片づけられない( ´_ゝ`)のようです

2 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:18:23 ID:SGlJFwBk0
夕飯を食べ終わり自分の部屋へ戻ると、ふと 流石兄者は
以前から邪魔に感じていた、部屋の隅の大きなダンボール箱を
今日こそ片づけることに決めた。

ノートPCを置いている机の横に、いつからか分からない程昔から置いてある
引っ越しに使うような特大サイズのダンボール箱で、もちろん自分の物では無いのだが
もうずっと以前、かつて物置だったこの場所を自分の部屋にした時からそこにある代物だ。

ティッシュ箱や耳かきなど細々とした小物、漫画本なんかを置く台としてはなかなか良く
今まで特に気にすることも無しにそのままにしていたのだが、所詮材質は紙。

つい先週のこと、古くなって端の一部の留めが外れ
ついに半壊してからは、邪魔になって仕方が無い。

本や小物を上に乗せても、歪に傾いている為ズルズルと滑り落ちてしまうし
何より開いたその隙間から覗く、はみ出た中身が気になって気持ちが悪い。

正直、夕方までのバイトで大分疲れていて、とてもそんな面倒な作業を
よりにもよってこんな時間にすすんでやろうという気にはなれなかったのだが
それでも明日は休みなので、この邪魔な箱を片づけ終わったら
代わりにそこに置けるような、傾いていない素直な台を
探しに出かけるのもいいなという、そんな、軽い気持ちだった。

ダンボール箱一つ、せいぜい1時間程度で片がつくだろう。
その甘い見積もりが大きな間違いであったことに、兄者は大分後になって気づく。


昔の長持ちのような風格を持つそのでか箱の中身は、まさに魔境だった。

3 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:19:39 ID:SGlJFwBk0



片づけられない( ´_ゝ`)のようです


.

4 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:20:24 ID:SGlJFwBk0
(´<_`;)「うわ、なにやってんだ」

パンパンに詰められた幾つものビニール袋や、積み上げられた古い本の山に囲まれ
散らばった紙の束をまとめつつ、その中心に埋まるように座りこむ兄の姿を見て
先程から彼の部屋から聞こえる騒々しい物音に様子を見に来た弟は、呆れ声で言った。
  _,
( ´_ゝ`)「掃除」

それに対し、少々うんざりした様子で短く答える兄者。

トントンと床で慣らし端を揃えた紙を、一応分類されているらしい
床の上の束の一つへと、投げやりに積む。

(´<_`;)「こんな時間にやることじゃないだろ……」
  _,
( ´_ゝ`)「俺もそう思ってるとこ」

ちなみに、彼の周りに乱雑に転がっている重たいビニール袋の数々は、どれも
ゴミとしてまとめたそれでは無く、今しがたダンボール箱から苦労して引っ張り出した物だ。

中に詰め込まれていた物は、ほとんどが自分達が子供の頃のノートや教材類だった。

何年分もの教科書や問題集はもちろん、プリントの束もこれだけ集まれば、重いのなんの。

こんな品々を未だ捨てもせず大量に溜めこんでいる母者の妙なこだわりに辟易し
バイトの疲れや夕飯後の気だるさも相まって、ほぼ手つかず状態の今現在
スタート地点から既に降参の白旗をあげてしまいたくなるような心境だった。


それでも一応袋を開けて中身を確認する作業に取り組む兄者を見て
彼が以前から突発的に部屋の模様替えや大掃除を始める癖があることを知っている弟者は
またかという顔をして、それ以上何も言わず部屋を去っていった。

5 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:21:18 ID:SGlJFwBk0
ガサゴソと2つ目のビニール袋を開き、中身が同じく小学校の教材であることを確認した時
肺が痞えるような息苦しさを感じて、兄者は慌てて使い捨てマスクを一枚引っ張り出した。

何年もそこに置かれていた古いダンボール箱は、箱にも床にも恐ろしい程埃が溜まっていて
さらにその封印を解いて荒々しく中を引っ掻き回した今、自分のいる場所を中心に
目には見えないがかなりの量の塵や埃が飛び、空を舞っている筈だった。

