▼・ェ・▼その男、所詮、『犬』のようです。 第2話 天使 前編







第2話、参考BGM

・蜉蝣『所詮、自分は犬であります』

・蜉蝣『鬱』






200 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:01:39 ID:2kE5XV2E0





声は届いているの?


ねえ


聴こえてますか


一人ぼっちの僕の想いが……





.

201 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:02:46 ID:2kE5XV2E0
(;`ハ´)「はぁ……はぁ……!!」


男が駆ける。
ぶくぶくと太っただらしない身体を揺らし、滝のような汗を流しながら、ひたすらに駆けている。
吐き出す息には苦痛の色が漏れだし、既に彼の限界が近いことを示唆しているようだった。

贅肉でぱつんぱつんに張りつめた真っ赤な中華風の制服に、長さ1メートル程のしっかりと手入れをされた立派な口髭。
そして右手に握られている、龍の装飾がされた黄金のリボルバーに、左の中指に嵌められた同じく純金の太めの指輪には3匹の龍が彫られている。


ソウサクシティーの南側を牛耳るチャイニーズマフィア『ドラゴン』が首領。
『杏露(しんる)・シナー』は真っ暗になった自らの館を必死の形相で駆け抜けていた。

202 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:03:39 ID:2kE5XV2E0
(;`ハ´)「……操!!(糞ったれ!!)」


ひたすら道なりに疾走していたシナーだったが、曲がり角をちょうど右に曲がったところで行き止まり。
普段の彼ならいくら巨大な建物といえ、自分が生活している館の道順など忘れる筈もないのだが、普段の運動不足と極度の焦燥のため、一心不乱に駆けながらも脱出ルートを正確に計算する、などという器用な真似が出来る程の思考能力など持ち合わせていなかった。

彼の脳裏に浮かぶ、絶望の2文字。
地団駄を踏む彼の背後から、何かが這うような、とにかく底冷えするような恐怖そのものが近付いて来る。

203 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:04:38 ID:2kE5XV2E0
そして、低く、しゃがれた声が。
暗闇からのっぺりと響く。


「なあ、あんたさぁ?」


暗闇にひたりと小さな音を立て、暗闇からまるで這い出るかのように、男の細い右脚が見えた。


「マリアージュ。ってぇ、知ってるかぁ?」


シナーの視界に敵の姿が入った瞬間、彼は体型からは考えられない俊敏な動きで姿勢を低く構えながら銃をしっかりと握り直し、狙いを定めた。

204 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:05:28 ID:2kE5XV2E0
(#`ハ´)「去死ロ巴!!(くたばれ!!)」


硝煙を撒き散らしながら響く6発の銃声。

銃の腕前はマフィア1を誇るシナーの狙いはまさに完璧で、暗闇にぼやける男の脳天に3発、そして心臓に3発と恐ろしい精度で命中した。

薬莢がカランカランと音を立て落下する。
暫しの沈黙が暗闇を支配した。


(;`ハ´)(死んだか?)


シナーの顔からようやく焦燥が消えかけたその時、暗闇から伸びていた脚がまたひたりひたりと歩みを進めた。

206 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:07:15 ID:2kE5XV2E0
(;`ハ´)(こいつ不死身なのか!?)


驚愕に目を丸くするシナーをまるで挑発するように、その男は姿を現した。


(  ゚∀゚ )


髪の色はやけに黒みの強い赤色で、黄色と赤がごちゃ混ぜになったように濁りきった瞳に前髪が僅かにかかっている。

その身体は灰色『だった』と思われるトレーナー越しでも分かる程にガリガリに痩せ細り、見ているものに何か不安な感情を植え付ける程。

下半身には『恐らく』黒いスキニーパンツに大幅に靴底がすり減ったスニーカー。

207 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:08:09 ID:2kE5XV2E0
一番特徴的なのは腰に巻いた真っ黒『だった』であろう太めの革製のベルトだ。
ちょうど上か下から覗けば、まるでリボルバーを象ったかのような形で四方八方に革製のボトル・ホルダーが付属しており、その中の殆どに緑色のウィスキーボトルが納まっている。

男はゆっくりと首を右に回し、骨を鳴らす。
額には3つの穴、トレーナーにも同じく3つの風穴が空いているにも関わらず、濁った瞳のその男は平然とそこに佇んでいた。


(  ゚∀゚ )「なぁ、あんたさぁ?」


低く、酒焼けした男の声が響く。

208 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:09:28 ID:2kE5XV2E0
頭からバケツで血液を被ったのか、と疑いたくなるほど、その身体を真っ赤に染めた男はゆったりとした手つきでホルダーから酒瓶を取り出す。
そしてそのまま流し込むように味わうと、一瞬とろけたような顔付きになり、不思議な事に『黒く色づいた吐息』を漏らす。


(  ゚∀゚ )「マリアージュ。ってぇ、知ってるかぁ?」


そして、シューっとガスが漏れ出すような音を立てながら、額の風穴が静かに閉じていき、やがて何事も無かったのように傷跡は消失していた。


(  ゚∀゚ )「マリアージュってさぁ、あれなんだよなぁ? つまりさぁ、すっごく重要な事なんだよなぁ」

209 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:11:31 ID:2kE5XV2E0
アヒャヒャと小さく笑いながらシナーに少しずつ歩みよる男の足下はふらついており、その臭いからもかなりの量のアルコールを摂取している事が推測できた。
それでも男はシナーに語りかけるように口を開き続ける。


