衝動

292 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:00:33 ID:D7fOqMrA0
10.衝動

三月二日の路上に、寒風が吹き荒んでいる。
古びた木製アパートの傍にある砂利で出来た空き地に、黄色い軽自動車が一台、
闇の中に取り残された幼児のように哀れな孤独感を漂わせながら停車していた。

夕方頃から降っていた雨は既に止んでいる。
空には闇と、闇に溶け入りそうな雲とが半々の割合で同居している。
 
荷室のドアにもたれ掛かりながら、内藤は白い息を吐き、両手を擦り合わせた。
彼のつけている腕時計は、デジタル表記で午後九時を知らせている。
風で上着がはためき、ポケットの懐中電灯たちが、カチャカチャと躰をぶつけ合った。
 
内藤の視線は彼方、アパートの端に付属している鉄製の階段に固定されている。
時折、思い出したかのように小刻みな瞬きを繰り返し、夜闇の向こう側をぼんやりと見つめ続けている。

アパートの二階から、津出が降りてきた。
彼女の履いているヒールが階段を叩く度に、カンカンカンカンと甲高い音が響く。
 
内藤の眼球は津出を捉えてゆっくりと動く。
津出は両手で、大きく膨らんだスポーツバッグを抱えている。

そして背中には、まだ髪の毛もまばらな赤ん坊を背負っていた。
赤ん坊は、死に際の老人のように全身を弛緩させて口を半開きにし、小さな寝息をたてて眠っている。

293 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:03:09 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「ずいぶん、時間かかったお」
 
おそらくはカバンの重さによろめき、ようやく軽自動車のところまでやってきた津出に、内藤が言った。

ξ゚⊿゚)ξ「仕方ないでしょ、これ、結構重いんだから。運ぶの、手伝ってくれても良かったんじゃないの」

( ^ω^)「僕だって、もう二つ運んだお」

ξ゚⊿゚)ξ「そういうところ、融通がきかないのよね、昔から。
      ああ、そう言えば、長岡君は? もうすぐ来るの?」

( ^ω^)「いや、途中で拾うことになったお」

ξ゚⊿゚)ξ「そう」
 
津出は小さく頷いて、青と紺のスポーツバッグを両方地面に下ろした。そして後部座席のドアを開く。
シートの上にはすでに津出が持ってきたものと同じように膨らんでいるスポーツバッグが二つ、
並べて置かれている。津出はその隣に、持ってきた二つをそれぞれ投げ入れるようにして置いた。

重みと衝撃に、車体全体が軽く揺れる。

294 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:06:11 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「さ、行くお。なるべく早く帰ってきたいし」
 
内藤はそういって運転席に乗り込み、キーを回した。
津出は背中の赤ん坊を両手に持ち替えてから、助手席に座る。

( ^ω^)「車を運転するの、久しぶりだお」

エンジン音の中で、内藤が言った。

ξ゚⊿゚)ξ「ガソリン大丈夫なの?」

( ^ω^)「片道ぐらいなら、十分いけるかなって感じだお」

ξ゚⊿゚)ξ「それじゃ、駄目じゃない。途中でガソリン入れていかないと」

( ^ω^)「わかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「心中しに行くんじゃ、ないんだからね」
 
ヘッドライトを照らし、忙しなく首を動かして前後左右を確認してから、
内藤はアクセルペダルを踏み込んだ。

295 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:09:08 ID:D7fOqMrA0
寂れた住宅地から路地を抜け、車は国道に出た。
ファミリーレストランやパチンコ店、カラオケボックスなどの様々な歓楽の光が前から後ろへと流れていく。

ξ゚⊿゚)ξ「長岡君は、どこで待ってるの?」
 
退屈げに運転している内藤に、津出が訊ねた。

( ^ω^)「公園だお。ほら、公民館の裏にある」

ξ゚⊿゚)ξ「ああ、あそこね。でも、あそこじゃ、遠回りになるんじゃない?」

( ^ω^)「まあ、拾ってからちょっと戻らないといけなくなるお」
 
赤信号に引っかかって、車は停まる。二人の間に会話は無く、窓越しの騒音ばかりが車内を駆ける。
相変わらず、赤ん坊は津出の腕の中で平和な寝顔を浮かべている。

( ^ω^)「ラジオ、付ける?」
 
青信号に変わるのとほぼ同時に、内藤が言った。

ξ゚⊿゚)ξ「どっちでも」
 
津出が答える。内藤は左手を伸ばし、車載ラジオのスイッチを入れた。
ノイズとともに、無闇に歯切れの良い男の声が流れ出す。

296 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:12:04 ID:D7fOqMrA0
『……ええ、今宵は昭和の歌謡曲特集と題しまして、懐かしの名曲メドレーをお送りしております……。
 ……さて、続きましては、坂本九さんの代表曲、「上を向いて歩こう」……』

ξ゚⊿゚)ξ「昭和の歌なんて、ほとんど知らないわ」

窓外を眺めながら津出が呟いた。

( ^ω^)「そりゃそうだお。僕たちが生まれてすぐに、昭和は終わっちゃったんだし。
      でも、『上を向いて歩こう』ぐらいは知ってるんじゃないかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「まあね」