昔から、埃っぽいのは大嫌いだ。

しっかりとマスクを顔に装着し、再び床に腰を降ろす。
肩を回して袋の中身の分別作業に取り掛かった。

6 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:22:03 ID:SGlJFwBk0
最初の袋の中身は主に、『流石兄者』と下手糞な字で名前の書かれた教材類だったが
次の袋には弟者の物が詰め込まれていた。次も弟者の。いずれも小学生時の物だ。

自分の物でさえこういった物はどう扱っていいのかいまいちよく分からないのに
他人の物となると、ますますどうしていいのか分からない。

こんな物、いくら残しておいたって
この先何かしら役に立つ機会があるとは決して思えないのだが。

それでも彼の母親は昔から、こういう物を捨てるのを嫌がる。

今こうして苦戦を強いられているこれなんか、ほんの氷山の一角だ。

下の階の、最早物置と化した亡き爺者の部屋には今も
中学・高校の頃の教材はもちろん、ジャージや制服、上履き・外靴。
ボロボロの学生カバンまでもが、山と積まれて眠っているのだから。

思い出して気が遠くなりかけた。いくらなんでも捨てられなさすぎだ。

正直、貧乏性ともとれる母のそういうところが兄者はあまり好きでは無い。

掃除のついで、いい加減捨てようと言えば怒るし
実際、どうしても邪魔なのでいくつか捨てることになった時もあまり良い顔はしない。

7 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:23:23 ID:SGlJFwBk0

“子供の物はなかなか捨てられない”のだそうだ。

自分がにべもなくゴミだと言ったそれを見ながら、寂しそうに呟いた母者の顔がよぎる。

そんな風に言われてしまうと、自分の物でさえ
捨ててしまうことがなんだか悪いことのように思われて
なんとなく毎回、処分するのを躊躇ってしまう。

そうして結局今日も、捨てる物は最小限に留め
他は爺者には悪いが例の一階物置部屋に移動させるだけにすることにした。

とりあえず、教科書、問題集、テスト類など、がんばった感がある物(?)は残して
学校からのお知らせとか、チラシとか、明らかに要らない物だけ分類することにしたのだが
その基準で考えると、どう考えても捨てられる物が少なすぎる。

だって仕方ないじゃないか。これは俺の物であって俺の物じゃないんだ。
疲れていたので、もうあれこれ考えるのは止めてとにかく手を動かすことにした。


こうして、要らない物は減らない一方これからもどんどん増え続けるというわけだ。

あーやれやれ。

8 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:24:21 ID:SGlJFwBk0
( ´□`)「お」
   ↑マスク

5つ目のビニール袋を開封する。
自分や弟者の物に比べると量が少ないが、妹者が幼稚園の頃の物が出てきた。

年の離れた末の妹、妹者は今年小学4年生。

もちろんそれまでの教材やなんかも、全て母者が大切に保管している。

出てくる出てくる、園で描いた拙い絵や、お遊戯で作った紙人形。
何故か潰れた折り紙まであった。一体何の動物だろう?

割り切って言ってしまえば、どれもこれもただのゴミでしか無いのだが
黄色い帽子を被って、無邪気に笑う妹者の顔を思い浮かべると
何故かそれら全てに愛着を感じずにはいられなかった。

うーん。親では無いが、確かにこれは簡単には捨てられないかもしれない。

なんとなく、少しだけだが母者の気持ちが分かった。気がした。
量が少ないので分別はすぐ終わり、ほっこりとした心持ちで袋の口を閉じる。

9 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:25:35 ID:SGlJFwBk0

ここで、兄者ははたと ある疑問を抱いた。

姉者の物が一つも無いじゃないか。

自分と弟者の物はもちろん、妹者の物でさえ少ないながら
こうしてちゃんと残されているというのに。

( ´□`)「……」

―――が。よくよく考えてみれば
それもあまり不思議なことでは無かった。

10 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:27:42 ID:SGlJFwBk0
何故かは分からないのだが、ずぅっと昔から
年の離れた姉と、両親との関係は上手くいっておらず
今も姉者だけが家から遠く離れた場所で1人暮らしている。

