o川*゚ー゚)oゼロケイが呼んでいるようです 1.びっくりチキン

2 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:04:06 ID:fvS2NJKE0

1.びっくりチキン

夏がまた、この街の敷居を一歩またいだようだ。

私といえば全くそれに気づかなかった、
夏はちゃんと、私の背中のところまで来て、
今にも肩をぽんと叩きそうだったのに。

遠い再会を喜びあうような蝉の鳴き声すら聞こえはじめて、
私の体もこれから夏を端っこからぐぐぐと飲み込んでいって、
そして数ヶ月掛けて消化し、やがて吐き出すのだろう。

ξ;゚⊿゚)ξ「あちー」

キュートの家は二階建て。
見上げれば二階の窓からは、水色の象のぬいぐるみのぶどうのような
つぶらな瞳がのぞいている。

おそらくあれがセンサーなんだろう、
キュートはいつも私の訪問のタイミングを分かっている。

玄関ドアの前で首に掛けていたタオルで額の汗を拭い、
チャイムを押すとピンポーンのポのあたりでドアが勢いよく開いた。

3 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:04:53 ID:fvS2NJKE0
 
o川*゚ー゚)o「ツン!」

ξ゚⊿゚)ξ「ほらね」

o川*゚ー゚)o「なにが」

ξ゚⊿゚)ξ「いや、」

私は右腕に持っていた白い紙箱を掲げて、キュートに見せた。
とたんに箱の隙間から立ち上る、油とスパイスの欲をかき立てるような香り。

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、びっくりチキン、持ってきたよ」

o川*゚ー゚)o「ありがとうー!あたし、ちょうどトリ肉食べたかった」

飛び跳ねるような声を出して、
キュートは箱をつかんでいる私の右腕を引っ張り家の中へ招き入れた。
その勢いによろめきながら、私はぶらぶらと足を振って靴を脱いだ。

長年の訓練の成果か、私は手を使わずに靴を脱いでも、ちゃんと靴が揃うのだ。
自信があった、生きていくことよりよっぽど。

4 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:06:35 ID:fvS2NJKE0
 
外とはうってかわってクーラーのがんがん効いたダイニングに着くと
テーブルの上に箱を置くやいなや、キュートはその蓋を開いた。
そして中から一枚の名刺サイズのカードを取り出して、そこに書かれた文面を読み上げる。

o川*゚ー゚)o「結婚は人生の墓場である、だってさ」

ξ゚⊿゚)ξ「まーた、反応に困るメッセージね」

o川*゚ー゚)o「うん。まぁ、こまるわ。えい」

キュートは指で軽くカードを曲げると、そのままピンと弾いた。
カードは手裏剣のようにクルクル回りながら飛んでいき、
テーブル端の「町内盆踊り大会のお知らせ」の上に着地する頃には
すでに彼女は一本目のフライドチキンにかぶりついていた。結婚は人生の墓場。

o川*´ー`)o「うまいなぁ、至福だ」

トリ肉をもむもむと噛む彼女の唇が波のようにうねる。
目尻がとろんと垂れ下がっている。

5 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:07:37 ID:fvS2NJKE0
 
ξ゚⊿゚)ξ「はぁ、いい顔するなあ」

遅ればせながら、私も油でまだら模様に染まった紙箱の底から
骨付きチキンを一本取りだして、かぶりつく。

上下の歯で大きく身を剥がして口の中へエスコートすると、
同時にあつい汁がどっと流れ込んでくる。

ξ;゚⊿゚)ξ「あひあひ」

チキンはスピードが命であると先人たちも言っている、
慌てて汁と肉を同時に咀嚼すると、スパイスの刺激的な味が舌をくすぐる。

肉を飲み込み、次に骨にこびりついた肉片を前歯でこそぎ、
最後に骨をちゅうちゅうと吸って、
すっかり裸になった骨を紙ナプキンの上にぺっと吐き出した。

撃ち終えた薬莢のように骨は転がった。

一仕事終えたぜ、と私はテーブルの真ん中に鎮座する
ティッシュ箱から2枚引き抜いた。

6 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:10:52 ID:fvS2NJKE0
 
o川*゚ー゚)o「もうちょっと上品に食えんもんかな」

骨を葉巻みたいに口にくわえたまま、キュートは呆れた表情で言った。
私は脂まみれのてかてかの唇をティッシュで拭って答える。

ξ゚⊿゚)ξ「チキンはこれが一番上品な食べ方と思いますね」

o川*゚ー゚)o「まあねー」

びっくりチキンは、味も見た目も至って普通のフライドチキン。

じゃあ、なにがいったいびっくりなのかと言えば、
チキンの詰まった箱を開けるとまず最初に飛び込んでくる
「明日やろうは馬鹿野郎」などの店主直筆のメッセージがびっくりな要素。

