( ´_ゝ`)種も仕掛けも無いようです(´<_` )

325 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 16:54:40 ID:fTQiaUqo0
(´<_` )「さぁ、やっと出番だ」

ズボン吊りの派手なバンドをぐっと伸ばして肩に引っ掛け、オトジャは呟いた。

(´<_` )「全く待ちくたびれた。早く舞台に立ちたいな」

「オトジャ」

(´<_` )「なんだアニジャ」

|;´_ゝ`)「出たくない。俺、出たくない」

(´<_` )「なに?」

|;´_ゝ`)「出たくない。戻ろうオトジャ」

(´<_` )「なんだ、またか!
      本番直前になってそういう事言うの
      よしてくれっていつも言ってるじゃないかアニー!
      俺まで気が滅入っちまう」

|;´_ゝ`)「こんなの嫌だ。もう……もう嫌だ、耐えられない。見られたくない」

(´<_` )「この馬鹿。それじゃ俺らこれからどうやって生きていけるっていうんだ?
      見られたくないなんて言って見ろ、どこか貧民街の路地裏で惨めに野垂れ死ぬだけだぞ」

326 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 16:55:23 ID:fTQiaUqo0
|;´_ゝ`)「それでもいい。俺、俺、もういっそ死んでしまいたい……」

(´<_` )「生憎だけど俺はまだ死にたくない。駄々こねてばかりいないでさっさと来な」

|;´_ゝ`)「嫌だよ……そんなにショーに出たいなら、お前だけ出れば」

(´<_` )「つまらない冗談はよせ。俺だけ出れるわけ無いだろが」

|;´_ゝ`)「オト……オトジャおかしいよ、なんで平気なの?
      俺、もう嫌だ。死んでしまいたい。今すぐ死んでしまいたい」

(´<_`;)「おい、もうクックルが舞台袖に引っ込んだ!遅れると団長に仕置きされるぞ!」

|;´_ゝ`)「嫌だ、俺、行かないよ!行かないったら!!」

(´<_`;)「この、馬鹿!早く来いったら!あっこの、柱に掴まるな!!」

|;´_ゝ`)「嫌だっ嫌だぁっ!出たくない!出たくない!!」

(´<_`;)「団長に殺される!!」

|;´_ゝ`)「嫌だ!もう見世物になるのは―――」

(´<_`;)「うわっ!」

|ミ(;´_ゝ`)「わ、わっ!」

ズルッ

ドテン!

327 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 16:56:45 ID:fTQiaUqo0
支柱にしがみつくアニジャをなんとか引き剥がそうと奮闘するオトジャが
揃いの、スカートみたいにだぶだぶのコーデュロイのズボンに足を取られ
よろけた拍子に足元の、自分達の曲芸道具が詰められた重い木箱につまずいて
不格好にもつれあったまま、ステージ上へと2人仲良く転げ出る。


(;´_ゝ`)「「あ」」(´<_`;)


蹴飛ばされひっくり返ったそれは、まるで秩序の無いおもちゃ箱のようで
幾つものカラフルな玉がポンポン飛び跳ね、クラブやリングが散らばり転げて
ガシャガシャ、コロコロ、カランカランと、唖然とする2人の周りで虚しい音を立てた。


…ざわっ…


一瞬しぃんと静まるテント内に、観客が息を飲む音。
バァアン!一拍遅れて、古いオルガンの不協和音がかき鳴らされる。

328 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 16:57:30 ID:fTQiaUqo0


『……さぁさぁ皆様お待たせいたしました!
次にお目にかけますは、世にも奇妙な運命の双子!
そっくり同じ2つの顔に、くっついた1つの体!』

『“The Siamese Twins”!サスガ兄弟ィー!!』


(;´_ゝ`)「………」

(´<_`;)「……団長の仕置きはお前だけにしてもらうからな」

共に間の抜けた蛙みたいな格好で床に這いつくばりながら
眩しい照明と沸き立つ観衆から顔を背ける兄、アニジャ・サスガに向けて
オトジャ・サスガは忌々しげに呟いた。

329 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 16:58:40 ID:fTQiaUqo0
(´<_` )「まったく!アニーのせいで結局俺まで酷い目にあった。いつもこうだ!
      いいか?俺は、もう二度とこんなことはごめんだからな。わかったかアニー」

