▼・ェ・▼その男、所詮、『犬』のようです。 第2話 天使 中編其の二

355 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:06:10 ID:HiScNp2.0
全体をウォールナットの色に統一された、広い室内。
広さの割にインテリアなどは殆ど無く、大きな長方形のデスク。
それから今は主の影に隠れたチェアーのみで、暖かみのある色彩で統一された室内にしては少々寂しさを覚える程にストイックな部屋だった。

デスクの上には木目模様の着色がされた大きめのライトスタンドと、写真立てが3つきちんと並べられている。
対して机と同じ色の大きめのヒュミドールや、バカラのロックグラスに殆ど中身の減っていないリシャールのクリスタルデキャンタなどは無造作に端の方に追いやられており、わずかにホコリすら被っている。

356 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:13:06 ID:HiScNp2.0
自分が一緒に住んでいた時は、ブランデーと葉巻が手離せない人間だったのに。と、スニフィはなんとなく昔を思い出しつつ、目の前にいる部屋の主に深々と頭を下げた。


Σz ゚ー )リ「突然のご訪問、お許し頂きまして感謝の言葉も御座いません」

<ヽ`∀´>「スニフィ、頭を上げて欲しいニダ」


部屋の主、リシャール・ニダーは今年で63になる盲目の老人だ。

真っ白に染まった頭髪はポマードを擦りつけるようにしてオールバックにされ、顔に深く刻み込まれた皺と合わせ、年齢と共に醸し出される、穏和な雰囲気と独特の緊張感を見るものに与えている。

瞳は常に閉じられ、口元には立派な顎髭を蓄えていて、こちらも髪の色と同様、見事な白色である。

357 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:14:24 ID:HiScNp2.0
服装はワインレッドのスーツに白いシャツ。
マスタードイエローのネクタイには英字でイエローモンキーの刺繍。
ベルトと靴は同じクロコダイル革のマホガニー色の物だ。

そして右腕には長めに作られた杖が握られている。
よくよく観察すると、かなり細かいハングル文字でなにやら文章が彫られているようだったがそれを解読するような余裕は、無理を言って押し掛けたスニフィには無かった。


<ヽ`∀´>「声を聞かせてくれて、本当に嬉しいニダ」

Σz ゚ー )リ「恐縮です」


ニダーはもの静かな口調で客人を迎えると、密かに微笑んでみせた。
その両脇にボディーガードとして控えるヒートとクールは久々に父親の笑った顔を見たような気がして、少し心が軽くなった。

358 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:16:21 ID:HiScNp2.0
ノハー⊿゚)y‐(しっかしよー。こいつって、いつ見ても……)


ニダーの左側に控えているヒートは出来るだけ威圧感を与えないように注意しながら、成長したかつてファミリーの一員だったスニフィをジィっと監察した。



Σz ゚ー )リ


その瞳は黒く、アジア人というよりもクールのような白人寄りの大粒のアーモンド状。
鼻は高く筋が通り、唇は赤みの強いルージュがしっとりとした艶を出しており、言うまでも無い美人顔。
七三に分けられた長めの黒髪は右耳の後ろ辺りに団子のように纏められており、竜を模したであろうカンザシでしっかりと止められていた。

359 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:19:06 ID:HiScNp2.0
服装はボディラインを強調する、いわゆるチャイナドレスやマンダリンドレスと言われるそれで、全体的に黒地で纏められた絹の生地に金色の龍の刺繍が這うようにして縫われている。

右の腿の辺りから深く、大胆に開いたスリットからは黒いストッキングに包まれた細い美脚が姿を見せており、くるぶしにはクールのように黒いホルスター。
そして足下には黒いピンヒールといった出で立ち。

ヒート程では無いが平均よりはかなり大きめのバストや、細い腰元を余計に強調するような膨らみを見せるヒップ。

彼女の恵まれたスタイルとその服装は、世の男を魅了するような、艶やかなものだった。

360 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:20:46 ID:HiScNp2.0
ノパ⊿゚)y‐(シナーと顔似てねーよなー。いや、マジで)