家には全然帰ってこないし、我が家では彼女の話はほぼタブーのような扱いだ。

それを考えれば、悲しいことだが姉者が子供の頃の物が全く残されていないのも頷けるし
そもそも家を出る時に自ら処分した可能性だってある。

両親と姉との間で一体何があったのか、兄者は知らない。

母者や父者に聞いても嫌な顔をされるだけだし、姉者も詳しくは教えてくれなかった。

弟者でさえ姉者の話はあまりしたがらない。
まぁ、弟の場合は自分と同じく、姉のことをほとんど覚えていないだけなのだろうが。

11 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:28:48 ID:SGlJFwBk0
それでも―――仮にも、家族なのに。

子供の頃から、みんなが姉を厄介者のように扱うことが兄者は嫌だった。

他の家族がどれだけ彼女のことを嫌い、ないがしろにしようとも
遠い日のおぼろげな記憶ながら、優しくしてくれた姉者のことを
心の中では今も、ずっと慕い続けていた。


……当時、包容力ある大人の女性である姉に対し
子供ながらに憧れにも似た淡い恋心のようなものも
密かに抱いていたことは、正直言って認めざるを得ない。

12 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:29:34 ID:SGlJFwBk0
(;´□`)「うわっ!」

箱の隅に積まれていたガビガビの絵具や画材を片づけていたら
持ち上げた箱の隙間から、砕けたコンテの塊が零れ落ちてしまった。

服に少しついた上、床にも色鮮やかな粉が細かくバラ巻かれる。最悪だ。

慌てて擦れば余計広がって、落胆と苛立ちをますます募らせる。
床は後で水を絞った雑巾で綺麗にするとして、無理矢理紙袋に押し込んだそれらを
ガシャガシャと音を立て一階へと運び、乱暴に物置部屋に放り込んだ。


あれだってもはやみんな乾ききってしまって、一つも使える絵具なんか残っていやしない。
絵具も、筆も、パレットも。これから先二度と使われることなんか無いに決まっているのに。

それでも母者は捨てるのを渋るのだろう。

みんな役にたたない物ばかり。ゴミだ。ゴミばかりじゃないか。

13 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:31:44 ID:SGlJFwBk0
休みなく小学校時代の物を片づけ続けるうち、兄者はなんだかむかむかしてきた。
もういっそこれら全部、今すぐ火をつけて燃やしてしまいたいくらいだ。

こんな物をとっておいて一体どうしろというのか。
花丸の小テストや古い教科書を見たからといって、過去のノスタルジーに浸れるわけでもない。

そんな昔のことなんてほとんど覚えていないし
あったとしてもロクな思い出なんか無いのに。

無意識に脳が追想をはじめる。
母者にはあまり話していなかったが、正直言うと小学校低学年の頃は
友達の作り方が分からなくて、ほぼぼっちのような状態だったのだ。

学校なんかちっとも楽しくなかった。

つまらないことを思い出して、兄者の手が数秒止まった。

14 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:32:36 ID:SGlJFwBk0
幼稚ないじめのような目に遭っていた時期もある。
本気で学校に行きたくない日だって沢山あった。
でも、学校休みたいなんて、母者には怖くてとても言えないから。

そうだ。話を聞いてくれたのは姉者くらいだ。

―――その日はどうしても、どうしても学校に行きたくなかった。

理由はなんだったか、今となってはよく思い出せないが
恐らく大嫌いな体育の授業のせいだったと思う。

先生が例の、2人1組作ってーの呪文を唱えることが分かっていた。
誰も組んでくれない自分を指さされ、いじめっこ達に笑われるのが嫌でたまらなかったのだ。

15 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:35:54 ID:SGlJFwBk0
姉者はその頃には既に家を離れ、アパートを借りて1人で暮らしていた。

