きちがい語録

340 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 20:42:01 ID:obzpisa60
11.きちがい語録

・一日目 天候不明

いずれ殺される。それはもう、決定づけられた運命なのである。
何か望みはないか、と問われたので紙とペンを所望した。
係官の男がゲラゲラ笑いながら、それらを投げて寄越してくれた。

私は作家だった。いや、個人的には今でも作家のつもりである。
仕事でものを書くのもやぶさかでないが、趣味でものを書くのも悪い話ではない。
だから私は今になってなお、馬鹿みたいに狂想を綴ることにしたのである。

この部屋には窓がなく、外の様子を伺うことが出来ない。
だから時間を確認するには壁にかけられた白い時計を眺めるしかないのだが、
仮にこの時計が故障してしまった場合、私はいったいどうすればいいのだろうか。

いずれ、殺される身で考えることではないような気もするが。

さておき、もうすぐ就寝時刻である。
午後十時になれば瞬時に全ての明かりが落とされ、必然的に執筆を続けられなくなってしまう。
与えられた寝具の準備もしなければならない……未だ誰かの体臭の残る寝具。慣れるはずもない。

……とまあ、このように書く内容は基本的にその日の出来事などにしようと思う。
ただ、別段に縛りは設けないつもりだ。書き続けることさえ出来ればそれでよい。
職業作家としての自分は、その怠惰な性分のおかげで何度も編集者と

……書いている間に、壁を隔てた向こう側から女性のものと思しき悲鳴が聞こえてきた。
猛り狂った叫びは獣のそれを彷彿とさせ、性別すらもいまいち判断できない。

足音……係官が彼(女)の部屋に向かっているのだろう。
私もいずれは発狂してしまうのだろうか。出来れば、生き恥を晒したくはないものだが。

……騒ぎが収まったようだ。件の人物はどこかへ連れ出されたのだろう。
そのうち処刑されるに違いない。

今日はこの辺りで筆を置こう。久々に書くと、随分と筆が軽いものだ。

341 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 20:45:07 ID:obzpisa60
・二日目 天候不明

通常のテレビや音楽プレイヤーが備えられていないこの部屋には娯楽という概念が存在しない。
また、部屋から出ることも許されていないので、自由にスポーツに興じることもできない。

精神病者=きちがい=犯罪者に対する当然の規則……と、いうことらしい。

辛うじて認められているのが読書だが、毒にも薬にもならないような恋愛小説や、
あまりにも古くさい文学作品ばかり支給されるので滅多に目を通すことがない。
そんな私にとって、物書きが認められたことの何と僥倖なことか!

室内でできる運動は欠かせない。私ももう三十路を遙かに超えてしまっている。
ストレッチなどで身体をほぐさないと健康を維持できない齢なのだ。

それでなくとも五感が日々衰えていくのを感じる。
見る風景と言えば真っ白い壁と数少ない装飾品ばかり……。
味覚を刺戟してくれるのも、肉や魚の除かれた精進料理のようなもののみである。

( ^Д^)「きちがいに動物を喰らう資格はない」

とは、係官の言だが、ならば何故植物は許されるのだろうか?
……まあ、所詮は『来たるべき日』まで命を繋がせるための方便に過ぎないのだろうが。

天井のスピーカーが、耳鼻科で聞こえてくるような生ぬるいクラシック音楽を流している。
それも音量がひどく絞られているため、聴覚に関しても物足りない。

たまに、昔好きだったポップソングなどを口ずさんだりもする。
大声を出すことは禁じられているため、熱唱などはもってのほかだ。
そんなことをしたら、その場で殺されても文句は言えない。

……殺され方に関して言えば、ナイフで身体中を満遍なく切り刻み、
その傷口から毒虫の幼虫を流し込む、あの方法だけは勘弁してほしいものだ。

342 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 20:48:01 ID:obzpisa60
・三日目 天候不明

そう言えば天候を記そうと試みているのだが、考えてみればいつだって、
私にとっての天候は『不明』であるとしかいえない。

まあ、始めてしまったものは仕方がない。
形式に拘るのはロシア・フォルマリズムだったか。
それ自体は関係ないだろうがともかく、最期まで『不明』を書き連ねることとしよう。

今日は周囲にあるものを詳述する。
なんと言っても壁一面を覆う巨大なスクリーンについて触れずにはいられまい。

これはあくまでもスクリーンで、市井に流れるテレビ番組が映されるものではない。
映されるのは私と同じ精神病患者=狂人=囚人が刑を執行される様子である。
大抵は日曜のゴールデンタイム……すなわち週に一度、放映されるようだ。