しかし、そのファッションセンスはヒートには理解出来るものでは無かったようだ。


ノハ;゚⊿゚)y‐(つーか何だあのド派手で露出だらけの服? あいつ普段からあんな派手なもん着てんのかよ)

ノハ;ー⊿゚)y‐(いきなり奇襲とかに合ってドンパチやってる時に、あんな薄着じゃあ色々と不味くね? いや、マジで)



ヒートとスニフィは、過去にこの館でファミリーとして暮らした間柄だ。
だが、年上ながら色気付いた話に縁が無ければ興味も無いヒートから見たら、スニフィの美的価値観やセンスは理解出来ないものだった。

361 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:21:40 ID:HiScNp2.0
もっとも、年柄年中ショッキングなイラストが描かれた武骨なつなぎを愛用している、全身トライバルタトゥーに身を包んだ大柄な黒人女と、過剰なまでの色気を振り撒く勝ち気な中国女のどちらがマシかと言われても、なかなか解答には困るだろうが。

コイーバを唇で器用に弄びながら『左目』のヒートがそんなどうでもいい事を考えている中、スニフィはその艶やかな唇を開き、用件を切り出していた。


Σz ゚ー )リ「本日はニダー様に、こちらをお渡ししに来ました」


スニフィが右手に抱えた小さな箱をニダーの前に静かに置いた。
ボロボロになり、とても贈り物としては不適切であろう革製の、その小さな入れ物をニダーの右側に控えていたクールが静かに開いた。

362 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:23:36 ID:HiScNp2.0
川 ゚ -゚)(……銃か)


そこには銀色に輝くリボルバーが収まっていた。
クールが丁寧な手付きで主の手元に手渡すと、ニダーはおぼつかない手付きで銃の輪郭を確かめるようになぞり始める。
3秒程、無言で銃をなで回していたニダーがやがて静かに口を開いた。


<ヽ`∀´>「……シナーの形見の『白龍』、か」

Σz ゚ー )リ「ええ」


『白竜』と『黄龍』。
シナーが愛用していた、改造済み回転式拳銃の愛称だ。

363 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:25:44 ID:HiScNp2.0
装弾数を通常の倍に改造した、銀色の塗装に龍の彫り物が入った物が白竜。
殺傷能力を極限まで高める改造を施し、黄金の塗装に同じく龍の彫刻が目印の黄龍。

シナーはこの2丁の銃をイエローモンキーのファミリーに在籍していたか時から使っていた。


Σz ゚ー )リ「お渡しした白竜の方は、私室に置き忘れていたそうで、殆ど汚れはありませんでした」

<ヽ`∀´>「あそこまで銃を愛していたシナーが。か」

Σz ー、 )リ「ええ。就寝時に奇襲を受けたようで……よほど慌てていたのでしょう」


スニフィは静かに俯いた。
その表情から察するに父を失った悲しみはしばらく消える事は無いだろう。
例え最低の悪人でも、娘にとってはかけがえの無い父親なのだから。

364 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:27:59 ID:HiScNp2.0
<ヽ`∀´>「『黄龍』の方はスニフィが?」

Σz ゚ー )リ「ええ。唯一の片身ですから。黄龍は亡骸の側に落ちていました」

Σz ゚ー )リ「首領の……父の、血と臓物にまみれて暫くは触る事も出来ませんでしたが」

<ヽ`∀´>「……そうか」


シナーの遺体を最初に発見したのはスニフィだったそうだ。
彼女は、血と臓物を撒き散らした父の屍を見て、一体どんな気持ちになったのだろうか。
ニダーの右側に控えているクールの顔が少しだけ歪んだ。
向かい側のヒートも、何か言いたそうな顔をしながらスニフィから視線を外し、無言で葉巻をいじっていた。

365 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:28:50 ID:HiScNp2.0
Σz ゚ー )リ「用件は、もう1つあります」


気まずい雰囲気を切り崩すように再びスニフィが口を開いた。


Σz ゚ー )リ「今回は、こちらをお渡しする他にニダー様に『ご忠告』があって参りました」


眉をしかめたヒートの視線がスニフィに戻る。
やけにハキハキと物を言うスニフィの口調や、忠告という言葉に少し違和感を感じたからだ。

スニフィはニダーの見えない両目を射抜くように見詰めると突き放すようにこう言った

366 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:30:04 ID:HiScNp2.0







Σz ゚ー )リ「今回の父の一軒ですが、『元』ファミリーであるイエローモンキーには、一切関わらないように。と元ドラゴンのNo2としてご忠告に参りました」







.

