( ^ω^)赤く染めていくようです 巻の一

2 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:31:18.998 ID:GB7E0NGo0
威風堂々と闇路を行くは中肉中背の勇士なり

笠に隠るは菩薩の如きにこやかなる人面

人皆誰もが匹夫と嗤う温柔敦厚人畜無害

3 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:32:12.313 ID:GB7E0NGo0
されど一度鞘に手当て刀を抜かば修羅と化し

疾風迅雷 一刀両断

月夜に散り逝く御霊は春宵に舞う桜の如し

其心は明鏡止水の如くなり

4 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:32:41.895 ID:GB7E0NGo0
嗚呼いと畏しや美しや

勇士名は何と申す


( ^ω^)「武運文助と申します」

6 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:33:12.526 ID:GB7E0NGo0
( ^ω^)赤く染めていくようです

7 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:33:35.593 ID:GB7E0NGo0
巻の一、盗人

8 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:33:50.090 ID:GB7E0NGo0
夜にしか現れない士がいると言う

士は物とも言わず何処からともなく現れて

世を騒がしている悪党共を一瞬にして片付けるそうだ

9 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:34:17.628 ID:GB7E0NGo0
どれほど腕が立つ輩もこの士には敵わない

そんな強い士のことだ、世に名高いかと思えばそうでもない

なんせ士は人のいるところには寄り付かず、見た者は既に地獄行き

翌朝には斬られた悪党の情けない骸が転がっているだけだ

素性の知れぬ士に礼などしようがなく

名前も容姿も分からぬのだから誰も気付くはずがない

10 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:35:21.461 ID:GB7E0NGo0
そんな士が気になった、ある男

町を騒がす悪党共の後を尾け、古びた寺にやってきた

 _
( ゚∀゚)


男の名は長岡城留衛門、町で有名な問屋「長岡」の跡継ぎである

もうすぐ父の跡を継ぐか継ぐまいか、そんな話をしていた年頃だ

長岡が士に興味を持ったのは、単に好奇心からでは無かった

11 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:35:57.559 ID:GB7E0NGo0
 _
(#゚∀゚)(あいつらよくも町の米を盗みやがって…!)


腸が煮えくり返る思いを抑えて、城留衛門は遠目に寺を見据える

障子の奥では十人程の影が動いており、時折、哄笑が響く

一月前より悩まされている、米泥棒の集団であった

盗まれた米の量は計り知れず、百姓のみならず町全体が困り果てていた

しかし町には、泥棒を倒せる剛腕の者はいない

此処にいる城留衛門が唯一、腕の立つ男であった

だが城留衛門一人に十人では分が悪い、そこで城留衛門は考えたのだ

『物陰で士が現れるのを待とう』と、士が現れることに賭けて

12 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:36:41.944 ID:GB7E0NGo0
 _
( ゚∀゚)(どんな奴なんだろう…「士」とやらは)


夜の帳が降りて久しい時間、冬の寒さに身を震わせつつ只管に待った

悪を許してはおけぬが、一人で立ち向かって死んでは元も子もない

城留衛門にとっては歯痒く、もどかしい一時であった

13 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:37:08.195 ID:GB7E0NGo0
…そのとき不意に、風が止んだ

城留衛門の足元の枯葉が、落葉した桜の木枝が、そよがなくなった

途端にぷつりと切れた自然の音に、城留衛門は身を強張らせる

 _
(;゚∀゚)(感じた事ねえ…なんだこの…ぴりぴりした空気)


鳥肌が立つ程に、空気は冷たくなり、辺りは静けさを増していく

だが殺気立っているわけではない、何処か厳かな雰囲気を漂わせている

斬り合いになるのか、ならないのか…噂の士が出るのか、出ないのか

14 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:37:31.536 ID:GB7E0NGo0
持ってきた祖父伝来の刀を抜こうと、鞘に手を当てたとき

城留衛門の目に、信じられない光景が飛び込んだ

15 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:37:45.948 ID:GB7E0NGo0
 _
(;゚∀゚)(な、なんだありゃ…!)

 _
(;゚∀゚)(障子が、一人でに破けた…?!)

