('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ

65 :('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ ◆gWowFpZsKo :2013/09/27(金) 23:31:52 ID:5c7Dw2Yk0
(゚、゚トソン「残念ですが、こちらの小説は<藝術>として認められませんでした」

('A`)「なんだって……? そんな馬鹿な! 今回の作品は今までで一番の自信作なんだ!」

(゚、゚トソン「封筒の中にご応募頂いた原稿と、審議官の批評が入っておりますので詳しい理由はそちらをご覧ください」

('A`)「……ああ、そうだったね。わかってる。知ってるんだよ。ぼくは何度もここに来ているからね……」

 ドクヲの苛立った声を聞いても、その受付嬢は顔色をまったく変えなかった。
 背後から急き立てられる気配を感じ、彼はその場を離れたが、口からは悪態が漏れ続けている。
 壁際に並べられた椅子に身を投げ出すように座り込み、俯き、思い切り肩を落とした。

('A`)(また駄目だった……これで何作品目だろう……くそ。次こそはきっと……。
    しかしもう良い着想が……いいや、まずは今回の批評を見てからだ……)

 すぐにでも自宅へと戻って封筒を開け、中の批評文章に目を通したかったが、
 今日ここに同じ目的でやってきている友人を待つ約束をしていた。
 しかし本当のところ、そんな約束がないとしても立ち上がり、帰路につく活力はなかった。
 自分の全精力を懸けて作り上げた作品が、世界に『無価値』と認定されてしまったためだ。

ζ(゚ー゚*ζ「おまたせ。ドクヲの結果はどうだった? って、その様子じゃあ聞くまでもないか」

('A`)「デレはどうだった? きみも今回の歌、自信作なんだろう? ……もしかして?」

ζ(゚ー゚*ζ「いいや。残念だけど、また認められなかったよ。……安心した?」

('A`)「まさか……残念だったね」

ζ(゚ー゚*ζ「自動販売機で何か、飲み物を買ってくるよ。それ飲んでさ、それから、帰ろう」

66 :('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ ◆gWowFpZsKo :2013/09/27(金) 23:33:10 ID:5c7Dw2Yk0
 ゴミ箱に缶を落とすと、からんと乾いた音がした。底に積み重なっていた缶に当たった音だ。
 その音を聞いて、ドクヲは思わず缶に自分を重ね合わせていた。この中にあるすべての缶は、
 『もう必要ではないと判断され、捨てられた』ものなのだ。銘柄や味こそ違えど、『中身は入っていない』。
 ドクヲは自分が感傷的になっているのを自覚した。こんなことを考えるなんて、と自嘲の笑いを漏らす。

 ドクヲと同じように気落ちした顔の人々と、意気揚々と胸を張って<藝術審議所>にやって来た人々。
 その二つの感情が混ざり合った集塊を縫うようにすり抜けて、ドクヲとデレは建物を出た。
 <藝術審議所>にあふれていた緊張と窮屈さからやってきた疲れを追い出すように、デレは大きく伸びをした。
 彼女の体の関節が小気味良い音で鳴る。その間ドクヲは、デレが手に持っている封筒をじっと見つめていた。

ζ(゚ー゚*ζ「お昼前だし、喫茶店でも行かない?」

('A`)「悪い。ぼくは家に帰るよ。早く批評が読みたいんだ。
    また新しい作品を応募しないとね。……デレは、今回受け取りに来たので最後?」

ζ(゚ー゚*ζ「いや、わたしはまだもう一曲残ってるよ。
        その曲も今回のと同じ日に提出したんだけど、結果発表の日はまだわからないみたい」

('A`)「結論が長引いているってことは、審議官も悩んでるってことだろ。<藝術>と認められる確率が高いんじゃないか?」

 「そうだといいね。それじゃあ、また」とドクヲに手を振り、デレは背を向けた。ドクヲも自宅へと歩き出す。
 脇に抱えた封筒が揺れる感覚が、彼の胸の内で、先ほどデレに向けた言葉を蘇らせた。
 『結論が長引いているってことは、審議官も悩んでるってことだろ。<藝術>と認められる確率が高いんじゃないか?』。
 彼がその言葉を口にする裏側で『即決できるほど優れているものでもない』といった意味を込めていないとは言い切れなかった。