367 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:32:21 ID:HiScNp2.0
その挑発的な言葉にヒートの瞳がカッと開き、葉巻が落ちることも気にせずスニフィに怒鳴りかかった。


ノハ#゚⊿゚)「んだとテメエ!?」

川; ゚ -゚)「よせ、ヒート」


掴みかからんとばかりに憤るヒートをクールがたしなめる。
一瞬にしてピンと音が鳴りそうな程の緊張感が張りつめた室内で、ニダーだけは無言のままスニフィの言葉の続きを待っていた。

スニフィは獣のように牙を剥き出しにするヒートなど眼中に無いのか、ただニダーのみを見詰めて、こう続けた。

368 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:34:56 ID:HiScNp2.0
Σz ゚ー )リ「もちろんニダー様には父、シナーが大変お世話になり、そして娘の私共々可愛がって頂いた事も承知の上です。そのご恩は一生忘れる事はありません」

Σz ゚ー )リ「ですが、それはあくまで私達がファミリー『だった頃』の、過去の話です」


挑発的なスニフィの言葉にヒートの身体にグッと力が入るが、クールが視線で牽制をかける。
一触即発とはまさにこの事だろう。
それでもドラゴンが元首領、シナーの娘、スニフィは怯まなかった。


Σz ゚ー )リ「短い間でしたが、私もニダー様の元で育った人間です。
家族想いのニダー様が『元』息子を亡くした時どのように考えるか」

Σz ゚ー )リ「また、どのような『報復』に出るかは、まだまだ青い私にでも容易に推測できます」

369 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:39:04 ID:HiScNp2.0
スニフィは知っていた。
目の前にいる優しき大悪党が裏切者となった父、シナーの事を心の隅で気に掛けている事を。
毎週日曜の礼拝では、自分のファミリーだけでなくシナーや娘である自分の加護を祈っていたことを。

そして、どうしようもなく自分達を愛していくれた事を。


Σz ゚ー )リ「ニダー様のお力を借りれば父の仇を討つことは容易でしょう。
敵方も今頃は元イエローモンキーのファミリーに手を出した事に気付き、ゴッドファーザーの報復に怯えているやもしれません」

Σz ー )リ「ですが、それでも。例え愚か者だと嘲笑されようが、例え恩知らずと罵られようが、父の敵は……」

Σz#゚ー )リ「このスニフィの手で討ちたいのです!!」

370 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:40:07 ID:HiScNp2.0
その時、ニダーの見えない瞳には確かに見えた。
陽光のように輝く黄金の覚悟の光。
真っ赤に染まる憎き仇へのマグマのような怒り。

それら全てを堂々と喰らい、静かに牙を覗かせる、巨大で、もはや神々しくすらある、黄金に輝く龍の影を。
確かに、リシャール・ニダーは見たのだ。



Σz#゚ー )リ「失礼は承知の上です! ですがこの一件に関しては、どうか私に全ての片をつけさせて下さい!!」


スニフィは叫ぶように声を張り上げると、先ほどとは比べ物にならない勢いで深々と頭を下げた。

371 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:41:48 ID:HiScNp2.0
忠告などという挑発的な宣言をした彼女の願いは、むしろ赦しを乞うような不器用な彼女なりのケジメのつけかただった。

ニダーは悟った。
例え、自分がどんなに引き留めようが、懇願しようがこの龍の魂をもった戦士は死地に行くのだろう、と。
それでこそ、親愛なる自分の『ファミリー』なのだ。と。

