o川*゚ー゚)oゼロケイが呼んでいるようです 2.かちかちクーヘンバウム

12 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:20:42 ID:fvS2NJKE0
 
2.かちかちクーヘンバウム

ξ゚⊿゚)ξ「「かんぱーい!」」o川*゚ー゚)o

私とキュートは、皿の上で渦を巻くかちかちクーヘンバウムを
小振りなトンカチでふたり同時に叩く。

カーンと勢いよく音響かせて、
クーヘンは失恋を表すハートマークのようにまっぷたつに割れた。

ξ゚⊿゚)ξ「まだまだ」

o川*゚ー゚)o「もいっちょ」

ふたり、目を見合わせて頷き、そして腕まくり。

まだ、口に運ぶにはいささか大きすぎるのでもう一度叩き割る、
今度はふたりともタイミングがずれ、ぽこぽこと木魚のリズムで音が鳴る。

13 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:22:42 ID:fvS2NJKE0
 
「おかしとフルーツの有栖川」の隅の席で向かい合わせに座る私たちは、
四分割されたバウムのひとかけらを指で摘んで口に運んだ。

ξ゚⊿゚)ξ「かってー」

o川*゚ー゚)o「絶対インパクトだけの食べもんだよこれ」

苦笑しながら、ぼりぼりと石ほど固い焼き菓子の生地をかみ砕く。
よく噛まないと甘ささえ感じることが出来ないこの食べ物を
けれど私たちは愛していた。

この食べものの由来については、
メニュー表の裏表紙に枠で囲って、書かれている。

以下のようなことが。

14 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:25:50 ID:fvS2NJKE0
 
本来、バウムクーヘンとは船乗りたちのために考案された菓子である。

中世のヨーロッパ、大航海時代。
厳しい船旅を続ける船乗りたちの疲れを少しでも菓子で癒せないかと
ひとりの心優しい菓子職人が頭をひねって考えていた。

そしてとうとう思いついたのがこのバウムクーヘンだ。

薄いビスケット生地をぐるぐる巻いておけばボリュームを増せるので
長い航海の間でもなかなか無くならない。
そして痛むことのないように、水分一滴も残らないようにかちかちに焼き上げる。

こうして考え出されたバウムクーヘンは、
目論見通りに船乗りたちに愛され、彼らは甘いものが欲しくなると
これを少しずつ割ってデザートとして楽しんだという。

現在、世で広く出回っているバウムクーヘンは
中世の頃より食べやすく美味しいものに仕上がっているが、
当店ではあえて当時のバウムクーヘンを完全再現し、提供する。

と、まあこんな感じだ。

15 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:26:55 ID:fvS2NJKE0
 
もちろん、そんな伝説はこれっぽっちも残っていない、全くの創作だ。

よくもまあ、そんな嘘を堂々と思いついて商品として売り出したものだと、
私は呆れたものだが、しかし同時にいい試みだと思った。

この、下手すると歯より固いんじゃないかという食感と、
砂場から砂金を掘り出すような淡すぎる甘さが、
かえって遠い大航海時代のロマンを思わせてくれるのだ。

ぼりぼりとクーヘンをかみ続けるキュートの顔を
じっと見つめていると、ここが菓子屋の店内ではなく、
帆船の甲板の上で、照りつける太陽の中、
見果てぬ新大陸に夢を馳せているような気分になる。