 自室の机の前に腰を下ろすと、ドクヲはひとつ、大きな息を吐いた。
 これから彼は、自作品が『出来損ない』のお墨付きを受けた理由に目を通すのだ。
 気が滅入ったが、前に進むために必要なものだと考えると、ほんの少しだけ楽になった気がした。

67 :('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ ◆gWowFpZsKo :2013/09/27(金) 23:37:24 ID:5c7Dw2Yk0
 原稿用紙を取り出し、机の隅に置いた。束ねられた紙の重さがやけに手に残る。
 それから、原稿用紙に比べるととてつもなく薄い、審議員の批評を取り出して紙面に目を向けた。
 何度も使いまわされた機械的なはしがきを飛ばし、作品について批評されている部分を探した。

    物語の構成、登場する人物、文章の適切さ、世界観の描写、全体的な主題。
    すべてが興味を惹かれるものではありませんでした。あらゆる部分から既視感が流れだしています。

    序盤の主人公が街をあてもなく散策する場面は杉浦ロマネスクの『蝸牛の先生』を思わせましたが、
    それから特に展開しないこの場面は不要だと断言できます。素直クールが書いた『文通堂』のように、
    全体を通して何もない日常を描くのならば良いのですが、今回お送り頂いた作品は、
    斎藤マタンキ作、『ジャンブル・ブーン』によく似た舞台設定の近未来SFファンタジーであるため……。

    ……中盤、自分が所属する組織が実は黒幕であったと判明するシーンは遥か昔から使い古されていますが、
    盛り上がる展開なので問題ありません。しかし、この作品の場合、伏線も疑惑もなく唐突に明かされ、更に、
    主人公がヒロインの言うことを鵜呑みにして、行動を共にする。まるで説得力がありません。ご都合主義すぎます。
    『風切り音・円形・新聞』の作者、ジョルジュ長岡は同じ展開でありながらも説得力と臨場感を演出させています。

    ……終盤でヒロインが主人公に笑いかけ、親指を立てますがこれまでに書かれてきたヒロインとは思えません。
    おそらくは、ここでらしくない行動をさせて魅力を引き立てようと考えたのでしょうが、唐突すぎます。
    このような演出を行うならばハインリッヒ高岡の『文芸要人』、荒巻スカルチノフの『卵包鶏飯』のように……。

    ……「他人を想う気持ちがあるから、自主的に動く。つまり、機械もこころを持てば人間と同じである」。
    全体的な主題としてはこのようなものでしょうが、あまりにも陳腐ですし、加えて、結論に穴が多すぎます。
    深刻味を出そうとして下手な哲学など入れてしまったため、作品全体がとんでもなく幼稚に見えてしまいます。
    外国人作家ではありますがギコ・ツーシーエイチの『低技術』、ツンデレ・ラヴロックの『浪漫』を読んでみて下さい……。

('A`)(……言われてみれば『ジャンブル・ブーン』に似ているかもしれない。
    今度、ジョルジュ長岡の作品を買ってみよう。ハインリッヒ高岡の作品は肌に合わなかったな……。
    最後に薦められているギコとツンデレの作品は、何度も読み返すほど大好きな作品なんだけど……)

68 :('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ ◆gWowFpZsKo :2013/09/27(金) 23:39:00 ID:5c7Dw2Yk0
 ドクヲは、批評を一文字残らず糧にするため、ずいぶんと時間をかけて読み終えた。
 自作品の欠点を細かく、丁寧に指摘してくれているのはわかってはいたが、抑えきれない怒りがこみ上げてくるのを感じている。
 小説という媒体を通してはいたが、『お前は、いつかの誰かが劣化した存在である』と、紛れも無くそこに記されていた。

 翌日。布団から身を起こしたドクヲは、自分が完全に打ちのめされているのに気がついた。
 日課であった執筆どころか、食事の用意すら行う気力がなく、とうとう何もしないまま日が落ちてしまった。
 空腹も時間の流れも感じることなく、ただただ延々と布団の中にいた。半ば眠っているように意識が定まらない。

