川 ゚ -゚)ネカフェライターのようです

2 :名も無きAAのようです :2014/12/06(土) 23:19:23 ID:LkgG9Vm60
 私は生真面目である。あなた達が思っているよりも、ずっと生真面目である、あまり言うと、かえって、偏屈なヤツだと思われかねないので、あと一度だけにするが、私は生真面目な女である。
 
川 ゚ -゚)「煙草、落としましたよ」

 煙草のポイ捨てなんて許すはずがない。髪の毛をいやらしく金色に染め上げた男は振り返って、威嚇してるらしい上目遣いをした。

(,,゚Д゚)「あ? 捨てたんだよ」

 私は、平然としている。雑踏に紛れて一家を路頭に迷わす大災害の火種をまく男に、なんの威厳があろうか。
 私は腹を抱えて笑いたいところであったが、男のあまりの愚かさに免じて、膝だけの笑いにとどめておいた。

川 ゚ -゚)「あっ、あの、で、あっ」

(,,゚Д゚)「……なんだコイツ、気持ち悪い」

 踵を返して男は去っていった。生真面目たるものその生真面目さゆえに、無頼な輩と相容れない。あのような内面の小さき様を悟られぬよう、肉体の外側を下卑たステータスで塗り固めた輩とは相容れない。
 敗北と同時に生真面目の証明を果たした私は、口から湧き出る誇らしさが漏れ出ぬよう、ぐっと歯を食いしばってこらえ、煙草の吸い殻をスーパーマーケットのゴミ箱に捨てた。

4 :名も無きAAのようです :2014/12/06(土) 23:27:53 ID:LkgG9Vm60
 それから私は地下に降りた、下は馴染みのネットカフェだ。受付を済ませ、ドリンクを席に運んだ。
ここで大学のレポートを終わらせてしまおうという計画であった。私は生真面目であるから、課題は早急にこなさずにはいられない。
家にパソコンがないわけではないのだが、生真面目な私といえどもごくまれに怠惰の気持ちが湧いてくることがあるのだ。

独りであれば、どうにか理性の手綱を引いて、手と文房具の距離が近づいていくのだが、同じアパートに住む女(同級生でもあるが、私は積極的に彼女を同級生とは呼ばないことにしている)が、酒を持ってくるともう駄目である。
これまた、良い酒なのがいただけない。酒蔵の主人の誠心誠意に応えて、仕方がなく1合だけ飲むが、きまって私は押し込むようにして飲んでしまうのだ。これは主人に申し訳ないと、次は味わって2合目を飲む「待て、そもそもこの酒は燗にして飲むものではないか」3合飲む。「いや、冷を無視して良いものか、主人の意志はきっとそこに」4合飲む、4合飲めば、もうろれつは回らない。

川*゚ -゚)『ひひひ、ふっひひはははひひれる』

 5合目に手をかけたところで意識を失い、吐瀉物まみれの朝日を迎えることになる。そうなることが分かっているからこそ、私は時々ネットカフェに来る。

5 :名も無きAAのようです :2014/12/06(土) 23:29:07 ID:LkgG9Vm60

川 ゚ -゚)「……こんなものかな」ターンッ

 入店して4時間が経っていた。レポートを書き終えた私は、4時間前のあの輩の態度について考えていた。レポートを書いている時もずっと考えていた。私は一日中もんもんと考えてしまうタチだった。
 私が正しいことをしたのは間違いないのだが、あのとき、違った言い方をすれば良かったのではないかと、繰り返し考えていた。疑問型を使って「落としましたか?」と言ったほうが、返答しやすかったのかもしれない。言い方一つで印象は大きく変わるものであるし、私はつっけんどんな言い方をしやすい性格だ。

 気分転換をしようと、IEのショートカットにカーソルを合わせたが、おや、と思った。

『新しいファイル』

川 ゚ -゚)「んむ」

 大して考えもせず、ファイルをダブルクリックした。ここのネットカフェはパソコンを起動するたびに、データがリセットされる仕様ではなかったのか。
ファイルには、txtファイルが一つだけあった。吸い込まれるようにして、それを表示する。控えめなフォントで書かれていたのは、小説だった。

6 :名も無きAAのようです :2014/12/06(土) 23:30:24 ID:LkgG9Vm60

 『胃液にまみれた口元を拭った。ハンバーガーもおにぎりも豆腐も体が受け付けない。ついに変わってしまった。頭を抱えてソファに倒れ込む。なんて悲しい男だ私は。
「ちくしょう!」声に出した。我ながら不幸な声が出た。
 ポケットに入れていた携帯電話を取り出し、後輩に電話をかけることにした。彼は非常に出来の悪い後輩だ、失敗しないことを成功と呼ぶ類の愚人だ。
 すでに私はにやけてしまっている、咳払いをして、切り替えた。

 「おまえ、今どこにいるんだ!」なかなかの怒声が出た。この剣幕に後輩は反射的に謝った、もしもしも言わせていない。

「す、すいません!」

「お前俺に言うことあるよな」

「えっ………? あ……」

「あるよな、って言ってんだよ!」

「すいません、すいません!」』

8 :名も無きAAのようです :2014/12/06(土) 23:31:28 ID:LkgG9Vm60

川 ゚ -゚)「………」

 私は見入ってしまった。男は優越感に浸らなければ、飯も喉を通らないようなエゴイストで、満腹感を得るために後輩を罵り続ける。といった内容だ。
小説はここからというところで、途切れている。書き途中のようだ。
生真面目、不器用、臆病。三語で表現できる私の性格に、突き刺さるような内容であった。読み進めた中に、こんな一文があった。

『真面目なことが取り柄になると思って、しがみついてればいいだろう』

 後輩へ向けられた言葉だった。衝撃というには、いささか大袈裟であるが、私個人に向けられているかのようで、どきりとした。
 しばらく小説の余韻に浸ったあと、私は店を出た。席の番号が18だということはしっかりと確認した。あの小説の続きが読みたい。

(,,゚Д゚)

(゚- ゚川「……あ」

 入れ違いに、あの不良がネットカフェに入ったが、こちらを見向きもしなかったので、私はほっ、と胸をなで下ろし、いったい、あの小説を書いている人は、どんな人なのだろう、と妄想をふくらませながら家路についた。


9 :名も無きAAのようです :2014/12/06(土) 23:32:57 ID:LkgG9Vm60



ξ゚⊿゚)ξ「それは違う」

 彼女が断言したため、私はムッと口を結んだ。

ξ゚⊿゚)ξ「そんな顔、されても困るし……だって違う、そんなわけ、違う」

川 ゚ -゚)「断定するのは、どうかと思うな、あなたはもっと、言い方を……言い方って重要だよ?」

ξ゚⊿゚)ξ「へえ」

 と、私の忠告には興味もない。

ξ゚⊿゚)ξ「あんたの妄想ちぐはぐなんだもの、あの小説を書いているのは、小説家を、目指しているイケメンかもしれない、って、あー痛々しい」

川 ゚ -゚)「だから言い方……」

ξ゚⊿゚)ξ「それ忠告じゃなくて強制………強制はキライよ」

川 ゚ -゚)「んむ」

 彼女は日本酒を煽った。

10 :名も無きAAのようです :2014/12/06(土) 23:34:15 ID:LkgG9Vm60

 彼女は日本酒を煽った。

ξ゚⊿゚)ξ「期待するだけ、ばか、ってやつ。私、そういう、確約のないものキライだから」

川 ゚ -゚)「……」

 私は、黙ってしまった。

ξ゚⊿゚)ξ「でも、そういうのがスキなあんたのことは、スキよ」

川 ゚ -゚)「……酔ってるね」

ξ゚⊿゚)ξ「あらやだ、私は、ノーマルよ、駄目よ、彼氏もいるし」

川 ゚ -゚)「あんた、ばかだ」

ξ゚⊿゚)ξ「あなたの心は、もう二度と、帰ってこないのね、残されたのは、この合い鍵だけ……」

川 ゚ -゚)「もう寝るよ!」

ξ゚⊿゚)ξ「はあい」

 酒を飲み干して、私は出しておいた布団にくるまった。彼女もソファに寝転がると、すぐに寝た。
期待するだけ、ばかかもしれないが、私は、何かを期待していた。イケメンだとか、そんなことだけでなくて、何か、決定的な……私は、昔からもんもんと考えてしまうタチなのだ。


11 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 00:03:14 ID:XjIJmmS20



 まず、分かったことが一つ。小説を書いているのは、あの不良だった。これはすぐに分かった。私は翌日、例の席の隣の19番に座った。それから、じっと、Wikipedia巡りなんかをして待つと、やがて隣で物音がした。
来たな。と思った。それから、更に少しだけ待って、19番を出る。背伸びをして18番のパソコンの画面を、扉の隙間から覗き見したらば、あの不良だ。しかもテキストを開いているではないか!