(  ゚∀゚ )「食事っていうのはさぁ、あれなんだよぉ。素晴らしい、アートみたいものなんだよなぁ」

(  ゚∀゚ )「味覚だけじゃないんだぁ。嗅覚に触覚にぃ、聴覚に視覚ぅ、五感全部で味わうものな訳なんだよなぁ?」

(;`ハ´)「な……何を言ってるアルか!?」


弾丸のつきたシナーに抵抗すべき術は無い。
必死に目の前の男の言葉を理解して少しでも時間を稼ごうと考えたが、彼の言っている言葉はシナーには理解出来なかった。

210 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:12:33 ID:2kE5XV2E0
しかし、当の男はシナーの困惑を無視するようにヘラヘラ笑いながらまた酒を味わい、黒い吐息を漏らしながら続けた。


(  ゚∀゚ )「俺はさぁ、『ラスティネイル』が好きなんだよぉ。知ってるかぁ、あんた? ラスティネイルゥ」

(  ゚∀゚ )「俺とおぉんなじ名前のスコッチをベースに指定したさぁ? あの、錆びた釘が大好きなんだよぉ。」


ひたり。また1歩。
男が近付く。

211 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:13:33 ID:2kE5XV2E0
(  ゚∀゚ )「煙るピートの香りぃ、それから大きな、おぉきな丸氷がよぉ、ロックグラスにぃカランカラァンって綺麗な音を立てるんだよぉ」

(  ゚∀゚ )「それから琥珀の色ぉ、あの、色がまた、たまんねぇんだよなあぁ。実にぃ美しい訳なんだよなぁ……アヒャ……」

(  ゚∀゚ )「それから口に含むんだよぉ。あの、甘さ、辛さ、粘度……アヒャ……アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」


男は屈伸するかのように上半身をぐったりと下げて見せた。

その直後勢いよく上体を翻し、まるで悪魔が乗り移ったかのようにエビ反りになりながら奇声のような笑い声をあげた。



(  。∀。 )「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

213 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:14:38 ID:2kE5XV2E0
シナーの喉がゴクリとなる。
とりあえずこの短時間で判った事がある。
まず、自分がかなり絶望的な状況に置かれていること。
そして、なにより……




――目の前の男(キチガイ)はかなりヤバイということだ。




後ろにそのまま倒れこむのでは無いかと疑いたくなる姿勢で停止した男は、やがてゆっくりと上体を元に戻し姿勢を正す。

そして、先程のように酒瓶に口づけたかと思うと、血走った目を見開き、男の表情がニヤついたものから凍り付くような真顔に一瞬で変わった。

214 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:19:04 ID:2kE5XV2E0
(  ゚Д゚ )「まず口内に広がる薬品を思わせるあの独特かつ馥郁なピート香ピート香ピート香ピート香それがまるで桜の花弁が春風に散るかの如く優雅に儚く幽玄に口いっぱいに広がるんだよそうすると奥の方からあのドランブイの濃厚なヒースの花の芳醇な蜜の甘さが身体を溶かすように染み渡っていくんだまさにその味わいは甘露甘露甘露甘露それから後を追うかのように絶妙なバランスで調合されたいくつものハーブが舌先を優しくくすぐるかのように転げ回りブレンドされた何十ものウィスキー達の豪華なシンフォニーが幕開くそしてそしてそして盛大なるクライマックスに輝きを見せるのはラフロイグラフロイグラフロイグゥゥゥゥゥラフロイグの深味のあるコクや辛みそしてその中に微かに姿を見せる華々しいバニラの香り香り香り香り香りいいいいいいぃぃぃぃぃ!!」

215 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:20:04 ID:2kE5XV2E0
暗闇の中に、男の絶叫だけが何重にも響いた。
興奮した様子で長台詞を叫んだ反動の、荒く、黒い吐息。
シナーの心臓の鼓動。
やがて、沈黙。

そして、またヘラヘラとしたあの笑い声が響いていく。


(  ゚∀゚ )「なあ、あんたさぁ? マリアージュって知ってるかぁ?」


ひたり。
また1歩、距離が縮まった。

216 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:21:57 ID:2kE5XV2E0
(;`ハ´)「ひっ……!」

思わず数歩後ずさるシナーだったが、やがて壁に行手を遮られる。
先程までの疾走で汗だくになる程の熱に襲われていた身体は、今はまるで凍り付くような寒さに支配されていた。


(  ゚∀゚ )「先ずは見た目を見るんだよぉ。男かぁ? 女かぁ? 若いかぁ? 老いぼれかぁ? 肉付きはぁ? 脂肪の量はぁ? 顔は美形かぁ? それとも醜いかぁ?」

(# ゚∀゚ )「味わう前に香りを想像するんだよぉ
! あの独特の鉄っぽい血塩の香りに程よく脂の差し込んだ生肉の命そのものの香りぃ! さぁさぁ次は聴覚に注目だぁ!!」

217 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:23:55 ID:2kE5XV2E0
(# ゚∀゚ )「ぐちゅぐちゅと咀嚼する時のあの水っぽい音に骨を砕く音だって食事時の立派なシンフォニーなんだよぉ! それにもちろん悲鳴だぁ! 悲鳴! 悲鳴 悲鳴いいいいいいぃぃぃぃぃ!! アヒャッアヒャヒャヒャヒャヒャ――――!!」


