【感想】ξ゚⊿゚)ξ嘘が紡いだ物語のようです

全てが眠る、深い夜。
物音を立てないよう、王女は注意しながら部屋を出る。
最上階から裏口を目指し、冷たい石に囲まれた暗闇の城の中を裸足で歩く。
ようやく最後の木の扉を開けると、それに気が付いて駆け寄ってくる影が一つ。
隠れる必要は、もうない。何故なら―――

王女ツンは、なんてことないただの兵卒、ブーン=ラダトスクその人に、会うためだけに、ここに来たのだから。


嘘が紡いだ、禁断の愛の物語。

ξ゚⊿゚)ξ嘘が紡いだ物語のようです(ブーン芸VIP)





こんなに綺麗なお話は久しぶりに読みました。
城に貴族に領主に兵士、平等の理念は無く、王女は政略結婚が当たり前の時代。
女王ツンと、ただの兵卒ブーンの、禁断の恋路を辿る物語。

一話目序盤の、ブーンとツン二人が見上げる星空のように、物語全体が細やかな光で飾られていて、
しかしその二人の関係は正座のように結び付くことは決してないのだという、そんな哀れさに気が付くたび、読む者の心情を切なくさせる。

一人称視点で描かれるツンの相手を想う心理と、それが行動に伴わないツンデレ具合とがなんともじれったく、もどかしい。
但しそれを甘酸っぱいなどと表現するのはあまりにも不適切だろう。
立ちふさがる身分の差はその告白を許さない。
恋の成就は国の崩壊に繋がる。

だから、進むことも、戻ることもしない、一番楽で幸せな現状に甘えてきた。
それを限界まで続けてきた自分との決別と、理屈じゃないどうにもならない感情、
そのせめぎ合いが描かれた中盤から後半にかけては、現代に生きる我々も、ただただ黙って頷きながら応援する他ないのであろう……。

ひたすらに純愛を描き、王道を突っ走った、そんな恋愛小説でしたね。
面白かったです。



<この先、ネタバレを紡ぐ危険があるため、閲覧注意>



さて、すみませんが上げて落とします。
気になった点などを少々……。


まずはもう一度言ってしまいますが、これは本当に終始一貫して、最高に綺麗な物語でした。
すっごく素敵で、これ以上ないくらいの気持ちのいいハッピーエンドです。
だからと言いますか、私の好みではなかったです。

第5話、ブーンが短剣を突き立てるシーン。
私はここを読んだとき、「このままブーンがツンを刺すか、それか自分の心臓を貫いたりすると面白くなりそう!」とか思ってしまいました。
自分はハッピーエンドよりバッドエンド好きなんだなと改めて感じてしまう……。


さあところで何故私はこんな妄想をしてしまったのか?
バッドエンド好きだから?だけ?いや、多分違います。
ずばり、序盤にこれに匹敵するような盛り上がりどころが無かったから!です。

正直なところ、一話目を読み終わった後、二話目にこのまま手をつけようか迷いました。
つかみが甘かったのです。
次は一体どうなってしまうんだろう!?と思わせるような展開がなかったのです。

このお話は王道を突っ走っている。
王道とは、言ってしまえば『ありがち』です。
『身分違い故の禁断の恋』という話の軸も、真新しさの無い、ぶっちゃけ使い古されているネタです。
なので、女王と兵卒の恋の状況を説明しただけで、「この二人の恋の行方はどうなってしまうんだろう?」と読者にwktkさせるのにはちょっと無理があります。


じゃあ続きを期待させるにはどうすればいいのか?というと、話は戻って『盛り上がりどころをつくる』です。
一番手っ取り早いのが主人公格の人物をピンチに陥れる方法。
具体的には命の危機にあわせたり、その人物の計画を頓挫させようとしたり、ですね。

このお話では例えば、モララーを最初は敵に見せかけて登場させるとよかったかなと。
モララーの一人称視点を書かずに、序盤ではツンとブーンの夜会のやり取りを物陰からこっそりと見張っている。
舌打ちなどさせるなりして、ツンとブーンの敵のように見せかける。
こうすると、「二人の関係を妨害しようとする人物が登場した!どのように妨害するのだろう?それによる恋の行方は!?」と、少なからず読者のwktk感をアップさせることができたはずだと思います。
モララーが実は味方であることは、後の馬車のシーンにて明かせばいい。