「どうしたの?そんな暗い顔して」

学校に行きたくないと話したら、手を繋いで一緒に電車に乗って
アパートの自分の部屋まで連れて行ってくれたのだ。


母者に叱られないか、すごく心配したけれど
大嫌いな学校に行かなくていいのが嬉しくて
それに何より、優しい姉が一日中傍に居て、一緒に遊んでくれたので

「ここでずっと、姉者と一緒に暮らそっか」

冗談めかしてそう言われた時は
本当にそうしても良いと思ったくらいだった。

姉は美味しいおやつや、流行りのロボットの玩具なんかを買ってきてくれた。
ご飯もなんでも好きな物を作ってくれたし、話も沢山聞いてくれた。


秘密基地のようなアパートの部屋で、楽しく過ごした何日間か
とても幸せな気持ちだったのを、兄者はぼんやりと覚えている。

16 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:37:34 ID:SGlJFwBk0

そうして、曖昧にだが多分3日以上はそこに居たと思う。

2人一緒に寝ていたある夜のこと。
何がきっかけだったのか、兄者は喘息の発作を起こしてしまった。

それも割と大きめの。

しかも間抜けなことに、いつも大切に持ち歩いている筈の吸入器を
家に忘れてきてしまったようで、大好きな姉者を困らせてしまったのだった。

姉者が救急車を呼んでくれたのだろう、その後どうなったのかよく覚えていないが
気がつけば病院のベッドに寝かされていて、母者、父者、そして弟者が傍にいた。


みんな心配そうに、横たわる兄者の顔を覗きこんでいた。

だがそこに姉の姿は無かった。


きっと両親と顔を会わせるのが気まずかったのだろう。
もしくは母者に追い返されてしまったのかもしれない。
兄者が尋ねても、誰も何も教えてくれなかった。

18 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:39:10 ID:SGlJFwBk0
アパートに居る間、此処に居ることは家に連絡してあるからと姉者は言ってくれていたが
風邪でも無いのに何日も学校を休むなんて、それがどんなに悪い事か
小学生の兄者にも事の重大さはよくよく分かっていた。

これは、ゲンコツやお説教では済まないかもしれない。

母者には確実に滅茶苦茶怒られるだろう。
流石の父者にも平手くらいは食らうかもしれない。

両親を前にして兄者は震えあがったが、でもそれ以上に
あんなに優しくしてくれた姉が、自分のことで怒られるのではないかと思うと怖かった。


俺が姉者のとこに行きたいって言った
ぜぇぜぇが出たのも吸入器を忘れたのも俺が悪いんだ
そう言って、姉者のことを庇うのに必死だった。

だから姉者のこと怒らないで。何度も訴えた。



そんな息子を前にして、2人は一度も怒らなかった。




その代わり、ただ痛いくらい
母者から強く強く抱きしめられただけだった。

19 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:41:19 ID:SGlJFwBk0

………。


考えてみればあれからずっと、姉者とは会っていない。連絡も無い。

小さな妹者なんて、生まれてから一度も会ったことが無い筈だ。


アパートの部屋に初めて連れられて来た日の夜
姉者は、母者達との関係が上手くいっていないことを打ち明けてくれた。

どこか遠くを見ながら、寂しそうに笑う姉者。
俺にできることある?そう聞くと、彼女は優しく微笑んだ。


大丈夫、今は兄者がいるから寂しくないわ。


そう言って、そっと頭を撫でた柔らかな手。

20 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:44:20 ID:SGlJFwBk0
もしかしたら、例の発作の件のせいで
姉者はあれからますます家族から疎遠にされてしまったのかもしれない。

母者は何も話してくれないし。
あの日、自分のフとした我が儘がきっかけで
両親との関係をより拗らせる原因を作ってしまったのではないか。

そう思うと、兄者は姉者に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

そうだ。今度、俺の方から会いに行こう。そしてあの時のこと謝ろう。
俺だってもう大学生なんだから、遠い場所だって1人で会いに行ける。

兄者は決めた。
その為にはなんとかして、姉が今暮らしている場所の住所を突きとめなくては。
あのアパートはもう無いし。どうやって調べればいいんだろう。

それに、果たして姉は自分のことを、まだ覚えていてくれているのだろうか……。

21 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:46:12 ID:SGlJFwBk0
( ´□`)「なんか育児書めっちゃ出てきた。
      ……へー、母者って以外とこういうの読んでたんだなぁ」