絶叫のような黒い吐息をまとった高笑いがこだまする。
やがて大きく舌舐めずりしたあとに酒瓶に食らい付くように大きく喉を音を鳴らし、目の前の怯えきった情けない中国人に見せびらかすように愛しき緑の酒瓶を付きだした。


(# ゚∀゚ )「こいつはアイラの傑作ラフロイグ10年!!この酒は最高だぁ! そしてこの酒をさらに美味なるものとするためには最高の料理との……」

(# ゚∀゚ )「マリアージュが必要だぁ!!」


響く黒い絶叫。
そして沈黙。

218 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:25:48 ID:2kE5XV2E0
やがてカタカタと何かが震える音が響く。
チャイニーズマフィア『ドラゴン』が首領。
シナーの身体は無意識のうちに恐怖に捕らわれ、ガタガタと震えていた。


(  ゚∀゚ )「なぁ、あんたさぁ……」


やがて沈黙を切り裂くように目の前の男は投げ掛ける。
その瞳の色は、黄色と赤が入り雑じった狂気に満ち満ちた色。


(# ゚∀゚ )「マリアージュ。ってぇ、知ってるかぁ!?」


気狂いの大声にヒィッと情けない悲鳴をもらしながらシナーは握っていた拳銃を落とした。
そして無様に地に平伏すと、顔中を涙でぐちゃぐちゃにしながら命乞いを始める。

219 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:28:03 ID:2kE5XV2E0
( ;ハ;)「止めろ……頼むから! もう2度と『北』には手を出さないと約束するアル!!」

(#;ハ;)「金だって武器だって女だっていくらでも流すアル! だっ……だから命だけはあああぁぁ!!」


プライドも財産も、全てを投げ出し、振り絞ったその言葉に血濡れの男はにんまりと笑いながらまた1歩、歩みを進める。

そしてまた喉を鳴らし、酒を流し込んで行く。
そして空になった酒瓶の口を、長い舌でなぞるように舐め回しながらひたりひたりと歩みを進める。

220 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:29:11 ID:2kE5XV2E0
ちょうど無様にひれふす中国男との距離が1メーター程になったその時、空になった酒瓶を後方に放り投げた。

ゆるやかな放物線を描いた緑の瓶は、ゆっくりと重力に従って地に吸い寄せられる。


シナーのすすり泣く声が虚しく響く。
血濡れの男の足跡が止まる。


そしてガラスが砕ける音が響いた瞬間……

221 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:30:27 ID:2kE5XV2E0







―――(#   Д )「いただきまあああぁぁぁぁぁす!!」





獣の如く飛び掛かり、シナーの右頬の肉を一瞬で食い千切った。

222 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:31:39 ID:2kE5XV2E0
(; ハ )「ひぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ!!」


そのままシナーの身体を押し倒すと、暴れる男をその細腕からは考えられない怪力で押さえつけ、今度は左腕にグヂュリと音を立て食らい付いた。
真っ赤に染まる血肉の奥に見えた白い骨を発見すると、黒い吐息を吐き出しながら、歯で削るかのようにガリガリと音を立てスペアリブを、まさに骨の髄まで味わおうとむしゃぶりつく。


(  ハ )「がああああぁぁぁぁあぎゃああああがっがっぎぎゃやあああああぁぁぁぁ!!」


シナーの悲鳴にうっとりとした表情を浮かべた男はそのまま彼の肉を3、4回咀嚼してゴクリと飲み込む。

223 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:32:34 ID:2kE5XV2E0
白目を向けて痙攣するシナーをチラリと見ると、滑るようにその牙を彼の腹部に移し、頭ごと突っ込む勢いで牙を立てる。

贅肉で膨らんだその腹を衣服ごと強引に食い千切ると、ポッカリと穴の開いた、その腹の中に首を突っ込むようにして中の血液をごくごくと飲み始める。
やがてグリグリと首を捻り、小腸と大腸を避けながら(排泄物が詰まっている可能性があるため)手当たり次第、目につく臓器に食らい付く。

男にとって、シナーの腹の中はご馳走の山。
飢えた野良犬が可愛く見える勢いで食い破り、食い散らかし、貪り尽くす。

224 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:33:32 ID:2kE5XV2E0
鼓膜を割らんばかりの悲鳴をあげるシナー自身に響くのは、自分の体内をまさぐられる奇妙な感覚と、ぐちゅぐちゅと水っぽい何かを咀嚼する音。
それから人生で感じた事の無い、燃えるような灼熱と氷のような冷たさという矛盾した感覚。
そして嘔吐を促す程のひたすらな激痛激痛激痛。


そして膵臓と肝臓を完食した男が、肋骨を噛み砕き、血色のいい心臓に牙を突き立てた瞬間。
杏露・シナーはその口から噴水のような血を噴き出しながら、38年の短い人生に幕を下ろした。





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225 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:34:33 ID:2kE5XV2E0
ぐちゃぐちゃとした水音。それから肉を剥ぐ音、それらを食い千切る音だけが響く暗闇に、ピピピッと携帯の着信音が交じる。


('、`*川


無力な中年男がその身体を食い散らかされる様を後ろから眺めていたジャージ姿の女はポケットからスマートフォンを取り出すと通話のスイッチをタッチ。
何ともダルそうな脱力した声で「もしもーし」と応答した。


『俺だ。そろそろ片付いたか?』


電話からは若い男の声が聞こえてきた。
一応、彼女の上司でありながら、実際のとこら自分の弟にあたるという微妙な関係性の我らがリーダーに、ジャージ姿の女『カリラ・ペニサス』は先程と同じように脱力した声で返事をする。