 思わず声が出そうだったが、ぐっとこらえた。そして、これは私自身驚いたのだが、なんと5時間も待ってしまった、あの不良が席を出るのをだ。
まぬけなやつだな、と皆様思われるかもしれないが、小説家の正体だけを確認して、そそくさと帰る方が、アンフェアではないだろうか。なんとなく彼に向き合った、というお題名目が欲しかったのだ。

 それから店員に席の移動を申し出て、あの小説を読んだ。
今回で、男は友人に電話をかけ直し、その友人が善意で言った、「親友」という言葉について罵詈雑言を並べていた。俺たち親友だもんなという、相手を束縛する以外の何物でもない言葉を、お前はどうして、そう軽々と口にするのか……そんな内容だった。

川 ゚ -゚)「……面白いな」

 小説も面白かったが、これを、あの男が書き溜めていることへの疑問が尽きなかった。しかもわざわざ、ショートカットまで作っている。一体何の目的があってこんなことをしているのか。
 私に見せるためだろうか、なんて、妄想はいつも、極論から逆走する。

 そのあと、もんもんとしていたが、私の脳が思考を放棄して妄想を勝手に始めてしまったので、ばかな脳だと呆れて席を立った………何にせよ、あの不良が、言葉というものにとらわれて本来の自分を見失ってはならない、などという妙な哲学をもっていることは確かである。
私は、このとき、決意した。あの不良、このネカフェライターの意図を読み解こうと決意した。
まるでこれは、私の人生に課せられた使命なのでは、という霊感さえ働いた。これが私の青春なのだと強く思った。


12 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 07:00:36 ID:CBTB3D4Y0
ξ゚⊿゚)ξ「それで、あんたは、どうしたいわけ? 私にはそれが分からないわ」

川 ゚ -゚)「彼の素性、ってやつを、調べ上げたい」

ξ゚⊿゚)ξ「ストーカーするってこと?」

川 ゚ -゚)「………」

 果たして、そういうこともしなければならないのだろうか、私は自分の言っていることの意味を、ここにきてはじめて理解した。

ξ;゚⊿゚)ξ「あ、これ、マジね、マジ」

川 ゚ -゚)「する、かもしれない。必要とあらば」

ξ;゚⊿゚)ξ「あー」

 彼女は頭を抱えた。

ξ゚⊿゚)ξ「罪は犯しちゃダメよ、あんた、無鉄砲というか、向こう見ず……でしょう」

川 ゚ -゚)「うん」

ξ゚⊿゚)ξ「わたしは、そういうとこもスキよ」

川 ゚ -゚)「またそれだ」

ξ゚⊿゚)ξ「ふへへ」

14 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 11:54:30 ID:Xlr4eCgo0
ξ゚⊿゚)ξ「まあ」

 と、彼女は急に真面目な顔になって

ξ゚⊿゚)ξ「ほどほどにしなさいね」

 と、言った。

川 ゚ -゚)「うん」

 彼女は陽気で、いつも実体の見えないストーリーを展開しては、舞台のような口調で、おどける。
その調子はしばしば空気にそぐわないこともあったが、口数の少ない私にとっては、むしろありがたいものだった。
 そんな彼女が今まで見たこともないような眼差しで、忠告したので、私はぎょっとして頷いた。

 それから、さした話題もなく、私たちはラジオをかけたまま眠りについた。

15 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 12:50:43 ID:f1m0evQ20


 私は決心することにおいては他の追随を許さぬ大得意であるが、実際に行動するのはどうも苦手らしい。
 あのときの、使命感とはどこへやら、私は今までとなんの変わりもない日々を送っていた。
朝起きて米とサラダを食べ、日中は単位取りに奔走し、夜はバイト。などという、ここに敢えて書くことすらおぞましいほどの、下らない生活を送った。

 あのネットカフェにも、以前と同じように課題が出た時だけ行った。
小説は2週に一度ほど更新されていたが、相も変わらず罵詈雑言が並べたてられていたため、一種エッセイのような、作者の哲学がつらつらと並べ立てりている形で、当初のイメージと変わっていた。

川 ゚ -゚)「しかし、なんだか」

 最初は地の文が多かったのだが、最近はカギ括弧が続き、話しているのが主人公なのか、それとも電話先の相手なのか分からないセリフがいくつかあった。
 さらに主人公の暴言よりも、電話先の相手のネガティブな発言のほうが顕著になってきている。

「小さな穴の空いた可燃ゴミの袋にくるまって、中で血抜きを済ませば、私は誰の迷惑にもならず死ねますか?」

 生生しさがあった。

川 ゚ -゚)「主人公が電話先にシフトしてきているんだな……」

 小説はまだ書きかけであったが、テキストの最後に、わざわざ字体を変えて、文章があった。

「いつも、楽しく読ませてもらっています」

 また、別の字体で

「これを読みにネットカフェに来ています」

川 ゚ -゚)「私以外にもこんなに……」

18 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 15:26:50 ID:CBTB3D4Y0
 私は4、5件あったその感想を読み終えると席を立った。感想はどれも、賞賛ばかりで、私は途端にその小説を安っぽく感じた、俗に感じた。
私だけが知っている秘密の小説でなくなった、ということに対する当てつけの感情だった。

 会計を済まそうと、レジの前に立って、呼び鈴を鳴らす。
すると、店の奥から出てきたのはツンだった。

川;゚ -゚)「えっ! ツン、えっ」

 うろたえて声が上手く出なくなった。

ξ゚⊿゚)ξ「ハロゥ」

 彼女はふざけた挨拶をして

ξ゚⊿゚)ξ「びっくりした、ねえ」

 と言った。

川 ゚ -゚)「働いてるのか」

ξ゚⊿゚)ξ「最近よ、キッチンで入ってるから、キッチン、分かるわよね」

川 ゚ -゚)「うん」

ξ゚⊿゚)ξ「ホールの人、ちょっと忙しそうだから」

 彼女は、レジ打ちを済ませて、お釣りを私の手においた。

ξ゚⊿゚)ξ「18番の席、なのね? 私もあとで見てみようかなあ」

川 ゚ -゚)「見てみるといいよ、素敵だよ、あれは」

 彼女と数語言葉を交わして、別れた。
もっと親しげに話しても良さそうなものだが、私の臆病虫は彼女の仕事を邪魔してはいけない、と、それを許さなかった。
もっと不真面目になれればなあ、と思ったところで、あの小説を思い出した。ああ、そうか決めつけているのは私自身だ。

19 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 15:58:36 ID:CBTB3D4Y0
 暗闇の住宅街で、街頭に照らして時計を見た。19時だった、晩飯のアテはなかった。コンビニに寄ろう、と思った。
いつもはツンがツマミや酒を買ってくれるので、私がコンビニに訪れることは稀だった。