( ´□`)「本とか頼らないでなんでも直感で行動するタイプだと思ってたけど。
      やっぱ親になるとみんな読むのかね?」

(;´□`)「……な、なんじゃこれ……俺の描いた漫画?この箱のやつ全部か?」

(;´□`)「は、恥ずすぎる……なんでこんなもん残ってるんだ」パラパラ

(;´□`)「し、しかも意味が分からない!一体何を考えていたんだ消防の俺!?」

(;´□`)「見なかったことにして一番下に積んどこ……」ゴソゴソ

(;´□`)「……サバイバル術のごつい本……父者のだな。
      もー、ろくに活用もしない癖に」

( ´□`)「………」

( ´□`)「叔母者からの手紙か……。ふーん……」

( ´□`)「あっ、この絵本なつかしー」ペラペラ…

( ´□`)「………」

Σ(;´□`) …ハッ‼


/(;´□`)\「あ、あああああああ!!だ、駄目だ駄目だ駄目だ!!!」


ボロボロの絵本を放り投げ、兄者は頭を抱えた。

22 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:47:13 ID:SGlJFwBk0
/(;´□`)\「これはよくある、
         『掃除中に昔のアルバムとか見つけると大体悲惨なことになる』
         パターンのやつだ!!!」

気がつけば、自分の周りはよく分からないごちゃごちゃした物で埋め尽くされて
ただでさえ狭い部屋の半分が既に、魔の空間に飲みこまれつつあった。

(;´□`)「今何時……、え゙っもうこんな時間!?」

スマホの画面を確認すると、もう日が変わる一歩手前の時間まで迫っている。


ああ。

自分は、なんという大型モンスターに
スライム退治レベルの軽い気持ちで挑んでしまったのだろう。

過ちに気づいた時には既に手遅れだった。兄者はがっくりと項垂れた。

23 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:48:34 ID:SGlJFwBk0
(;´□`)「……っはぁ」

(;´_ゝ`)つ◇「―――はぁっ、はぁ」

息苦しさが喉元まで迫ってきて、剥ぎ取るようにマスクを外した。
胸の痞えを取るように、トントンと鎖骨の下辺りを叩く。


(;´_ゝ`)「ったく……ほんとにもう……。こんな物ばっかり……」

小学生の頃描いた下手糞な漫画や絵、何冊ものスケッチブック
母の日に書いた作文、子供っぽい賞状。自由研究の作品に読書感想文。

自分の物も、弟者の物も、妹者の物も
子供の頃の物は全て、一つも捨てられることなく大切に残されていた。


ただ一つ、姉者の物を除いては。


うんざり度はもう限界を超えていて、兄者は段々腹が立ってきた。

24 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:50:18 ID:SGlJFwBk0
ダンボール箱を片づけることを決めてから既に二時間以上経っているのに
忌々しいその箱は未だちっとも片けることが出来ないで部屋にどっしりと居座り続けている。

それどころか箱の中からは次から次へ自分の手に負えない物ばかり出てきて床を散らかし
辺りは物だらけで掃除もできないし、空中に漂う埃のせいでさっきから息苦しい。


そして何より、あまりにも姉者の物が無さすぎる。


まるで―――姉者なんて最初から、この家に存在しなかったかのように。

子供の物はなかなか捨てられない なんて言っておいて、これはあんまり酷いじゃないか。

25 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:51:38 ID:SGlJFwBk0
(; _ゝ)「………」