226 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:35:25 ID:2kE5XV2E0
('、`*川「あーうん、ちなみに今うちの『グルメマン』が絶賛食事中だよー。なんならスピーカーにしとくー?」

『いやっちょっ辞めろ! 夜寝れなくなるから辞めて下さい頼むから!!……それよか少し不味い事になったかもしれない』

('、`*川「えー何さ何さ?」


目の前でゾンビのように肉に食らい付くもう1人の弟を眺めながら、自分の髪の毛をくるくると指で弄び、電話越しに疑問の声を投げ掛ける。
あーなんか髪の毛ベタベタしてんなー、そういやー最近シャワー浴びてないやー。
とか、どうでもいいことを考えながら。

227 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:36:45 ID:2kE5XV2E0
『今しがたバラして貰ってる「ドラゴン」の杏露・シナーなんだがな、ソイツについて見落としていた情報があったんだ』

('、`*川「んー?」

『そいつは約8年前。自分の組織を立ち上げるまでは、とある巨大マフィアグループに属していた』

('、`*川「ふぅん、それが?」

『相変わらず適当に話ききやがって……西だ。ペニサス』

('、`*川「西?」


ああ。と電話の男はやけに深刻そうな声で肯定した。
そして少し間をあけると、やがてこう告げた。

228 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:38:40 ID:2kE5XV2E0
『奴が所属していたのは「イエローモンキー」だ。いいか、ペニサス。
もう一度言うからよく聴けよ? 奴が所属していたのは……』







――――『「ゴッドファーザー」と称される大物、「リシャール・ニダー」が率いる「イエローモンキー」なんだよ!』――――





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229 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:39:43 ID:2kE5XV2E0







第2話    天使







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231 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:53:54 ID:2kE5XV2E0
『台風の目』という言葉がある。

ザックリと説明してしまうなら、台風の真ん中は周囲の暴風や豪雨を全く感じさせない程に静かで平和だという意味である。


アウトロー集う、この吹きだまりであるソウサクシティーにも、そんな台風の目が存在する。

ちょうど市内のど真ん中。そこには大きな交差点がある。

真ん中には小さな噴水。北側の角にはBAR Bloody Mary。
そしてそこから時計廻りに、警察署、喫茶店、教会といった施設が集結している。

232 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:54:41 ID:2kE5XV2E0
この中央の大きな交差点は、どこのギャングの縄張りにも属さない、ポッカリと穴の開いた台風の目なのである。

仮に例え東でレイプ事件があろうが、北で殺人があろうが、西と南で戦争が起きようが、この『平和な交差点(クロス・ロード)』では平穏が約束されているのだ。


だが、ここで1つの疑問が産まれてくる。

そもそも法律など有っても無いような無法地帯のソウサクシティーの住人達が、なぜわざわざ『交差点』では争いを起こしてはいけないという暗黙の掟を守っているのだろうか?


東の角にある警察署のおかげだろうか?
しかしソウサクシティーの警官はほぼ全員がマフィアと繋がった悪徳警官である。
しかも、署長の『サザンカンフォート・ロマネスク』は前科持ち、ドラッグ依存症、ギャンブル中毒のトリプルパンチで街の平和を守る気などさらさら無い。

むしろ、今日は人が何人死ぬかという賭事を署内で繰り広げる程の屑っぷりなのだ。

233 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:55:39 ID:2kE5XV2E0
では、西の角にある教会の力だろうか?
確かにアメリカ合衆国ではクリスチャンが多いので、ソウサクシティーにも当てはまるだろう。
だが教会といってもちっぽけでボロボロのほったて小屋のような建物な訳で、威厳などさらさら無い。

そもそもソウサクシティーのクリスチャンの全員が熱心に毎週教会に祈りを捧げる訳でもなく、精々死にかけた時にジーザス!と大袈裟に叫ぶ程度だ。
この腐った街の住人の殆どは教会に行くくらいなら娼館や酒場に。
祈りを捧げる時間があったら金儲けの方法を考えるような人間ばかりの世界なのだから。

234 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:56:37 ID:2kE5XV2E0
ここで再び最初の問題に戻る。

警察でもなく、教会でもない。
では一体何の力をもってこの台風の目のような安全地帯を作り出しているのか。

それは、南角にある小さな喫茶店『カフェ・パトロン』にいるある男の力。
気がつけばほぼ毎日のようにテラスに座り、そして常にコーヒーを飲んでいる、ある1人の男の力だった。


(´・_ゝ・`)「んー……エスプレッソ……」


真っ黒なスーツに白いシャツ。そしてまた真っ黒なネクタイ。
トレンチコートも同じく真っ黒で、深めに被った背の低い中折れハットも言うまでもなく真っ黒で。
おまけにソックスや革靴まで当然のように真っ黒。

235 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 19:58:20 ID:2kE5XV2E0
夏の日も冬の日も、雨が降ろうが風が吹こうが全身を黒に包んだこの格好がトレードマークのこの男。
中肉中背。そして顔つきは見事なまでに平々凡々。