大学一年生の時は一人暮らしに浮かれて足繁く通っていたのだが
バイトの給料振込が、まさかの延期になったことがあり、電気、ガス、水道、家賃もろもろの生活費が払えなくなって、高校生の弟にお金を借りるという失態をした。
その時、弟は冷ややかな目をして私のことを「予備軍」と罵った。何の予備軍かは聞かなかった、とても聞けなかった。

それ以来、コンビニはトラウマになっている。が、私は意を決して足を踏み入れた。ちら、と店内を見渡す。

(,,゚Д゚) タチヨミー

川 ゚ -゚)

 ネカフェライターがそこにいた。私は彼に近づいていった、案外冷静なものだった。
やはり、コンビニは私に恨みがあるのだろうか、などと、どうでも良いことを考えながら、私も隣で立ち読みをした。彼がチャンピオンを読んでいたので、私もそれにした。

20 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 16:13:24 ID:CBTB3D4Y0
 ここでも臆病虫は顔を出していた。おそらく私の全毛穴から顔を出している。額に浮いた脂汗を指で払った。

 一体どうやって声をかけるべきだろうか、逆ナンか何かだと思われないだろうか
そもそも、コンビニで知らない異性に話しかけらる理由に、下心を除いてなにがあるというのか、私は臆病だが、プライドも妙に高かった、そんな破廉恥な女だと思われたくはない。

 そうだ、タバコのポイ捨ての時のことを言うのはどうだろうか「あの、あの時は、キツい言い方をして、すいませんでしたねえ」と、言ってはにかむ。
彼がその時のことを覚えていなければ、もうその時は勘違いで済まそう。いいんだ、にやけて頭を掻きながら退散しよう。
彼が覚えていれば、きっと和やかなムードになる気がする。そんな直感が働いている。

川 ゚ -゚)「ぁ~」

(,,゚Д゚)「?」

川 ゚ -゚)「ン゙ッン゙ン」

 言いかけて、いや言いかけすら出来ずに咳払いで誤魔化した。私には無理だ。
一人で勝手に興奮して、空回りしている。私の悪い癖だ。全身がじわっと湿って気持ちが悪い、緊張で目眩さえしていた。

22 :名も無きAAのようです :2014/12/07(日) 18:57:52 ID:f1m0evQ20
(,,゚Д゚)「おい」

 男が出し抜けに声をかけるものだから、私の肩はビクリと跳ねた。

川;゚ -゚)「なんでしょう」

 私の心中を察して欲しい、どうやって声をかけようかもんもんと考えた末に、声帯の一切を振動させることのなかった私に向かって彼は話しかけてきたのだ。
 もはや思考はままならず、上目遣いでこびたような表情をして、エサを待つ子犬のように振る舞うのみである。わんわん。

 男は、値踏みするかのように、私をじっくりと見てから

(,,゚Д゚)「あんた……ネットカフェで小説書いてるか?」

 と言った。

川 ゚ -゚)「はい?」

 声が上ずって、変な音が出た。
彼は調子を変えずに淡々と私に、語りかける。

(,,゚Д゚)「スーパーの、下のよう、18番の席に………小説を……」

川 ゚ -゚)「ええっ、その、それは」

 私はこらえきれず言ってしまった。

川 ゚ -゚)「それは、貴方では?」

23 :名も無きAAのようです :2014/12/08(月) 08:04:05 ID:r1yi/CWs0
(,,゚Д゚)「はあ?」

 彼の声も同じように上ずっていた。

川 ゚ -゚)「で、ですから」

 私は必死になって経緯を説明した。たまたま座った席に見慣れないファイルがあり、そこに小説があったこと
書いている人物が知りたくて隣の19番に潜んで、あなたが書いていることを知ったこと
そして、コンビニで立ち読みしているあなたを見かけてアプローチをかけたこと。

 彼は説明を理解したのかしていないのか、ため息をついて、腕を組んだ。

(,,゚Д゚)「じゃあ、あんたは、小説書いてないんだ」

川 ゚ -゚)「はい……ですから」

(,,゚Д゚)「俺も、あんたほどじゃ、あんたほどじゃあ、ねえけどよ、18番の周り? 周りを気にしててよー……」

 このとき無礼な直感がはたらいた。彼にあの小説は書けやしない、私に書けない小説が、こいつには書けるはずがない!
彼も一読者なのだ、私と同じようにファイルを開いていたたけだったのだ。

(,,゚Д゚)「でー……」
 
川 ゚ -゚)「……」

 いつも18番の席が埋まっているときには、決まって私がそこを出入りしていたため、私を例の小説家だと勘違いしたらしい。
話を一通り聞き終えて、私は、彼を目の前にしていながら嘆息した。怪訝な表情を浮かべる彼に対して「私は違いますから」と改めて訂正した。

24 :名も無きAAのようです :2014/12/09(火) 12:22:54 ID:fjOJvbno0
 そのまま彼とまともな会話もせず、逃げるようにして店を出た。ばかみたいだ、勝手な勘違いだったのか。
自分の部屋に駆け込んで、着替えもせずに、出しっ放しにしていた布団へ潜り込んだ。

川 ゚ -゚)「やっぱり私は、向こう見ずなのかなあ」

 ネカフェで彼を見た時に、大して確認もせずに、合点してしまったのは、私の能力のなさを痛感してしまう。
バイトでも、話の前半部分を聞いた時に「あれですね」と分かったふりをして、いざやってみたら、全然違った、とか
店長の言っている意味がよく分からなくても、聞き返して呆れられたくないから、適当に仕事をしていたら怒られたり

これまでは、私は私のことを真面目で臆病で不器用でプライドの高い人間だから、半ば仕方のないことなのかと思っていたが
あの小説にも書いてあったこと。私の特徴を取り柄だとか、持ち味だと思って生きていること駄目なのだ。

川 ゚ -゚)「これは欠点なんだ……改善しないと」

 不思議なものだ。偶然出会った小説に、ここまで心を動かされてしまうとは。
まるで、ネカフェライターが私のことを応援してくれているかのようだ。

川 ゚ -゚)「それにしても、結局、誰なのだろう」

 私は、疑問の原点に立ち返って、ぐう、と唸った。
ネカフェライターとは一体何者なのだ?

27 :名も無きAAのようです :2014/12/10(水) 18:52:48 ID:3Jea6hYY0


 アラームが鳴っている、今朝はやけに目覚めが良い。カーテンを開き朝日を全身に浴びた。今日は土曜日、なんの予定もない。
あのまま寝てしまったのか、パジャマに着替えていない体を見て気がついた。すぐさま浴室へ飛び込む。

 シャワーを浴びながら、ふと、昨日は珍しく、ツンが部屋に来なかったなと思った。目覚めが良いのはそのせいか。
酒の蓄積のない、まっさらな自分の体を鏡でざっと見た。うん、色気はないが、健康的だ。何かをするにはうってつけのコンディションじゃないか。
支度を素早く済ませて、決心が鈍る前に家を出た。考えるのはあとにしよう、もんもんとする前に行動だ。

川 ゚ -゚)「休みの日の朝なんて、久しぶりだ」

 ネカフェライターをつきとめる。今日中に。大きく伸びをし、よし、と決意を固めて、ネットカフェへと歩きだした。
私を突き動かす大きな力のようなものは、ない。だが、普段と違うことを決心してやる時の心境なんてものは、意外とこんなものなのかもしれない。