皮肉と言えば皮肉だが、この他人の処刑によって残された私たちは何とか曜日を伺い知れるのである。

逆側の壁にピッタリと寄り添うように机が置かれていて、ここで食事を摂る。
今、この文章をしたためているのもこの机の上だ。

天井には監視カメラがついていて、その映像は放送局を介して全国のテレビに繋げられている。
私たちきちがいを二十四時間鑑賞するための専用チャンネルが設けられているのだ。
視聴率は二十パーセントを下らないと聞く。

刑の執行もリアルタイムで放送される。
日時のおかげもあってか、この際の視聴率は四十パーセントを超えるのだそうだ。

この部屋とは別に……決して美化されているとは言えないシャワー室とトイレがある。
これらにも監視カメラが備えられているが、流石に観賞用のものではない、自殺防止用だ。
囚人が死んでしまっては、せっかくのショーコンテンツが台無しになってしまう。

そういうものだ。

343 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 20:50:59 ID:obzpisa60
・四日目 天候不明

不明、不明、明日も不明、明後日も、その次も、ずっとずっと……。

私は誰に宛ててこの文章を書き連ねているのだろう?
室内の様子など囚人は勿論、外部の人々もカメラを通じてよくよく御存知であろうと言うのに。

まあ何だって良い……少なくとも、自分のためになっていることは間違いない。
ノートの行く末など知れている。せいぜい係官の笑いの種になり、その後焼却炉に投げ込まれる程度だ。
だから何を書いたところで不都合はない……例えば、私自身の性癖などについても。

……いやいや、連中のしたたかさを考えると、もしかしたら私の死後、
このノートを複製し、本屋に平積みするつもりかも知れない。
タイトルは、そう、『きちがい語録』なんて具合に。

……あながち妄想でもないかもしれない。
現に、私がこうやってノートと向かい合っている姿も全国に流れているのだから。
抜け目のない彼らは、テレビ画面に字幕テロップで私の行為の説明を加えている可能性だってある。

……いずれ、被害妄想だ。もっと別のことを書こう。そう、自由に、自由に……。

下らないことを書こう。つまり、私の性欲に関する話題である。
最近、自慰行為に耽ることがなくなった。そもそもネタになるようなものもないのだが。
過去の自身を振り返れば(私だけの話ではない……念のため)、信じがたいことだ。やはり歳だろうか。

……などと書いている間に明日が……私の記憶が狂っていなければ……日曜であることに気付いた。
処刑が行われる……その様子は、壁一面のスクリーンと大音響によって、私も見せつけられる。
誰が、どのような罪により、どのような方法で殺されていくのだろうか。

そして、私の番はいつやってくるのか……。

344 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 20:54:00 ID:obzpisa60
・五日目 天候不明

……今宵のきちがい沙汰を、糾弾の意をもって書き記す。

まず、貧相な木製椅子に座っている若い女の姿が大きく映し出された。
その周囲を、十人ほどの係官が無表情に取り囲んでいる。
数秒間その様子が映されたあと、見慣れた司会者の微笑みが画面を覆う。

( ・∀・)「全国の視聴者の皆様、お待たせいたしました」

……などなど、決まり文句を並べ、次に女の罪状が述べられる。
この下りは、最近おざなりに省略されるようになってしまった。
理由は明白だ……視聴者の興味が、この部分には無い。ただそれだけ。

それと同時に、いかにも胡散臭い僧衣の男が読経するシーンが映される。
こんなものは一種の予防線に過ぎない……そして、いったい誰が予防線を必要としている?

いよいよ刑の執行である。まず二人の係官が女の口を無理矢理に開かせた。
司会者が近づく……何か、黄土色のケロイドのようなものが付着した枝をカメラにちらつかせながら。

( ・∀・)「さぁて、これはいったいなんでしょう? 何でしょうかねえ?」

などと、素っ頓狂な声を出しつつその腫瘤のようなものを楽しげにアピールした直後、
彼は開かれた女の口にそれを力の限り押し込んだ。
同時に、女を拘束している係官が顎を無理矢理に動かしてそのかたまりを咀嚼させた……。

カメラは女の口内をアップにし、グチャグチャになった粘着性の物体をしっかりと捉える。
ところどころ、小さな黒い点が散見できるそれは、カマキリの卵鞘である。
黒い点は、生まれ出なかった幼虫たちの目玉であろう。

女の、籠った呻き声が響き渡る。
それを見た司会者と係官が一緒になって、愉快げな喝采を浴びせつける。
……おそらく、多くの家庭のリビングでも同じようなことが行われていたであろう。

女はグチャグチャの卵鞘を無理矢理に飲み込まされ、その後何の脈絡もなく両耳を切断された。
次いで爪を剥がされ、悶え苦しむ身体の至る所に毒虫を這わされ、
肛門を四方に裂かれ、性器を抉られ、最終的に灯油のようなものをかけられて火を放たれた。

もはや彼女には断末魔をあげる力さえ残されていなかった。
そこでショーは終わっただろう……確認したわけではない。
何故なら、私は嘔吐するためにトイレへ駆け込んでしまったのだから。

