ボーンチャイナのようです

51 :5レスだ!名無しさん :2013/09/27(金) 21:41:55 ID:HRc9QPjE0
山奥の工房に、一人の磁器職人がおりました。
名前はブーン、いつもニコニコと笑顔でいる風変わりな男です。
ブーンには家族がいません。
お父さんもお母さんもとっくの昔に亡くなって、たくさんいた友人も職人になってからはどんどん疎遠になっていました。
奥さんも最近いなくなってしまったので、彼は本当に孤独でありました。
だけどもブーンは寂しくありません。
彼の工房にも、その隣にある家にも、たくさんの作品が置いてあるからです。
透き通った乳白色のそれらは、ブーンの自慢の子供であり、家具であり、宝物でありました。

書斎に置かれているコーヒーカップとソーサーは、次々あふれでてくるアイディアを取りまとめるお手伝いをしていて。
寝室のチェストに置かれたランプのシェードは天使が降り立ったような真っ白なキノコの形でいつもブーンのいびきを聞いていて。
キッチンの食器棚には滅多に来ない来客のためのティーカップと大皿たちが首を長くしながら待ちわびていて。
居間には、動物をモチーフにした置物たちが床や飾り棚を占拠していて。
バスルームのソープ置き場や見事な薔薇の模様が描かれたシャンプーのボトルさえも、彼の作品でありました。

( ・∀・)「本当に、この家はすごいよ」

( ^ω^)「どこがだお?」

( ・∀・)「だってこれじゃあ、どっちが住人なのかわからないよ」

行き場がなくなって玄関やウッドデッキ、駐車場にまで侵食してきている磁器たちを見て苦笑した友人が、そう言いました。
その彼も、今となっては口をきくこともできないのですが……。

ブーンの、磁器に対する愛は並々ならぬものでありました。
本当は売るのだっていやなのです。
だけどもあまりにもみんなが素晴らしいと口々に讃えて欲しがるものですから、ブーンは決心した時だけそれらを売るようにしていました。
そのおかげで、食器や置物たちはとんでもないような値段で飛ぶように売れていきました。
ですから、暮らしにはまったく苦労していませんでした。

52 :5レスだ!名無しさん :2013/09/27(金) 21:42:28 ID:HRc9QPjE0
ブーンのいなくなった奥さんは、ツンといいます。
どこかの国の血が入った彼女は、くるくると巻き癖のついた金髪と碧い瞳が自慢の、美しい人でありました。
こんな美しい人がどうしてこんな辺鄙なところにいるのかと言いますと、彼女もまた、ブーンの作品のファンだからでありました。
といっても彼女の家族は結婚に大反対したので、ツンはほとんど縁を切るような形でブーンのもとへ嫁いだのでした。

ξ ゚⊿゚)ξ「わたし、ブーンの作るものが全部好きよ」

( ^ω^)「それは嬉しいお」

ξ ゚⊿゚)ξ「ええ」

と、彼女は微笑みます。

ξ ゚⊿゚)ξ「だってずっとそばに置いておけるものね」

ツンは、いとおしそうにティーカップの縁をなぞりました。

ξ ー⊿ー)ξ「どうして兄さんもお母さんもお父さんも、みんなこれの素晴らしさに気づかないのかしら」

( ^ω^)「…………」

ブーンは黙ったまま、引き出しからナイフを取りました。
ツンはそれを見ても微笑んだままでした。

ξ ゚ー゚)ξ「ブーン」

( ^ω^)「ツン」

僕の、かわいい人。

53 :5レスだ!名無しさん :2013/09/27(金) 21:45:46 ID:HRc9QPjE0
山で見る夕暮れというものは意外と禍々しいもので、世界の終わりのようだとブーンはいつも思っていました。

( ^ω^)(少し肌寒くなってきたお)

今日はもうこれで作業を終えようか、とブーンの考えが夕飯のメニューに切り替わった時でした。
山には不釣り合いな黄色いスポーツカーが、ものすごい勢いでやって来るのが見えました。

( ^ω^)(めずらしい、ツンのお兄さんの車だお)

二度か三度しか見たことがありませんが、それはたしかにツンの兄であるギコの車でありました。

まもなく車は、乱雑に駐車場に停められました。

(#,,゚Д゚)「…………」

鍵もそのままに、車から出てきた彼は真っ赤な目をしていて、ブーンに掴みかかりました。

( ^ω^)「お兄さん、こんばんは、お久しぶりですお」

それでもブーンはニコニコと友好的に笑いかけました。

(#,,゚Д゚)「ツンをどこにやった」

ギコの言葉に、ブーンは不思議そうな顔をしました。

( ^ω^)「ツンならいますお?」

54 :5レスだ!名無しさん :2013/09/27(金) 21:46:27 ID:HRc9QPjE0
(#,,゚Д゚)「とぼけるな!」

ギコはブーンを突き飛ばし、馬乗りになってめちゃくちゃに殴りました。

(,,゚Д゚)「ツンの携帯に連絡しても、なにも返ってこない、お前がなにかしたんだろう!」

( ^ω^)「誤解ですよ、早とちりですね」

やおらブーンはギコを突き飛ばして、体を起こしました。意外と彼は力があるのです。

(,,゚Д゚)「このっ……!」

( ^ω^)「ツンに会わせてあげますよ」

ギコの手を掴み、立たせてやりながらブーンは言いました。

家の中に入り、床に並んだオブジェたちを倒さないように歩きながら彼らが向かった先は、キッチンの食器棚でありました。

(,,゚Д゚)(なんてデカさだ)

天井といっしょくたにくっついてしまっているそれを見上げながら、ギコは思いました。
どこからか持ってきた脚立に登ったブーンが上から取り出したのは、ゴブレットでした。
長くすらりとしたステムはいまにもおれてしまいそうですが、プレートがしっかりしているので倒れる心配はしなくてよさそうです。
まんまるい形のボウルには、山の風景が事細かに描かれていて、ひとつの絵画みたいで、それはどうも、ブーンたちの住んでいる山がモデルになっているようでした。
それらは光を受けて、乳白色の生地からぼんやりと浮かび上がるようになっていてとても美しいものに見えました。

(,,゚Д゚)「……ツン?」

これが?というように、ギコは呟きます。

55 :5レスだ!名無しさん :2013/09/27(金) 21:47:10 ID:HRc9QPjE0
脚立から地面へと降り立ちながら、ブーンが言います。

( ^ω^)「僕が作っている磁器というのは、ボーンチャイナという種類でして」

ボーン、という響きを聞いた瞬間、ギコの顔からみるみるうちに血の気が引いていきました。

(,, Д )「お前は、お前は……!」

( ^ω^)「ああ、お兄さんもご存知ですかお?」

(#,,゚Д゚)「人殺しめ!!」

掴みかかろうとするギコを避けて、ブーンは思いきり腹を蹴りました。

(,, Д )「ぐっ……!」

( ^ω^)「心配しなくても、ツンと一緒にさせてあげますお」

兄妹仲がいいのに離ればなれにするのはあまりにも可哀想だから。
その言葉を最後に、ギコの意識は途切れました。

食器棚に、また作品が増えました。黄色いスポーツカーがボウルの真ん中に鎮座するゴブレット。
山の風景が描かれたゴブレットの隣に置かれたそれは、不釣り合いでしたがブーンはとても気に入っていました。

( ^ω^)「ずーっと一緒だお」

よかったね、と彼は笑いかけて、梯子を降りて、また工房へと向かいました。


ボーンチャイナのようです


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