眉を寄せて、津出は言う。

ξ゚⊿゚)ξ「テレビとかでもよく流れてるし、嫌でも知っちゃうわよ」

( ^ω^)「嫌いなのかお?」

ξ゚⊿゚)ξ「別に。でも、こういう昔の曲を聴いて、テンション上がってるオッサンとかは、なんかいや」

( ^ω^)「たぶん、僕たちも年を取ったら、あんな風になるんだお」

297 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:15:05 ID:D7fOqMrA0
ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、違う番組にしてよ」
 
言われて内藤が選局ボタンを弄っていると、後方から救急車のサイレン音が響いてきた。

『……救急車が、通ります……進路を、開けてください……救急車が、通ります……』

( ^ω^)「何か、あったのかな」
 
内藤が独りごちた。その声は、僅かながら震えている。

ξ゚⊿゚)ξ「救急車なんて、よく走ってるわよ。私たちには関係ないわ。パトカーならともかく」
 
ため息混じりにそう言った津出に、内藤は深呼吸して頷いた。

( ^ω^)「そうだお。まったく、その通りだお」
 
眩い赤いランプを回しながら救急車は内藤の車を追い越していく。
サイレン音は徐々に低音へと変化する。

298 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:17:58 ID:D7fOqMrA0
その音に驚いたのか、今まですやすやと眠り続けていた赤ん坊が、
突然眼を大きく開いて爬虫類の如く眼球を左右させた。
そしてそれから段々と顔中の筋肉を中央に寄せて波打たせ、巨大な叫びと共に、泣き出した。

ξ゚⊿゚)ξ「泣き出しちゃったわ」

( ^ω^)「お腹がすいてたり、するのかお。それとも、オムツ?」

ξ゚⊿゚)ξ「サイレンにビックリしただけだと思うだから、どっちでも無いんじゃない」

柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でながら、津出は赤ん坊をあやす。
しかし赤ん坊はなかなか泣き止まず、何が悲しいのかも理解していないような顔で、
ただただ声を枯らして喚き続けている。

ξ゚⊿゚)ξ「ああでも、一応コンビニに寄ってよ。紙おむつ、買いたいから」

( ^ω^)「わかったお」

ξ゚⊿゚)ξ「それにしても、なんで赤ちゃんって、こんなに泣くのかしら」

( ^ω^)「産まれたからに決まってるお」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

( ^ω^)「その子だって、産まれなければ、泣く必要なんて無かったんだから」

コンビニの看板が見え、内藤はハンドルを動かす。

( ^ω^)「どっちが良かったかなんて、分からないけど」

299 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:21:10 ID:D7fOqMrA0
駐車場に車を入れると、津出は赤ん坊を内藤に手渡し、一人車外に出た。
 
津出がコンビニに入っていくのを見送ってから、内藤は手の中の赤ん坊へと視線を移した。
未だ赤ん坊は泣いているが、疲れたからか、先ほどより声量は落ちている。

( ^ω^)「僕にも、こんな時期があったんだろうな」

内藤は赤ん坊の目を見て語りかける。
しかし当然赤ん坊は彼の言語を理解しておらず、例え理解していたとしても返答の術は持っていない。
だから、これは内藤の、誰に話すわけでもない独り言ということになる。

( ^ω^)「ねえ、赤ちゃん」

声を落とした内藤の目が、一瞬泳いだ。

( ^ω^)「きみは一体、誰の子なんだお?」

300 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:24:05 ID:D7fOqMrA0
その時、内藤のズボンのポケットから、鋭い電子音が響いた。
内藤は驚いて座席から腰を浮かし、赤ん坊はまた、甲高く泣き出した。
 
音の発信源である携帯電話を慌ただしく取り出す。

( ^ω^)「……はい、もしもし」

「おーい、まだかよ」

若い男の声が受話口越しに鼓膜を揺らした。泣き声を遮断するため、内藤は片耳に指を突っ込む。

( ^ω^)「あ、ごめんごめん、もうちょっとでそっちに着くから」

「なるべく早く頼むぜ。慣れてはいるが、一応緊張はするんだからな」

( ^ω^)「あと五分ぐらいで着くと思うお。そっちはもう、準備できてるのかお?」

「ああもうバッチリ。ちゃんと、詰め込んでおいた」

( ^ω^)「わかったお。じゃ、もう少しだけ待ってて」
 
電話を切り、内藤は軽く溜息をついた。

301 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:27:11 ID:D7fOqMrA0
やがて津出が戻ってきた。手には紙おむつの袋がぶら下げられている。

ξ゚⊿゚)ξ「ただいま」

( ^ω^)「おかえり。今、長岡から電話があったお。早く迎えに着てくれって」

ξ゚⊿゚)ξ「そう……公民館の裏の公園だっけ。あそこらへんって大丈夫なの? 
      結構人通り、多い気がするんだけど」

( ^ω^)「長岡なら、上手くやってるお」

赤ん坊のオムツを取り替えてから、車はコンビニを出て、再び国道をひた走る。
赤ん坊は、ようやく泣き止み、諸手を宙に彷徨わせている。
 
何度目かの信号で右折し、車は幅員の狭い道路に入った。
光の数が少なくなり、徐々に静謐が漂い出す。
ラジオのニュース番組が、発展途上国の経済情報を流している。

302 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:30:14 ID:D7fOqMrA0
ξ゚⊿゚)ξ「これで、何人目だっけ」
 
後部座席に鎮座している三つのスポーツバッグを振り返って、津出が言った。

( ^ω^)「今日のを合わせて全部で六人。長岡が一人で四人。
      新聞じゃ、毎日のように一面を飾っているお」

ξ゚⊿゚)ξ「ニュースか何かで、ハゲオヤジが、彼らは神隠しに遭遇したのでしょう、なんて言ってたわ。
      真面目な顔で。まったく、いい歳して何言ってんだか」

