o川*゚ー゚)oゼロケイが呼んでいるようです 3.チーム・うるさい中華

22 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:39:30 ID:M7GE90A60
 
3.チーム・うるさい中華

もろもろの用事を済ませれば時刻は午後3時、
朝からクリームりんごパンしか口にしていない私は
とにかくお腹が空いていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「ひえー、おなかすいたぁ」

りんごもクリームもパンさえも、私を離れいったいどこへ消えていったんだろうか。
胃の中はゴムボールのように空っぽで、思わず小さなげっぷが出た。

私には、空腹の時にむしろげっぷが出るという変な癖がある、
そのときのげっぷは、本当に胃の中の空気がそのまま通ったような空虚な味がする。
これを危険信号と受け取るならば、速やかに食事が必要だ。

ξ゚⊿゚)ξ「お金はあるけど、家にもご飯あるしな」

家にたどり着くまでに、行き倒れちゃうかな?
いやいやまさか、と問答を繰り返した末、
私は意を決して近くの中華料理屋に飛び込んだ。

23 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:40:12 ID:M7GE90A60
 
中華料理専門店の「チーム・うるさい中華」の店内は相変わらず、
工事現場かと思うほど騒がしかった。

ドアを開けた瞬間、これでもかと耳の穴へ飛び込んでくる喧噪に
顔をしかめながら足を踏み出す。店名に偽りがなさ過ぎる。

皿にレンゲがぶつかる音、とろみのあるスープをすする音、
鉄鍋におたまをたたきつける音たちをかき分けて進み奥の席に腰を下ろすと、
私の姿を見かけた店主の伊藤さんが厨房から声をかけてきた。

('、`*川「いらっしゃ、あ、ツンちゃん!おひさー」

同様に「おひさー」と返したところでこの店内じゃ伝わるわけはないので、
私はピースサインを作って返事のかわりとする。


立てかけてあるメニューを開き、一瞬で閉じた。
私の注文はいつも決まっているのでメニューはいらない、
ただ、その料理が現在も存在していることが分かればそれでいい。

24 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:41:49 ID:M7GE90A60
 
しばらくしてお冷やを持ってきた伊藤さん。
この店には小学校の頃から通い詰めているので顔なじみだ、
そして最初に訪れたときからずっと変わらないお団子ヘアーも相変わらず。

伊藤さんは突き刺すような勢いでテーブルにお冷やを置いた、
コップから飛び散った少量の水がクロスをわずかに濡らす、
それを気にすることもなく、エプロンに挟んでいた伝票を取り出した。

('、`*川「天津飯?」

私が注文するより早く、伊藤さんは伝票にさっと「天」と記す。
あまりに素早く書いたので、それは「夫」とも読めそうな字になっていた。

ξ゚⊿゚)ξ「はい」

頷くと同時に彼女は厨房の方を振り向いて叫ぶ。

('、`*川「あいよ、てんしんはーん!」

厨房の方から「あーい」というカドのない声が返ってくると、

('、`*川「じゃ、待っててね」

まるで台風のように、彼女は私のテーブルを去ると他のテーブルへ移った。
中華料理店というのは得てして戦場だなあ、と思う私だった。

25 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:42:44 ID:M7GE90A60
 
('、`*川「はい、天津飯おまちど」

注文して5分も経たないうちに、
私のテーブルにはほかほかと飴色の湯気を立てる天津飯が運ばれた。

いつもながら料理が出てくるまでがとても早いので驚いてしまう、
まるで私が来るのを待っていたようだ、と思えば、
毎度私の訪問を目ざとくさとるキュートの姿と重なった。

ξ゚⊿゚)ξ(愛されてんね)

手を合わせていただきます、と小さく呟く。

私は凹んだ方を手前に向けてレンゲを掴むと、黄色いドームへ突き刺した。

卵と、その卵に守られるような形で隠れていたご飯を貫通して
レンゲが皿に当たれば、かちりと音が鳴る。
この音が、店内に満ちる騒音たちの中に加わることで、BGMの一部となる。
だから、"チーム"うるさい中華、ということらしい。

26 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:43:37 ID:M7GE90A60
 
('、`*川「中華ってのは、うるさければうるさいほど、おいしいのよね何故か」

ずっと前に伊藤さんは私にそう話してくれた。
和食にしろ洋食にしろ、音を立てずに食べるのがマナーとして正しいけれど、
中華に限っては食事の騒がしさが逆に調味料として作用するんだと。