(;´_ゝ`)「……だって」

(´<_` )「だっても何も無い。頼むから、もううだうだ言うのは止してくれ」

(;´_ゝ`)「オトジャ……ごめん」

(´<_` )「ふん」

(;´_ゝ`)「……お前は嫌じゃないの」

(´<_` )「俺はアニスとは違う。現実主義なんだ。アニーは弱虫だ。現実を受け入れられない」

(;´_ゝ`)「お、おれは。俺は、ただ。ふ……普通の、」

(´<_` )「なんだ。”普通の人みたいに生きたいだけ”か?
      そういうところが甘いんだよ。叶いもしない夢に縋って現実から逃げてるだけだ」

(´<_` )「こっから逃げ出したいなんていつも言うけれど、それこそ馬鹿みたいな夢だよ。
      俺らみたいな奇形の孤児なんざ、飢えて惨めに野垂れ死ぬかもしくは
      此処よりもっと下品で悪趣味なフリーク・ショーに売りに出されるだけさ」

(´<_` )「どこへ行ったって同じだよ。
      四六時中俺の隣で泣き言漏らす、馬鹿で愚図な兄がくっついてるせいでな」

(;´_ゝ`)「……オト……オトひどい……」

330 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 16:59:37 ID:fTQiaUqo0

『どうか拍手をご喝采!これこの通り、頭と足とが真っ二つ!
……おや?おや、おや。どこへ行くんですあなた』

切断された上半身のみの男がステージを這いずり始め
それに次いで客席から、耳が痛くなるような女の悲鳴があがる。

(*´_ゝ`)「わぁっ、すごい、すごい!」

カーテン隅の暗がりで木箱に腰かけ
拍手の代わりに片手で膝をパタパタ叩きながら
出番の終わったアニジャは羨ましそうにため息をついた。

( ´_ゝ`)「いいなぁ。ミルナのあの鋸で、俺らの体も綺麗に2つ
      あんな風に見事に切り離してもらえたら、きっと素晴らしいだろうに」

その隣に腰かけたオトジャは呆れ顔で、うんざりしたようにふんと鼻を鳴らす。

(´<_` )「馬鹿言え。知ってるだろう、あんなのトリックだよ。インチキだ。
      何が、種も仕掛けも御座いません、だ。
      あんなくだらない箱に押しこまれて、鋸ギコギコやるだけで
      お前と離れられるんなら苦労するもんか」

( ´_ゝ`)「離れられるとしても、あんまり痛くないといいよね」

(´<_` )「まったくだ」

331 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:00:59 ID:fTQiaUqo0

『おおっとこれは大変だ!下半身の方も逃げ出したぞぉ!』

ショッキングな光景に、とうとう泡吹き後ろ向け、バタンと倒れた女が1人。
派手な衣装とメークの道化達が何処からかヒョコヒョコと寄り集まってきて
彼らの手によって担架に乗せられた女はテントの外へ運ばれていく。

それでもMCの陽気なお喋りで、今や阿鼻叫喚となったショーは続き
巨大な鋸を振りかざす大男ミルナは観客を追っかけはじめ
上半身だけの男は尚もゾンビみたいに呻きのたくり
その下半身はフェンスにぶつかり無鉄砲に走り回っている。

青ざめ逃げ出す腰抜けギャラリーの姿に、舞台袖から下卑た喝采が湧きあがった。


胴体切断ショーの次の演目は、団長お得意の催眠術パフォーマンス。

『スリー、トゥー、ワン!コケッコー!
さぁ、貴方はもう鶏です!』

指名された客席の男が1人、あっという間に馬鹿みたいな暗示をかけられて
鶏になりきりコッココッコと滑稽にリングを跳ね回る様に、アニジャもオトジャも声をたてて笑った。

332 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:02:59 ID:fTQiaUqo0

(´<_`;)「畜生、ヒートのイカれ頭め」

悪態を吐くオトジャの体の上には重い榑木が倒れこんできていた。


炎使いのヒートは、燃え盛る火を見て興奮する異常性癖の持ち主だった。

夜興行の終わった真夜中、何が引き金となったのかそれは知る由も無いが
元々お粗末だった彼女の頭の箍が、とうとうピンと跳ねて外れて飛んでいったらしい。
抑えきれぬ衝動が、無垢な悪魔のようにヒートを唆し行動に走らせたのだった。

彼女は誰もいない楽屋に忍びこみ、舞台用の衣装とメークで滅茶苦茶に着飾って
ショーで使う松明にたっぷりと油を染み込ませ、それを持ってテントじゅうに火をつけて回り
自身もジプシー風のドレスに燃え移った火によって、ケラケラ笑いながら焼け死ぬという
傍迷惑なファイヤーショーを踊るようにこなしてみせた。