345 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 20:57:40 ID:obzpisa60
・六日目 天候不明

……あれから一日、未だに全身を駆ける震えが止まらない。

自分がいずれ同じような……いや、テレビ受けを考えるなら更にエスカレートするであろう……
刑を受けることになるのだ。そう考えるだけで発狂しそうになる。

いっそ自殺してしまった方が遙かに救われるだろう。
だが、少しでも自殺の意図をにおわせると、たちまち係官が飛んでくる。
そして自由意思では動けないよう拘束され、その日の内に刑が執行される。

テレビではこの処刑を『臨時のお楽しみ』として放送される。
普段は退屈極まりないであろう監視番組の視聴率が、
常に一定を維持しているのは『臨時のお楽しみ』を待ち受けているためだと思われる。

……そう言えば、このノートを綴り始めた最初の日以来、隣室からは何の音も聞こえてこない。
可哀想に、気の狂ってしまった女性は戻ってこなかったのだろうか。

そう考えて、目を背けたいような推論に辿り着く。
もしや、昨夜処刑された彼女こそ、隣室の女だったのでは……。

仮にそうだとすると、次は私の番だろうか。

いやいや、焦ってはならない。
そもそも隣室の女が昨夜の彼女と同一であるという明確な証拠があるわけではないのだ。
しかし……『臨時のお楽しみ』は放映されていない。隣室の女はどこへ行ったのか?

暗黙の内に処刑されたのだろうか……いや、有り得ない。
この病巣が……ショーを放映するメディアが、そのショーを心待ちにする視聴者が、
大切な優良コンテンツ=きちがいを一人、無駄に費やすわけがない。

彼らは何のためにカメラを設置している? それを鑑みれば明らかではないか……。
嗚呼、本当に次は私の番だろうか。アレと同じ目にもうすぐ遭うのだろうか……。
毒虫、カマキリ、灯油、炎上、呻き声、死

(編者註:ここから数行、粗雑に掻き消され、判読不能)

346 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:00:15 ID:obzpisa60
・七日目 天候不明

ようやく、心が落ち着きを取り戻しつつある。
少なくとも昨夜、執筆しながら狂気に走ってしまったことを後悔する程度には冷静になった。

そう……ここへ来た時点で、無惨な死は予め決定づけられているのだ。
今更どうすることもできない。それは、とうの昔から分かっていたことではないか。

それでもなお、いざ自分の番が現実味を帯び始めると、それこそ舌を食いちぎり、
両の腕で首を絞めてしまいたくなる衝動に駆られてしまうのだ。所詮、人間の心根など……。

今日は、シャワーとトイレの清掃員がやって来た。
不定期にやってくる彼女は……しかし、前回来た老婆とは違い、若い女だった。
それもただの若い女ではない……一目見ただけで不愉快になるほど不細工で、肥った女だ。

彼女は部屋を一瞥してから私を見、ニカアと福笑いのように口角を吊り上げたのち、
清掃用具と共にトイレへ入っていった。
私は恐怖した……彼女は何故笑っていられるのか?

ここに囚われているのは公的に『きちがい』と認定された連中ばかりなのだ。
清掃員とはいえ、どのような危害を加えられるか分かったものではない。

確かこの清掃員の仕事はアルバイト制になっており、時給も他の仕事よりは遙かに高いと聞く。
それでも志願する人間は少なく、代わりに懲役囚……すなわち普通の犯罪者を使うこともあるらしい。

前回の老婆にせよ、私の方など目もくれずにそそくさと清掃を始め、
そして半端に終わらせて逃げるように立ち去っていった。おそらく、それが普通だ。

にも関わらず今回の女は……私を見て、あまつさえ笑いかけたのだ。
彼女は潔癖症かと疑うほど完璧に仕事をこなし、脂ぎった笑顔のまま私の部屋を後にした……。

347 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:03:27 ID:obzpisa60
・八日目 天候不明

怖ろしいことになった……彼女が、昨日の女が再び私の部屋に現れたのだ。

川 ゚ 々゚)「面会を申請したら、あっさり受け付けてもらえたわ」

……絶望的に汚らわしい笑みを振りまきながらそう言った彼女は、確かに清掃用具を持っていなかった。
不気味なことに、この女は家族でもない私と個人的に会おうと企てたのだ。

川 ゚ 々゚)「わたし、あなたのファンなの。読者なのよ」

断りもなく腰を下ろした女は、持っていた手提げ鞄から大小様々な書籍を取り出し、床に積み上げた。
見てみると、それらは確かに私の著作だった。
ご丁寧にハードカバーから文庫本、更には短編を載せた雑誌まで一切合切を収集していた。

私は……心の中で舌打ちせざるをえなかった。
係官や視聴者たちはこの状況を『斬新なハプニング』として楽しんでいることだろう。
さぞかし視聴率も良い数値を出すに違いない……こちらの気など知らずに!