( ^ω^)「そう信じたいのかも知れないお。
      年を取ると、理解できないことを認めようとしなくなるから」

ξ゚⊿゚)ξ「それにしても私たち、よく捕まらないわよね。
      そんなに綿密に計画してるわけでもないし、決定的な証拠とか、
      目撃者の一人ぐらい、あっても不思議じゃないのに」

( ^ω^)「たまたま、運が良いんだお。そうに違いないお」

ξ゚⊿゚)ξ「神様が護ってくださっているのかも」
 
言ってから津出は、鼻で笑った。

( ^ω^)「そうは、思いたくないお」

無表情に内藤は答えた。

( ^ω^)「僕の知っている神様は、もう少し道徳的だお」

303 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:33:14 ID:D7fOqMrA0
主要道から随分離れたところに、公民館はあった。
辺りはほとんど真っ暗で、人家の灯りもほとんど消えている。
ところどころにある街灯は、チッカチッカと危なげな点滅を繰り返していた。
 
公民館の裏に回ると、そこに小さな公園が現れた。
古いシーソーとベンチが二つあるだけの、簡素な公園だった。
 
その公園の入り口に、長岡は立っていた。
分厚いコートを着た彼は、ヘッドライトに気付くと大きく手を振った。

( ^ω^)「やあ、長岡」

窓を開けて、内藤は言った。

( ^ω^)「遅くなってごめんお」
  _
( ゚∀゚)「まったく、見捨てられたのかと思ったぜ」
 
長岡は口角を吊り上げて笑った。
それから、傍らに置いてあった、大きく膨らんだスポーツバッグを取り上げる。

304 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:36:10 ID:D7fOqMrA0
  _
( ゚∀゚)「これ、後ろの座席に置けばいいか?」

( ^ω^)「うん。でももう、三つ積んであるから、長岡が座る場所が無くなっちゃうかも」
  _
( ゚∀゚)「じゃあ、荷室に積むよ。それぐらいのスペースはあるだろ」
 
言うなり、長岡は答えを聞かず、荷室の扉を開いた。
そしてその中に、スポーツバッグを些か乱暴に放り込む。

閉まりきっていないファスナーの隙間からは、柔らかそうな栗色の長髪がはみ出している。
長岡はそれを気にも留めずに、勢いよく扉を閉めた。
  _
( ゚∀゚)「行き先は、県境の五洋山だっけか。ここから、どれぐらいかかるんだ?」
 
三つのスポーツバッグを端に寄せて積み、長岡は空いたスペースに座り込んで内藤に訊ねる。

( ^ω^)「普通に運転すれば、二時間ってところだお。途中混んでたら、もう少しかかるかも」
  _
( ゚∀゚)「まあこの時間だし、渋滞ってことはねーだろうな」

305 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:39:06 ID:D7fOqMrA0
車は再び国道に出て、元来た道を戻っていく。
先ほどよりも交通量は減っており、内藤はアクセルを踏んでスピードをあげた。
長岡は、嵌めていた厚手の黒い手袋を脱いで、傍らに置いた。
 
赤ん坊は、新しく乗り込んだ長岡にやたら興味を示し、
しきりに津出の腕の中から伸び上がって長岡に近づこうとする。
  _
( ゚∀゚)「おう、可愛いな、赤ちゃん」

長岡は笑顔で手を伸ばし、赤ん坊の頬を撫でた。
  _
( ゚∀゚)「こいつ、名前は何て言うんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「付けてないわ」

津出が躰を斜め後ろに傾けて答える。

ξ゚⊿゚)ξ「だって、意味が無いもの」
 
そんなもんかね、と長岡は一旦シートに倒れこんだ。
それからもう一度身を乗り出し、今度は内藤に向かって話しかける。

306 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:42:10 ID:D7fOqMrA0
  _
( ゚∀゚)「ほら、見てみろよ」

彼はコートの懐から小型の拳銃を取り出した。
  _
( ゚∀゚)「ベレッタのM8000、通称クーガー。不人気のせいで、最近じゃ滅多に手に入らないんだぜ」

( ^ω^)「そんなもの、どこで手に入れるんだお」
  _
( ゚∀゚)「大学時代の知り合いに外国人の奴がいてよ。そいつから売ってもらった」
 
長岡は口角を吊り上げ、ベレッタの銃身をさすった。それを睥睨していた津出が、おもむろに口を開く。

ξ゚⊿゚)ξ「長岡君、創作大学じゃなかったっけ。そんなところにも、そういう危ない奴っているんだ」
  _
( ゚∀゚)「そりゃそうよ。頭は良い奴ばっかりだったけど、人格で言えばピンキリだからな。
     それに、単純な悪さで言えばそいつより、俺の方がよっぽど格上じゃないか」

長岡はせせら笑い、銃を懐にしまいこんだ。
  _
( ゚∀゚)「商人に大した罪はねえよ、そういうニーズがあるんだからな。
     ユーリ・オルノフだって、誰もアイツにカラシニコフを求めなかったら億万長者にはなれなかった」

307 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:45:20 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「さっきは、そのピストルを使ったのかお?」
 
