本屋に行こう

452 : ◆xh7i0CWaMo :2015/11/13(金) 20:51:44 ID:Uwn2by7Y0
1.本屋に行こう

最近の若者は本を読まなくなったって言うねえ。これは非常によろしくない。
本を読まないってことは本屋にも行かないってことだ。これだけで、人生の半分ぐらいは損してるよ。
何せ、本屋ほど楽しい場所なんて、他には滅多に無いんだから。

騙されたと思って一度行ってみなよ。きっと、目新しい発見がいくつもあるだろうさ。
 
入り口の自動扉が開いて、足を踏み入れるとまず目に付くのは雑誌のコーナーだ。
これは、大体どこの本屋でも同じ。あんたの好きな漫画雑誌もここに並べられているはずさ。

立ち読み目的の客が一番たむろする場所でもあるな。
あんたも、そこでしばらく佇んでみるがいい。立ち読みも、まあ少しぐらいやっても構わないだろう。

そうすると、どこかからの視線に気付くはずだ。ちらりと周りを見渡して御覧。
念願の雑誌掲載が叶った新人漫画家が、評判を知りたくて本棚の影に隠れているぜ。

仮にあんたが親切なら、こいつの姿を見つけたときにはそっとピースサインでも送ってやるといい。
あいつら、ものすごく喜ぶぜ。

453 : ◆xh7i0CWaMo :2015/11/13(金) 20:55:02 ID:Uwn2by7Y0
雑誌コーナーの隣には新刊本やベストセラーがピックアップしてある棚がある。
そこには名高い文学賞を取ったり映画化が決まったりした小説だとか、
流行の話題を取り上げた本だとかが置かれている。

もしもあんたがプロを目指す熱心なアマチュア作家だとすれば、
この棚はさぞ羨ましく憎らしく映るだろう。でもな、ここに平積みされている本達をよく見てごらん。
どいつもこいつも、小刻みに震えているのが分かるはずさ。

なんで震えてるかって? みんな、怖いんだよ。売れなくて、隅に追いやられるのがな。
ベストセラーだって、いつブームが下火になるか分からない。
一発ヒットを飛ばした作家の新作がまったく売れないなんて現象は、この業界じゃよくあることだ。

最近は、文芸業界そのものが衰退しちまってるからなあ。
雑誌も小説も、昔ほどは売れなくなっちまった。人気のない本はみんな処分されちまう。

だからみんな震えているんだ。あまりに可哀想だと思うなら、買ってやればいいと思うぜ。
面白いかどうかは保証しないが。

454 : ◆xh7i0CWaMo :2015/11/13(金) 20:58:08 ID:Uwn2by7Y0
少し奥に進むと文庫本の棚が目に入る。
ここは、いわば集会所みたいなもんでな、よくよく耳をすませば、
本同士が世間話をしているのが聞こえるはずだ。

懐古主義の純文学、ギャル口調の携帯小説、変人の前衛文学、堅物の歴史小説、
変態の官能小説なんかが世間話をしているんだ、聴いているだけでも、なかなか楽しいもんさ。

特に、官能小説が携帯小説を口説いてるところなんかは、爆笑モノだよ。
基本的に文体が違うからな、さっぱり話が噛み合わないんだ。
 
更に奥に進めば、お待ちかね、漫画本の本棚が見えてくる。
そういや、普通の本と違って漫画本には大抵ビニールカバーが付けられているが、

何故だかわかるかい? 
立ち読み防止って理由も一つだが、もう一つ理由がある。
それは、時々漫画のキャラクターが勝手に別の漫画に飛び移ることがあるからだ。

嘘だと思うなら、棚にあるドラえもんのカバーを破って中身を確認すればいい。
どこかにきっと、鉄腕アトムが飛んでるコマがあるぜ。
ま、破ってる途中で店員に見つかって怒られても、知らないがね。

455 : ◆xh7i0CWaMo :2015/11/13(金) 21:01:35 ID:Uwn2by7Y0
絵本のコーナーには、小学生ぐらいの男の子がいる。
だが、生憎あんたたちはこの子に会うことは出来ない。
何故なら彼は夜、閉店後にどこからともなくひょいと現れるんだ。

片手にはリコーダーを持っている。
こいつを彼が吹くと、本棚に収められていた絵本たちが一斉に飛び出して、彼を囲むように踊り始める。

この踊りは大体三時間ぐらい続く。
日が昇る頃には絵本はみんな本棚に戻っているし、男の子もまた何処かへ消えてしまう。

覗き見てやろうなんて、野暮なことを思っちゃいけねえよ。
一度この宴を覗いたやつは、次の日から無理矢理踊りの輪に加えられるんだ。

童心に返ったような気がして楽しいには楽しいんだが、
寝不足になって翌日の動きに支障を来す。気をつけろ。

456 : ◆xh7i0CWaMo :2015/11/13(金) 21:05:09 ID:Uwn2by7Y0
辞書や参考書が並べられている棚もあるな。あんたも受験期にはお世話になっただろう。

これから受験だという人には一ついいことを教えておいてやる。
勉強したい教科、例えば数学なら数学の参考書を片っ端から捲ってみるといい。

たまに、本当にたまにだが、
ページとページの間に四十歳ぐらいのハゲたオッサンが挟まっていることがある。

こいつを見つけたあんたは、超ラッキーだ。
オッサンはあんたに、挟まっていた本の内容を実に分かりやすく、懇切丁寧に教えてくれる。
どんなに難しいことでもかみ砕いて説明してくれるから、オッサンはマニアの間じゃ大評判だ。

オッサンは説明を終えるとまたどこかのページに挟まるために消える。
あんたは、オッサンへのお礼と思ってその本を買うべきだ。

457 : ◆xh7i0CWaMo :2015/11/13(金) 21:07:48 ID:Uwn2by7Y0
ちょいと視線を移せば、普段はなかなか見ることもない専門書籍なんかが面を並べている。
天文学や哲学や医学や、パッと見ただけではわけのわからないものが多い。

それでも、大抵はしっかり読めばそこそこ理解できるんだが、
たまに何度読んでもさっぱり理解できない本がある。

こいつにぶつかった時は要注意だ。
いつの間にかアンタ自身が本の中に吸い込まれてしまう場合がある。
例えば哲学書に吸い込まれると、意味不明な概念の中を永久に彷徨うことになってしまう。

昆虫専門の本なんかに、吸い込まれたら悲惨だぜ。
あんたは永遠にビルぐらいデカいカブトムシやクワガタやゴキブリなんかに追いかけ回されるんだ。

そうやって行方不明になるやつが、日本だけでも年に二、三人はいる。
専門書籍を安易に立ち読みするのは、やめておくべきだと思うね。

458 : ◆xh7i0CWaMo :2015/11/13(金) 21:10:50 ID:Uwn2by7Y0
まだまだ本屋には楽しいことや不思議なことがいっぱいあるんだが、
全部は流石に書ききれないのでここらへんにしておこう。
どうだ、少しは本屋に興味が湧いてきたかい?
 
最後に一つ忠告しておく。
いくら興味深いからって、本屋でエロ本なんかのいかがわしいものを立ち読みするのだけはやめておけ。

これは不思議なことでもなんでもないんだが、たまたま買い物に来ていた母親や、
密かに片思いしていた女の子なんかに見つかったら洒落にならないからな。

本当に。経験者からのアドバイスだ。










2.立ち枯れる