(*´ー _ゝー`)「この苦味、この深味、そしてこの黒さ……エスプレッソ……」


その職業、情報屋。
名を『デミタス』というこの男、ソウサクシティーに似合わぬこの紳士風の男を、その見た目から人はこう呼ぶのだ。



――『ジョニーウォーカー』と。



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236 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:02:16 ID:2kE5XV2E0
(*´・_ゝ・`)「うーん……やっぱりコーヒーはエスプレッソだよねー。あっ、ドルシアちゃーんお代わり頂戴なー」

$$*゚-゚/$ ドルシア「はいはーい。ちなみに次で丁度10杯目ですからねー♪」


ソウサクシティー唯一の喫茶店『カフェ・パトロン』の女店主が見惚れる程に上品な笑顔でコーヒーのお代わりを運んで来る。
その見た目はアウトローの街に似合わぬ癒しをまとったものだった。

ふわふわの金の巻髪を揺らし、同じく金色のくりくりとした瞳。
花は高く、唇はふんわりと柔らかく、全体的に化粧は薄め。
白いシャツブラウスに青いスキニー、それから動きやすい黒いスニーカーという地味めな服装。

唯一目立つのはパトロンという店名の刺繍が入った黄色いエプロンの存在と、左耳に揺れるドルマークをモチーフにした大きめのゴールドイヤリングのみ。

それがパトロンの看板娘兼、店長である『シャルトリューズ・ドルシア』だ。

237 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:03:44 ID:2kE5XV2E0
(*´・_ゝー`)「いやはや、ここのコーヒーは美味し過ぎちゃってねーどうにも止まらない。
いけないねー、こうやって何杯も飲んでたら財布がスッカラカンになってしまうよ」

$$*゚-゚/$「あらら。でも店側としては嬉しいんですけどね。はい、エスプレッソ」


白いクロスが置かれたテーブルに白いカップセットが静かに置かれる。
そしてその中身は当然ながら真っ黒の液体が並々注がれており、その色を際立てるかのように白い湯気がふわふわと漂う。
デミタスはその光景に満足げな表情を浮かべ、カップに口をつけた。

238 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:05:47 ID:2kE5XV2E0
(*´ー_ゝー`)「あぁ……エスプレッソ。いいね、愛しのエスプレッソだ。
ああ、確かにこのままだとスッカラカンになってしまうかもしれないなあ。
でもね、僕は信じてるんだ。ドルシアちゃん。君と、このカフェ・パトロンをね」


至福の味に酔いしれながら、デミタスは瞳を閉じて語り続けた。


(´ー_ゝー`)「優しいドルシアちゃんなら、ほぼ毎日のようにここに通っている、僕には特別に。そう、きっと特別にだ」

(´・_ゝ・`)「いつも本当にありがとうございます。だなんて感謝の言葉と共にだね、きっと1杯くらいエスプレッソをサービスしてくれ$$*゚-゚/$「しませんよ」あっ、はい、ごめんなさい」

239 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:08:23 ID:2kE5XV2E0
『カフェ・パトロン』はテラス席をメインとしたこじんまりとしたオープンカフェスタイルの店構えだ。
彼女1人で経営していることもあり、テーブルは4つ、席はそれぞれ3つ。

店内は彼女が栽培している数多くの野菜やハーブで溢れ、その奥には自慢のキッチン。
基本的に雨天時は臨時休業というかなり自由なスタイルでの営業のためなのか、1品1品のメニューがなかなか『いいお値段』なのだ。


(;´・_ゝ・`)「いや、ねえ? でもちょっと聴いてよドルシアちゃん。
いくらなんでもコーヒー1杯15ドルって言うのはご立派なお値段過ぎないかなー?
もっと安かったら沢山常連だって出来そうなんだけども」

$$*^-^/$「大丈夫ですよ。どんなにお客さんが少なくても、その分とびっきり美味しい常連さんのデミさんがいるんですから」

(´^_ゝ^`)「わあお! とびっきりの笑顔で搾取する気満々宣言してきたぞーこの鬼畜娘ったらー」

240 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:10:07 ID:2kE5XV2E0
デミタスはカップを置くとやれやれというジェスチャーをしてみせた。
小さな店構えのカフェ・パトロンの唯一の常連客(と言うか基本的に毎日いる)である彼は、何度も何度も値引き交渉をしているのだがそれが聞き入れられた事は1度として無かった。

ドルシアのイヤリングが主張するかのように輝いた。
上品で、気立てもよく、優しい、そして美人。
女としてほぼ完璧とも言える彼女の唯一の欠点は異常なまでに逞しい商魂。


$$*゚-゚/$


……まあ要するに、早い話がお金が大好きなのだ。

241 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:12:36 ID:2kE5XV2E0
$$*゚-゚/$「あっ、そう言えば新作のアップルパイがあるんですよ!
コーヒー好きのデミタスさんにピッタリのスペシャルレシピ!!」

(*´・_ゝ・`)「ほほーう。そんな嬉しいことを聴いたら注文せずにはいられないじゃないの」

$$*^-^/$「毎度ありがとうございます。特製アップルパイは1皿50ドルでーす♪」

(´^_ゝ^`)「はっはっはっ。この鬼畜守銭奴女め」

$$*^-^/$「そこまで言うならとりあえず3皿分ぐらい作っちゃいますねー♪」

(´・_ゝ・`)「やめてください、しんでしまいます」


財布への打撃は深刻ながら、この和やかで平和な時間は何事にも変えがたい。
キッチンへ消えていくドルシアのヒップを眺めながらエスプレッソを味わう。


まさに、そんな時だった。

242 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:14:24 ID:2kE5XV2E0
「ジョニーウォーカー!!!」