兄者はふらりと立ち上がった。

もういいや。
やっぱり、要らない物は要らない物だ。
せめて自分の分だけでも捨ててしまおう。

大きなゴミ袋を貰いに、階段を降りて台所へ行った。


母者はまだ起きていた。
洗い物を済ませ、机の上で家計簿と睨めっこしている。
ゴミ袋の場所を聞くと、シンクの引き出しを指さされた。

( ´_ゝ`)「……」

( ´_ゝ`)「……母者」

呼びかけると、母者は顔をあげて兄者の方を見た。

26 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:54:40 ID:SGlJFwBk0

( ´_ゝ`)「なんで姉者のこと……そんなに邪険にするんだよ」

姉者、の名前を出すと、母者は面食らったような顔をした。

(;´_ゝ`)「昔何があったのか、知らないけどさ……。
      それにしたって酷いじゃないか」

(;´_ゝ`)「姉者だって家族だろ?なのに、子供の頃の物も一つも残さないで」


声が震える。言葉が止まらない。

27 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:55:49 ID:SGlJFwBk0




       「母親も、父親も、誰も。みんな、私のことなんか好きじゃないの」


                         「ひとりぼっちなの、私……」




実の親に疎まれて。家族から1人孤立して。

みんなから、忘れられていって。


姉者が 姉者があまりにも 可哀想だった。

28 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:57:06 ID:SGlJFwBk0
(;´_ゝ`)「……姉者、寂しがってたよ?
      今更……、もう、遅すぎるかもしれないけどさ。
      でも、せめて元気かどうか、連絡」

(;´_ゝ`)「くら、い」


母者は―――

不可解な表情を浮かべ、兄者の顔を凝視していた。


(;´_ゝ`)


しまった。

彼の胸中に早くも後悔の念が浮かぶ。
自分は何を言ってしまったんだ。

29 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 19:58:08 ID:SGlJFwBk0
終わらない片づけと、一階と二階との往復でもうクタクタで、眠くてつい
自分が何を言っているのかもよく分からないままに口を開いてしまった。

母者は何も言わない。

ただ目を見開き凍りついたように固まっている。

や、やってしまった。

(;´_ゝ`)(やばいやばいやばいやばい)

なんとも愚かな真似をした。禁忌を破ってしまったのだ。

兄者は無意識のうち、心の中で神に命乞いをした。
母者怒りの、制裁という名の鉄拳が飛んでくることを覚悟し、避けられない死を悟る。

30 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:00:19 ID:SGlJFwBk0
Σ(;´_ゝ`)「!?」

だが、身構える兄者に
次の瞬間 違う意味での衝撃が飛んできた。

(;´_ゝ`)「母者」


何が起こったか、彼が理解するより先に―――
母者はそのまま顔を逸らして、声も無く泣き出してしまった。

母者が……あの母者が泣くなんて。

頼もしかった肩が小さく震えている。


(;´_ゝ`)(そんな)

(;´_ゝ`)(俺はそんなつもりじゃ)

31 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:01:27 ID:SGlJFwBk0

(;´_ゝ`)「は、母者、ごめん」

(;´_ゝ`)「ごめんね」

それしか言えなくて、逃げるように台所を後にした。
部屋に戻り、脱力して床にへたりこむ。


(; _ゝ)(馬鹿野郎)

―――馬鹿なことを。

なんて、馬鹿なことを言ってしまったんだろう。
自分なんか何も知らない癖に。

(; _ゝ)(母者が一番辛いに決まってるのに)

姉者の母親であるあの人が 誰より一番、辛いに決まっているのに。

なのに何の考えも無しに、あんな責めるようなこと言って。
俺は馬鹿だ。流石馬鹿者だ。

いくら己を責めたところで、母者を泣かしてしまった事実は変わらない。

胸がギュッと苦しくなる。

32 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:03:56 ID:SGlJFwBk0
本当ならあのまま、部屋へ逃げ帰ったりせず
母者の気持ちが落ち着くまで、傍にいてあげるべきだったのだろう。

(; _ゝ)「……!……っはぁ」

だが、耳障りな胸の風の音を聞かれたくなかったのだ。

(; _ゝ)「はぁ、……ハッ、ひ」

(; _ゝ)「はぁーッ、ハァッ!ハーッ……!」


ヒュウヒュウと、胸に響く不愉快な風の音。


喘ぐように、大きく酸素を吸おうとする。なのに。
息が。息が上手く肺に届かない。息をしたい。胸が痛い。
肺の音が濁り、徐々に大きくなって、酸欠で頭がクラクラする。


息が吸え、ない

33 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:05:24 ID:SGlJFwBk0
(; _ゝ)「―――ヒィッ!ヒッ」

(; _ゝ)「、ぐ」


苦しい。


息ができない。息ができない。


                                          「姉者たすけて」


息ができない。息ができない。息ができない!


