/ ,' 3 紡がれる旋律のようです

81 :/ ,' 3 紡がれる旋律のようです :2013/09/28(土) 16:25:40 ID:NXI1lwB2O

芸術家達は皆一様に不幸な最期を遂げるという。


では、作曲家の私もその例に漏れず、最期は不幸なものとなるのだろうか。



/ ,' 3「……ごほっ」


私ももう長くはない。
妻もなく、両親はとうの昔に他界し、親族とも疎遠となった私を気遣う人もいない。

曲を作ってやった歌手や演奏家達も、私が曲を作れなくなってしまった途端に連絡が来なくなった。


('、`*川「荒巻さん。夕飯の時間ですよ」


そんな私に声をかけてくれる人と言えば、今私がお世話になっている病院のスタッフくらいか。
尤も、私が作曲家で、今テレビで話題のアーティストの曲を作ったと知っている人はいないのだろう。

私自身が人目に立つようなことを拒んだのだから当たり前と言えば当たり前だ。

82 :/ ,' 3 紡がれる旋律のようです :2013/09/28(土) 16:26:11 ID:NXI1lwB2O

/ ,' 3「……おや、もうそんな時間でしたか」

('、`*川「えぇ、もう外は真っ暗ですよー?」


そう言いながら、看護婦の女性は今日の夕食をベッドのテーブルの上に並べる。
今夜は魚か。


('、`*川「では、食べ終わった頃にまた来ますね」

/ ,' 3「はい。ありがとうございます」


笑顔で出ていく彼女を見送り、私も料理に手をつけた。
年寄り用に、量を少なくしているようだが、それでもこれを食べきることはできない。

元々小食な方ではあったが、最近はてんで食べれなくなってしまった。


/ ,' 3「……」モグモグ


誰もいない、静かな病室。
聞こえる音は箸と食器がぶつかる音くらい。

結局私は、米を少しと魚を半身、それと味噌汁を少し啜ったところで箸を置いた。

83 :/ ,' 3 紡がれる旋律のようです :2013/09/28(土) 16:26:48 ID:NXI1lwB2O

/ ,' 3「ふぅ……」


再びベッドに体を預ける。
食べてすぐ寝たら牛になるぞと若い頃はよく言われたが、それを言う人などいない。

無音の病室。
だが、探せば音はすぐに見つかるのだ。
空調の音、廊下を歩く誰かの足音、外から聞こえる虫の声。

もし、本当の無音というものがあったとしたら、それが死後の世界なのではと思う。
長年音楽に携わってきた私にとって、その世界は一体どういうものに感ぜられるのだろう。


('、`*川「荒巻さーん。食器を片付けに来ましたー」

/ ,' 3「おや、ありがとうございます」


無音の病室に入ってきたはっきりとした音。
カラカラと台車の車輪が鳴らす音と、女性の声。

女性はせっせと、余った料理の乗った皿を片付けていく。

84 :/ ,' 3 紡がれる旋律のようです :2013/09/28(土) 16:27:22 ID:NXI1lwB2O

私はおもむろにテレビの電源をつけた。
ちょうど、音楽の番組をやっているようだ。


/ ,' 3「……おや」

('、`*川「……?どうしました?」


二人組のユニットがステージに立ち、柔らかなピアノの伴奏が始まる。
いつぞやに「秋っぽい感じで、どうか一つ」と頼まれて作った曲だった。


/ ,' 3「……これは、私が作った曲ですね」

('、`*;川「えっ!?そうなんですか!?」


画面の下には曲のタイトルと一緒に、作詞者、作曲者の名前も出ていた。
それを見て看護婦の女性も目を見開く。

そして、歌が始まった。

85 :/ ,' 3 紡がれる旋律のようです :2013/09/28(土) 16:27:59 ID:NXI1lwB2O

メロディを殺すことなく、優しく、溶け込むように歌を紡いでいくボーカル。
テーマは確か、孤独な秋の夜長だったか。

曲が終わると、歓声と共に大きな拍手が上がった。
観客席の様子が映ると、中には涙ぐんでいる人の姿も伺えた。


/ ,' 3(ああ……)


私の曲で、感動してくれている人がいる。
私の曲で、感動を伝えてくれる人がいる。


/ ,' 3「……いい歌にしてくれましたね」

('、`*川「えぇ、最近の若い人にはすごい人気のある歌ですよ」


看護婦の女性の言葉に、小さく笑みをこぼすと、彼女も笑顔を返してくれた。
そして、片付け終わった食器を台車に乗せて、彼女はいそいそと部屋を出ていくのだった。

芸術家はみな一様に不幸な最期を遂げるという。
だが、少なくとも私は、芸術家として幸せな最期を迎えることができそうだ。


/ ,' 3 紡がれる旋律のようです                     -おわり-


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