南の方から怒気を孕んだ大きな声が響いた。
その声にデミタスがコーヒー片手に振り向くと、そこには1人の若い男が必死の形相でこちらに向かって走ってくるのが見えた。

めんどうだな、と思いつつもエスプレッソを味わいながらデミタスは軽い感じで挨拶をしてみせた。


(´・_ゝ・`)「やあやあ、南東側の『プレイボーイクラブ』のニュックン氏じゃないか。
お久しぶりー。あっ、コーヒー飲む?
やっぱりモーニングはエスプレッソだよねー」

(# ^ν^)「何がお久しぶりだ! この裏切り物の黒服野郎が!!」


現れた金髪の若者、『ノチェロ・ニュックン』はデミタスの挨拶など聞く気がないのか、食ってかからんばかりに身を乗りだし、怒りの声をあげた。

243 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:15:40 ID:2kE5XV2E0
(# ^ν^)「テメエのせいで俺達は『クリムゾンヘッド』に目つけられちまったんだよ!
テメエ長い物に巻かれて俺達の情報を吐きやがったな!!」


怒りの形相を浮かべる男とは対照的にデミタスはポカンとした顔でニュックンを見つめた。
「こいつは何を言ってんだ?」と言わんばかりの表情で。

やがて諦めたような表情でカップを置きながら小さく溜め息を漏らす。
それから諭すような口調で、あのねー。と切り出した。

244 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:16:26 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝ・`)「裏切り物って言われてもね、僕はそもそも、情報屋なんだよ?
この交差点で1人コーヒーを嗜む『ジョニーウォーカー』は何処にも属さないフリーの情報屋さ」

(´・_ゝ・`)「確かに僕はクリムゾンヘッドのお偉い様にに君達プレイボーイクラブの情報を売ったよ。
まあ、それだけじゃないけどね。顧客の要望は最近活発に動いている小さいチームの名称と現在地の全ての情報だった訳だし」


確かにデミタスはニュックンの言っている事に心当たりがあった。
今からちょうど2週間前、南を牛耳っていたチャイニーズマフィア『ドラゴン』の首領、『杏露・シナー』が何者かに暗殺された。

245 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:17:47 ID:2kE5XV2E0
それによって南側でひっそりと息を潜めていた小さなグループが返り咲かんとばかりに一気に暴れ始める。
それに目をつけたクリムゾンヘッドの女首領、ハインリッヒは小さなチームを全て喰らい尽くすために、右腕にあたるフィレンクトを通じてデミタスに情報を求めたのだ。


(´・_ゝ・`)「モララー氏率いる『ホワイトカラー』にシナー氏の実の娘、スニフィ嬢率いる『ウルボロス』。
それからつい最近結成されたばかりでリーダーを持たない『ザ・バンド』」

(´・_ゝ・`)「そして君達、プレイボーイクラブだ。
あ、そう言えばリーダーの『三月兎』ことラビット氏は元気ー?
それとも君がそこまで焦ってるって事はクリムゾンヘッドの誰かに殺されちゃったのかしら?」

246 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:19:55 ID:2kE5XV2E0
(# ^ν^)「ざけんじゃねえ!!」


ニュックンは怒声をあげながらデミタスの向かいの席のチェアーを蹴飛ばした。
そして懐から兎のように真っ白に塗装された拳銃を取りだし、デミタスの眉間に向けて突き付けた。


(# ^ν^)「リーダーはまだくたばっちゃいねえ!!
あの人が俺らを残して死んだりする訳がねえんだよ!!」


怒りに震えながら精一杯に叫んでいるところを見るや、プレイボーイクラブのリーダーとやらは随分と慕われているらしい。

もっとも、あらゆる情報を把握しているデミタスとしては彼がとある小さな病院で既に虫の息であることも把握していたので、割とどうでもいいことだったのだが。

247 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:21:16 ID:2kE5XV2E0
(# ^ν^)「いいか! クリムゾンヘッドの弱点を教えろ!! 何でもいいからとっとと吐け!!」


憤怒で顔を真っ赤にしながらニュックンはデミタスに食ってかかる。
だが当のデミタスはその怒声を右から左へ聞き流すかのように、涼しい顔のままカップを手に取り、静かにエスプレッソを堪能する。
そして空になったカップを静かに置いて、小さく微笑むような表情でニュックンに向かいあった。


(´・_ゝ・`)「もちろん僕は中立の立場にいる情報屋だからね。
ニュックン氏のお望みの情報だってしっかりと握っているさ」

( ^ν^)「なら……」


安堵したようなニュックンの表情を確認したデミタスはニッコリと微笑んで

248 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:22:43 ID:2kE5XV2E0



(´^_ゝ^`)「15万ドルになります」


と言った。



( ^ν^)「……は?」

(´・_ゝ・`)「あれ? 聴こえなかった? 15万ドルだよ。じゅ・う・ご・ま・ん・ど・る。
もちろん後で揉めないように安心安全の現金払いで完全前金制ね」

249 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:23:36 ID:2kE5XV2E0
(# ^ν^)「ざっけんじゃねえ黒服野郎が!! そんな大金払える訳ねーだろうが!!」

(´・_ゝ・`)「んー? それじゃあ教えられないよ。 僕にとって情報は大事な商品なんだからねー」


間延びした口調でふぅ、と溜め息を吐くデミタス。
小馬鹿にしたような目の前の男の態度にニュックンは静かに切れた。

カチャリ。と撃鉄を起こす音が小鳥のさえずりと噴水の水音が響く青空に静かに交じった。


(# ^ν^)「いいか。糞野郎が、よく聴きやがれ」


静かに、それでいて低く。
殺意を込めたニュックンの声が響く。

250 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:26:50 ID:2kE5XV2E0
(# ^ν^)「これは、マジだ。大マジだ。脅しでもねーマジな話だ。
テメエは大人しく吐け、さもなきゃ」