再び室内に沈黙が訪れる。
頭を下げたまま動かないスニフィ。
そしてそれを盲目の瞳で眺め、静かに決断しようとするニダー。
そんな父を見守るクール。


だが沈黙を破ったのは……

372 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:50:47 ID:HiScNp2.0





ノハ#゚⊿゚)「ざっけんじゃねえぞスニフィィィィィィィィ!!」





イエローモンキー1の腕っぷしを誇り、ニダーから自身の『左目』と称される女。

またの名を『赤い虎』と恐れられる暴君、『ラーセン・ヒート』の割れんばかりの怒声だった。

373 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:55:13 ID:HiScNp2.0
その表情は憤怒に取り付かれ、まさに虎のようにギラギラと瞳を光らせ、獣のような犬歯を剥き出しにしている。
下手な男など比べ物にならないぐらい鍛えあげられた彼女の肉体からは無数の血管がミミズのように浮き上がり、ぐぐっと音でも立てるような勢いで全身の筋肉が震えながら隆起していく。


ノハ# ⊿゚)「マジで……!」


瞬間、ヒートの周囲だけ急激に温度が下がった。
やがて、パキパキと何かが割れるような音が彼女の周りから響き出し、全身から溢れ出る冷気がその鍛えあげられた右腕に吸い込まれるように集められていく。

374 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:56:24 ID:HiScNp2.0
ノハ# ⊿ー)「マジでえぇ……!!」


やがて目に見えない冷気は形を作り、バキバキと先程よりも激しい音を立てながら彼女の右手に『赤く染まった氷結』を形成していく。
彼女の逞しい黒い右腕がルビーのような結晶にしっかり覆い尽くされたと思った時には、あっという間に長さ1メーター程の氷の槍に形を変えていた。
そして驚きの表情を浮かべるスニフィを鋭い眼球で睨みつけ……


ノハ# ⊿ )「マジで粉々にすんぞダボがあああああぁぁぁぁぁ!!」


咆哮。
正しく、虎の、咆哮。
.

375 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 01:58:37 ID:HiScNp2.0
そのまま飛び掛からんとするヒートを瞬時に飛び出したクールが背中から慌てて取り押さえ、なんとか宥めようとするも、真っ赤な結晶に染まりつつある巨大な虎の怒りは収まらない。


ノハ#゚⊿゚)「テメェら『ドラゴン』のダボ共は親父にどんだけ恥かかしゃあ気が住むんだよ!? わざわざ丸腰でテメェらの大将の葬式に出向いた親父を門前払いしたかと思ったら今度はこれ以上関わるなだああ!?」

ノハ#゚⊿゚)「あんまりナマ言ってんとテメェの身体凍りつかしてマジで粉々にしちまうぞダボハゼがあああぁぁ!!」

川; ゚ -゚)「よせ! ヒート!!」

376 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:00:28 ID:HiScNp2.0
食ってかからんとするヒートの左腕を全力で掴み、顔を歪ませながらも必死に引き留めるクールだったが、それでもヒートの勢いは止まらない。


彼女がここまで憤っている理由。
それはスニフィの忠告(という名の懇願)に腹を立てているだけでは無く、むしろ原因はそれ以前にドラゴンの残党達から受けた、父に対する冷遇が原因だった。


ノハ#゚⊿゚)「姉貴! 悔しくねえのかよ!? こいつらドラゴンは裏切者なんだぜ!? それでも親父は必死に見えない目ん玉見開いて、こいつら見守ってたんだ!!」


シナーが何者かに惨殺された知らせを聞いたニダーは、静かに涙を流し、神に祈っていた。
そして葬儀の日程が決まるとろくに武器も持たずに幹部連中のみを引き連れ、会場となった南側にある簡素な教会にすぐさま向かった。

377 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:01:58 ID:HiScNp2.0
しかし、ドラゴンの面々は他のマフィアグループであるニダーの参列を拒否。
せめて花1本だけでも手向けさせてくれと必死に食い下がるニダーを何か憐れなものを見るような視線で追い返したのだ。

ニダー自身は仕方がないと諦めをつけ、納得した振りをしていた。
それに習い他の幹部達もそれに黙って従っていたが、父が左目、ラーセン・ヒートだけは違った。


ノハ#゚⊿゚)「金だって支援して、組のまとめ方だって全て親父が教えてきたようなもんじゃねえかよ!! 親父は間違いなくシナーの、ドラゴンの連中の恩人に違いねえじゃねえかよ!!」