前を向いたまま、内藤が訊く。
  _
( ゚∀゚)「いや、さっきは使ってねえよ。さすがに、街中じゃぶっ放せねえもん。さっきはいつも通りだよ」

( ^ω^)「いつも通り?」
  _
( ゚∀゚)「絞殺。紐でな。
     相手が餓鬼だとそんなに苦労せずに済むし、何よりほとんど出血しねえから、処理に困らない」

ξ゚⊿゚)ξ「そうよね。私たちも、そうしてるわ」
 
津出が頷く。
  _
( ゚∀゚)「……ただまあ、毎回同じ殺し方だと流石に飽きてくる。そんなわけで、こいつを買ったんだよ。
     今度は山奥かどこかで派手に射撃ってのをやってみたいもんだ」
 
そう言って呵々大笑する長岡を、津出がまじまじと見つめた。そして彼女は、ゆっくりと言った。

ξ゚⊿゚)ξ「まあ、お金は持ってるもんね」
  _
( ゚∀゚)「親の遺産が腐るほどあるからな。死人の銭で人を殺すんだ。
     ある意味合理的だぜ。ん、何だお前」

津出の表情を見た長岡が、笑みに歪んだ顔を更に歪ませた。
  _
( ゚∀゚)「怖じ気づいたのか?」

308 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:48:21 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「あ、ガソリンスタンド」

前方に現れた看板を見て、内藤が呟いた。

( ^ω^)「ちょっと、ガソリン入れていくお」
 
スタンドに乗り入れ、駆け寄ってきた店員と、内藤は手早く言葉を交わす。
スタンド内に他の車は無く、そのためか三人の店員が寄ってきて、
窓拭きやガソリンの注入などを一斉にやり始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「……そう言えば」
 
窓の外を気にしながら、津出が小声で話し始める。

ξ゚⊿゚)ξ「内藤は、高岡って覚えてる? 高校時代に、同じクラスだった」

( ^ω^)「ああ、覚えてるお。図書委員やってた女の子だったおね」

ξ゚⊿゚)ξ「そうそう、私結構仲よかったのよね。彼女とこの前会ったのよ。
      駅前の時計台のとこで、夜に。彼女、化粧バッチリ決めちゃっててさ。
      ほとんど面影残って無かったわ。見逃しかけたぐらいだもん」

309 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:51:06 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「ふうん。彼女、何やってたんだお?」

ξ゚⊿゚)ξ「訊いたけど、答えてくれなかったわ。
      でも、その後すぐに、ハゲたオッサンが彼女に声掛けてた」

( ^ω^)「父親じゃあ……」

ξ゚⊿゚)ξ「違うと思う。妙に馴れ馴れしく、腕組んで歩いてたし」
  _
( ゚∀゚)「不倫じゃねーの」

長岡が、吐息と共に言った。
  _
( ゚∀゚)「珍しくもねえよ。俺、高岡って奴のこと、よく知らねえけどな」

ξ゚⊿゚)ξ「援助交際かもしれないわね」
  _
( ゚∀゚)「いや、それはねーな。援交には、ちと年取りすぎだろ。
     同い年なんだろ? お前らと、その高岡って奴とは」

310 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:54:06 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「え、そういうものなのかお。僕らまだ、二十代前半なのに」
 
驚いた素振りの内藤に、長岡は大仰に頷いてみせる。
  _
( ゚∀゚)「需要があるのは、せいぜい学生まで、だな。年増と援交する意味なんて、あんまりねえよ。
     援交の最大のメリットは、普段知り合えないような若い女を食えるってところだからな」

ξ゚⊿゚)ξ「なんだか、経験あるみたいね」
 
硬い声で、津出が長岡を睨みながら言った。
  _
( ゚∀゚)「ま、何度か。でもな、内藤、気をつけろ。
     ああいうのに手を出す女ってのは、大抵が自意識過剰のブスだ。
     ただのブスじゃなく、自意識過剰のブスだからタチが悪い」

( ^ω^)「僕はしないお、そういうの」

311 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 19:57:11 ID:D7fOqMrA0
津出が、内藤の表情を横目に、長岡から赤ん坊を遠ざける。
それから、口の中で小さく「最低」と、無機質な声で呟いた。
  _
( ゚∀゚)「おいおい、援交に関して言えば、別に誰に迷惑かけてるわけでもないんだぜ。
     むしろ、向こうの条件にこっちが乗ってやってるんだ。
     それに、万が一の時にリスクを背負うのはこっち側だぜ。

     それとも、複数の女とやってるのが駄目なのか? 
     それだって、相手が怒らなければ許された行為だぜ。つまり、自由恋愛主義者なんだな、俺は」

ξ゚⊿゚)ξ「でも、相手の女の子が、長岡と同じことやってたら嫌じゃない?」
  _
( ゚∀゚)「別に、好きにすればいいんじゃねえの? 
     テレゴニーを気にするなら、やめておいた方が良いと思うけどな。あと、病気持ちは俺が勘弁」
 
店員が外からコツコツと窓ガラスを叩いた。急いで内藤は窓を開け、応対する。
 
ガソリンスタンドを出た車は、更に国道をひた走った。
そして、広い川を渡る橋の手前で左に曲がり、北へ向かう。

312 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:00:08 ID:D7fOqMrA0
高層建築物の多かった家並みに、木造建築の古い一軒家が交ざり始める。
国道から離れるにつれ、行き交う車の数も減っていき、騒音のほとんどが消えた。
 