はじめは納得できなかったが、
この店で何度も天津飯を食べるうちに次第に理解できていた。

昔から中国って人口が多いから、料理も多人数用にチューンされて、
騒がしい方が美味しくなるように出来ているんだろう。

突き刺したレンゲを手前に引き寄せてすくい上げる、
とろとろのあんと、薄く柔らかな卵と、白くまぶしいご飯を
ひとまとめに口に運べば、ほどよい甘酸っぱさが舌を震わせる。

ξ゚⊿゚)ξ「これこれ、これよ」

思わずこぼれる微笑みをぶらさげたまま、頷く。

27 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:44:20 ID:M7GE90A60
 
まるで金魚すくい名人のように私は、
天津飯をレンゲで口に運ぶという動作を素早く繰り返す。
店内の騒がしさと食事のハイペースさが一つの音楽のようになり、
私の胃が秒刻みに幸せを取り戻していく。


数分後、オーケストラが最後に鳴らすシンバルのごとく、
胃が完全に満足するのと同時に皿の上も空っぽになっていた。

ξ゚⊿゚)ξ「はー」

そしてげっぷが出る、今度のげっぷに空虚さはこれっぽちもない。

私はわずかに張り出た気がするお腹をわざと前につきだして、
妊婦のように優しく撫でると、「よかったな、お前」と心で呟く。
そして胃からの返事を待たずして、伝票を掴んで立ち上がった。

28 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:45:22 ID:M7GE90A60
 
レジカウンターに居るのは伊藤さんではない、アルバイトの中国人だ。

( `ハ´)「テンシンハン、ロッピャクハチジュウエン、デス」

カタコトで告げる言葉はぎこちなさ過ぎてうまく聞き取れないが、
どうせいつも天津飯しか頼まないので値段は分かっている、
私は財布から千円札を取り出して彼に渡した。

( `ハ´)「イタダキマス」

何を頂くの?とつっこみを入れたくなるのをこらえて、
お釣りの320円を受け取ったところで、伊藤さんが通りかかった。

('、`*川「ツンちゃん、いつもありがとねー」

伊藤さんは、大皿に乗った八宝菜を抱えたまま微笑んだ。
私は、言おうか言うまいか少し悩んで、口を開いた。

29 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:49:22 ID:M7GE90A60
 
ξ゚⊿゚)ξ「わたし、ここにくるの、今日で最後かもしれません」

('、`*川「え?」

伊藤さんはつっかけたサンダルのつま先を床でとんとん叩き、

('、`*川「そうなの?」

ぽかんと口を開いてこちらを見つめてきた。
そんな彼女の姿に申し訳なさを覚えつつ、答える。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、家庭の事情で」

('、`*川「あらー、……残念ねえ、ほんと」

ほんと、の声が彼女のお団子ヘアーの陽気さに全く似合わず曇っていて、
わずかに顔を屈めて、眉まで垂れ下がる伊藤さんを見ていると、
私は改めてチームうるさい中華の威力を知るに至った。

うるさいままでいさせれば、良かったのに。

30 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:50:56 ID:M7GE90A60
 
ξ゚⊿゚)ξ「では、また機会があればいつか」

('、`*川「あ、ちょっと!」

もはや彼女の顔を見ていられなくなり
急いで店から出ようとドアを開けようとする私を、
伊藤さんが射抜くように制止した。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、はい」

('、`*川「くち、開けて」

言われるがまま、ツバメの雛のごとく丸く口を開ける私、
伊藤さんは、レジ横のつまようじ立てから一本を抜き出し、
片手で抱えていた八宝菜の中のうずらの卵に軽く突き刺す。

そしてそれを、ひょいと私の口へ放り込んだ。

うずらの卵のつるつるとした表面が、私の舌の上を転がった。

31 :名も無きAAのようです :2015/07/26(日) 00:54:20 ID:M7GE90A60
 
( `ハ´)「アネサン?」

中国人アルバイトが信じられないという顔で伊藤さんを見つめる。

ξ;゚⊿゚)ξ「こ、こえ」

舌がうまく動かせないのでろれつが回らない私に
伊藤さんは再度微笑みかけ、

('、`*川「ないしょね」

そういって、また台風のようにレジのそばから離れていった。

だれに、内緒にすればいいんですか?と思いながらも、
口の中に残るうずらの卵を前歯で噛むと、
ぷちんと弾けて粉っぽい黄身が舌の上に溢れてくる。

私はいつまでも飲み込めずに、黄身のざらざらを舌で伸ばし続けていた。

さよなら、チーム・うるさい中華。







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