川 ゚ 々゚)「ねえ、あなたどうして捕まっちゃったの」

女は、でっぷりとした肉体をこちらに傾けながら訊いてきた。
私は沈黙を決め込んだ……市井においてもこの手のファンが一番厄介なのだ。
あまつさえこんな所にまで乗り込んでくるなど……ただ事ではない。

私にとっては、彼女こそ真の狂人に思えてならなかった。

どれぐらい時間が経過したか……私の沈黙に耐えかねた女は、不意に逆上気味の叫び声をあげた。

川 ゚ 々゚)「わたし、あなたのことが好きだったのよ。
      夢の中で愛してさえいたわ。それなのに、どうして何も話してくれないの」

それでもなお、私が黙り込んでいると、女は重い音をたてながら立ち上がった。
そして、憤然と立ち去っていったのだった。

川 ゚ 々゚)「明日も来るから」

そんな、冗談にもならない言葉を残して……。

348 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:06:22 ID:obzpisa60
・九日目 天候不明

昨日の言葉通り、女はまたしても私の部屋に現れた。

川 ゚ 々゚)「昨日はごめんなさいね、怒鳴っちゃったりして……。
      でも、あなただってわたしの気持ち、分かってくれてもいいじゃない」

ひどい臭気をともなう息とともに彼女はそう言った。

私は彼女とコミュニケーションを取ることにした……それ以外、どうしようもなかった。
今日の彼女からは、無視を決め込んでも延々と居座り続ける、そんな気概が感じられたのだ。
だからといって友好的に取り繕えるはずもない……私は彼女に、仕事や家事について問いただした。

川 ゚ 々゚)「いいの。そういうの、してないから」

と、ぶっきらぼうな調子で女は返事をした。
この見目ではとても結婚しているようには思えない……つまり、ニートの類いであろう、
それも未だ親族の臑をかじっているような、そういう身分の……。

これは本格的に具合が悪い。
経験上、この手の女でまともな女に出くわしたことがないのだ。
私には彼女を納得して帰らせる手段がない……すなわち、何が起きてもおかしくなかった。

川 ゚ 々゚)「写真はよく見ていたけど、実際に見るとこんなに美しい人だったなんて」

女はうっとりとした声を出した……まるで、自分を少女漫画の主人公に当て嵌めたかのように。

その後、彼女は一方的にべらべらと喋り続けた。
私はそれをただただ聞き流していた。ひどく、惨めな気分だった。

しかし、その反応が悪かったらしい。
女は自分の押しつけがましいおしゃべりで、私と仲睦まじくなったと錯覚してしまったのだ。
三時間ほど喋り続けた彼女の表情は、満足げに上気していた。

川 ゚ 々゚)「じゃあ、今日は帰るね」

まるで睦言のように呟いた直後、彼女は……ああ、思い出したくもない。
彼女は私を強引に抱きすくめるや、頬に鼻息荒く唇を押しつけたのだ。

そのまま赤面して彼女は出て行った……。
私は誰もいなくなった空間に、ありとあらゆる罵詈雑言をぶちまけるだけだった。

349 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:09:25 ID:obzpisa60
・十日目 天候不明

今日も変わらず女は現れたが、もうそのことを記して気を滅入らせるのはまっぴらだ。
別のことを書こう……そう、例えばこのショーシステムを俯瞰的に振り返るのはどうだろう?

……この愚劣極まりないショーが始まったのはいつのことだったか。
私が学生の時分には、まだこの制度は設けられていなかった。
それから今日に至るまでの十数年間のどこかで、モラルというものが呆気なく崩落したわけだ。

モラルだけでない……人々の心理でさえも、かの凄惨な処刑を楽しめる構造に書き換えられたのだ。

学生生活を終えてすぐ作家になった私は、日常生活のほぼ全てを自宅で済ませていた。
原稿はメールでやり取りしていたし、新聞やテレビに触れることもあまりなかった。
趣味といえば読書であり、独り身であることも重なって、徐々に世俗に疎くなっていたことは否めない。

ある夜……もう、どれぐらい前になるだろうか……なまった身体をほぐすために、私は散歩に出た。

途中、住宅街の一角にある公園へさしかかったとき、
砂場のあたりに人だかりが出来ているのをみつけた。
彼らは何かを囲むようにして立っており、時折歓声が湧いていた。

興味本位に近づいた私は……輪の中心で、全裸の老婆が横たわっているのを発見した。
意図せず排泄してしまったらしく、砂利の上に茶褐色の塊がいくつか転がっていた。

生きているかどうかすら定かでないその老婆のみぞおちを、近くの若者が思いきり蹴飛ばした。
周囲からまた歓声が湧き上がった。主婦らしき女性や小学生ぐらいの子どもまで……皆興奮していた。

気がつくと、私は輪の中に乱入し、老婆をかばうような姿勢をとっていた。
正義感ではないと思う。もっとそれ以前の……言うなれば、生理的な反応だった。

……そこから先は定かでない。私は何らかの方法で拘束され……そして、この部屋にぶち込まれた。

350 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:12:32 ID:obzpisa60
・十一日目 天候不明

分からないことはいくらでもある。何故私がここにいるのか?
本来罰を受けるべきは老婆をリンチしていた連中……或いは、
それを見世物のように扱って楽しんでいた連中ではないのか?