 その次の日の夕方、ドクヲの家のインターホンが鳴った。しかし、彼は応対する気にならなかった。
 ただただ布団の中でじっとしていたかった。このまま死んでも良いとさえ、ドクヲは考えていた。
 何度も何度も家に響く音を聞いているうち、更に思考が加速していく。やがて、ドクヲの頬に涙が伝った。

 それと同時に、彼の家のドアノブが回った。彼は在宅時、施錠をしていなかった。家の中から何の反応もしないことや、
 先日のドクヲの落ち込み度合いから、良からぬ方向に想像を膨らませたデレが青ざめた顔で家の中に飛び込んできた。
 ドクヲの無事を確認したデレは、傷心し、目に見えてやつれている彼に食べ物を作った。
 彼はそれを食べ終えて落ち着いた後、ゆっくりと話し始めた。この二日間、布団の中で痛感したことを。

ζ(゚ー゚*ζ「それで、もう小説を書くのをやめちゃうわけ?」

('A`)「……うん。もう、いいんだ。何を書いても過去の優れた作品と比べられてしまう。
    ぼくの才能では、乱立し、立ちふさがるかつての遺産を飛び越えられない。……少し、疲れたよ」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなの、わたしの音楽も一緒じゃない。
        他の<藝術>である、絵画も、建築も、工芸も、舞踊も、彫刻も、全部同じだよ」

('A`)「その通りだ。ぼく達は生まれてくるのが遅すぎた。<藝術>が増えすぎたんだ。あらゆる分野で、
    何をやっても、極めて高い確率で、過去の誰かが同じようなことをより優れた方法で既に行なっている」

ζ(゚ー゚*ζ「別に、古いものは良いものだってわけじゃあないでしょ。
        今だって良いものは生まれ続けているし、昔にだって、わたし達みたいな人はたくさんいたと思う」

69 :('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ ◆gWowFpZsKo :2013/09/27(金) 23:41:47 ID:5c7Dw2Yk0
('A`)「その通りだ。傑作と呼ばれるものは、忘れられた人々の無念と嫉妬と嗚咽の上に、今までずっと在り続けているんだ。
    <藝術>と認められなかった……大多数に無価値と判断された名前も知らない彼らが、他人とは思えないよ。
    ……たったひとりの天才が生まれ出るまでに、一体何人の凡人が死んでいくんだろうね……」

ζ(゚ー゚*ζ「ドクヲの言ってることはすごくよくわかるよ。わたしだって、そう感じたことは何度もある。
        それでもわたしは、音楽作りをやめないよ。音楽を作るのが好きっていうのもあるけれど、
        本当の、一番の理由は……わたしが、世界で一番の傑作が生み出せるかもしれないからなんだよ」

('A`)「そんなこと、できるわけないじゃないか。一度も『藝術審議所』を通過しない時点で才能は知れているんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「いいえ。わたしは、マイケル・ジャクソンよりも、エルヴィス・プレスリーよりも、ビング・クロスビーよりも、
        ナナ・ムスクーリよりも……誰よりも、素晴らしい音楽が作れるかもしれないの。……その理由を聞きたい?」

('A`)「自信過剰にもほどがある。ぜひ、お聞かせ願いたいな」

ζ(゚ー゚*ζ「『わたしはまだ、生きている』のよ。死んでしまった人よりも、『将来の可能性』があるわ」

 その瞬間、稲妻に打たれたようにドクヲの動きが止まった。
 何も言わずにただじっとデレを見つめている風だったが、彼の焦点は彼女に結ばれていない。
 ここではないどこか、これから先に実現するかもしれない将来を見つめている。
 ……そして数分後、デレはドクヲの目を見据え、はっきりとした声で問いかけた。

ζ(゚ー゚*ζ「わたしは諦めが悪いの。こんなところで終われないわ。
        まだまだ立ち止まってなんかいられないよ。わたしが望む結末は遥か未来にあるんだから。
        君にも、過去のどんな文豪も超えられる可能性が秘められているのだけど……どうする?」

 彼女の声に、彼は、決意に満ちた声で返事をした。


   ('A`)乱立し、立ちふさがるかつての遺産ζ(゚ー゚*ζ  了


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