あっという間に火はサーカステントから、寝泊り用の掘っ建て小屋にまで燃え広がって
焦った猛獣使いが、愛しの動物達を逃がそうと檻の鍵をガチャガチャ開けて回ったものだから
火を見て狂ったように暴れ回る、襲いかかる虎や豹・ライオン達から団員達は恐慌の中逃げ惑い
崩れた木材に出口を塞がれたその大半は、猛獣に喰われるか、外へ出られず焼死して
真っ先に逃げ出そうとした団長はといえば、突進してきたゾウに踏み潰されて死んでしまった。

333 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:05:06 ID:fTQiaUqo0
幸い兄弟は動物達の檻からは離れた平屋で寝ていたとはいえ
轟々と炎上するサーカステントから、今まさにこちらへ這い迫りくる炎に
上を下への大騒ぎの中、むくつけき男達のパニックにもみくちゃにされ
あっと思った時には、大がかりな木製の仕掛け台やら材木がバランスを崩し倒れてきて
運悪くオトジャがその下敷きになってしまったのだった。

皆から置き去りにされ、周りを炎に取り囲まれて
身動きできないオトジャが呻き、彼から離れられない運命のアニジャが叫ぶ。

(;´_ゝ`)「団長ぉー!誰かぁ―――!!」

(;´_ゝ`)「クックルー!!助けてー!!」

(´<_`;)「無駄だよ馬鹿。
      知ってる癖に。あいつの怪力芸なんてただのインチキさ」

(´<_`;)「偽物の鎖を大げさに引きちぎって、鉄に見せかけたハリボテをへし折ってただけだ。
      仮にもしあの鳥頭の阿呆が助けに来たって、何の役にも立つもんか。
      諦めるんだな」

同じようにうつ伏せに倒れたまま
必死で、オトジャの自由を奪う仕掛け台を押しのけようとするアニジャだったが
まるでギロチン台の板枷にも思えるそれは、彼の頼りない片腕ではビクともしない。

334 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:06:43 ID:fTQiaUqo0
(;´_ゝ`)「誰かー!オトジャを助けてー!俺らを助けてよー!!」

(´<_`;)「……」

(´<_`;)「俺のことは置いて、アニジャだけでも逃げろ……
      なんて言いたいとこだけど、そうもいかないのが嫌になるな」

(-<_-;)「はぁ~あ。つまらない人生だったなぁ……
      生まれて早々、こんなケチでしがないサーカス団に売られ、見世物として働かされて。
      おまけに隣には鈍臭いお荷物の兄が四六時中くっついてて俺の邪魔ばかりするし」

(-<_-;)「そうして今度は俺の方が足手纏いってわけだ。
      あ~あ~、情けないな畜生」

(;´_ゝ`)「オ、オトジャ……俺達死ぬのかな……」

(-<_-;)「死にたいとかブツクサ言ってたのはどこのどいつだ。まったく。
      ああ死ぬんだよアニジャ。ドジでひねくれ者の弟のせいでな」

335 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:07:44 ID:fTQiaUqo0
(;´_ゝ`)「なんとかがんばって、抜け出そうよ。ね、オト。
      死にたいなんて言ったけど俺、お前が死ぬのは嫌だよ」

(-<_-;)「……。俺だってアニーが死ぬのなんか嫌だよ。
      ごめんなアニジャ。ああ畜生。
      本当に、今こそミルナの鋸で体を切り離してもらえたら良いのになぁ。
      そうしたら、お前だけでも逃がしてやれるのに。畜生め」


2人が寝ていた粗末な小屋には、舞台で使う小道具や雑用品の数々が
何人かの団員達と一緒くたになって、乱雑に押し込まれていた。

傍にあった大砲用の砲丸か、火薬にでも着火したのだろう。
ドカン!2人のすぐ近くで激しい爆発が起こった。

(;>_ゝ<)「ぎゃー!!」

バチバチッ!

花火の爆ぜる音がして、ピンクやブルーの鮮やかな炎が視界を眩ませる。

336 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:08:56 ID:fTQiaUqo0



『スリー、トゥー、ワン!』



パチン!



『さぁ、2人の体はくっついた。
もうお前達の体は離れられない!!』



.