それ以前に、いくら私が社会から離れた生活を送っていたとはいえ、
新しい娯楽……ショーシステムについて全く知らないという事態はあり得たのだろうか?

あまつさえそれはモラルハザードだ。
にも関わらず、何故人々は愉しみ、酔い痴れることができるのか?

この部屋にぶち込まれた際、私は当然、係官に向かって激しく抗議をした。
何故自分がこんな目に遭わなければならないのか。
彼らこそ、老婆を虐げ笑っていたものこそ、捕まえなければならないのではないか。

そう、何度も何度も怒鳴り散らした。しかし、一切は無意味だった。
私の言動を眺める係官の目つきは、完全に狂人を見るものだったのだ。

そういえばこの部屋にぶち込まれる直前……私は自分の拘束が報じられるのをテレビで見せられた。
今にして思えば、あれが私の目にした最後の『普通の』テレビ番組である。

しかしそれは、ニュースなどではなかった。
どう見てもお笑いバラエティというような組み立ての番組で、芸人やグラビアアイドル、
老いた俳優などの出演者全員が低俗な罵倒を私の写真に浴びせかけ、そして笑っていた。

……今思い返しても目眩がする。あまつさえ、それら全てが現実の出来事なのだ。

次に、処刑ショーの録画を見せられた。
その際はまともに見ていられず嘔吐と悶絶を繰り返していた。
そんな私の狂態を呆れた風に眺めながら係官は、

( ^Д^)「お前もいずれ、こんな風に処刑されるんだ」

と嫌みな口調で言ったのだった。

まるで廃人のような心持ちで、私は此処へ収容された。
それからしばらくが経ち……今に至る。
幾分冷静になったとはいえ、何もかもが怖ろしいことには変わらない。

しかし今、何よりも怖れるべきことは、明日が処刑ショーの日であるということだろう……。

351 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:15:17 ID:obzpisa60
・十二日目 天候不明

今宵処刑されたのは中学生ぐらいと思しき少年だった。

拘束された少年は器具で目を強制的に開かせられ、
両方の眼球に縫い針を交互に一本ずつ、丁寧に合計で十本さしこまれた。
その時点で少年がもがき苦しみ、大いに暴れて殆ど体力を使い果たしてしまったようだった。

次に、手に鋭いナイフを持った複数の係官が、少年の身体のあらゆる部分に刃を入れ、
薄くスライスし始めた。最初弛緩して動かなかった少年は、やがて強烈な痛みに覚醒し、
絶叫してふたたび手足をばたつかせ、のたうち回った。赤い血が四方に飛散した。

十数分後、身体中の皮を剥がされ、真っ赤に腫れ上がった少年の姿は、
もはや人間であるかどうかも判別つかないものに成り果ててしまっていた。

瀕死状態の彼へ、とどめとばかりにバケツ一杯の濃硫酸が浴びせられた。
少年は、か細い悲鳴を最期に息絶えた。

私は処刑ショーを自宅で見たことがなかった。
監視番組の存在自体、係官に言われて初めて知ったのだ。

だから尚更信じられない……人々がこれら残虐極まりない愚行を許容し、称揚しているという事実が。

だが実際に様々な人が処刑の名の下に殺されている。
その中には、今宵のような子どもさえまじっている。
もはや冗談やハッタリでは済まされない……誰もが真面目に、このショーに取り組んでいるのだ。

昨日は触れもしなかったが、件の女は毎日私の部屋に来る。
今宵に至っては、私の隣で処刑ショーを鑑賞している有様だった。

川 ゚ 々゚)「まあ」

川 ゚ 々゚)「すごおい」

川 ゚ 々゚)「むごいわあ」

……などなど、彼女はあらゆるどす黒い歓声を迸らせていた。私のことなど気にも留めず。
何という悪夢だろう。しかしこの女に限らず、外の人々は皆、このような狂態を演じているのだ……。

352 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:18:06 ID:obzpisa60
・十三日目 天候不明

少年の処刑により、私は少なくともあと六日間の命を得たことになる。
それに安堵すべきか、苦痛を感じるべきかさえ、もう明瞭ではない。

この日記のようなものを綴りはじめてはや二週間が経とうとしている。
今や、このノートとペンが生きる糧になっていると言っても過言ではない。
いったい、これを書き始める前の私は何を希望として過ごしていたのだろうか……。

