終末絵描きはもう届かないようです

195 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:26:21 ID:jv.85RPg0
(*゚∀゚)「シーン、セックスしよ!」

そう言いながら玄関の戸を開いたつーの目は爛々と輝いていた。

( ・-・ )「どこでそんな言葉を覚えたんだい」

質問するシーンはつーに背を向けたままだ。

(*゚∀゚)「東の村の商人さんが教えてくれたの」

(*^∀^)ノ「同じ家で一緒に暮らしている男と女は夫婦っていって、セックスして子ども作るのが仕事なんだって」

( ・-・ )「極端だなあ」

(*゚∀゚)ゞ「ところでセックスってどんなことするの?」

( ‐-‐ )「言いたくないよ、そんなの。僕はそういう汚いものには興味ないんだ」

196 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:28:04 ID:jv.85RPg0
(*゚∀゚)「シーンが興味あるのはそればっかりなの?」

つーが指したのは、シーンの身体の前に置かれたキャンバスだ。
話している間、シーンはそこから一度も目を離さなかった。

( ・-・ )「そうとも。僕は二次元にしか興味が無いんだ」

描かれているのは身をくねらせた女の子の裸体。
タイトルは『理想の女性像No.52』

このたびシーンはその額の凹凸に力を注いでいた。目につかない場所にこそ美は宿るのでは、との期待からだ。
だが、途中から自身がなくなり、惰性で筆を動かしていた。
着眼点は変わっているが、所詮は小手先の話でしかないと思ってしまったのだ。

( ・-・ )(きっと三日で飽きてしまうだろうな)

そんなふうに、シーンは暗い予想を立てていた。

197 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:31:20 ID:jv.85RPg0
.










終末絵描きはもう届かないようです










.

198 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:33:04 ID:jv.85RPg0
シーンとつーは幼馴染で、アメリカ大陸の五大湖付近にあった地下シェルターで生まれた。
当時は戦争真っ只中だ。頭の上の湖ではいくつものバイオ兵器が培養され、世界中に輸送されて猛威を振るっていた。
十歳になって禁止令が解かれ、外に出てみれば、世界の半分が焦土と化していた。

残された人々とともに南半球の島に移住し、滅びゆくしかない残りの人生を精々謳歌するべく自由奔放に暮らしていた。

それからもう五年も月日が経っている。

つーは何にでも関心を抱く子へと成長した。
聞いたものはなんでも知りたがり、本を読むことが大好き。
得ることばかりを楽しんで、人を疑うってことをまるでしない。

行動だって自由気ままで、部屋で一人ジグソーパズルをせっせとこしらえているかと思えば、ふと顔をあげて「シーン、麻薬ってなに?」などと聞いてくる。

( ・-・ )「吸っちゃだめだよ」

(*゚∀゚)「吸うものなの? 飲み物?」

( ・-・ )「ううん。葉っぱだよ。焼いた煙を吸うんだ。でもやっちゃだめ」

199 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:34:06 ID:jv.85RPg0
(*゚∀゚)「どうして?」

( ・-・ )「狂っちゃうからだよ」

(*゚∀゚)「狂うとどうなるの?」

( ・-・ )「さあ、吸ったことないからわからない」

(*゚∀゚)「でも、持ってる人はいっぱいいるよ。商人さんだってたくさん持っているんだよ」

つーは釈然としないらしく、シーンに向かって口を尖らせた。

( ・-・ )「商人は気にしなくていいんだよ。あれは生まれながらの気狂いなんだ。聖書にも書いてあるんだぞ」

(*゚∀゚)「狂ってもいいからあたしも欲しい」

( ・-・ )「ダメ、させない」

201 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:35:22 ID:jv.85RPg0
シーンのかたくなな態度に、つーは眉を寄せて床を叩いた。
ジグソーパズルが描こうとしていた地球の大自然シリーズ第8408番(鳥取砂丘)はあっけなく散り散りになった。
同じような色合いのピースが多い。組み直すのは大変そうだ。