337 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:09:41 ID:fTQiaUqo0

(;´_ゝ`)「!?」

爆発の閃光により真っ白になったアニジャの脳に
稲妻のように、強烈なフラッシュバックが走る。

とっさにアニジャは、慌てて服の繋ぎ目を裂き
繋がっている筈の、自分達の身体を見た。

そうして、信じがたい現実を知る。

(;´_ゝ`)「……あ!」


―――なんてことはない。


自分はこの双子の兄弟と
くっつけて仕立てられた、不格好な揃いの服の下
お互い奇妙な形で、腕を絡ませていただけだったのだ。

338 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:10:30 ID:fTQiaUqo0
なぜ??

なぜ今まで自分達の体がくっついているだなんて、思い込んでいたのだろう。

団長。催眠術パフォーマンス。

アニジャは全てを理解した。

あの金銭欲剥き出しの、狐のようにズル賢い団長に
客寄せの為お金の為に、自分達は体の結合したシャム双生児だと
兄弟揃ってずっと、強力な暗示をかけられていただけだったのだ。

サスガ兄弟のアニジャとオトジャは、奇形でもなんでも無い。

二着繋がった可笑しな服を着させられた、どこにでもいるただの双子だった。


(;´_ゝ`)(なんてことだろ)

(;´_ゝ`)(怪力男のクックルや、ミルナの胴体切断ショーと同じ。
      結局みんな、みんなインチキだったんじゃないか……)

339 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:11:53 ID:fTQiaUqo0
不自然な形に捻じ曲がり、ギチギチに固く絡ませ合った彼と自分の左腕と右腕は
長い時間そうしていた為痛みも伴うだろうが、そうしようと思えばなんとか外せそうだ。

強い暗示の解けた今なら簡単に。

熱と煙で意識が朦朧としているらしいオトジャはそれに気がつかないようで
苦々しげに顔を顰めては、ブツブツと無念を嘆いている。

(-<_-;)「こんなことならアニジャの言うとおり、サーカスから逃げ出して
      野垂れ死に覚悟でも、一度で良いから外の世界へ飛び出してみるんだったよ」

(;´_ゝ`)


火が自分達を完全に取り囲むまで、僅かだがまだ距離がある。

今ならまだ逃げられる。



この腕を解いて、オトジャを置いて―――アニジャ1人なら逃げられる。

340 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:13:49 ID:fTQiaUqo0
(-<_-;)「なぁ。なぁアニジャ。聞いてもいいか?」

(;´_ゝ`)「?」

(-<_-;)「つまらない話、虫の良い話だけど……。
      もしもさ。……もしもの話、だけどさぁ」

(-<_-;)「もしも……もしも俺とアニーが、奇形なんかじゃなくって。
      普通の、どこにでもいるただの双子だったとしたら」

(;´_ゝ`)

(-<_-;)「自由に自分の行きたいとこに行けて、こんな風に
      四六時中ずっと一緒にいる必要なんか、無かったとしても」

(;´_ゝ`)「……」

(-<_-;)「それでもさ」

(-<_-;)「それでも……、燃え盛る小屋の中で、俺が重たい木材に挟まれて
      身動きができなくて、アニジャだけは逃げられるって、状況になったとしたら」

( <_ ;)「……それでも俺を、見捨てずにいてくれるか?」

341 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:15:35 ID:fTQiaUqo0


( <_ ;)「最期まで傍に、いてくれるか?
      オトジャって、名前を呼んでくれるか?
      頼むよアニー。意地悪ばかり言ったけど、1人じゃ心細いんだ」


弱弱しい声で、縋るようにして
オトジャがアニジャに手を伸ばす。

結合しているわけでも無いし、絡まってもいるわけでも無い。
アニジャが掴む必要の無い、左手を。


( ´_ゝ`)


火がすぐ近くまで迫ってきている。



当然答えは決まっていた。

342 :名も無きAAのようです :2015/05/05(火) 17:17:09 ID:fTQiaUqo0


此処は嘘と欺瞞とペテンに溢れた、ケチでしがない虚言の世界で
自分達の売りも謳い文句も、見世物としてのサスガ兄弟の、なにもかも
その全てがインチキだったけれど。


それでも。


( ´_ゝ`)「俺、どこへも行かないよ。オトジャ」


「例え体が繋がっていなくとも、心はちゃんと、こうして繋がっているからな」


天井の梁が崩れ、火を纏った木材が
互いに離れることのできない体を持つ、不具の2人に降りかかる。



彼は頷くとその手を確かめる様に握り返した。






投下作品一覧へ