 道中なにごともなく、ネットカフェに到着し18番の席に入った。ジンジャエールを片手にパソコンの電源を入れると、ファンが回る。この音も、すっかり聞き慣れた。

 私なりに、どうやってネカフェライターをつきとめようか考えたが、さっぱり良い案が思いつかなかったので
とりあえず、と打って出たのが、小説の中に、何かしら作者よヒントがないかと探すアプローチだ。難しい言葉でプロファイリングとかいうらしい。

川 ゚ -゚)「ん……更新されてる……けど」

川 ゚ -゚)「なんだ、これは……」

 私は目を疑った。今まで登場人物のやりとりほ、40文字程度だった。だが、今回はどうだ。私は下に下にスクロールしていく。

「私は、ふつうに、という言葉が大嫌いです。皆さんは、私に色々なことを優しく教えてくださいますが、時折、ふつうに。と、ふつうに。と言いますね。
すいません。私は皆さんの、ふつうに。という地点に到達していないので、さっぱりワケがわからないのです。
私はやっぱり駄目な人間です。思い返せば、自転車の補助輪を外すのだって、人より二年は遅かったですし、ボタンのかけ違いはしょっちゅうですし、細かなところまでも駄目な人間です。
生真面目に生きたせいで、勉強だけは中途半端に出来るものだから、私もなにか才能があるのかしら、なんてあさましい思いを捨てきれず
実際に手を動かした時の、自身の要領の悪さに、ショックを受け、途端にクズに、クズ、クズ。

 ふつうにやれば出来るでしょう。そんな時に突き刺さる言葉なのです、私はふつうには出来ません。
他人より恵まれた環境に生まれて、友達もいて、彼氏もいるのに、私はふつうになりたい。と願っているのです。でも皆さんに悲劇のヒロインを演じている人間とも、思われたくないのです、私を特別視しないで欲しいのです。
……………」

文章はもはや、独白になっていた。

28 :名も無きAAのようです :2014/12/12(金) 23:49:19 ID:STrFnIi60
 文は400文字以上連なっている。私は、女々しいな、と感じた。人間誰しもが抱えるであろう感情をドラマチックに仕立て上げている。
だからこそ、共感できた。大きな挫折や、環境への不和に直面した時、人間は好奇心が死んでしまう生物だと私は思っている。
自らのことしか、考えることが出来ず、周囲と自分を進んで切り離す。体の芯になる部分がすっぽり抜け落ちて、その空洞に自分が流れ込み、鉛のように固まっていく。

 今、元気な私にとっては、醜いな、と思う文章だが、いつこの姿に戻ってしまうかも分からない。と湧き上がる危機感が、この小説への興味に繋がっているのかもしれない。

川 ゚ -゚)「……そういえば」

 更新分を読み終えてから、予定通り「プロファイリング」を試みる。
スクロールを一番上まで戻し、まっさらな気持ちで小説に挑んだ。
違和感を覚えたのは、読み始めて間もなかった。主人公のセリフだ。

『「ちくしょう!」声に出した。我ながら不幸な声が出た。』

『「お前、今どこにいるんだ!」なかなかの怒声が出た。』

川 ゚ -゚)「うーん……」

 何故この人は、自分の声にこだわりがあるんだ?
読み進めると、そういった描写は多くあった。的確に表現できていないかもしれないが、どこか「台本的」な……。

30 :名も無きAAのようです :2014/12/13(土) 23:35:37 ID:1GtTagb60
 思考の最中に、背後でごつん、と物音がした。扉に誰かがぶつかったのかと振り向くと、蝶番分の隙間から人が見える。
それがあの、不良の彼だと分かるまでに時間はかからなかった、それほどに個性的なまっ金色な髪なのだ。

(,,゚Д゚)

川 ゚ -゚)

 彼と私は、わずかな隙間越しに、しばらく見つめあった。
彼は忘れているようだが、ネットカフェで他人の部屋を覗くのはマナー違反だ。

(,,゚Д゚)「小説、書いてんの?」

 そして開口一番がこれだ。通報してやろうか。

川 ゚ -゚)「何故、そこにいるんです?」

(,,゚Д゚)「入ってもいい?」

 そうじゃない。

川 ゚ -゚)「駄目です、通報、しますよ」

 私は、怖かった。彼には一切の常識が通用しない。部屋に突然侵入してきて、暴行をはたらくかも分からないのだ。
しかし、それを顔に出してしまっては、なおさら危険だろうと、私は感じた。感情をおくびにも出さず、ダメ押しでもう一言。

川 ゚ -゚)「通報しますよ」

 と、言った。彼は殊勝にも扉から一歩遠ざかって

(,,゚Д゚)「やりすぎ、やりすぎ」

 などと言って、半笑いでどこかに去っていた。会話が成立しないとは、これほど恐ろしいものだったのか。

31 :名も無きAAのようです :2014/12/14(日) 23:36:30 ID:ECXWLJK60
川 ゚ -゚)「……ん?」

 会話が成立しない………小説を見返して、私は一つの仮説を打ち立てた。
もしや、この小説には、会話というものが存在しないのではないか。
台本のように、セリフの前に登場人物の名前がふってあるのならともかく、通常の小説の体系で、これほどまでにカギ括弧が連続し、補足の情報が少ないのは不自然ではないか。

 これが、もし「登場人物が一人」しかいないのならば、話の筋は通る。補足の必要がない。
書き出しの後輩の描写があるが、これは、ネカフェライターのミスリードともとれる。
つまり、この小説は「劣等感を持つ男の盛大な一人芝居」なのもしれない、あくまで仮説だが。

川 ゚ -゚)「多少強引だが、筋は通ったかな」

 私は口に出して、成果があったのだと自分に言い聞かせた。でも、待てよ、ミスリードだなんて都合が良すぎないだろうか、そもそも「普通の小説の体系」とはなんなのだろうか、云々云々………。

 よくよく考えれば、穴だらけな仮説なのだと、すぐに気付かされた。ああ、探偵の真似事なんてするんじゃなかった。
だんだん、自分のしていることが幼稚に思えて、結果につながりやしないんじゃないかと、頭が重くなってきた。
今日は、もうやめようかな、なんて、早速挫けて、席を立った。

(,,゚Д゚)「おぉ、出てきたな」

川 ゚ -゚)

 不良の彼は、入り口近くのスロットのおもちゃで遊んでいた。口ぶりから私を待っていたようだが、気味が悪く、私は無言のまま会計を済ませて、足早に店を出た。

(,,゚Д゚)「なー、話を、聞いてくれよ、おい」

 なおも、彼は話しかけてくる。こらえきれなくなって、私振り向いた。

川;゚ -゚)「本当にやめてください!」

 決死で叫んだのだが、彼はそれを意に介すふうでもなく、平然として

(,,゚Д゚)「あんた、履歴見た?」

 と言った。

36 :名も無きAAのようです :2014/12/28(日) 23:39:24 ID:Aqq2iNco0
川 ゚ -゚)「履歴?」

 不良の彼は、何故か、いささか興奮しているようで、息遣い荒く私に話しかける。

(,,゚Д゚)「俺もよ、暇、暇っていうか……暇だから、ネカフェよく行くんだけど」

 私の反応を見て、彼は話を続けた。

(,,゚Д゚)「俺、履歴めぐり、するんだ」

川 ゚ -゚)「りれきめぐり?」

(,,゚Д゚)「やらない? 履歴めぐり」

 彼は強調したが、私は、あまり考えたことがなかった。閲覧履歴に残るアドレスを、順々に押していって楽しむ、ということなのだろうが
特に面白いものだとは思わない。知り合いならば、まだしも、赤の他人の閲覧履歴を見て楽しいものだろうか?
どちらにせよ、倫理的にも良いとはいえないだろう、せめて個人の趣味に留めておいて欲しいが。