今となっては知る由もない。
もしも何の希望も持っていなかったとすれば、よくも発狂せずに済んだものだ。

昨夜、久々に両親の夢を見た。

父親とは、自立してから十年ばかり、碌に顔を合わせていない。
そもそも父とは昔からそりが合わなかった。
そのせいで私は実家に帰るのを幾度となく躊躇したし、父の方から連絡をとってくることもなかったのだ。

母親は一度、此処へ面会に来たことがある。
その時の容貌たるや、私の知る母とは全然違ってしまっていた。
どうも私が拘束されたことを知り、心を病んでしまったらしいのだ。

母とも数年来会っていなかったというのに、久々の再会がむごいことになってしまった。
面会の間、母は延々と泣き続けていた。泣きに、泣いて、遂には不明瞭な笑いを笑い始めたのだ。

J( 'ー`)し「私の息子に限って、こんなことがあるわけない」

……そのようなことを叫びつつ、髪を振り乱して私と母を隔てる面会室のガラスを、
爪でギリギリを引っ掻き回した。係官に取り押さえられてもなお、母は正常を取り戻せないままだった。

昨夜の夢に出てきた母は、その時と同じような表情をしていた。
ともすれば、私を殺そうとさえしているような……。

夢から覚めた私は、しばらくさめざめと取り止めのない涙をこぼした。
孝行したい時に親はいないと言うが、この場合はどう表現するのが正しいのだろうか。

353 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:20:59 ID:obzpisa60
・十四日目 天候不明

……実に具合の悪いことを告白しなければならない。
ここ暫く奥底で眠り続けていた性欲が、大いに騒ぎ立てはじめたのだ。

理由はどう考えても例の女の来訪だった。
どうしようもない不細工で、なおかつ完全な社会不適合者である彼女でさえ、
どうやら今の私のリビドーを暴走させるには十分であるらしい。

もしも過ちを起こせばそこで私は終わりだろう。即刻処刑される未来がはっきりと見える。
ほんの少し騒いだ隣室の女性でさえ、すぐさまどこかへ連れ去られてしまったのだ。
過った私などは確実に、その日の『臨時のお楽しみ』になってしまうだろう。

……だが、私はどうも、いよいよ気が狂ってきたらしい。
いっそのこと、あの女を犯しても構わないのではないか、と思い始めたのだ。
モラルなど欠片ほども残されていない今……むしろ、そうすることが当然なのではないだろうか?

それでも迷う。懊悩し煩悶する。
あの女が仮にも絶世の美女だったら、私は今日にも凶行に出ていただろう。
しかし、あの女は……絶世の不細工だ。その観念だけは、性欲の昂ぶりでさえも歪められない。

女はいつも、必要以上に身体をこちらへすり寄せてくる。
最初は糞尿を煮しめたように感じられた体臭も、今や蠱惑的なフェロモンのようだ。

嗚呼、完全におかしくなってしまった。
今になって始めて、自分がきちがいだと自覚できる。

このような女っ気のないところに囚われて幾星霜、
突然現れた女と二人きりになるようなことがあれば、私でなくとも同じ心持ちになるはずだ。
果たしてこれは弁解だろうか……私は誰に向かって弁解しようとしているのか……。

女はたぶん、私が犯そうと迫っても強くは拒絶しないはずだ。
……そう、近いうち、私はきっと実行に移してしまうだろう。
そしてひどく後悔する……。間違いない、もはや何者かによって、全て決めつけられているのだ。

354 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:23:58 ID:obzpisa60
・十五日目 天候不明

ものを書くという行為は、実際、ひどく危険な行為なのではないだろうか?

これは特定の状況下……つまり今のように死に瀕した状態に限るが、
筆を進めるということは作者……私自身をカタルシスに導くと同時に、
ある種の強迫観念にも直面させるのだ。

書くことによって解放されると思っていたフラストレーションは、その実、意識下に蓄積され続け、
ある瞬間を迎えることにより何倍もの威力をもって暴発してしまうのではないだろうか。

……何を書いているのか分からなくなってきた。冷静にならなければ。

例えば、昨日私は女を犯してしまいそうだと記した。
そうやって文字にすることで、ある程度自分の中のリビドーが解きほぐされると信じていたのである。

しかし、それはまったくの見当違いだった。
私の強姦願望は昨日よりも確実に肥大化していて、
今日、女を目の前に自分を抑制することに随分と苦労する羽目になった。

今までは、いくら自分が狂った内容の小説を書いても、それ自体に感化されることはなかった。
当たり前と言えばその通りで、いちいち書くものに影響されていてはとても作家などやっていけない。