o川*゚ー゚)o「制服、セーラーだったら良かったのにね」

16 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:28:37 ID:fvS2NJKE0
 
ぽつりと呟くキュートの言葉に、
私はかみ砕いたクーヘンを飲み込んで、
口の中に粉末として残った生地を舌でもごもごと舐め取りながら頷いた。

ξ゚⊿゚)ξ「そ、ね」

o川*゚ー゚)o「美府ってセーラーの学校あったっけ?」

ばっと私の脳内で学校名簿が開かれる。
中学生の頃に駅で見かけた高校生たちの中にセーラー姿がいないかと
記憶を高速でスライドさせて探して見るも、ヒットしない。

ξ゚⊿゚)ξ「ない、まったく」

o川*゚ー゚)o「あー、確かにないわ」

17 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:32:51 ID:fvS2NJKE0
 
o川*゚ー゚)o「くしょー、ロマン不足だ」

両腕を柳のようにしならせて斜め後ろへ伸ばすキュートは
その勢いで思わず椅子ごと倒れそうになり、
慌てて右腕だけ戻してテーブルをつかみ事なきを得る。

o川;゚ー゚)o「あー、びびった」

ほっと息をつくキュートへ店内の注目が集まり、
それに気づいた彼女はえへへと微笑んで彼らの視線を散らす。
彼女の最大の武器が、今光った。

o川*゚ー゚)o「あご疲れない?」

ξ゚⊿゚)ξ「うん、かなりすり減った気がする」

o川*゚ー゚)o「わかるー、まだ三個もあるし」

18 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:34:12 ID:fvS2NJKE0
 
私は皿の横のスパニッシュオレンジに手を伸ばし、
グラスの底をコースターに押しつけて水滴を拭くと一口だけ飲んだ。
喉をひっかくような酸味が走り抜ける。

ξ゚⊿゚)ξ「どぎつミルクレープにすればよかったかな?」

そうこぼした私にキュートは首を振る。

o川*゚ー゚)o「いや、あれホントにどぎついからやめた方がいいよ」

ξ゚⊿゚)ξ「やっぱり?」

o川*゚ー゚)o「うん、あれ食べると晩御飯ぜったいギブアップする」

ξ゚⊿゚)ξ「あー」

19 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:37:09 ID:fvS2NJKE0
 
ξ゚⊿゚)ξ「だいたいあれ、なんか頼みにくいし」

どぎつミルクレープを注文しないと、
パティシエはいつも悲しげに顔を伏せるのでやりきれない。
それは客商売としてどうなのかな、と私は思ってしまう。

o川*゚ー゚)o「あたしはあじさいチョコだなー、うん」

ξ゚⊿゚)ξ「まだ売ってるっけ?」

o川*゚ー゚)o「売ってなーい、6月限定」

ξ゚⊿゚)ξ「あたしあれ、結婚式で食べるイメージあるよ」

o川*゚ー゚)o「うん、あたしもいとこのお姉ちゃんが何年か前に結婚したとき、そこで食べた」

そこでいったん言葉を区切り、キュートは目を閉じて唇を結んだ。
おいしい記憶を思い出すときの彼女の癖だ、私はそれがたまらなく可愛くて好きだった。
まぶたに遮られた彼女の瞳は、遠い向こうに立つ思い出をまっすぐ見ているんだろう。

o川*´ー`)o「美味しかったなあ」

20 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:38:46 ID:fvS2NJKE0
 
ふん、と鼻を鳴らすキュート。

ξ゚⊿゚)ξ「めっちゃ食べにくいけどね」

o川*゚ー゚)o「そうそう、どうやったら綺麗に食べれるんだろ、練習したいな、
       だれか結婚してくれないかなあ、6月に」

もう6月は過ぎてしまった。

そのことを思い出し、彼女の言う6月という言葉に寂しさを覚えて
私は鞄から手帳を取り出した。

o川*゚ー゚)o「え、ここで書くの?」

キュートは驚き、目をぱちぱちと瞬かせた。
まつげが犬のしっぽのようにふるふる震える。

ξ゚⊿゚)ξ「忘れないうちにね」

o川*゚ー゚)o「感心」

テーブルから身を乗り出してキュートは私の頭を撫でてくれた。
乾ききった私の心のヒビに、如雨露でかけたように水が染み込んでいくようだった。







o川*゚ー゚)oゼロケイが呼んでいるようです 3.チーム・うるさい中華へ