けれど私たちはこのチキンをずっと食べ続けてきているので
今では全くメッセージにも心動かされることはない。無風だ。凪だ。

7 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:11:56 ID:fvS2NJKE0
 
さて、と私は鞄の中から手帳をとりだし、
背表紙に挿していた小さなボールペンを抜き取ってペン尻をノックする。

そんな私の準備動作を、いすの背もたれにあごを乗せたままキュートは見つめる。

o川*゚ー゚)o「食べ物の写真を撮る子は多いけどさ」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

o川*゚ー゚)o「そうやって、食べたもんを文で残すのって、ツンくらいだ」

ξ゚⊿゚)ξ「そうかな」

o川*゚ー゚)o「写真のほうが楽じゃない?」

ξ゚⊿゚)ξ「まあ……写真は、あくまで写真だから」

o川*゚ー゚)o「というと」

8 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:12:58 ID:fvS2NJKE0
 
ξ゚⊿゚)ξ「画像として残した食べ物なんて、食品サンプルと変わんないじゃない。
      それがどんな味で、どんな匂いで、だなんて分からないし」

o川*゚ー゚)o「なるほどね」

その言葉とは裏腹にいまいち納得していない様子のキュート、
この説明にもうちょっと味付けできないかと私は考えて、
一つのキーワードを思い出す。


ξ゚⊿゚)ξ「あなたは、あなたの食べたもので出来ている」

o川*゚ー゚)o「え?」

ξ゚⊿゚)ξ「ほら、味の素のキャッチコピーにそういうのあったじゃん」

o川*゚ー゚)o「あー、あったね」

ξ゚⊿゚)ξ「あたしが食べたものをしっかり、文章として残しておけば、
       あたしがもう一人出来上がるって寸法よ」

9 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:14:51 ID:fvS2NJKE0
 
でもさ、とキュートは困った顔で呟く。

o川*゚ー゚)o「ツンがもう一人出来たら、どっちと付き合えばいいか分かんないよ」

ふっと目を伏せて私は、チキンの香りの残る息を吐きつつ答える。

ξ゚⊿゚)ξ「どっちとも両方、存在することはないから大丈夫」

言い終わると手帳に目を落として、ボールペンを走らせる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今日はキュートの家でびっくりチキンを食べた。
びっくりチキンの味はいつも通り美味しかった。
手が油まみれになるのもいつも通りだ。
カードの言葉は「

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

10 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:15:41 ID:fvS2NJKE0

そこまで書いて、いったん手帳から顔を上げて、
スマートフォンを片手でいじるキュートに私は尋ねる。

ξ゚⊿゚)ξ「キュー、カードどこだっけ?」

o川;゚ー゚)o「え?あ、どこだっけ」

しまった、という顔でキュートはスマホから目を離し、
きょろきょろと首を振って辺りを探す、
しかし彼女より先に私は名刺サイズのカードを発見した。

ξ゚⊿゚)ξ「あ、あったわ」

テーブルの端に落ちていたカードを拾い上げ
「結婚は人生の墓場である」と手帳のつづきに書きなぐると、
カードがあった場所の「町内盆踊り大会のおしらせ」にふと目を留める。

11 :名も無きAAのようです :2015/07/25(土) 23:16:37 ID:fvS2NJKE0
 
ξ゚⊿゚)ξ「盆踊りかー」

o川*゚ー゚)o「今年は誰がくるんだっけ?」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと待って」

閉じた手帳を鞄に押し込んで、盆踊りのチラシを眺める。
チラシの二段落目ほどには、でかでかと錦糸卵のような黄色い字で、
「特別ゲスト、ジョルジュ長岡!」と自信たっぷりに書かれていた。

ξ゚⊿゚)ξ「んー!ジョルジュ来るってさ」

o川*゚ー゚)o「マジで?バイバイバードの人喜ぶかな?」

ξ゚⊿゚)ξ「いやあ、あん人も別にジョルジュの歌が好きってワケじゃないでしょ」

o川*゚ー゚)o「まあ、そっか。都合がいいだけだもんね」

ξ゚⊿゚)ξ「そ、都合都合」

つごうつごう、と節付けて調子っぱずれに小さく歌うキュートを尻目に、
私は盆踊りの開催日時を確認し、そして彼女に悟られないようにそっと喜んだ。

まだ、間に合う。







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