悪夢に苛まれるというような効果が出るときもあるが、それも極めて稀だ。
むしろ、執筆することによって溜まっていた鬱憤を晴らしていたようにさえ思う。

しかし、今回に限っては書いたものの影響が……負の形で具現化されようとしている。
女を犯したい、今すぐにでも。もはや道徳や倫理などにはかまっていられない。
モラルなど知ったことか。その手のものは、既に崩壊してしまっているではないか。

腎虚によって息絶えてしまうほどに犯して犯して犯して。
嗚呼、今の私にはもしや、殺人という最高の快楽さえも許されているのではないだろうか。

355 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:27:07 ID:obzpisa60
・十六日目 天候不明

女を犯した。

そのため、私はすぐさま処刑ショーに晒されることを覚悟していた。
しかし現実として、私は今日もこのように日記を書いている。
なんともおかしな具合だ……いや、きっとこういうものなのだろう。

部屋を訪れた女に、私はすぐさま襲いかかっていた。
案の定、女は抵抗らしい抵抗をせず、それどころか歓喜の声をあげた。
その喜びは、次第に身体全体を痙攣させる病的な笑いに変貌していったようだ。

女は鼻息荒く私にしがみつき、私もまた必死に彼女の肥えた肉体にむしゃぶりついていた。

行為そのものはさほど時間を取らなかったように思う。
私の性欲は、もはや長持ちさせようというような理性で抑制できるものではなかったからだ。
ただ、当然一度で終わらせるつもりもなかった。私は最初の行為を終えてすぐ、二度目にかかろうとした。

その時、部屋の扉が荒々しく開かれ、三人の係官がずかずかと乗り込んできた。

……私は早々に観念していた。
想定していたことであり、むしろ一度行為を完遂できたことが僥倖であるとさえ言えたのだ。

しかしそこで想定外のことが起きた。係官は私ではなく、女を連れ去ったのだ。
二人の係官が女を両脇から抱え、愉悦と達成感をぐちゃぐちゃに混ぜたような顔の女を運び出した。
最後に残った係官は散乱した衣服を拾い上げながら、私に向かってこう言った。

( ^Д^)「明日は『臨時のお楽しみ』だ」

……そして、現在に至る。
『臨時のお楽しみ』で処刑されるのは私だろうか?

いや違う……今の私には確信を持って言える。
処刑されるのはあの女だ。
この、ことごとく理不尽な世界において、彼女が処刑されることこそが正解に他ならないのだ。

356 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:30:34 ID:obzpisa60
・十七日目 天候不明

『臨時のお楽しみ』は、いつもと同じようにゴールデンタイムに行われた。
まず、あの女が全裸で両手両足を椅子に縛り付けられている場面が映し出された。

司会者が現れ、軽薄な調子で彼女の罪を読み上げる。
要約すると、『きちがいと交わったから』と、いうことだそうだ。

カメラで私の部屋を監視していた連中は私たちの交接を止めようとしなかった。
いや、むしろ待ち望んでいたのかも知れない。
その行為によって彼らは彼らなりの大義名分を得、彼女を処刑することができたのだから。

彼女自身は囚人ではないということも、司会者の口によってはっきり示された。
彼女は一般人=正常で、望んで私の部屋に来たこと、
今まで何ら反社会的行為を犯していなかったことを、司会者はいかにも悲しそうな声で述べていく。

次に彼女の小中高時代の卒業アルバムがそれぞれ順番に晒された。
いつの間に用意していたのか、VTRまで流され、その中で彼女の友人や親戚を名乗る人々が、
「明るい子で」「真面目な」「ちょっちょ人見知り」などとコメントしていく。

普段にはない段取りだ。恐らく、一般人を処刑する上での便乗効果を狙ったものだろう。
こうやって情報を明かすことで視聴者に感慨を与え、更に視聴率をアップさせるという魂胆だ。

その後、ようやく処刑が始まった。処刑そのものは、普段と変わらぬ過激さである。
彼女は金槌で両手両足の指先全てを潰され、頬に穴を開けて口の中と繋げられた。
その他数限りない拷問ののち、女は生コンの入った巨大な水槽に沈められた。

気がつくと私は、泣きながら笑っていた。
自分でも、嬉しいのか悲しいのかさっぱり分からないのだ。
こうして理性が崩れていくのだな……そんな、妙な感慨さえ覚えたのだった。

357 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:33:01 ID:obzpisa60
・十八日目 晴れ

唐突ながら、この狂想に別れを告げる時が来た。
理由は簡単……明日、私が処刑されるからである。

番組としてはこれ以上ない展開だろう。
私を愛した女が処刑された翌日、その原因を作った張本人が演台に立つのだ。
なんとドラマチックな筋書き! 面白いことこの上ない。

どうやら、処刑されることは前日に知らされる仕組みであるらしい。
私も今朝、係官によって告げられた。
今落ち着いて文章を書き連ねられているのは、午前中に狂乱の限りを尽くしたからである。