行く手には薄明かりの中で黒く盛り上がった五洋山が聳えている。

内藤は、小さく喉を鳴らした。長岡は携帯電話を取りだしてバッテリー残量を確認し、
津出は腕の中の赤ん坊を憐憫のような表情で見つめている。
その赤ん坊は、うつらうつらと船をこぎ始めていた。

『……続きまして、○○県××市で発生しました、乳児連続失踪事件の続報です……』
 
混濁からはっきりと浮き上がるように響いたラジオの声に、津出の躰が軽く跳ね上がった。
  _
( ゚∀゚)「俺たちの事件だ」

長岡が嬉々とした声を出す。

313 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:03:07 ID:D7fOqMrA0
『……現場周辺に不審な黒い車が停まっていたことが近隣住民の目撃証言で明らかになりました……
 未だ犯人からのメッセージが無いことや、事件性を示す手がかりも見つかっていないことから……
 警察では、事件と事故の両方の可能性を視野に入れて、捜査を続けています。

 被害者はすでに八名に達しており、早急な解決が求められています……』
  _
( ゚∀゚)「黒い車だって」

長岡がくすくすと笑って言った。
  _
( ゚∀゚)「俺たち以外にもいたんだな、不審な奴」

ξ゚⊿゚)ξ「事故なんて、考えられないわよね」

窓越しに空を見上げながら津出が呟いた。

ξ゚⊿゚)ξ「子どもたちが、一斉に家出したとでも考えてるのかしら」

( ^ω^)「一斉に自殺したと考えてるのかも知れないお」
  _
( ゚∀゚)「末期だな、そりゃあ。世も末だ」
 
内藤の言葉に長岡が爆笑した。しかし、内藤はくすりとも笑わない。
ブレーキを踏んで狭い十字路の前に停車し、方向ランプを点滅させる。

( ^ω^)「僕たちも、相当末期だと思うけど」

315 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:06:10 ID:D7fOqMrA0
『……この事件に関して、警視庁、元捜査一課の、アラマキスカルチノフさんにお話しを伺います……
 
 ええ、事件性が、極めて濃いと思われます、全て、同一犯の犯行であり、
 これだけの事件で手がかりがほとんど残っていないことを考えると、
 犯人は土地勘のある人物……そして、相当の手練れであることが推測できますね……』
  _
( ゚∀゚)「手練れだって」

長岡が頓狂な叫びを叫んだ。
  _
( ゚∀゚)「聞いたか、このオッサン、俺たちのこと、犯罪のプロだって言ってるんだぜ」

『……しかし、犯行の動機が未だはっきりとしません。身代金目的の誘拐では無いようですし……
 ある種の性的倒錯だとしても、被害児童の数が多すぎます……』
 
内藤が手を伸ばして、選局ボタンを軽く触れるように押した。
嗄れた男の声の代わりに、先ほどと同じ、昭和の歌謡曲が車内を満たす。
  _
( ゚∀゚)「こういうのを聞く、被害者の家族の気持ちってのは、どういうもんかね」

頭の後ろで手を組み、シートにもたれ掛かって長岡が欠伸混じりに言った。
  _
( ゚∀゚)「好き勝手な推理をされてさ。
     あんまり気持ちの良いもんじゃねえよな、このオッサン、あくまで部外者なんだから」
 
内藤も津出も、長岡の、同意を求めるような言葉に反応一つ示さなかった。

316 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:09:25 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「この曲、知ってるお」

芝居がかった様子で車載スピーカーを指差し、内藤が言った。

( ^ω^)「なごり雪、だお。確か、イルカって歌手が歌ってるやつ」

ξ゚⊿゚)ξ「また、昔の曲」

うんざりというような調子で、津出が言った。

ξ゚⊿゚)ξ「どうして、昔の奴らって、昔の曲ばっかり好きなのかしら。
      それで、今流行ってる歌を、大して聴きもしないくせに批判するのよね」
  _
( ゚∀゚)「世代ってもんがあるんだよ。
     
     大体人間なんて奴は、自分が若い頃を生きた時代が、一番好きなんだ。
     それで、その世代、その世代って、大体十年区切りぐらい、
     人によっちゃ一年区切りで分離される。

     別々の世代の人間は、時代が地続きしているとは思えないぐらい、まったく別人になるんだ。
     基本的に人間は自分と違う奴を嫌うからな。ここにジェネレーションギャップってのが生まれる。
     津出がオッサンらを嫌うのも、オッサンらが今の曲を嫌うのも、ある意味自然の摂理だ。

     こればっかりは、どうしようもない」

317 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:12:04 ID:D7fOqMrA0
長岡に言われ、津出は黙り込んだ。それから、口先だけで、そう、と短く言った。
長岡は、分かってないだろお前、と嘲るように返した。
  _
( ゚∀゚)「さっきの、ラジオの刑事だってそうだよ」

長岡は言葉を繋げる。
  _
( ゚∀゚)「あんなロートルに、俺たちの動機が分かってたまるか。
     老いぼれに分かられるほど、単純な理屈で動いてないんだ、こっちは」

( ^ω^)「でも、僕は自分の動機さえ分からないお」

内藤が、今思いついたような口調で言った。

( ^ω^)「僕はもう、五人の子どもを殺しているお。殺したくて殺してるわけじゃない。
      警察に捕まるのだって嫌だお。子どもを殺すのは……一番手軽だからと思っていたお。
      でも、さっき長岡が言ったみたいに、僕は無意識のうちに、下の世代の人間を嫌ってるのかな」
 