川 ゚ -゚)「やら、ない……ですね」

(,,゚Д゚)「あんたWikipediaめぐりとかしてるもんな」

 私は耳を疑った。数百の蜘蛛の子が首筋を撫でるかのような寒気がした。

川 ゚ -゚)「は? は、あぁ~……してますけど」

 私は完全に呆れていたが、彼はそれに気づくこともなく、下卑た笑いを浮かべた。

(,,゚Д゚)「だろう、へっへっ、ウィキめぐり、へっ」

川 ゚ -゚)「……それで、履歴がどうだって言うんです!」

 苛立ちを抑えきれずに、私は詰問した。時間を共有していることにさえ苛立つ。
彼は、少しだけ気圧されたようだったが、にやけ面はそのままで、ぼそりと呟いた。

(,,゚Д゚)「多いんだ18」

川 ゚ -゚)「……はぁ?」

 要領を得ない言葉に、私は更に苛立った。
彼もようやく、自分の言葉が足らないことに気がついたのか、もごもごと口を動かして、履歴、多い、18 、他の………と単語を並べてから、一息に話した。

(,,゚Д゚)「18番の席だけ、他の席よりも、異常に履歴件数が多いんだ」

40 :名も無きAAのようです :2014/12/30(火) 06:52:54 ID:nK6T/t7k0
 私は「多い」と、ぼんやり呟いた。地上へと上がる階段の空気はひやりとしている。私は耳から入った言葉が、まとまりきらないのを自覚した。
履歴件数が多い、色々なサイトにアクセスしている、それが、何? どういう意味なのだろうか。
文章を、どこかから引用しているのだろうか、あの独白がネット上に転がっているとは考えにくいが、誰かのブログ記事のコピーアンドペーストとも考えられなくはない。

(,,゚Д゚)「あんた、どう思う? 俺思ったんだわ、最初、これ、パクリじゃね? って」

 彼も私と同じ感想を抱いていた。少し面白くなかったが、渋々頷いた。

川 ゚ -゚)「ネカフェライ……ん、その、小説を書いている人が、色んなサイトにアクセスしているなら、その可能性は」

(,,゚Д゚)「でも、無理っしょ」

川 ゚ -゚)「無理」

 彼の考えが見えず、やきもきした。この男でさえ及ぶ結論に、私は、たどり着いていないというのだろうか。

 彼は、おもむろに膝屈伸を始めて、しゃがんだまま、私を見た。

(,,゚Д゚)「つーか、立ち話疲れたから、どこか入ろーぜ」

川 ゚ -゚)「いえ、ここで大丈夫です」

(,,゚Д゚)「いいって、奢るからよ」

川 ゚ -゚)「無理とはどういうことですか?」

(,,゚Д゚)「は、え? あ、あぁ、でもそうじゃん?」

 彼の誘いを、ぴしゃりとはねのけ、話の先を促した。お前は情報だけ寄越せばいいのだ、と言わんばかりに。
彼は不要な長い前置きをもって、ようやくその、無理な理由を話した。

(,,゚Д゚)「同じサイトから、コピペしてるなら、履歴件数は一つのファイルに、収まるだろ?
    でも、あれ、そうじゃないもん、他の席に比べて、異常に多いんだホントに」

川 ゚ -゚)「一つのブログからコピペしているのなら、そうなるでしょうが、色々なサイトから」

(,,゚Д゚)「ツギハギみたいにして?」

川 ゚ -゚)「そうです、ツギハギみたいにして……」

(,,゚Д゚)「あんな小説を?」

川 ゚ -゚)「………」

(,,゚Д゚)「そんなこと出来んの?」

43 :名も無きAAのようです :2015/01/06(火) 19:03:46 ID:HH9TZkaI0
川 ゚ -゚)「出来、ない」

 私は、屈辱感を覚えた。出来るわけがない、どうしたってツギハギで出来るようなものではない。
目の前がぐらついた、ネカフェライターの正体どころか、手がかりさえ霧を掴むようで、全く前進しないではないか。
どだい無理な話だったのだ、探偵の真似事などやらなければ良かった、と後悔する私を気にもとめず、彼は独自の推論を話した。

(,,゚Д゚)「単純に、利用者が、多いんだと思うんだけど」

 私は、一度、頷いた。それから、その言葉を呑み込むようにして、再び頷いた。

川 ゚ -゚)「えっと」

(,,゚Д゚)「皆あの席に座るから、履歴が多い、じゃない、普通」

 単純に、普通に、その言葉に耳の奥が傷んだ。
妙に腹立たしくなって、彼の金髪も、大きめの泣きぼくろも、のっぺりとした鼻も、全てが気に入らなく、突き飛ばしてやりたくなった。
だが、それは、考えの及ばない自分への怒りだということも分かっていたので、感情を抑えて、彼の言葉を追うようにして理解する。

川 ゚ -゚)「あの席は人気の席なんですね」

(,,゚Д゚)「どうだかなぁ、普通のリクライニングシートだろ」

 普通の、という言葉に反応してしまう。
私は、18番の席の特性を一つ思いついた。

川 ゚ -゚)「あの席は、レジの目の前ですよね、レジも、スロットのおもちゃも、ドリンクバーも近いし、普通の席ともいえないような」

 私は、必死に普通を否定するが、もはや何の目的をもってそうしているかも、よく分からない。
彼は、口先を尖らせて

(,,゚Д゚)「そんなの、変わらんだろ、大して、他の席と」

 と言った。
私の根底にある、汚い髪の色の男に説き伏されたくない、という意地が、語尾に熱をこもらせる。

川 ゚ -゚)「あなたにとっては、そうかもしれないですけど、他の人にとっては」

(,,゚Д゚)「他の人、他の人って、誰だよ、そんなこと、客によって違うだろ、みんな」

川 ゚ -゚)「ですから例えば、店員さんにとっては……」

 意地に任せて、無茶苦茶動いていた口を閉じて、私は自分の言葉に驚いた。
彼は怪訝そうに、私の顔を覗いた。しかし、私に応えるような余裕はない。
咀嚼した言葉の重みに、今までとは違う、力強さと、枠にピタリとハマるような爽快感を覚えた。
店員。

川 ゚ -゚)「店員さん……」

45 :名も無きAAのようです :2015/01/15(木) 22:17:15 ID:t4hVQzEs0
 私が、店員のことについて、もんもんと考えかけたその時、右ポケットが振動した。電話だ。

川 ゚ -゚)「ちょっとすいません」

 液晶に映っていたのは、バイトをしている居酒屋の名前だった。ぎょっ、として、液晶右上の日付を確認するが、私のバイト自体は休みで間違いないようだった。
休みの日にバイト先からかかってくる電話。嫌な予感がしたが、私は通話ボタンをフリックして「もしもし」と答えた。

『あ、ごめんねぇ』

 電話に出たのは店長だった。

『今大丈夫?』

川 ゚ -゚)】「あ、はい」

 不良の彼にちら、と目を向けたが、彼は彼でスマホを取り出して、操作している。私は再び注意を電話先に向ける。

『実はねぇ、うちの系列の店で、一人バイト足りなくなっちゃったみたいで』

 その後店長は、大げさに私の普段の仕事ぶりを讃え、もし時間が空いているようであれば、と私にバイトの代役を頼んだ。
私は眉間に皺を寄せた。なぜ私ばかり。去年のクリスマスも、当初予定していた人数では回らなさそうだと、ヘルプで入ったのだ。
それだけではない、GWも、盆も、シフト調整の標的にされるのは、いつも私である。

たしかに、いずれの休みも、一切の予定は立っていなかったが、常時暇な人間なのだと思われているのは癪だ。
大体バイトが入ってしまうから、連休も家でごろごろしてしまおう、という思考に陥るのだ、暇な時間あってこその余暇ではないか。
加えて今日、私には、ネカフェライターを探すという立派な予定が立っている。私はスマホを握りしめた。