曲がったことはぶん殴って訂正し、邪魔するやつはぶん殴って道を切り開く。
考え込むような無駄な時間を過ごす位だったら、取り敢えず殴り込みに行く。
そんな短絡的かつ、愚直なまでに自分自身に素直な信条を持っていた彼女には、最愛の父親に向けて理不尽な態度で嘲笑するドラゴンの残党共が許せなかったのだ。

378 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:03:19 ID:HiScNp2.0
ノハ# ⊿゚)「なのに……!」


結局、後日単身ドラゴンの舘へ殴り込みに行こうとしたところをクールとシュールに見付かり、力づくで抑えつけられはしたものの、その遺恨は決して潰える事はなく、彼女の中で火種として燻っていたのだ。



ノハ# ⊿ )「なのにこのダボはあああぁぁぁぁ!!!」



ヒートが再び咆哮。
抑えつけていたクールを力任せに振りほどき両足に力を込め、獲物に飛び掛かるために姿勢を低く構える。
彼女はこの時、かつてのファミリーだったスニフィに明確な殺意を燃やしていた。

379 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:06:19 ID:HiScNp2.0
Σz; ゚ー )リ「……!」


今にも飛び掛からんとするヒートの殺気に押され気味だったスニフィは瞬時に頭を切り替えると、ヒートの獣のような瞳を睨み返しつつ強烈なカウンターを打ち込む為に、構えを取る。


川; ゚ -゚)「……ッチ」


時を同じくして、ヒートによって強引に振りほどかれたクールが瞬時に体勢を整え、左腕に力を込める。
暴走する妹を止める為に己の力を解放し、その腕に『青白い光』を徐々にまとう。

そんな混沌とした喧騒は一瞬にして静まりかえる事となる。

380 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:10:25 ID:HiScNp2.0





<ヽ ∀ >「止めなさい」




『偉大なる父(ゴッドファーザー)』。
リシャール・ニダーの、重く、力強い一言によって。

.

381 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:12:27 ID:HiScNp2.0
<ヽ`∀´>「スニフィ」


ニダーは杖を支えにおぼつかない脚でゆっくりと立ち上がり、スニフィの前までよたよたと歩みを進め、やがて静かに頭を下げた。


<ヽ`∀´>「娘が、失礼な事をしたニダ。許して欲しい」

Σz; ゚ー )リ「あっ……いや、私は別に」


親愛なる父が、裏切者である筈のスニフィに、頭を深々と下げている。

一瞬、ポカンとした表情で停止していたヒートだったが、状況を飲み込んだ瞬間、先程のような激憤が沸き上がり、抗議の叫びをあげた。

382 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:14:20 ID:HiScNp2.0
ノハ#゚⊿゚)「何でだよ親父いいぃぃ!?」


興奮のあまり、父にも食ってかかろうとするヒートに割って入るようにクールが遮りながら、冷めたような口調で口を開く。


川 ゚ -゚)「いい加減に落ち着けヒート」

ノハ#゚⊿゚)「姉貴……だってよお……?」

川 ゚ -゚)「ヒート」

ノハ#゚⊿゚)「だって……だってよお!?」


我を通さんと訴え続ける妹にクールは顔をしかめながら、底冷えするような低い声色で静かに怒りを露わにした。

383 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:16:00 ID:HiScNp2.0
川#゚ -゚)「お父様の声が聞こえなかったのか? 我が妹、ラーセン・ヒート……!」


姉の射殺さんばかりの冷たい眼差しを至近距離で浴びたヒートは、バツが悪そうな顔で何か言いたそうにモゴモゴと口を動かし、頭を掻きむしる。
やがて声にならない唸り声を上げながらその場で地団駄を踏み始めたかと思うと癇癪を起こすように「ああー!!」と大声を出しながら、氷の槍の輪郭を一瞬で消失させた。