内藤が喋り終えると、長い長い沈黙が訪れた。
やがて長岡が、さあな、とガラスを打つ雨滴のような一言を漏らした。

318 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:15:26 ID:D7fOqMrA0
突然現れた急勾配の坂を、車は上っていく。
三人はすでに、五洋山の麓まで来ていた。津出が携帯電話で時刻を確認する。十時十五分。

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと、早いんじゃない?」

( ^ω^)「そうかな、予定通りだお。予定そのものが、ちょっと早かったかも知れないけど」
  _
( ゚∀゚)「なあ、結局、五洋山の何処に行くんだ?」長岡が訊ねた。

( ^ω^)「山道をずっと行って、少し外れたところに古い、廃墟みたいなお寺があるんだお。
      昼間でも、人がほとんど寄りつかないような。そのお寺の裏に崖があってね。

      その下には雑木林がずっと広がってるお。
      下からじゃ、ちょっと寄りつけないような、まるで樹海みたいな場所。
      自殺の名所なんて噂もあるぐらい。

      そこにスポーツバッグを落とせば、密林が全て隠してくれるお」
  _
( ゚∀゚)「へえ。大丈夫なんだろうな?」

( ^ω^)「仮にバッグが見つかったとしても、僕たちと結びつくことは無いお。
      何せ僕らは、ごく普通の生真面目で、無機質な若い社会人なんだから」

319 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:18:30 ID:D7fOqMrA0
路傍から伸びる枝葉が車上の空を覆い隠している。
彼方から走ってくる対向車も、追いかけてくる後続者も無く、
内藤たちの車はただ孤独に坂を上り続けていた。

眼下には遍く街の光が散っている。遠くには暗澹と佇む海も見える。

( ^ω^)「天国に昇っているみたいだお」

内藤が憂鬱げに言った。

( ^ω^)「本当の行き先は、地獄なんだろうに」
  _
( ゚∀゚)「センチなこと言うねえ」

長岡が溜息混じりに言った。
  _
( ゚∀゚)「それよりもさ、俺が気になってるのは、おい、津出」

ξ゚⊿゚)ξ「え?」
 
不意に呼ばれた津出が肘をシートにぶつけながら振り返った。
長岡は、名探偵のように勇ましい勢いで彼女の赤ん坊を指差した。
  _
( ゚∀゚)「赤ちゃん、いつ殺すんだ。生きたまま、樹海に放り投げるのか?」

320 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:21:39 ID:D7fOqMrA0
長岡の問いに、津出がぷっつりと黙り込んだ。
内藤は前方に視界を固定したまま機械的にハンドルを操作している。
  _
( ゚∀゚)「何なら、俺が殺しても良いけど」
 
そう言って、長岡は傍らの黒手袋を再び嵌めた。
そして、無言の津出から、深い眠りに落ち込んでいる赤ん坊を、半ば強引に受け取る。

( ^ω^)「いいのかお」
 
内藤が、小声で津出に囁いた。

ξ゚⊿゚)ξ「いいのよ。だって、最初からそう決めてたじゃない」

後頭部を窓ガラスに当て、斜め上の空中に息を吐いて津出は言った。
一瞬浮かんだ泣き笑いのような表情が、次の瞬間には消えた。

ξ゚⊿゚)ξ「殺さないつもりだったら、付けてたわよ、名前」
  _
( ゚∀゚)「俺はてっきり、車に乗る前に殺しておくものだと思ってたんだがな。
     やっぱり、我が子を殺すのは嫌なのか」

ξ゚⊿゚)ξ「別に。ただ、機会が無かっただけよ」

321 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:24:14 ID:D7fOqMrA0
長岡は腕で赤ん坊を支えて、両手でその柔らかい首を包み込む。そして、徐々に力を加えていった。
  _
( ゚∀゚)「加減しないと、ちぎれそうで怖いな」
 
そう呟きながら、彼は赤ん坊の白い肌に十指の爪を食い込ませていく。
そのまま、彼はしばらく静止した。ラジオの饒舌と、耳鳴りのような無音が三人の鼓膜を襲った。
 
不意に赤ん坊が眼をキッカリと開いた。長岡の視線が赤ん坊のそれと衝突する。
けっけっと、赤ん坊は叫びを達成できなかったかのような咳を二度した。

直後、彼は絶命した。内藤は、バックミラー越しにそれを眺めていた。
津出は相変わらず、助手席と運転席の間の天井を見つめ続けていた。
 
長岡が指を離すと、赤ん坊の頭が重力に寄せて振り子のような動きで垂れ下がった。
  _
( ゚∀゚)「あ、そうだ」

赤ん坊を横に寝かせて、長岡は言った。
  _
( ゚∀゚)「どうせなら、素手でやればよかったな」

322 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:27:22 ID:D7fOqMrA0
( ^ω^)「その子、そのまま樹海に放るのかお?」

内藤が訊ねる。
  _
( ゚∀゚)「それで構わないと思うけどな。ここまで来れば、バッグに詰めるメリットは大してない気がするし

長岡が津出を見ながら答えた。
  _
( ゚∀゚)「津出、どうするんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「どっちでも良いわ」

震える声で、津出は言った。

ξ゚⊿゚)ξ「ほんと、どっちでも良い」

頬に一筋、涙の線が垂れる。
 
車が、舗装された道路を外れて、山道に突っ込んだ。
荒れた砂利道を蠕動するように揺れながら進んでいく。

323 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:30:03 ID:D7fOqMrA0
長岡の隣に鎮座していたスポーツバッグが、床に崩れ落ちた。
木の枝が車体を叩いてばちばちと音を鳴らした。
  _
( ゚∀゚)「死体を抱き続けるのは、あんまり気持ちよくねえな」