川 ゚ -゚)】「全然大丈夫ですよ!」

 にこやかに言ってしまった。私という人物は相変わらずだ。

46 :名も無きAAのようです :2015/01/15(木) 22:52:29 ID:t4hVQzEs0
川 ゚ -゚)「……っと」

 その後、店長の「いつも助かる」という言葉に頬がひきつったが、4時間後に系列店へ行くこととなった。
場所は遠くないが、後にバイトが控えていると思うと、自然に腕がだらんとして、急に何もやる気が起きなくなった。
彼の方へ向き直り、そろそろ話を打ち切ろうと、口を開いた。
しかし、私は、そのままあんぐりと口を開けた。彼は深く肩を落としてため息をつくと、頭を抱えてその場に屈み込んだのだ。

川;゚ -゚)「ど、どうしました?」

 私が声をかけても、応答はない。代わりに、うう、と唸って、出たばかりのネットカフェの入り口へ首を向けた。

(,,´゚Д゚)「ああ、やめだな、もういいな」

 彼はそれだけ呟くと、ゆっくりと立ち上がり、首を丸めたまま、ネットカフェへ入っていた。
気味が悪かったが「もういいな」という言葉が、あまりにも悲痛で、私は何故だか泣きたくなった。
まさか彼の方から打ち切るとは思わなかった。後ろ髪を引かれながらも、私は階段を登った。

川 ゚ -゚)「………」

 背後で、かすかに甲高い声が聞こえ、店員。という言葉を思い出した。
もし私が店員ならば、18番の席に優先的に案内が出来る。
ネットカフェでは、席の種類だけ選ぶ人間も多いだろう。だとすれば、今レジについていた、あの店員がネカフェライターなのだろうか。

川 ゚ -゚)「いや、今日は」

 もういいか。太陽の光を浴びて、私はひとり頷いた。
直感だった。私は思いがけず、核心をついたのだと感じた。
ネカフェライターの謎は、明日には、もう、分かってしまうだろう。根拠はないが、自信はあった。

要すれば、今日、ツンに、あのネカフェの店員達について、聞いても良いかもしれない。

47 :名も無きAAのようです :2015/01/20(火) 23:54:05 ID:IAPkdySE0


 羽織っていた上着に、携帯電話と家の鍵を入れてロッカーにしまった。
制服に着替えて、仕事の内容を社員の人に尋ねたところ、ほとんどいつも働いてる内容と変わらず、私は胸をなでおろす。
間もなく開店すると、日曜日にも関わらず、どっと客が押し寄せてきた。

 案内をしていて分かったが、厨房近くの席は、片付けが容易なため、特に優先して、客を案内するような慣例がある。
ネカフェライターも、それを知っていて、18番の席を選んだのではないか? 仕事中にも、そのようなことを考えてしまっていた。やはりネカフェライターは店員の誰がだ。

 などと思っていられたのも序盤だけで

川 ゚ -゚)「ありがとうございましたー!」

 声を張り上げ頭を下げる。
客として訪れた時には、どこかエナジーを感じる賑やかさも、今は鶏小屋のようにやかましく
目の回るような忙しさに、時間はあっという間に過ぎていった。

48 :名も無きAAのようです :2015/01/20(火) 23:54:48 ID:IAPkdySE0
 そして開店してから、二時間が過ぎた頃。

「オペレーターって頼める?」

川 ゚ -゚)「はい!?」
 
白ワインとジンジャエールのカクテル。素っ頓狂な声を出してから、思考が追いついた。
客は、ラミネートされた飲み放題のメニューを手に取り言う。

「オペレーター。メニューにはないんだけど、ほら白ワインと……」

川 ゚ -゚)「えっ、と」

 私は特に考えもせず言った。ここでまごまごするのは、最も望まれていない行為だ。

川 ゚ -゚)「ご用意出来ますよ」

 にこやかに言うと、客は満足そうに「じゃあそれで」と答えた。私は席を離れる。
私は、調子に乗っていたのだ。初めての環境で普通に働けている自分が、いつもより能力が高まっていると錯覚した。
他の店員と面識がないせいで、連携しにくかったというのもあるが、言い訳だ。

 いつも働いている店では、メニューになくとも作れるものは可能な限り作る。
私は素直に一対一で割ってオペレーターを作ると、すぐに先の席へもっていった。

川 ゚ -゚)「オペレーターです」

 私がグラスを差し出すと同時に、声がかかった。

「ちょっと」

 声の主は隣の席の女だ。酒の匂いが強い。かなり、酔っている。
彼女は、眉間に皺を寄せて、グラタンの器をスプーンで強く叩いた。

「アタシさっき頼んだとき、断られたんだけど」

 私は、嫌な予感がした。こめかみの奥から足下に向けて、すっ、と血が落ちていくのがわかった。

53 :名も無きAAのようです :2015/06/01(月) 23:47:33 ID:mxLfBkzc0
川;゚ -゚)「あっ、は」

 やってしまった。心臓が体を波うち、どろっとした汗がこめかみに浮いた。
私お得意の、その場しのぎの出鱈目出まかせな言葉が俊巡するが、舌の根元で引っ掛かる。下手なことを言わない方が良いのでは。

川;゚ -゚)「申し訳ございません!」

 反射的に出た謝罪は火に油を注いだ。

「そうじゃなくてさ、私も、それ、頼んだの」

川;゚ -゚)「はい」

 客の視線が刺さる。

「なんで、私には出さないの?」

川;゚ -゚)「えぇと」

 私は落ち着かなくなって、目の玉をあちらこちらに動かした、小さい頃からの癖である。ポスター、皿、照明。どうしよう、どうしたら良いのか分からない。
募る緊張感は思考を乱し、関係のないことばかりで脳を埋め尽くす。皿が空になっている下げなければ。飲み物が空だ注文をとらなければ。
そんな下らないことを考えては、違う、今は、そんなことをやっている場合ではない。と、頭をリセットし、2秒後にまた、目の前の問題の逃避に思考がはたらく。

「ねえ、聞いてんの!?」

 客は、一目でわかるほどに怒っていた。

川;゚ -゚)「も、申し訳ございません!」

「だからさぁ」

 ただ頭を下げるばかりの私の背後から、場を切り裂くような声が響いた。

「やめなよ、店員さん困ってるじゃん」

 私がオペレーターを出した客だった。私は心のなかで、やめてくれ、と叫んだ。

「ちょっと対応違うだけで、怒りすぎでしょ、店員さん可哀想じゃん」

 まさか、こう言われて黙る客ではない。

「えっ、なんなの、あんた、関係ないでしょ」

「店員さん可哀想じゃん」

川;゚ -゚)「あのお客様」

 周囲がざわつき始めたのが、肌で感じ取れた。それだというのに私は、相変わらずで、場を収束させるだとかの、おおよそ店員らしい考えも持てず
うろたえて、反射で謝るばかりで、ありきたりなセリフをただただ繰り返していた。

56 :名も無きAAのようです :2015/06/02(火) 22:55:41 ID:rp2fdEBI0
「お客様、いかがなさいましたか」

 私が我に返ったのは、その社員さんの声だった。社員さんは、優しく丁寧な口調で、事情を聞き出すと深々とお辞儀をして謝罪し、近くの店員を捕まえた。

「デレさん、オペレーターを早急にお出しして」

ζ(゚ー゚*ζ「は、はい」

「クーさんも、デレさんの手伝いをお願い」

川;゚ -゚)「はい」

 その後事態が、どう収束したか、私は知らない。
私は、キッチンの隅で、指示されるがまま、サラダの盛り付けと、カクテルづくりをやっていた。
後から来た社員さんに、今日は客の入りも大人しいから、キッチンでそのまま作業していてくれ、と笑顔で言われた。