(# ゚ν ゚)「プレイボーイクラブの白い弾丸がテメエの頭を弾き飛ばす!!」


ニュックンの人指し指は既に引き金にかかり、何時でも目の前の男を処刑する準備は出来ている。
先程の彼の言葉は脅しでも何でもなく、目的の情報が得られないくらいだったら目の前にいる憎きエセ紳士を処分する腹積もりだった。

だが当のデミタスは銃口を向けられているにも関わらず、先程から表情を変えることなく、またやれやれと言ったジェスチャーをしてニュックンを挑発する。
必死の思いで引き金にかかった人指し指を抑える金髪の男の心情を知ってか知らずか、デミタスは少々めんどくさそうに口を開いた。

251 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:28:10 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝー`)「んー、まあ確かにね。こんな距離で弾丸なんか喰らっちゃったらさあ。
そりゃあ、いくら僕でも死んじゃうよね?
うん、分かるよー分かる分かる」

(´・_ゝ・`)「でもさ、ニュックン氏。僕はどうしても君に1つ聞きたいことがあるんだよ」

(# ^ν^)「……んだよ、ごら」


殺気と怒気を隠そうとしないニュックンの言葉などまるで気にしない素振りでデミタスは続けた。
それは彼が今まで潜り抜けて来た修羅場の数を表しているようにも見えるし、そもそも何も考えていないような阿呆のようにも見える。

もっとも、常に何処かしこで鉛玉が飛び交うソウサクシティーの古株である彼にとっては、こんな状況など修羅場にすらなり得ないのかもしれないが。

252 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:29:27 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝ・`)「いやはや、簡単な事なんだよ。
君はつい先程『白い弾丸がテメエの頭を弾き飛ばす』って言った訳なんだけどもね?」

(´ー_ゝー`)「僕と致しましてはね、んー、やっぱりさー。
そこら辺がちょいとばかし、不思議に思っちゃうんだよねー」

(# ^ν^)「……何が言いてえ」


質問の意図が全く読み取れないニュックンを諭すようにデミタスは続けた。
まるで、大人が悪ガキに仕方なく説教をするみたいに。

253 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:31:10 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝ・`)「いやはや、だからね。本当に単純な疑問なんですけどねー」

(´・_ゝ・`)「ニュックン氏はどうやって、その弾丸を僕に撃ち込むつもりなんですかねー?」


そして、デミタスのめんどくさそうな表情がすっかりと変わり、ニヤリと音がなりそうな嫌な笑みを浮かべ、こう告げるのだ。

.

254 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:32:03 ID:2kE5XV2E0







―――「『銃も持っていない』のにさあ?」







と。

255 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:33:27 ID:2kE5XV2E0
( ^ν^)「……は?」


ニュックンの表情から怒りが消えた。
そしてその顔はみるみると青ざめ、額から脂汗がだらりと落ちる。
やがて身体が震え始め、気が付いたら2、3歩ほど後ろに後ずさっていた。


(; ゚ ν ゚)「なっ……なんで!?」


ニュックンの頭の中は疑問でいっぱいだった。
何故このエセ紳士は銃を突き付けられても涼しい顔だったのか?
何故こいつは意味の分からない質問をしたのか。

そして何より重要な事。
それは何故しっかりと握っていた愛用の白いベレッタが『一瞬で消えてしまった』のかと。

256 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:34:15 ID:2kE5XV2E0
驚きと困惑の表情を浮かべるニュックンを横目で眺めたデミタスはさて、ゆっくりと立ち上がりながら口を開く。


(´・_ゝ・`)「ニュックン氏や。ソウサクシティーに根付いたばかりの君に、このジョニーウォーカーこと、イケメン紳士のデミタス氏が特別に良い事を教えてあげるよ」


人の良さそうな、いかにも紳士という言葉が似合うデミタスの笑み。
先程まで神経を逆なでして仕方なかったそれが、今のニュックンには何かとても恐ろしい物に見えた。

257 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:35:24 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝ・`)「ここ、ソウサクシティーは喰うか喰われるかの無法地帯。
それでも皆が怖れ、その怒りを買わないように努める『ヤバイ人間』が3人いるんだ」


落ち着いた声でデミタスは握っていた右手の人指し指だけをニュックンによく見えるように開いて、先ず1人目だ。と言った。


(´・_ゝ・`)「『ゴッドファーザー』こと西のイエローモンキーの首領『リシャール・ニダー』氏だ。
まさに昔気質のマフィアのドンである、彼の怒りを買う事がどんなに恐ろしいかは言うまでもないでしょ?」

(;´^_ゝ^`)「温厚で必要以上の争いを好まない彼がぶちギレたら……あはは、想像したらオシッコちびっちゃいそうだよねー」

258 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:36:30 ID:2kE5XV2E0
にこやかに笑いながデミタスは2本目の指を静かに開く。


(´・_ゝ・`)「そして2人目は君がつい先程まで情報を聞き出そうとしたクリムゾンヘッドの女首領『MM・ハインリッヒ』嬢。
典型的なサディストである彼女の拷問は、それはそれは恐ろしいらしくてね?」

(´・_ゝ・`)「なんでもいっそのこと殺してくれ!!
と叫ぶ可哀想な人達をあえて死なないように絶妙なテクニックを発揮して、たっぷり楽しむように3日間もかけて、ぐちゃぐちゃにしてしまうんだとか。
おっそろしい話だよねー」