とにかく読者を引き付けるようなアクションが、序盤で無かったのが惜しいと思いました。



あとは大きなところでは、ラスト、王様フォックスのエピローグですかね。
フォックスで締めたのは個人的に消化不良でした。
ツンが主人公なんだから、ツンで締めてほしかった。

このお話のタイトルは『嘘が紡いだ物語』。
ツン、ブーン、モララー、シラネーヨ、そこに実はフォックスまでもが例外なく嘘をついていたのだと明かすのは、まさしくタイトルに則した展開でなるほどなぁと納得したり、
ツンに本心から「綺麗になったな」と告げるのも素敵な終わり方だったりしたんですが、ね。
う~ん、難しいところです。



あとはぐちぐちと細かいところです。

現代的な言い回しが多かったので、改めた方が時代的雰囲気を壊さなかったかなと思いました。
具体的には、

【一話】「わたしの感動を返せ」「かったるくて」
【二話】「はずだよな、多分。」「……しかし、元々真面目な奴だ。大丈夫だろう、きっと。多分。」
【五話】「ξ;⊿;)ξ「うん……ぅん……」」(小さい「ぅ」が気になった)

と、強いて言わなければこんな感じ。
ブーン系ならではのとっつきやすさ、読みやすさは、この作品ではこういうところで出すべきでなかったと思います。
地の文も全体的にもう少し固い書き方でもよかったかも。


一話目のカナッペと葡萄酒の食事表現は大変素晴らしかったですね、あれは。
深夜に読んだから腹減ったのなんの……。
何より、この食べ物を書くことで時代背景の説明を助長できていたのがよかったです。

但し、三話目のスイートポテトの食事表現は完全に蛇足でした。
食べて、飲んで、やっぱり朝一連の流れは変わらないな。と、簡素にそれだけ書けば十分だったかなと。
些細な点ですが、失敗だったと思います。



大変長く批評たらたらになってしまいましたが、以上です。ご勘弁ください。

散々言いましたが、私はこの作品は好みではないが嫌いでもないです。
楽しんで読むことができましたし、面白かったです。

やっぱり何より、ツンと、それからモララーの葛藤がよく書けていて、これにはいつの間にか共感と同情、そして応援をしてしまっていました。
これについては全体的にとてもよかったです。
国のことを考え、父と兄のことをも想い、それでもどうにもならない自分の感情に必死に立ち向かって決着をつけようとしたツンの健気さと愛。
白騎士団団長という、国のことを第一に考えなければならない立場にありながらも、それでも妹の味方になって胸を貸したモララーの優しさと愛。
素晴らしかったです。美しい。

もちろん、ブーンの覚悟もとくと見せてもらいました。


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僕はもう、十分に満たされた。
今日のブーン=ラダトスクは、明日へは連れて行かない。

だけどこの温もりは、絶対に忘れない───


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ここは最高に格好良かったですね。
ブーンの苦渋の決断、覚悟が特に見れたシーンでした。いやあ満足満足。


ブーンの短剣を突き立てるシーンと、ツンが持っている絵本の内容とをかぶせたのは見事ですね。
ハラハラさせられました。
もしかすると本当にブスッとやっちゃうかも…?と思っちゃいましたからねぇ。

後は何気に、ブーンの「大丈夫」というセリフに感動させられたり。
このブーンが言うと本当に大丈夫に思わせてくれる、不思議なパワーを感じます。
ブーンの人間性がこの一言に詰まってる気がしますね。



総評としましては、前半は少し物足りないものがあるが、後半から最後にかけては満足もいき、なかなか面白い作品でした。
とにかく綺麗な物語なので、ハッピーなお話が好きな人にはたまらない一品になること間違いなしだろうと思います。

自分でもどうしようもない程の抑えきれない『純愛』が、登場人物たちの心理からじっくりと描かれた、恋愛小説のお手本のような作品。
恋愛ものを読みたいと思っている人には真っ先にこの作品を勧めます。