 私の唇は震えて、涙がじわりと湧き出た。泣くわけにはいかない、という意識が更に私を追いつめた。涙はとめどなく溢れた。
無意識に、目を、袖口で強く擦ってから、目尻が切れんばかりに見開いた。まばたきで涙がこぼれそうだったからだ。顔の筋肉を強張らせて、鼻だけをすすった。

 キッチンから聞こえる喧騒は、客の入りが大人しいという、社員さんの言葉を思い出させた。また、涙が出た。

川 ゚ -゚)「……」

 その後は涙も枯れて、自分への悔しさも麻痺して、手元ばかりを見て仕事をした。
 長い3時間だった。閉店の時間となって、更衣室へと入った時には、全身が鉛のように重かった。

ζ(゚ー゚*ζ「クー、さん」

 デレさんに声をかけられ、私はどきりとした。奥歯が、かちと鳴った。

川 ゚ -゚)「……今日はすいませんでした」

ζ(゚ー゚*ζ「今日とっても助かりました! また、お願いしますね」

川 ゚ -゚)「えっ」

 屈託なくそう言うので、私は、彼女が何を考えているか分からなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「わ、私実は、今日彼氏と別れて、あ、私がフッたんですけどね」

 彼女の唐突な話に私は、曖昧な相づちを打った。彼女は何を考えているのだろう、話の内容は頭に入ってこない。
しかし、彼女の態度を見るに、どうやら私のような人間を、わざわざ励ましてくれているようだった。明るい調子を続ける彼女に、優しさを感じた。
しかし、それは私を余計に惨めにさせた。私は彼女の機嫌を損ねぬように笑顔を見せて、彼女の話の段落を伺って、逃げるようにして店を出た。氷水のような風が頬に当たった。

59 :名も無きAAのようです :2015/06/03(水) 19:31:32 ID:6yaCT7jg0
 店の裏に置いてあった自転車に跨がり、街灯煌めく大通りに出た。この大通りを経由すると、家までは少し遠回りになるが、暗くて曲がりくねった最短距離を行くより、よっぽど近い気がした。
自転車を漕ぎながら、私は、私自身をひどいペテン師だと思った。デレさんが話しかけてきてくれた時、私の気持ちはすでに立ち直りかけていた、家でお酒でも飲んで憂さ晴らしをしようと思っていた、平静だったのだ。
しかし、落ち込んでいる風を装って、軽薄でない自分を演出した。私はこの一事を重大に考えていますよというアピールだ。そこに本物の感情は一切ない。

ほんの二時間前までは、死にたくなるほどに落ち込んでいたのに、今の私に、その素晴らしい感情は残っていないのだ。他の人が私をどう思うのか、という理念に基づいてだけ行動し、最もそれらしい態度で振る舞った。
嬉しかったり、悲しかったり、殺してやりたくなったり、死にたくなったりする私の感情は、二時間もすれば、全て消えてなくなってしまうのだ。
一体、私はなんのために生きていて、本当は何を思っているのか、意味のない感情で行動して生み出された結果に、私は一体。

川 ゚ -゚)「 気持ち悪い」

 思春期みたいなことを、この歳でも考えている。このまま車道に、えい、と飛び出してみたくなった。

川 ゚ -゚)「……」

 しかし、とうとう車道に飛び出すことなく、アパートに着いた。
両肘を抱えて廊下を小走りする。今夜はやけに寒い。すぐに寝てしまおう、もう今日という日を終わらせたい。
扉の前まで来て、ほっとした。鍵を取りだそうと、ポケットに手をいれる。

川 ゚ -゚)「あっ」

 思わず声をあげた。上着を忘れた、鍵と携帯電話を入れた上着を忘れた。ロッカーの中だ。
扉の前に立ったまま茫然とした。疲労感がどっと襲ってくる。

川 ゚ -゚)「……」

 ネガティブな気持ちを押し殺して、私の足りない頭で考えた、そうだ、ツンの部屋にいれてもらおう。私は隣の部屋のインターホンを押す。
ぽぉんという音が響いた。

川 ゚ -゚)「……」

 しばらく待っても応答はない。私はもう一度だけインターホンを押した。

川 ゚ -゚)「……」

 音は、空しく響いた。

 今から大家さんを起こそうか、もう深夜だ。あの居酒屋に戻ろうか、その頃には店も閉まっている。
やはり、私という人間はどうやっても駄目だ、普通でない、劣等人種だ。私だけが誰よりも劣っている。そしてこの感情も二時間後には忘れている。

 たまらなくなった。私は、アパートから飛び出して、走った。風はわざとらしいほどに冷たかった。それが妙に現実的で、唯一生きてる感じがした。
そして、気がつけば。

川 ゚ -゚)「……」

「気がつけば」、なんて都合の良い言葉だ。私はペテン師である。今の今まで一度も、「気がつく」ほど前後不覚になったことなんてないんだ。
全て周りのせいにして、自己防衛に専念して、事が起きても言い訳をしている。
私ははじめから、ここを目指していたんだ。自分の意志でここに来たんだ。すでに照明の落ちているスーパーマーケットの入り口から、地下に降りた。

下は、馴染みのネットカフェだ。

61 :名も無きAAのようです :2015/08/20(木) 10:52:04 ID:mBiQK0BI0
 受付だけ済ませ、ドリンクさえ運ばず、18番の席に座った。
私はペテン師であるから、今日起きた一切などもはやうろ覚えであった。だが、腰を下ろしたと同時に不思議と涙が溢れた。悲しい原因も分からず、口をおさえて、むせび泣いた。

 ぼやける視界のなか、ネットカフェのポータルページを閉じ、デスクトップのテキストファイルにカーソルを合わせた。
私の信用できるものが、もはや、このファイルだけのような気がした、かちりかちりというダブルクリックの音が、とても心地好い。

川 ゚ -゚)「………」

  テキストは更新されていた。しかし、それは今までとは全く違う、改行もままならない稚拙な文章だった。

「きみは好きなものは好きなものは好きというし、嫌いなものは嫌いという。俺はそんなピュアな君に惚れていてきみも俺のstraitな気持ちに正直だからお互い前を向けたんだろう、俺が後ろめたいことやきみへの飽きっぽさが出て、駄目になったから、きみは別れの電話をして、俺はそれになにも言えなくなってしまった、もう一度チャンスをくれたら俺は頑張るけどきみにすがるような真似もしたくないジレンマ、なんの取り柄もない俺が唯一きみとの絡みに安息を覚えていた。あぁ戻ってこない日々、こんな傷ついた日っていつ?今日がはじめて、何をたよりに生きていこう、こんな孤独だったんだ世界。」

川 ゚ -゚)「これは、どういう…」

 ネカフェライターは一体どうしてしまったのだ、唯一頼りにしていたものさえ壊れてしまっている現状を、のみ込めなかった。
これは、明らかに別人だ、今までも主人公がシフトしたり、文体が微妙に変わっていることはあったが、ここまで露骨ではなかった。
泣いている場合ではない。私が追い求めていたネカフェライターは、心の底から共感できる物語を紡ぐ、ミステリアスで神秘的な大きな存在ではなかったか、それをこんな小物に汚されるなんて。
お気に入りの本に、他人がドックイヤーをつけるような、縄張りを荒らされたような、私の胸の鬱憤が溜まっていくのが、現在進行形で感じられた。

65 :名も無きAAのようです :2016/02/05(金) 11:35:28 ID:OFGaKCeo0
 このおかしな文の塊を、私は「切り取り」し、新規にテキストを起こして、そこに貼り付けた。
削除しなかったのは、お粗末な文章ながらも滲み出る思いの強さに躊躇したからだ。ネカフェライターを汚したのには間違いないが、この文をキー1つで消してしまうのは何か罰当たりな気がした。

 そうしてから、私は改めてネカフェライターの小説を最初から読み返した。初めて読んだときのあの感動を予期してページをスクロールする。

『胃液にまみれた口元を拭った。ハンバーガーもおにぎりも豆腐も体が受け付けない。ついに変わってしまった。頭を抱えてソファに倒れ込む。なんて悲しい男だ私は。』

 そう、最初は優越感に浸っていなければ、食べ物さえ喉を通らない男の話だった。
初めて18番の席に座ったあの日、この話に共感したことをよく覚えている。

 しかし、私は、ふと、この話のどこに共感したのだろうか。と考えてしまった。

川 ゚ -゚)(私は、優越感に浸らなければ辛いような人間か………?)