「ああ、そう言えば新しい拷問の方法を教えてくれと頼まれた事もあったよ」とデミタスは何か愉快な事を思い出すかのようにクスリと笑って見せる。
やがて思い出したかのように、目の前の怯える若者の瞳をしっかりと見つめると3つめの指を開く。

259 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:37:30 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝ・`)「そして最後に3人目だ」


少しもったいぶるように、余韻たっぷりで語り出す。


(´・_ゝ・`)「ソイツはコーヒーと平和と秩序を愛する、平々凡々な男なんだ。
なーんの特徴もない、氏がない情報屋」

(´・_ゝー`)「だけど不思議な事があってだね。
誰も彼も、彼のあだ名や下の名前を知っているっていうのに。
フルネームだけは、みーんな知らないんだよ。それは何故か?」


チッチッチッと舌を鳴らしながら右手の人指し指を振る。
三流俳優のようなこの演技が、どうしたことか、彼には異様な程にしっくりとマッチしていた。

260 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:38:22 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝ・`)「それはね、ソイツの中で、あるルールを決めているからなんだよ。
ソイツは過去に悪い事をやり過ぎちゃったからね、昔を思い出さないように出来るだけ、フルネームを名乗らないようにしたんだよ」

(´・_ゝ・`)「でも、どうしても、ソイツのフルネームを名乗らなきゃいけない時があるとするだろう?
それでもソイツは名前を知られたくない訳なんだよ。
するとソイツはどんな行動をすると思う?」


ニュックンの汗が顎に流れ、褐色のレンガで作られた地面に小さなシミを作った。
目の前の紳士が、何か恐ろしい黒い化物のように感じたのだ。

261 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:39:15 ID:2kE5XV2E0
(´・_ゝ・`)「答えはね、存外、単純な話でさ、消すんだよ。
自己紹介を済ました後に、相手の存在をすっかり消しちゃうんだってさ。
まあ、早い話が暗殺だよねー。
あ? 何でそんなことするか気になる?」

(´^_ゝ^`)「だってさ、知らない間にソイツの名前が色んな人に伝わってしまったらさあ、何だか恐いだろう?
だからソイツはさ、フルネームを名乗る時っていうのは、相手を殺す時だけ。っていうルールを決めているんだよね」


小さく震えすらみせているニュックンにデミタスはニッコリと微笑む。

そして見せびらかすように開いていた人指し指を閉じると、そのままゆっくりと右手をトレンチコートのポケットに忍ばせた。

262 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:40:06 ID:2kE5XV2E0
(´^_ゝ^`)「ねえ、弱小チーム、プレイボーイクラブのお馬鹿なお馬鹿なノチェロ・ニュックン氏。君は……」


そして目にも止まらぬ早さで右手を引き抜き『白いベレッタ』を目の前の男に突き付けた。

263 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:40:54 ID:2kE5XV2E0







(´ _ゝ・`)「僕の名前を聴く覚悟は、出来てるかい?」







.

264 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:42:43 ID:2kE5XV2E0





$$*゚-゚/$「アップルパイお待たせしましたー……ってあれ?椅子が壊れてる!?」

(´ー_ゝー`)「ああ、ごめんねー。ちょっとお客さんと揉めちゃってさ。
しっかりと弁償するから」


青空の下、ジョニーウォーカーことデミタスは椅子に浅く腰掛けながら、ぐったりとした笑顔をドルシアに見せた。


(´・_ゝー`)「そんなことより、コーヒーのお代わり頼むよ。こんな美味しそうなアップルパイをコーヒー抜きで味わうだなんて考えたくもないからね」

$$;*゚-゚/$「まったく、もう。デミさんは荒事ばっかり持ち込むんだから」

265 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:43:35 ID:2kE5XV2E0
ぷりぷりと怒りながらキッチンに消えていくドルシアのヒップを見送りながら、デミタスは心地よい小鳥のさえずりに耳をすませる。

そして、シナモンとアップルの甘い香りがふわふわと漂う特製のアップルパイを器用にフォークとナイフで切り分ける。

トロトロと溢れ出るジャムのような黄金の蜜。
それからゴロゴロと大粒にカットされた果肉の輝きたるいなや。
なるほど、これは、たまらない。


$$*゚-゚/$「はい、エスプレッソですよ」


ありがとう。と軽く礼をして、カップに口をつける。
そしてコーヒーの余韻が漂う中に、カリカリのパイ生地を放り込む。
ああ、これは……

266 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:44:40 ID:2kE5XV2E0
(*´^_ゝ^`)「美味しいね、いや、本当に」

$$*^-^/$「あら、嬉しい」


正義が枯れ果てたスラムの街。
それでも、この街もまだまだ捨てたものじゃないよね。

そんな事を考えながら、ジョニーウォーカーは今日もこの交差点の平和を守りつつ、至福の一時を堪能するのだった……




.

267 :名も無きAAのようです :2015/02/28(土) 20:46:44 ID:2kE5XV2E0





$$*^-^/$「あっ、因みに椅子の弁償金は2000ドルになります♪」

(#´・_ゝ・`)「鬼! 悪魔! ドルシア!!」

$$#*゚-゚/$「アップルパイ5つ追加ありがとうございまーす♪」

(´;_ゝ;`)「マジでごめんなさい!!」





『交差点』は今日もそれなりに平和である。







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