苦しくて、それしか考えられなくなって、無我夢中で鞄を漁った。早く。早く。

前ポケットから小さな袋を引っ掴み、もどかしい思いで留めを外す。

中から取り出した吸入器を、急いで口に当てた。

34 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:06:35 ID:SGlJFwBk0






              カシュッ





.

35 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:07:37 ID:SGlJFwBk0






          「いやだ、病気持ちなの」





.

36 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:09:27 ID:SGlJFwBk0



そうだ。吸入器は家に忘れてなんかいなかった。ちゃんと持っていた。



でも、何回やってみても効かなくて。

パニックになって 苦しくて 意識が朦朧として。



          それを見て 服を 脱ぎかけた女の人が


                        冷やかな 声で言ったのだ。

37 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:11:39 ID:SGlJFwBk0
片づけられない( ´_ゝ`)のようです 1

40 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:14:47 ID:SGlJFwBk0

片づけられない( ´_ゝ`)のようです 2



みんなひどいよ

41 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:16:13 ID:SGlJFwBk0




片づけられない( ´_ゝ`)のようです 3



.

43 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:17:51 ID:SGlJFwBk0


片づけられない( ´_ゝ`)のようです 4


「気持ち悪い」

44 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:18:56 ID:SGlJFwBk0


どうしても


どうしても顔が思い出せない。


そこだけぽっかりと、大きな穴が開いたように
クレヨンで塗りつぶしたかのように、目も口も鼻も、何も無い。


真っ黒だ。

真っ黒の顔だ。

45 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:19:44 ID:SGlJFwBk0



大好きな姉者の顔も




                   ∬■■■)




                              あの 新聞の女の人の顔も。



.

46 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:20:48 ID:SGlJFwBk0

味わうように、確かめるように
深く、ゆっくりと息を吐き出した。

( ´_ゝ`)「……はー」


……ああ。死ぬかと思った。

大げさだけど、本当にそう思うんだよ。このまま死ぬんじゃないかって。


“あの日”を最後にもう何年も、病院に運ばれるような大きな発作は起こしていないが
やはりなかなか完全には治らない。昔から、ひどく動揺したりするとすぐこれだ。

まぁそれ以前に、長い時間部屋の換気もせず
古い埃にまみれて作業していた自分が悪いのだが。

少し休んだら気分も良くなったので、よいしょと立ちあがる。

再びマスクをし、部屋の戸と窓を開け放って埃を外へと逃がした後
そういえば結局、ゴミ袋を貰うのを忘れてしまったことに気がついた。

47 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:22:57 ID:SGlJFwBk0
……まぁ、いいか。何も今すぐ全部捨ててしまわなくとも。
今日はもう遅いし、残りは明日かこの先またいつか片づければ良い。

床に置かれたままの雑多な品々を、手早くダンボール箱に詰め直す。

そうして パタンと蓋を閉じた。

愛用のミニ箒でざっと床を掃いて、雑巾で乾拭きし掃除を終わらせる。
これでも半分くらいは、例の物置部屋へと放り込んだのだから
今日のところはもう、これで良しという事にしよう。

( ´_ゝ`)「ん~………寝るかぁ」

眠い。今日はもう休んで、なにもかも後回しにしてしまいたい気分だった。

自分ではとても手に負えない、箱の中身のことなんか、全て忘れて眠ってしまいたい。

ひょっとしたら寝ている間に、何処かから小人がわらわらやって来て
目が覚めるまでに全部綺麗にしておいてくれるかもしれないし。

なんて阿呆なことを考えながら、さっさと寝る支度を始めた。


何もかも忘れて、都合の良い明日へ。

48 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 20:25:26 ID:SGlJFwBk0

―――――だけど。
心のどこかでは、本当はわかっていたのかもしれない。


片づけられないのではなく、片づけたくないのだということに。


電気を消して布団に潜りこみ、遠くへ行ってしまった姉者の事を想って泣いた。
わかってる。きっともう二度と、自分が姉に会うことは無いのだろう。



喘息はもう治まった筈なのに、ヒュウヒュウと擦れた音をたてる胸の穴が悲しかった。



恋とも愛とも言えないが、確かに”何か”を失ったのだ。


.






投下作品一覧へ