と言いながら、長岡は腕の中に赤ん坊の死体を抱え続けている。
揺れに乗じてそれが飛び出しそうになるのを、慌てて捕まえて抱き寄せたりもしている。

『……続きましての一曲は、昭和を代表する歌手、
 山口百恵さんのヒット曲、イミテーション・ゴールドです……』

ξ゚⊿゚)ξ「ラジオを切って」

津出が叫んだ。

ξ゚⊿゚)ξ「はやく、はやく切ってよ。聴きたくないの」

と早口でまくし立てた。

( ^ω^)「その必要は無いお」

津出に対して、内藤はゆっくりと言った。

( ^ω^)「到着したから」

324 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:33:06 ID:D7fOqMrA0
さして代わり映えのしない景色の中、内藤は車を停めた。
フロントライトの彼方、林薮の中にぼんやりと、御堂が浮かび上がっている。
御堂は古く粗末で、人間が一人か二人、ようやく入れるほどの大きさしかない。
  _
( ゚∀゚)「心霊スポットだぜ、こいつは」

長岡が辺りを見回して言った。
  _
( ゚∀゚)「死体もここにあるし、シチュエーションとしては完璧だ」

( ^ω^)「手早く済ませるお」

内藤はそう言いながら、上着のポケットに突っ込んであった懐中電灯を二本、津出と長岡に配った。

( ^ω^)「ここから、御堂の裏に回らないといけない」

そしてエンジンを切らずに扉を開け、車外に一歩踏み出す。

325 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:36:02 ID:D7fOqMrA0
吹く風に木々がざわめいている。足下からは湿った土のにおいが立ち上った。
視界はほとんど利かず、懐中電灯も然したる助けにはならなかった。

後部座席からスポーツバッグを引きずり下ろし、それと懐中電灯を持って歩き出した。
長岡は内藤に倣い、津出は長岡から体温の消えていく赤ん坊を受け取り、片腕で抱き締めた。

( ^ω^)「気をつけて。ほとんど何も見えないから」
 
ザリザリと落ち葉を潰す足音を立てながら内藤が言った。
ヒールを履いている津出は、殊更歩きにくそうにしている。

それぞれの懐中電灯に照らされた、目先の地面だけは辛うじて不明瞭ではない。
光を受けない静寂の御堂側部は、ただただ闇色の塊でしかなかった。
 
慎重に歩を進めて御堂の裏に回り込んだとき、長岡がほう、と感嘆の溜息を漏らした。

326 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:39:31 ID:D7fOqMrA0
眼前に向かいの山肌があった。林が途切れ、急角度の斜面が下へと続いている。
そしてその先、十メートルほど下に、此処より下層の雑木林が横たわっていた。
  _
( ゚∀゚)「なるほどな。ここじゃあ、確かに見つからない」

長岡が切り立った地面の端まで行き、眼下を眺望して言った。
  _
( ゚∀゚)「埋める手間も無いし、手軽さは断然だな」

彼は内藤の方を振り返った。
  _
( ゚∀゚)「全部俺が捨ててやるよ。残りのバッグも持ってこい」
 
言うなり、長岡は手を振り子の原理で前後に動かし、勢いを付けてスポーツバッグを前方へ放った。
バッグは回転もせず、投げられたときの形のままで樹海の暗部に紛れて消えた。

327 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:42:28 ID:D7fOqMrA0
内藤が黙ってバッグを手渡す。長岡はそれも、同様の動作で樹海に放り込んだ。
投げられた鞄からはみ出ていた栗色の髪が、微かな彩りを以て闇に靡いた。
 
津出は、その動作をずっと眺めていた。途中、脱力した左手から懐中電灯が転げ落ちた。
その力を加えるように、なお一層強く死んだ赤ん坊を抱いた。
内藤が残り二つのスポーツバッグを二往復して持ってくる間も、津出は崖に近づかずに立ち竦んでいた。
  _
( ゚∀゚)「おい、津出」
 
全てのバッグを投げ終えた長岡の呼びかけに、ぼんやりと眼を向ける。

ξ゚⊿゚)ξ「分かってるわ」
 
津出は頷き、確かな歩調で崖に近寄った。樹海を見る。
 
次の瞬間、彼女の躰が赤ん坊ごと前に傾いた。
反射的に内藤が動いた直後、彼女は赤ん坊を手放した。
赤ん坊はくるくると回転しながら落ちていき、斜面で一度バウンドして、樹海に沈んだ。
 
津出はそのままの姿勢をしばらく保ち続けた。
内藤が彼女に駆け寄り、その肩を抱く。二人は、互いを見ずに、前方を見つめた。

その二メートルぐらい後方で、長岡は懐からベレッタM8000を取り出し、
安全装置を外して照準を内藤に合わせた。

328 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:45:05 ID:D7fOqMrA0
後方からの金属音に内藤が振り返ろうとしたとき、乾いた銃声が鳴った。
ベレッタの弾丸が、内藤の後頭部から額を貫いて空中を駆けていった。