16 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:38:01.720 ID:GB7E0NGo0
何かが駆け抜けていくように、軽い音がしたと同時

障子紙が無数に破け、室内の様子が筒抜けになった

唐突な音とぼろぼろに剥がれた障子紙に、米泥棒達は騒然とし

各々の刀を抜いて構えを取った

17 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:38:17.673 ID:GB7E0NGo0
『誰だ、出てきやがれ!』


一人が粗暴な口調で啖呵を切り、徳利を投げつけた瞬間


(  ω )


彼の首は、声を上げる間もなく吹き飛んだ

18 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:38:38.219 ID:GB7E0NGo0
『ひぃっ』

『お、おい、どこだ!?』

『生かして帰さねえぞ!!』

 _
(;゚∀゚)(……)


悲鳴と騒めきが起きる中、城留衛門はその場から微動だに出来ずにいた

19 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:38:55.844 ID:GB7E0NGo0
 _
(;゚∀゚)「…おい…嘘だろ…」

 _
(;゚∀゚)「あの、太刀筋…まさか…」


愕然として見つめる城留衛門が、思わず口にしたそのとき

20 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:39:18.850 ID:GB7E0NGo0
「働かざる者食うべからず」


声が響いた

はっきりとよく通る、若い男の声であった

水を打ったように流れた沈黙の中、言葉は紡がれていく

21 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:40:08.695 ID:GB7E0NGo0
「天誅などと気取ったことは言いやしませんが」

「お縄にかかるのも許されないんじゃ仕方ない」

「この際、ここで決着つけましょうお」


『てめえ、何者だ!!』


響く声を遮るように、障子は乱暴に開け放たれた

泥棒の一人が燭台を投げつけようと、手を伸ばす

ところがその手は一瞬にして空振った

空を切った手は何を掴むことも無く、だらりと垂れた

22 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:40:30.828 ID:GB7E0NGo0
『お、おい…なんだあの…!!』


驚愕に声を上げる間もなく、また一人

胸から血を流して倒れ伏す

その場にいた誰もが、刀を握る隙も与えられず鮮血に染まっていく

城留衛門が出る幕など無いまま、舞台は終焉に向かっていた

23 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:40:57.054 ID:GB7E0NGo0
最後の一人を斬り終わった後も尚

城留衛門はその場にただ茫然と立ち尽くしていた


 _
(  ∀ )


我に返った城留衛門が見たものは、それは凄惨な光景であった

破れた障子紙に残る、いくつもの血飛沫

足掻く間もなく斬殺された十人丁度の骸

なるほど納得、翌朝には全てが祭りの後というわけだ

24 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:41:17.947 ID:GB7E0NGo0
しかしこれで終わりでは無かった

今宵は幕の下り方が違ったようだ

 _
(  ∀ )「…ああ…そっか…」


ほうほうと梟の鳴く声が、漆黒の闇に響き渡る中

虚無感と喪失感を覚えつつ、

25 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:41:52.284 ID:GB7E0NGo0
 _
(  ∀ )「……」
 _
(  ∀ )「…お前だったのか…文助…」

(  ω )

( ^ω^)「……」


蝋燭の燈火が映し出したその姿に、城留衛門はぽつりと呟いた

26 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:42:40.865 ID:GB7E0NGo0
履き古したぼろぼろの草履

漆黒に溶けてしまいそうな濃藍の着物

恰好に不釣り合いな三尺一寸五分の刀

城留衛門は彼を知っていた

彼もまた城留衛門を知っていた

27 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:43:01.528 ID:GB7E0NGo0
( ^ω^)「…お久しぶりだお、城留衛門…」
 _
( ;∀;)「ああ……ああ…」


何処か寂しげな声に、城留衛門は何も言えなかった

ただ涙を流し、嗚咽を漏らし、みっともなく泣き面を曝すだけだ

鼻を啜り、手の甲で滝のように流れる涙をごしごしと拭い

漸く知ることの出来た士の正体に、城留衛門は頭を下げて言う

28 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:43:34.185 ID:GB7E0NGo0
 _
(  ∀ )「…文助…ごめんな…ありがとうな…」

( ^ω^)「…どういたしまして、だお」


(^ω^ )「それじゃあ」

( ω  )「…さようなら、だお」

29 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:43:49.568 ID:GB7E0NGo0
特殊な語尾を付けて、士は去っていった

久方ぶりに聞いた友の声、もう二度と聞けない友の声

城留衛門は胸にしかと刻み、夜が明けるまで頭を下げ続けた

謝罪と感謝、両方の意味を込めて下げた彼の面には

大粒の涙が再び流れて、落葉に滴った

30 : ◆noe7UUkd3A :2016/01/03(日) 05:44:12.071 ID:GB7E0NGo0
巻の一、終







巻の二、狼藉