 『小さな穴の空いた可燃ごみの袋にくるまって、中で血抜きを済ませば、私は誰の迷惑にもならず死ねますか?』

 話し主があやふやになっていく流れの中の一節だ。しかし、響いたはずのこの文も、今の私には僅かの感動さえ与えてくれなかった。

 そんなはずはない。ネカフェライターは私の心の支えとなる不思議な小説を書く、ミステリアスで神秘的な存在なんだ。
スクロールする指の忙しさとは裏腹に、私の心はしん、と静まり返っていた。

66 :名も無きAAのようです :2016/02/05(金) 12:06:13 ID:OFGaKCeo0
 小説を見返して、私の心に残ったのは、たったの一文だけだった。

『生真面目に生きたせいで、勉強だけは中途半端に出来るものだから、私もなにか才能があるのかしら、なんてあさましい思いを捨てきれず
実際に手を動かした時の、自身の要領の悪さに、ショックを受け、途端にクズに、クズ、クズ』

 共感出来る部分があることへの安堵と同時に、私が今まで抱いてきたネカフェライターに対する幻想は、音をたてて崩れ去った。
私はいつも平静な状態で、エンタメ作品を見るかのごとく、なにとなく小説に共感しているような気がしていただけなのだ。
店長に良いように使われ、バイトで打ちのめされ、初対面の人間に励まされ、家に入れず、冷たい風が突き刺さった今の気持ちでは
ネカフェライターの小説など頭に入るわけもなく、汚いネットカフェにある、くだらない文字の羅列でしかないのだ。

川 ゚ -゚)「………」

 私は自然と、キーボードに触れた。
そうじゃない、私の感じている絶望は貴方の書くどれにも当てはまらない、もっと複雑で誰にも救うことが出来ない、真の絶望なんだよ。
私は静かにキーを叩き始める。自分の気持ちに向き合って、今何故辛いのかを他人に理解してもらいたいがために、言葉を選び、文章のテンポ、語尾のバランス、多くの人間が読みやすいように気をつけて書く。

 心の叫びは明朝体のそっけない文字になって打ち出されていく、私はそれを可能な限り、叫びそのものに近づけていく。
ネカフェライターの小説の続きを書いている意識はなかった、今の私の絶望をただただ書いていく。

 最後のエンターキーを押したときには、朝の5時になっていた。
無言のまま再度小説を読み返した。

 私の文章がネカフェライターの一部となっている。

 私はぼんやりとした頭で特に考えもなしに呟いた。

川 ゚ -゚)「絶望をテーマにしたアンソロジー………」

 ネカフェライターの正体がふわりと分かった気がした。

69 :名も無きAAのようです :2016/02/07(日) 10:06:34 ID:W2DzMIFI0
Σ(- - 川「はっ!」

 がたりという物音と、机にぶつけた右膝の痛みで覚醒した。いつの間にか眠っていたらしい、周りの席から呻き声と控えめないびきが聞こえる。
7時20分、時刻を確認して大きく伸びをした。じっとりとした汗と首の凝りが酷い、目覚めはよくない。
店内は入った時となんら変わらない様子で、照明とディスプレイの明るさに頭がじんじんした。

 私は一息ついて静かに席を立ち、伝票を手にした。
それから、空いている方の手でマウスを操作し、切り取ったネカフェライターの文章を元通りに貼り付けた。
上書き保存をしてからファイルを閉じ、シャットダウンを確認して席を出た。

川 ゚ -゚)「………」

 私は店員の話も大して聞かずに精算をすませて、さっさと外に出た。朝日の眩しさに目を細める。

 絶望に耐えかねた人間が捌け口に選んだのは小説、あるいはエッセイだった。
何故わざわざネットカフェに書いたのかは分からないが、心の痛みを、とかく書かずにはいられなかった人がいた。

最初のネカフェライターだ。

70 :名も無きAAのようです :2016/02/07(日) 11:31:53 ID:Mqgu8EKA0

しばらくはこの人が書き続けた、感想をもらって良い気になったのかもしれない。胸もスッとしただろう。
それを見ていたネカフェライターのファン達は次第に違和感を覚える、絶望に共感していたはずが、そうでなくなっていたのだから当然だ、そこで現れたのが第二のネカフェライターだ。

「違う、そうじゃないんだよ」

 先の私と同じ気持ちになった第二のネカフェライターは、自らの絶望を書き綴る。彼もネカフェライターに救われていた部分があったから、なおさら力が入ったに違いない。
しかし、これが奇妙さを増すことになる。なぜなら新たに書かれたのは第二のネカフェライター、彼自身固有の絶望で、ファン達は二つの異なる絶望を目にしてさらに違和感を強めたからだ。
しかも、彼らがネカフェライターに癒してもらいたいと強く願う、心の沈んだときに限って、それは顕著に表れた。

 人それぞれ深い絶望の形態は様々で、経緯や性格によってその姿を変える。しかし、一見すると絶望は絶望で、私たちは湿った日陰に群生する苔のように、自然と18番の席に集まっていた。
自分以外にも孤独を感じている人間を確認して、安心しに来ていたんだ。そうして始まった奇妙でネガティブなリサイクルに私や、あの不良は巻き込まれていったのだ。
利用者の多い席で、文体がころころ変わる、不特定多数のダメ人間が、不器用にリレーしていく絶望小説、それがネカフェライターの正体だ。

72 :名も無きAAのようです :2016/02/07(日) 11:36:30 ID:Mqgu8EKA0
ξ゚⊿゚)ξ「あら、あらら」

 聞き慣れた声に振り向いた。「ツン」と自然に名前を呼ぶ。

ξ゚⊿゚)ξ「今バイト終わったの、あんたネカフェに泊まったの? ばかねえ」

 彼女は片腕を空にうん、と伸ばして近づく。

ξ゚⊿゚)ξ「また向こう見ずな顔」

 私は答える。

川 ゚ -゚)「妄想してた」

ξ゚⊿゚)ξ「ばかだ」

川 ゚ -゚)「ネカフェライターが」

 私の言葉を彼女は「はいはい」と遮った。

ξ゚⊿゚)ξ「安っぽい」

 おうむ返しで聞き返す。

ξ゚⊿゚)ξ「結論づけばつくほど、安っぽい」

川 ゚ -゚)「ふうん」

ξ゚⊿゚)ξ「実は私も見てたの、あれ」

 彼女の顔を見た。あの真面目な表情だ。

ξ゚⊿゚)ξ「多分、あんたと同じ気持ち」

 あれ見てから、元気なさそう人は無理にでも18番に入れてた、と淡々と話す。

川 ゚ -゚)「そっか」

 私は改めてネカフェライターを思った、結局の正体は分からなかったが、もはや心残りはない。

川 ゚ -゚)「早く、シャワー浴びたい」

ξ゚⊿゚)ξ「もう、帰って寝る、レポートも、まだだし」

 歩き始めた彼女の後を私は歩いた。なにげなしに振り返ると、長く伸びた黒い影が重なったり離れたりして、とても綺麗だった。