そしていかにも機嫌が悪いとアピールするような乱雑な動作で、落とした葉巻をむんずと拾いあげると舌打ち1つ残して姉に背を向け、ズンズンと扉の方に歩みを進めた。

384 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:18:12 ID:HiScNp2.0
川#゚ -゚)「おい! 話の途中で何処に行くつもりだ!」

ノハ#゚⊿゚)y‐「るっせえ!! 腹が冷えたから便所行くんだよ!!」


呼び止める姉の声を無視して扉を勢いよく蹴飛ばして開くと、ヒートは大きな足跡を鳴らしながらそのまま退室していってしまった。
蹴りの反動で品の良さそうな赤茶色の、木製扉がキィッと悲鳴のような音を立てながら内側に戻り、やがて静かに閉じた。

妹の粗暴な態度にクールは頭が痛いと言わんばかりに大袈裟に頭を抱えながら「オマエが腹を冷やす訳が無いだろうが……」呟きと同時に小さなため息をもらす。
そしてスニフィの方に向き直ると父の動作に習うように彼女に深々と頭を下げた。

385 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:20:07 ID:HiScNp2.0
川; ー -ー)「申し訳無い、スニフィ嬢。妹の不躾な態度、姉の私が代わりに詫びさせて頂く」

Σz; ゚ー )リ「ニダー様もクール様も頭を上げて下さいよ! 元々失礼な事を言ったのはこちらなんですから!!」


深々と頭を下げるニダーてクールに、スニフィは少し困ったような顔でわたわたと頭を上げるように懇願する。

今でこそ違えど、彼女もまたイエローモンキーのファミリーだった人間。
ヒートの心情も、十分に理解していたし、イエローモンキーのファミリーがどれ程に深い絆で結ばれているかも知っていた。

なぜなら彼女自身も、この家族がたまらなく好きだったのだから。

386 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:21:36 ID:HiScNp2.0
<ヽ`∀´>「スニフィ」


クールの手を借りながら再び席についたニダーが、彼女に顔をしっかりと向けて口を開いた。


<ヽ`∀´>「敵の目星はついているニダ?」


ニダーのその言葉にスニフィは短く、はい。とだけ答えた。
多くを語らないあたり、やはりニダーに仇の正体を教えるつもりは無いようだ。


<ヽ`∀´>「その、敵についての情報源はどこからニダ?」

Σz ゚ー )リ「それはいくらニダー様でも教えられません」

<ヽ`∀´>「ジョニーウォーカーか?」

Σz ゚ー )リ「……」

<ヽ`∀´>「そうか」

387 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:22:36 ID:HiScNp2.0
無言を貫くスニフィの態度に、1人納得したような、態度で静かにニダーは頷いた。
そして、自分の顎髭を弄りながら何か考えるような動作をしたあと、またスニフィの方向に顔を向け、口を開いた。



<ヽ`∀´>「スニフィ。君の言う通り、この老いぼれは大人しく傍観させて頂く事にするニダ」

<ヽ`∀´>「けれど、1つだけ。1つだけ約束して欲しい事があるニダ。」


ニダーは真剣な声色でスニフィに語りかける。
彼女の方に顔を向けるニダーの瞳はもちろん閉じられている。
それでも、スニフィはまるでニダーから心の奥底まで見詰められているような気がして、なんとも言えないプレッシャーが彼女の身体を覆った。

388 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:34:25 ID:HiScNp2.0
<ヽ`∀´>「シナーのように生き急ぐな。我武者羅に突っ走って、どうか、どうかその命を散らすような事だけはしないでくれ」

<ヽ`∀´>「それだけニダ。それだけでいいニダ。どうかそれだけは、この死に損ないの爺の我儘を聞き入れて、どうか約束してくれ」


祈るようなニダーの言葉にスニフィは彼の瞳をじっと見つめる。
絡み合う事の無い視線が今、確かに繋がりあった気がした。


Σz ^ー )リ「ご心配は無用です」


スニフィは笑顔で、ニダーに答えた。

389 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:36:32 ID:HiScNp2.0
彼女はまるで踊るようにその場で勢いよく回転すると、太股に隠していた第3のホルスターから拳銃を取りだし、右手にしっかりと握ってニダーの見えない瞳に見せつけるかのように突きだした。
彼女の手に握られた、黄金に輝くリボルバー。
今は亡き、父親の形見。その名は……


