( ^ω^)赤く染めていくようです 巻の二

31 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:44:31.033 ID:GB7E0NGo0
巻の二、狼藉

32 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:44:50.398 ID:GB7E0NGo0
鍬を翳しては振り下ろし、鍬を翳しては振り下ろす

繰り返される作業を苦痛と思ったことは無い

だがどうしようもない虚無感に、苛まれるときが幾度もあった

抗いようのない現実に、全てを投げ出したくなるときがあった

三年前を境に不定期的に訪れる、やり場のない悲憤

何があったかと他人に聞かれたところで、話せることなど何も無い

33 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:45:14.561 ID:GB7E0NGo0
流れに身を委ねていれば良いと信じていた

百姓など田畑を耕していればいいだけの存在

所詮、お国がどうなろうと下位の人間には何の得も無い

いつの時代からそうなった、この先の時代もそうなのか

いつの時代もそうだった、この先の時代もそうだろう

彼らは流されて生きていく、その方がきっと幸せだ

34 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:45:44.453 ID:GB7E0NGo0
けれども、やはりそこは人間だから

流れに抗いたいと願ったことはあったのさ

幾度も幾度もあったのさ


(´・ω・`)「流されている方が幸せだ、持論なのにね…」


彼の名は庶歩初歩郎、それなりに名のある家の百姓である

体力の限界で倒れた父の跡を継ぎ、日夜農耕に勤しむ年頃だ

ところが今日、初歩郎は鍬を持っていたのに、畑に行かなかった

単に油を売っているわけではない、初歩郎には用事があったのだ

35 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:46:07.003 ID:GB7E0NGo0
(´・ω・`)「兄さん…いや沙金、今日こそ討たせてもらうよ」


初歩郎には兄がいた、名を沙金と言う

しかし血の繋がった兄弟と言えど、沙金と初歩郎の仲は険悪であった

家を捨てて出て行った先で、沙金は初歩郎の友である擬古の恋人おしぃを寝取り

擬古を殺害、おしぃを自害させた上、正式に廃嫡されていないことを理由に

庶歩家の跡取りとして名乗り出てきたのである

対して初歩郎はこれも世の流れと家を譲り、おんぼろの小屋に住いを移した

周囲からは非難轟々、罵詈雑言を浴びたものの、初歩郎はそこは恨まなかった

沙金は擬古とおしぃの件を、庶歩家の権力で揉み消そうとしていたのだ

36 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:46:44.568 ID:GB7E0NGo0
士の噂は初歩郎も知っていた、故に初歩郎は切に願った

刺し違えても構わない、当たって砕けても構わない

ただこのまま友のことを消され、のうのうと生きるよりはましだ

だから士に、沙金家の警備を解いてもらった後、沙金と対峙し討ち果たそうと


(´・ω・`)(…守りは僅かに三人)

(´・ω・`)(けれど何れも将軍お墨付きの用心棒)

(´・ω・`)(鍬を握ることしか能の無い僕では、奴らには勝てない…)

37 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:47:16.428 ID:GB7E0NGo0
緊張で汗ばむ掌を、何度も何度も裾で拭う

相手は一流、こちらは三流以下、一瞬の油断すら許されぬ

狼の遠吠えが響く夜更け、隙を見せれば何処から狙われるか


(;´・ω・`)(…我ながら…ひどい賭けだ)


流れに抗うには些か冒険をし過ぎている

冷静に分析しながらも、待つ時間がもどかしく、焦れてくる

亡き友のことを浮かべるだけで、歯止めが利かなくなりそうだ

38 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:47:55.911 ID:GB7E0NGo0
…そのとき不意に、風が止んだ


(´・ω・`)「…!」


初歩郎は直感した

士が来たのだと

そして、行くのならば今だと

39 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:48:23.460 ID:GB7E0NGo0
(#´・ω・`)「沙金!」


瓦屋根の上から飛び降りて、初歩郎は叫んだ

初歩郎が降り立ったのは、沙金の部屋の前

戸を勢いよく開け放った瞬間、振り下ろされた刀を避けて

初歩郎は転がり、沙金のいる室内へ侵入した

40 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:49:00.991 ID:GB7E0NGo0
(#`・ω・´)
         (´・ω・`#)