私は今、昨日までとは違う場所にいる。
此処は今までの部屋よりも数倍広く、まるでホテルのスイートルームのようなたたずまいだ。
処刑前に限り入れられる、最後の楽園といったおもむきであるらしい。

大きな窓があり、突き抜けるような蒼穹が彼方まで続いていた。
感慨深いことに、今まで不明不明と並べてきた天候を、ついに知ることができたのだ。

部屋は随分と高いところに位置していて、街並みを一望できる。
何も変わっていないように見える風景。ゴマ粒のような人や車が忙しなく行き交っている。
懐かしさや、よくわからない感情の昂ぶりに涙さえ溢れそうになった。

しかし私は……それらの感情をすぐに笑い飛ばした。
きっと眼下の人々は私の知っている人間ではない。誰も彼もが狂っているのだ。
壊れているのだ。沸き立つような心持ちで、私の処刑を待ち望んでいるのだ。

壁一面を覆う窓は強化ガラスになっており、開けることはできない。
おおかた、飛び降り自殺を防止するためだろう。

358 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:36:37 ID:obzpisa60
室内には大きなテレビがある。一人用にしては広々としたベッドも置かれていた。
他にも煌びやかな調度品に部屋全体が満たされている。

しかし自殺に仕えそうな刃物などの類いは一切なく、
天井に監視カメラが備えられていることだけは、ついさっきまでいた部屋と変わりがない。

壁には内線電話が設置されていて、横に割合に分厚い冊子が置かれている。
開いてみると、様々な品物が描かれていた。
電話で注文すれば運んできてくれる、という案配だ。

何と、品物と一緒にデリバリーヘルスまがいのページまであった。
皮肉なことに、ここに来ればあの女を襲う必要もなかったというわけだ。
呼ぼうかと逡巡がやめておいた。代わりに、前から読みたかったSF小説を注文しておく。

テレビをつけると、相も変わらぬバラエティやスポーツなどが映し出される。
観ているうちに気付いたのは、もはやこの処刑ショーが人々の日常に定着しているということだ。

バラエティでは昨日処刑された女について面白おかしく取り上げている。
ニュースキャスターも、笑い話の一つとして、私たち囚人の話をしていた。
真剣に扱われる様子など寸分もなく、ましてや反感を示す者は一人も見当たらない。

……或いは、拒絶する人々は皆、私のように囚われてしまったのだろうか。
そう考えると、処刑の際に司会者が読み上げる罪状も、事実かどうか怪しいところである。

チャンネルを変えると、私の姿が映し出された。
一瞬驚いたがなんのことはない、監視カメラの映像だ。

映像は定期的に切り替わり、別の囚人を映す。
発狂しだした人間などが現れればそれを優先的に放映する仕組みらしい。

359 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/08(月) 21:39:02 ID:obzpisa60
……しばらく見入ってしまった。
そんな自分に腹も立つが、こうした映像が視聴率を稼ぐ理由も手に取るように理解出来た。

人間には誰にでも、タブーを笑うという意識が内在している。
たとえば、障害者を馬鹿にすれば大いに受けることがあるのは確かだ。
しかしこれを公にやってしまうと反感を買うため、普通は内輪で陰口を叩くだけにとどまる。

このショーシステムは、本来井戸端会議レベルでとどまるべき禁忌を、
エンターテイメントとして一つのチャンネルを設けるところまで引き上げてしまったのだ。

それも普段見られないような人間の狂態を鑑賞できるのだから、
つまらない日常生活においては十分な刺戟になるのだろう。
……それにしたって、あのグロテスクな処刑方法が支持される理由は今もって分からないが。

普段ならばそろそろ就寝時刻だ。今日はいつもより長々と書き下してしまった。
だんだんと筆を進めることにも疲れてきている。もとより、一日にそう多く書ける性分ではないのだ。
そのせいで編集者と言い合いになったことが過去何度……と、この話は前に書いていた。

死を待ち望んでいるわけではない。今もまだ、ひたすら怖い。
明日は朝からたぶん狂い続け、このように文章を書くことなど到底叶わないだろう。
だから、やはりこれが最期ということになってしまう。

母親は多少なりとも立ち直っただろうか。……父親はどうだろう。
ほんの少し気がかりなところである。結局、私は親不孝な息子ということになってしまった。

願わくは、このショーシステムは私が処刑された後もいつまでも続いてほしい。
私が処刑されてすぐに、モラルが蘇ってしまうというのはあまりにも忍びない。
それに、テレビ局だってこのチャンネルを続けたいだろう。

……このノートはどうなるのだろう。本当に売り物にされれば、それはそれで面白い。
今の世の中で売れるのか否か……定かではないが。
さて、注文したSF小説も読み終えてしまった。そろそろ、眠ってしまうこととしよう。

それでは。グッドバイ。









12.水底のブランコ