<ヽ`∀´>「……黄龍」


龍が彫られた黄金色のシナーの忘れ形見は、ニダーの言葉に呼応するかのようにキラリと輝いた。

そしてニダーの言葉に肯定の意味を込め微笑みを見せたスニフィは、真剣な眼差しで声高らかに宣言する。

390 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:40:41 ID:HiScNp2.0
Σz#゚ー )リ「『ドラゴン』が首領、『杏露・シナー』が娘『杏露・スニフィ』」

Σz#゚ー )リ「その志、引き継ぎ、私は弱い自分と決別します!!」

Σz#゚ー )リ「我が名は『アブソリュート・スニフィ』! 『ウルボロス』が首領、アブソリュート・スニフィ!」

Σz#゚ー )リ「決して潰える事の無い、誇り高き龍の魂をここに示さんが為に!!」

Σz#゚ー )リ「そして万物をも屈伏させる絶対的な龍の力を示す為に!!私は……私は……!!」

Σz#゚Д )リ「父の仇を討ってみせる!!」


暗闇に飲み込まれた瞳の奥、ニダーの瞳は確かにその姿を見た。

蒼い息吹を小さく漏らし、見るもの全てを屈服させる、黄金に輝く、龍の姿を。
そしてその龍を従える、誇り高き彼女の姿。
天高く届けと黄金の拳銃を突き上げる、まさに、戦乙女の姿を。

391 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:42:17 ID:HiScNp2.0
Σz ゚ー )リ「再見、翁翁(さようなら、お祖父様)」


チャイナドレスを小さく翻し、足音を鳴らしながらスニフィは颯爽と歩き出して行く。
その、凛々しき佇まいは、まるで龍の如く、気品高く、美しいものであった。


<ヽ`∀´>「また会おう、愛しき孫娘」


ニダーはゆっくりと瞳を閉じながら静かに呟く。
龍の魂を引き継ぐ、親愛なる『孫娘』を。
スニフィを信じ、そして、小さく、強く、願った。


<ヽ`∀´>(龍の魂を持つ戦士に、神の御加護があらんことを……)

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392 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:44:11 ID:HiScNp2.0







―――その願いが、無惨に破れさる事も知らずに。








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393 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 02:44:59 ID:HiScNp2.0








―――――――――――――――――








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394 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 03:05:51 ID:HiScNp2.0
雲がかかった三日月照らすスラム街。

とある西部の薄汚れた路地裏で1人の年老いたホームレスがディナーを探し、ダストボックスを漁っていた。

汚物を掻き分ける事、約10分。
殆ど形の残っているチキンの残骸に顔をほころばせる浮浪者に、小さく黒い影が飛び掛かる。


/# ,' 3「うわっ……この糞ねずみが!!」


食い物の匂いに釣られ路地裏にやってきた1匹のドブネズミがチキン目掛けて飛び出したのだ。


/# ,' 3「このっ! このっ! どっか行けや!!」

395 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 03:07:07 ID:HiScNp2.0
しかし身体の大きい人間には敵わず、チュウチュウとかん高い鳴き声をあげながらと逃げ出していく。


ダストボックスから離れたネズミは道なりにスラムの路地裏チョロチョロと音を立てながらを突き進む。
そしてゴミ山の辺りを通りかかったところで……




―――暗がりから矢のように飛び出した人間の手によって一瞬で握り潰された。

.

396 :名も無きAAのようです :2015/03/04(水) 03:09:26 ID:HiScNp2.0
叫び声を上げる事すら許されなかったドブネズミの亡骸は吸い込まれるようにゴミ山の中へと消えていく。

やがてゴミ山の奥に広がる、腐臭ただよう暗がりから、ボリボリと何かを噛み砕くような音が鳴り出す。
やがてその音が、ぐちゅぐちゅと言った生々しいものに変わると同時に、小さな鳴き声のようなものが微かに響いた。








―――――わふぅん。







と。







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▼・ェ・▼その男、所詮、『犬』のようです。 TOPへ