(#゚∀゚)「なんでシーンはじゃまばっかりするの」

( ・-・ )「君が真っ当になってくれなきゃ、君のお母さんが浮かばれないからだよ」

(*゚∀゚)?「何言ってるの? お母さん、生きているの?」

( ・-・ )「いや、たぶん死んだよ。シェルターの外にいたからね」

(#゚∀゚)「じゃあ、もういないじゃん」

( ・-・ )「……いるんだよ」

シーンは筆を止め、パレットに強く打ち付けた。
大きな音が出たからか、それとも僕の声が低く沈みすぎていたせいか、つーは肩をびくつかせて黙ってしまった。

そのあと、つーはは一日中口を利かなかった。
シーンはスープを作ってつーに流し込み、服を着替えさせ、お風呂に入れ、ベッドに眠らせた。

( ・-・ )(よくあることだ)

淀みはない。

203 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:38:08 ID:jv.85RPg0
シーンは絵が好きだった。
絵さえあればたくさんの人を作ることができた。
特に女の人が好きで、理想の女性を追い求めることに熱を上げていた。

(*゚∀゚)「シーン、その人はどうして仰け反っているの」

ある日つーが尋ねてきた。

( ・-・ )「この方が美しいからだよ」

(*゚∀゚)「でも、背中が折れそうだし、脚もがばっと魚の開きみたいに広がってるよ。変な形」

( ・-・ )「仕方ないんだ。美のためなら多少の辛さには耐えてもらわないと」

(*゚∀゚)「辛い? 絵って辛がるの? 生きてないのに」

( ・-・ )「確かに、生きてもいない。でも、死んでもいない。だから手をかけてあげれば、美しくなるんだ」

204 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:39:09 ID:jv.85RPg0
(*゚∀゚)?「よくわかんない」

つーは首を横に振った。

シーンは彼女を振り向いた。

( ・-・ )「いいかい、つー。現実にあるかどうかなんて重要じゃないんだ」

( ‐-‐)「この世界にはもうなにもない。焼野原だ。北半球なんか毒ガス塗れさ」

(  ‐-)残った人々にも活気なんて無い。皆無だ。狂った商人が怪しいことを吹き込む以外に楽しみも何もないんだ」

( ・ー・ )だけど現実にないものならいくらでも作ることができる。その一番の方法が絵だ。今や美しさがあるのはここだけなんだ」

シーンは熱っぽく語った。

(*゚∀゚)「…………」

が、つーの反応は芳しくなかった。

205 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:41:12 ID:jv.85RPg0
(*゚∀゚)「シーン、あたしたちのお母さんはもういないんだよね」

話が変わったことに驚きながらも、シーンは「うん」と答えた。

(*゚∀゚)「じゃあお母さんは美しいの?」

シーンは答えるのに躊躇した。

母の姿を思い出そうとしたが、かすんでうまく浮かばない。
なにせ実際にあったのはもっとずっと小さい頃の話だ。

こういうときはとりあえず美しかったといえば喜んでくれそうなものだが、つーに限っていえば嘘が利かないと思い、シーンは逡巡した。

そして、僅かばかりのつぶやきをひとつ。

( ‐-‐ )「よく覚えていないんだ」

事実である。

頭を下げるシーンに、つーは何も言わず、ただ「そっか」とだけつぶやいた。

206 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:43:16 ID:jv.85RPg0
つーの心に翳りがさし始めた。

それを痛感したのは、つーの畑の手入れをしていたときだった。

(;・-・ )「これは」

農具の傍に小さな花壇があり、そこに大きな葉っぱの植物が植わっている。
どうみても、それは大麻であった。

急いで家に戻ったシーンは、寝そべっていたつーに駆け寄った。

(#・-・ )「どこで芽を手に入れたんだ」

大声なんて慣れていないから、シーンの声はこの一言のうちに二回も裏返った。
いつものつーなら笑い転げているところだ。
だけどこのときばかりは、ツーも真剣な顔つきをシーンに向け、ぎゅっと唇を結んでいた。

( ・-・ )「東の村の商人なんだろ?」

沈黙。

207 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:44:23 ID:jv.85RPg0
シーンは考えを巡らせた。

つーの身を本気で案ずるならば、商人は遠ざけなければならないだろう。
だけど生きていくためには商人のくれる道具や材料が必要だった。
彼がいなければ畑も耕せないし、料理もできないし、野獣から身を守れない。

