( ^ω^)赤く染めていくようです 巻の四

73 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:02:34.840 ID:GB7E0NGo0
巻の四、真実

74 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:02:54.368 ID:GB7E0NGo0
三年前、ある大名が謀反を起こした

大名は幕府に対し、壮絶な戦国を生き抜いた者の名を連ね

官僚役人の腐敗と平和に腑抜けな現状を嘆き、声高々に宣戦布告した

幕府はすぐさま信頼のおける将兵達を集め、鎮圧を試みた

しかし大名もただの大名ではない、平和惚けした時代を憂う同士がいる

謀反人の予想以上の反発、士気の上がらぬ軍平達に幕府は手を焼いていた

76 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:03:27.547 ID:GB7E0NGo0
そんな中、悲劇が起きてしまった

大名の配下である寄せ集めの足軽が、民家を襲ったと言うのだ

幸い、家主は足を負傷しただけで済んだが

住み込みで働いていた西洋人の女が攫われ、人質にされてしまった

幕府は悩んだ末、村の出身者であると訴える足軽に

人質解放の交渉人、襲撃犯の確保を命じた

77 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:04:06.488 ID:GB7E0NGo0
足軽は急いで村へ駆けつけた

だが事はそう簡単に片付くものではなかった

人質解放の条件として、首謀者が提示したのは、

『百姓の着物と草履で来い、帯刀は許さない』

という物であった

78 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:05:12.508 ID:GB7E0NGo0
この村出身の百姓で腕が立つと出世した、人望篤く徳のある男

異国出身で、言うなれば転がり込んできただけの西洋人の女

選ぶのならばどちらか、言うまでもない

村の人々は、口々に足軽を引き留めた

条件が怪しいのだ、明らかに罠だと

そのまま行っては殺される…命あっての物種だと

79 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:05:54.305 ID:GB7E0NGo0
しかし足軽は止まらなかった

賜ったばかりの鎧を躊躇わず脱ぎ捨て、元の百姓の恰好に戻った

新品の草鞋をぼろぼろの草履に履き替えて、腰の鞘を全て外して

母親の形見である笠を頭に被って、足軽は首謀者の待つ場所へと向かった

何故、無理矢理にも止めなかったのか

それは村の誰もが知っていることだった

それは足軽を知る者ならば、知らぬはずもないことだった

足軽は西洋人の女と幼い頃から親しかった、相思相愛の仲だと

80 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:06:41.976 ID:GB7E0NGo0
足軽の名は、武運文助と言った

西洋人の女は、ツンと言った

女のことは皆「おつん」と呼んでいたが

村の皆は正直に、良い気分はしなかった

見慣れない黄色い髪、小麦より薄い程度の、黄色いそばかすだらけの肌、

何より似合わぬ着物姿が、村の女からは特に嫌われていた

異国の女、黄色い猿と、裏ではそう呼ばれていた

81 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:07:21.455 ID:GB7E0NGo0
何処から来たのか、何故この国へ来たのか、一切の理由は分からない

唯一つ、ツンはこの日本と言う国が、武運文助という人が好きだ…ということだけだ

武運文助も特にツンを気にかけていて、何かとツンに寄り添った

だから、気丈な振る舞いの裏に見せる、脆い部分を誰よりもよく知っていた

距離が縮まるのは自然なことだったろう、とても純な情であったろう

その点は誰もが尊重し、応援した…

そんな背景があるからこそ、誰も文助を止められなかった

82 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:07:51.924 ID:GB7E0NGo0
結果は、あまりにも惨かった

指定の場所、寺の障子が開け放たれた瞬間

文助は呆気なく斬殺されたのだ

犯人の哄笑と無慈悲な言葉を、耳にしたまま

83 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:08:10.701 ID:GB7E0NGo0
『ツンってやつは西洋人なんだろう?』

『美人だったなぁ、惜しかったなぁ』

『掻っ攫ってすぐに売っちまったよ』

『高く売れたぜ、今頃は黒船さんのお世話になってるかもなぁ』

84 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:08:35.697 ID:GB7E0NGo0
(  ω )「ツン…」

(  ω )「…ごめん…お…」

(  ω )


絶命した文助の骸は、そのまま放っておかれた

親しい友人が追っていかなければ、文助の骸は骨と化しても尚見つからなかったろう

幕府は文助を「鎧兜を外すなど言語道断」として、既に見捨てていたのだから

85 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:09:07.878 ID:GB7E0NGo0
役人が来る頃には、文助は既に荼毘に付されていた

そのとき一緒に、三尺一寸五分の珍しい刀を奉納させたはずだが

骸が届く頃に確認したところ、刀は見つからなかったとか

刀は腕を見込んだ将軍が、足軽抜擢する際、直々に持たせたものだから

惜しくて手放したくなかったのだろうと噂された

幕府に見捨てられたに関わらず、文助の評価がそこそこ高いのは

人徳と恨み一つ遺さず逝ったと言う理由が大きかった

86 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:09:45.206 ID:GB7E0NGo0


88 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:10:17.862 ID:GB7E0NGo0
木枯らし吹き抜ける寒い夜

季節外れの桜が咲いている

舞い落ちる花弁の中、笠を被って

ただ静かに月を見上げて佇んでいる

89 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:11:51.731 ID:GB7E0NGo0
(  ω )




( ^ω^)

90 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:12:16.570 ID:GB7E0NGo0
武運文助、享年十七歳

その魂安らぐこと未だ無く

舞い散る桜の中に、女の姿を探しては涙を零し

生来のお人好しが邪魔をして、ひとたび悪人を懲らしめたがる

胸に秘めた思い出が、桜花一枚一枚に揺られては甘く疼いて

喩えようの無い痛みに苛まれては、一生を悔やむ

自身の甘さを嘆く彼の人助けが、終わることは無い

91 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 06:12:51.482 ID:GB7E0NGo0
巻の四、終







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