では殆ど登場していないが、東の『クリムゾンヘッド』の古参幹部であるエクストとビコーズのコンビも返り討ちにしており、その実力の程が伺える。
父の仇を討つために北部の『ナインテール』に進行するも返り討ちにあい10代の若さで殺害されてしまう。
勝ち気な性格だが家族思いでリーダーとしての素質も申し分無い。
戦闘スタイルは独特で、マーシャルアーツをベースにした接近戦と父から受け継いだリボルバー『黄龍』による狙撃、さらに自身の変身能力を組み合わせたトリッキーな戦法を得意としている。







第3話 猿 前編へ
▼・ェ・▼その男、所詮、『犬』のようです。 TOPへ