いっそのこと商人がきたときだけつーを隠そうか。
そんな考えに及んでいたとき、ようやくつーが口を開いた。

(*゚∀゚)「お母さんのところへ行きたいの」

シーンは呻いた。

( ・-・ )「それは無理だよ。お母さんは別の世界に行ったんだ」

(*゚∀゚)「あたしも行きたい」

( ・-・ )「ダメ、なんだよ」

(*゚∀゚)「どうして」

208 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:45:48 ID:jv.85RPg0
( ・-・ )「お母さんは僕らにこの家を残してくれていたんだ。だったら生きて、ここで暮らすのが恩返しってものだろう」

つーは悲しそうな顔をした。

(*゚ ゚)「だって、お母さん、いないもん」

(*‐ ‐)「お母さんがいないんじゃ、意味ないよ」

シーンは何も言えなくなった。

もしも世界にもっと人がいて、もっと活気に満ちていれば、言えることはたくさんあったかもしれない。
だけどそれは、どうしたってできない。

人口は少ないし、だれも活気なんて持ち合わせていない。
世界はもう、そうなってしまっている。
とても残念なことながら。

209 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:47:35 ID:jv.85RPg0
シーンはつーの母の絵を描こうと思った。
理想の女性のナンバーに、その絵を重ねていった。

だけど完璧には至れなかった。
どうしても顔が思い出せず、筆が止まってしまったのだ。

どれほど凝った服装にしようとも、どれほど美しく髪を描こうとも、それ以上に至れない。

(;・-・ )「わからない」

(;・-・ )「どうしてこんなにわからない」

(;・-・ )「キャンパスには、なんだって描けるはずじゃないか」

結局、つーの母の輪郭だけが無数に積み重ねられていった。

210 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:49:10 ID:jv.85RPg0
やがて、理想の女性が『No.1000』に達したとき。
つーもシーンも、二十歳を迎えた。

つーの母親の肖像画は未完のまま。
シーンは心残りが微かにあったけれど、つーの方はもう何も気にしていない様子だ。

大人になるうちに、いろんなものを忘れてしまった。

(*゚∀゚)「シーン」

つーはたっぷり間を置いてから、言葉を続けた。

(*^∀^)「私を描いて」

( ・-・ )「……承知した」

つーは笑っていた。
とても自然に、大きく、はっきりと。

だけど何かが前と違う。

つーはいつの間にこんなに大人びたんだろう。

211 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:50:48 ID:jv.85RPg0
シーンは筆を手に取り、せっせとキャンバスに絵を描いていった。
筆を振り、汗をかき、ごみを寄せ、顔を拭って、また筆を振るう。

絵が出来上がるまでにそう時間はかからなかった。
むしろ急いで終えて、気持ちをすっきりさせようと企んでもいた。

( ・-・ )

だけれども、改めてその絵をみたとき。

( ;-; )

シーンは瞳を濡らしてしまった
あっという間のことで、涙を止めようという意識もわかなかった。

反対に、つーは笑みを絶やさなかった。

(*゚∀゚)「これでもう、お母さんは寂しくないかな」

シーンは首を傾げた。
知らないものは答えられない。
寂しくなければいいなと思う。

212 :名も無きAAのようです :2015/05/03(日) 01:52:16 ID:jv.85RPg0
つーはもう狂おうとしていない。
大麻はとっくの昔に枯れた。
狂った商人を一人であしらうこともできる。

つーは様々な知恵を持った。
家にある本はすべて読みつくし、何冊かは二周目に取り掛かっている。
もう疑問をシーンに尋ねてくることもほとんどない。

つーはつーという一人に確実になっていた。

( ‐-‐ )(そうなる前の彼女を描いておけばよかった)

つーは変わった。
シーンもまた少し変わった。

絵を描きたい、と思った。
もうこの世にないつーを描いた絵。

恋とも愛とも言えないが、確かに”何か”を失ったのだ。






<支援絵>
終末絵描きはもう届かないようです 支援絵1  終末絵描きはもう届かないようです 支援絵2


投下作品一覧へ