宙に血液が飛び散った。
津出の肩を抱いていた腕の力が抜け、彼は次第に前傾姿勢となり、
やがて崖を転がるように落ちていった。
 
津出が振り返り、薬莢を拾う長岡を見た。

ξ゚⊿゚)ξ「血が、飛び散ったわ」

彼女は言った。

ξ゚⊿゚)ξ「見つかっちゃうかも」
  _
( ゚∀゚)「別に良いよ」

ベレッタをしまい込んで、長岡は言った。
  _
( ゚∀゚)「俺は内藤と違って、別に捕まることを怖れてない。
     俺を捕まえる奴らに理解されない限り、俺は俺の中で勝者なんだからな」

329 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:48:09 ID:D7fOqMrA0
ξ゚⊿゚)ξ「私は嫌よ。捕まりたくない」

津出が顔を歪め、泣き声を上げた。

ξ゚⊿゚)ξ「まだ若いのよ。私には、輝かしい未来が待っているの」
 
長岡は泣きじゃくる津出に近寄り、彼女をしっかりと抱き締めた。
津出は長岡の首に両腕を回し、彼に積極的に密着する。風が唸り声を上げた。
二人はそのまま、数分抱き合った。
  _
( ゚∀゚)「さ、帰ろうぜ」
 
長岡が躰を離して言い、津出は涙にまみれた顔でこくりと頷いた。
 
内藤の代わりに長岡が運転席に乗り込み、津出は変わらず助手席に座った。
車は走り出し、元来た山道を戻っていく。

330 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:51:10 ID:D7fOqMrA0
途中、二人の間にはほとんど会話は無かった。
津出は積極的に長岡にしなだれかかった。
車載ラジオが『ルビーの指輪』を流し始めたが、彼女は何も言わなかった。
 
山道を降りて、主要道に入ったとき、長岡が彼方を見て言った。
  _
( ゚∀゚)「検問だ」
 
前方に赤いランプが無数に点滅している。
片道二車線の内一車線が封鎖され、赤白の三角コーンが縦列に並べられていた。
列をなす車の周りを、複数の警察官が忙しなく動き回っている。

ξ゚⊿゚)ξ「ヤバいの」

津出が震えながら言った。

ξ゚⊿゚)ξ「ねえ、逃げましょうよ」
  _
( ゚∀゚)「落ち着けよ、まだ俺たちと決まってるわけじゃない。
     そもそも、奴らまだ、俺たちに目星すら付けてないはずさ」

長岡は笑って言った。

331 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:54:00 ID:D7fOqMrA0
車は緩やかに減速し、停車する。白いヘルメットを被った若い警察官が近寄ってきた。
  _
( ゚∀゚)「何かあったんですか」
 
窓を開け、長岡は警察官に笑いかけた。警察官は眠気と沈鬱さを混ぜた顔をしていた。

(´・_ゝ・`)「近くの商店街で集団による通り魔事件が発生しまして」

彼は顔を顰めて言った。

(´・_ゝ・`)「犯人は車に乗って逃走したらしく、こうして検問を」
  _
( ゚∀゚)「通り魔」

長岡は、芝居がかった口調で叫んだ。
  _
( ゚∀゚)「それはまた、物騒なもんですね」

332 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 20:57:28 ID:D7fOqMrA0
(´・_ゝ・`)「ええ、少なくとも十人の犠牲者が……」

警察官は悲しそうにそう言いかけ、慌てて咳払いをした。

(´・_ゝ・`)「それで、不審な車を見かけませんでしたか。
      若い男たちが乗っている、赤いワンボックスカーだったようなのですが」
  _
( ゚∀゚)「いえ、見覚えありませんが」

(´・_ゝ・`)「そうですか。それでは、通って結構です。一応、お気を付けください」
  _
( ゚∀゚)「それにしても、十人以上も殺すなんて、最近の若者のやることは分かりませんね」

(´・_ゝ・`)「本当に」

警察官は、仕方なさそうに愛想笑いを笑った。

(´・_ゝ・`)「しかし、そんなことばかりも言っていられないのですよ」
 
検問を抜け、国道に出たとき、突然長岡が爆笑を始めた。
ほっと胸をなで下ろしていた津出が、吃驚して彼を見る。
  _
( ゚∀゚)「な。聞いたか、津出。
     世間には、俺たちなんかよりよっぽど悪いことやってるやつらが、山ほどいるんだぜ」

333 : ◆xh7i0CWaMo :2015/06/05(金) 21:00:05 ID:D7fOqMrA0
それから長岡は、急に真面目な顔つきになった。
  _
( ゚∀゚)「メキシコに、恋人を殺して食った作家がいるんだ。
     俺が人を殺すのは、前も言ったけど作家志望として人を殺すことを体験するためだ。
     
     でも、それだって別に珍しい事じゃない。
     同じようなことを、考え、実行した奴は過去にも沢山いる。
     結局、この程度じゃ過去の奴らが作った行動規範から、逃れることは出来ねえんだよな」

ξ゚⊿゚)ξ「よく分からないけど」

津出がはしゃぎ声で言った。

ξ゚⊿゚)ξ「私たち、大丈夫なのね」
  _
( ゚∀゚)「そうだとも。ところでよ、津出」

長岡はニヤッと下卑た笑みを浮かべた。
  _
( ゚∀゚)「あの赤ちゃん、結局誰の子だったんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「分からないわ。でも、内藤君じゃないと思う。
      彼はいっつも、する時にはちゃんと、付けてたから」
 
津出は窓外のネオンを眺めながら、うっとりとした表情で話し始めた。

ξ゚⊿゚)ξ「候補はね――」









11.きちがい語録