刀を構えた沙金と、鍬を構えた初歩郎が対峙する

開け放たれた戸の隙間から、青白い月光が差し込む

刀身と鍬の刃先が煌めいた

距離を取り、畳の上を駆け抜ける


(#´・ω・`)
        (`・ω・´#)


立ち位置が逆に変わる

未だ、打ち合うことは無かった

互いにじりじりと距離を詰め、離れては詰めるを繰り返す

41 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:49:21.612 ID:GB7E0NGo0
(#´・ω・`)「沙金…今日こそお前を討たせてもらう!」

(`・ω・´#)「ほう、大人しかったお前が出てくるとは」

(`・ω・´#)「やはりお前も人の子か」

(#´・ω・`)「なんだと?」

(`・ω・´#)「金と権力が恋しくなったんだろう」

(#´・ω・`)「誰が! 今更、そんなものを!!」


卑しく笑みを浮かべて言う沙金に、初歩郎が激昂する

遂に振り下ろされた鍬の刃先が、刀身と交わった

耳に響く金属音を立て、受けた刀で鍬を振り払おうと

沙金が体重を乗せて鍬を押し返す

42 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:50:13.337 ID:GB7E0NGo0
互いに押し返し離れた瞬間、



(#´・ω・`)「ぐおおおお!!!」

「おぉおおおお!!!」(`・ω・´#)



二人は同時に咆哮を上げて斬りかかった

44 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:50:33.704 ID:GB7E0NGo0
           (#´・ω・`)

(`・ω・´#)


           ( ´ ω `)ガフッ

(`・ω・´#)


膝を着いたのは、初歩郎であった

父より受け継いだ愛用の鍬が、吐血で赤く染まった手から離れる

滴る血の中に、初歩郎の顔が落ちる寸前、沙金は振り向き

首を斬り落とそうと刀身を振り翳す

45 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:51:12.467 ID:GB7E0NGo0
(  ω )

46 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:51:28.861 ID:GB7E0NGo0
一瞬であった

月光に輝く刀身が映したのは、初歩郎の首ではなかった

言葉も無く離れた胴体が、血飛沫で出来た水面の中に沈んで行く

沙金の刀は、椿のように力なく畳に落ちた

47 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:51:55.514 ID:GB7E0NGo0
致命傷を負いながらも、初歩郎には未だ息があった

床に倒れ伏す前、抱えられた初歩郎は、近付いた顔を見て笑った


(´ ω `)「ははは…はは…ははは…」

(´;ω;`)「…君だったの…か…」

(´;ω;`)「信じて…良かった…」

(´;ω;`)「文助…」


(  ω )「…」

( ^ω^)「…久しぶりだお、初歩郎…」

48 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:53:05.307 ID:GB7E0NGo0
大の男の、泣き笑いのような面を見ても、士は表情を変えなかった

士を涙ながらに呼ぶ初歩郎の命は、もはや風前の灯火

濃藍の着物は血が目立たぬ故、初歩郎の血か誰の血かは知れぬ

ぼろぼろの草履は何処を歩き回っても、泥汚れ一つ残さず血痕も無い

刀は何人斬ろうとも、瞬く間に輝きを取り戻す故、誰を斬ったかも分からぬ

しかし初歩郎は知っていた、その士が何をしたのかを

49 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:53:38.835 ID:GB7E0NGo0
(´;ω;`)「…文助…ごめ、ん…ごめん…よ…」

(´ ω `)「ありが…と…」

(´ ω `)


(  ω )

( ω  )「さようなら…だお…初歩郎」

50 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:53:54.045 ID:GB7E0NGo0
気付けば既に白藍に染まりつつあるようだ

戻ろう戻ろう戻らねば

去り行く士の背は、先の戦より哀愁を帯びていて

歩んだ先には、血でもない透明の雫がぽたりぽたり

別れを惜しむように跡を作っていった

51 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:54:09.909 ID:GB7E0NGo0
巻の二、終







巻の三、違背